さかさま、なのに、なつかしい国。ニュージーランドへの旅が心を揺さぶる5つの理由

  by 牧村 朝子  Tags :  

6日間の旅を終え、ニュージーランドから帰ってきた。

6月のはじめなのに、初雪が降ったばかり。日本と反対側の南半球にある国なので、いわば季節がさかさまなのだ。飛行機の窓から、初冬のニュージーランドを眺めつつ、こんな別世界にほんの11時間で飛べてしまう時代に生まれたことを私は心から感謝した。

あの国は、時差3時間の別世界だ。季節をはじめ、いろんなことが日本とはさかさまになっている。それなのに、なんだか不思議となつかしくなるのだ。テカポ湖の夕暮れを眺めながら、私は、やっと思い出すことができた。こんなことが本当は、毎日の空で起こっていたんだって。東京の暮らしで、いそがしく働いていて、私が見上げることを忘れていた空にも、毎日毎日いつだって夕暮れはあったんだ、って。

さかさま、なのに、なつかしい国。ニュージーランドからの帰り道、そんな言葉が浮かんだ。この国の何がこんなに自分の心をゆさぶったのか、今回はニュージーランドで見つけた5つのことをまとめてみたいと思う。この文章を読んでくださっているあなたの、旅のきっかけにしていただけることを願いながら。

もくじ:ニュージーランドへの旅が心を揺さぶる5つの理由

【1】○○から始まった、冒険者の国
【2】ほんのささいなところにも隠れている、○○の国
【3】あまたの物語を秘めた、○○の国
【4】国土の三分の一が○○、大自然の国
【5】なんだか田舎に帰ってきたような、人の優しさがある国

【1】7隻のカヌーから始まった、冒険者の国

南島、ワナカ湖のほとり。Googleマップはこちら

ニュージーランドでは、一年を通じて百種類以上の冒険を楽しめる。登山・洞くつ探検・スキー・サーフィン・星空ツアーといった定番から、ハイドロアタック(水上にジャンプするサメ型潜水艦)・エアサファリ(氷河の上を飛ぶ小型飛行機)といった変わり種まで。バンジージャンプが発明されたのも、実はこの国である。冒険にあふれた国なのだ。

それもそのはず。ニュージーランドはもともと、冒険者によって作られた国だからだ。
今から1000年ほど前、日本でいう平安時代半ばくらいまで、ニュージーランドは無人島だった。大航海時代よりも、もっと昔。ヨーロッパの学者が「世界の果ては底なしの崖だ」なんて真面目に言っていた時代のことだ。

そこへ船旅に出たのが、先住民マオリの先祖である。彼らは新天地を目指し、何が待つかもわからない海へ、7隻のカヌーで漕ぎ出していった。

カヌーにはそれぞれ「アオテア号」「トコマル号」といった名前がついており、マオリの中には今も、自分がどのカヌーに乗ってきた人の子孫なのかを重視する人々がいる。冒険の物語は世代を超えて、何百年も続いているのだ。

なお、マオリ系の人々は、現代ニュージーランドの人口の15%を占めている。オークランドのカラオケバー「ルート66」で、私と肩を組んでリアーナの「Diamonds」を歌ってくれたのはマオリ系の女性だった。また、オークランド博物館でも、マオリの人々が伝統的な衣装に着替えて歌や踊りのパフォーマンスを見せてくれる。終わった後は気さくに舞台を下り、質問や記念写真に応じてくれた。

★オークランド博物館
住所:The Auckland Domain, Parnell, Auckland
TEL:+64-9-309-0443
URL:http://www.aucklandmuseum.com

【2】ほんのささいなところにも隠れている、ユーモアの国

ニュージーランドに行ったらぜひ、張り紙やお菓子の包み紙までよく読んでみてほしい。見落としてしまうにはもったいない、微笑ましいユーモアがきっと見つかる。

たとえばこちらの写真は、クィーンズタウンで人気のハンバーガー屋さん「ファーグバーガー」で使われていた、サイコロステーキバーガーの包み紙。

★ファーグバーガー
住所:42 Shotover Street Queenstown
TEL:+64-3-441-1232
営業時間:8:00~翌5:00
URL:http://www.fergburger.com

よく読んでみると、「はじめまして! 僕は君のバーガーの包み紙だよ!」なんてあいさつしている。こういうのは自分で見つけてこそ嬉しいものだけれど、せっかくなのでいくつか続けて紹介したい。

お菓子屋さんのキャンディポット「親愛なるお客様へ……私がおいしそうだってことはわかるけど、お願いです、私を開ける時は店員に声をかけてくださいね。それじゃ! ポットより」

ビーフジャーキー「3日以内に食べきれなかったら、容器に移し替えてください。(まぁ、おいしいからすぐ食べちゃうでしょうけど!)」

ニュージーランド航空のエチケット袋「きもちわるいの?……アナアハウ、吐物、ヴォミ、嘔吐。アレを何語で言ったところで、出てくるモノはみな同じ」

もしニュージーランド航空のボーイング787に乗ったら、お手洗いの壁に描いてある本棚のイラストもよく見てみてほしい。一冊一冊の本のタイトルが、こういうニュージーランドらしいユーモアにあふれている。その中でも一冊ぶんだけ、私の一番気に入ったものを紹介しよう。

