新宿にひっそりとたたずむクリニックの狭い待合室は、人でごった返していた。
このクリニックは、性同一性障害の診断書がなくてもホルモン剤の注射が受けられることがひそかに語られている。健康保険は利用できず、全額自費負担。薬剤料や技術料を含めても費用は高いが、それでもこのクリニックに通う人は多い。
ハードルの高い『ガイドライン』
日本精神神経学会の定めた『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン』では、ホルモン療法を受けず望みの性で生活していて、2人以上の精神科医が性同一性障害だと診断することがホルモン療法開始の条件とされている。
18歳未満の場合は2年以上の診察を受け、親権者の合意があり、必要だと認める場合に限り、15歳以上においてホルモン療法が認められる。
ガイドラインに従ってホルモン療法を最短で始めるには、13歳までに精神科を受診し診断を受け、親権者の合意を得て、15歳になるまで進行する第二次性徴を耐え続けなければならない
岡山大学病院ジェンダークリニックを受診した性同一性障害の当事者約1千人のうち、39.9%はすでにホルモン療法を実施していた。18歳以下の当事者11.6%も初診時にはすでにホルモン療法を行っていた。個人輸入などを通じて入手しているという。
これはガイドラインに沿ったホルモン療法は行っていないことを示す。医師の診察なしに行われる個人輸入は健康に対するリスクをはらむ。
無視できない自殺リスク
2008年に発表された調査では、性同一性障害の68.7%が自殺念慮を経験し、20.6%が実際に自殺未遂や自傷行為を行っていた。37%が第二次性徴を迎える中学生の時期に自殺念慮を強く持った。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが日本のLGBTを取りまく現状についてまとめた報告書『出る杭は打たれる』。報告書では日本政府に次のように提言した。
「日本政府は、20歳に達する前に法的な性別を変更することが、トランスジェンダーの子どもの最善の利益である場合もあることを考慮に入れなければならない」
※トップの写真は著者撮影のもの