「結婚して!(私、あなたの国が好きになっちゃった)」

【3】あまたの物語を秘めた、ファンタジーの国

夕暮れ時のホビトン・ムービーセット。Googleマップはこちら

景観の美しいニュージーランドは、「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」「ナルニア国物語」「タンタンの冒険」「ピートとドラゴン」といった数多くのファンタジー映画の舞台にもなっている。特に、ホビット村(ホビット庄)を実際に歩き回れる「ホビトン・ムービーセット」は、感激のあまり泣きだしてしまうファンもいるらしい。私が見学した時も、ホビットのTシャツをまんまるなお腹でふくらませたお兄さんが、ホビット風ディナービュッフェの時間をわくわく待っていた。

ムービーセットの外でも、ニュージーランドではなにげない風景がファンタジックだ。日本に戻って写真を見ていると、なんだか本当に、ファンタジーの世界で撮ってきた写真であるかのように思えてしまう。この場所に自分がいたんだと思うと、勇者になって魔王を倒せそうな気分だ。

ジェットボートで川下りを楽しめる、スキッパーズキャニオン・ジェット&シーニックツアーの途中で。Googleマップはこちら

【4】国土の三分の一がサンクチュアリ、大自然の国

マウント・ニコラス高原牧場。小さい点はヒツジさんたちである。Googleマップのストリートビューへリンクしようとした……が、なかった。

「人間よりもヒツジが多い」とは、ニュージーランドを指してよく言われるジョークだ。けれども、これはまぎれもない事実である。ニュージーランドは、日本の本州より若干大きいくらいの面積(268,680平方キロメートル)に、なんと全神奈川県民の半分くらいの人数(約450万人)しか住んでいない。なんというか「あんまり人間がいない国」なのだ。

そんなこんなで、全国土の三分の一がサンクチュアリ(環境保護区)に指定されている。なので、ベルバードという日本にはいない鳥の美しい鳴き声や、最初から最後まで流れるのに200年かかる氷河の青さなど、ニュージーランドでこその自然に触れることができる。

一度など、道路をウシさんの群れが歩いていたが、現地のドライバーさんに「ニュージーランドではよくあること」くらいのテンションで流されるという事案が発生した。

なにより、ニュージーランドの星空はもう意味がわからないレベルだった。アース&スカイ社の星空ツアーに参加し、この記事のために流れ星の数を数えようと思ったのだが、あまりにも流れ星が流れまくるので途中で数えるのをやめてしまった。

テカポ湖の星空。撮影:Vaughan Brookfield

自然、という言葉にはどこか地球規模のものがあるが、ニュージーランドではもはや、宇宙規模の何かを感じる。

★アース&スカイ社
住所:Tekapo-Twizel Rd, Main Street, Lake Tekapo
TEL:+64-3-680-6565
料金:NZ$145(子ども/8~17歳 NZ$80)※2016年6月現在
ツアー時間:約2時間
URL:http://www.earthandsky.co.nz/jp

【5】なんだか田舎に帰ってきたような、人の優しさがある国

ここまで色々とニュージーランドの魅力を書いてきたが、これらを包み込むのはやはり、人の優しさだった。このことは、ニュージーランドが手話も公用語とするほどのバリアフリー先進国だということにも見てとれる。もちろんニュージーランド人にも色んな人がいるのは大前提だが、某テレビ番組風に言えば「第一村人発見!」と言いたくなるような素朴さに私は今回の旅で触れた。

たとえば上の写真、マウントニコラス高原牧場のおじちゃんは、私が日本のラジオ番組のために環境音を録音していいか聞くと、「これを日本の人に見せてやってくれよ!」とタンポポの花を一輪くれた。ラジオだって言ってるのに。私はタンポポを髪に挿し、この花が日本にもあることは「言わぬが花」ってことにしておいた。

小鳥さんも遊びに来るハンバーガー店・ファーグバーガーでは、私はミルクシェイクを盛大にぶちまけてしまった。すぐにお店のお姉さんがポニーテールを揺らして飛んできて「あなたの飲む分は残ってたの?」と、汚れた床より私の空っぽカップを心配してくれた。どろどろ溶け広がるミルクシェイクを掃除しながら、「まさにミルキーウェイ(天の川)ね」とお姉さんは笑った。

シェイクをこぼした上、さらに道に迷った私に、ていねいに地図を描いてくれたハッピートラベル社のお兄さんにも感謝したい。もちろん彼に広告料をもらって言っているわけではない。

本当に、恩返しがしたいのだ。この文章をここまで読んでくださったあなたに、ニュージーランドという国の魅力を画面越しにでも味わって頂こうという、私なりの恩返しがしたくて私は書いている。

けれど、私が書けるのは私の旅についてだけだ。いつかぜひ、あなたの旅をしてほしい。さかさまなのになつかしい、時差3時間の別世界、ニュージーランドへ。

▼フライトやツアー検索、更なる情報を探すなら:ニュージーランド政府観光局
http://www.newzealand.com/jp/travel-agent-or-airline/

タレント、文筆家。 いわゆるLGBTsを中心に、社会的弱者についての諸問題を専門分野とする。著書「百合のリアル 増補版」(小学館)「同性愛は病気なの?僕たちを振り分けた 世界の同性愛診断法」(星海社)「ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?」(イースト・プレス)、主なテレビ出演「5時に夢中!」(TOKYO MX)「ハートネットTV」(NHK教育)「世界の日本人妻は見た!」(TBS)ほか。司会やナレーションなど、声の仕事でも活動。学校や自治体での講演も多数行っている。

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