同人活動に関わるあれこれを紹介するシリーズも第三回目となりました。まだ11月ですから表紙入稿も早割がきく時期ではないでしょうか。
今回のテーマはイベントです。筆者が初めてイベントに参加しはじめた頃はまだぎりぎりコミケットの会場が晴海国際展示場の時代でした。好きなジャンルが変遷するにつれて、台東区の東京文具共和会館、大田区の東京流通センター、豊島区のサンシャインシティなどの会場を転々としました。都内の同人イベント会場は湾岸沿いに多くあります。特に墨田江東大田あたりに密集している感があります。この界隈に同人活動に利用しやすい商業設備が多いのです。有明のビッグサイトなんて突き抜けて海に面しています。冬コミでは待機列で冷たい風をもろに浴びながらじっと待つなんてことも。
企業イベント
ざっくりわけますと同人イベントは個人有志と法人の運営するイベントのふたつにわかれます。
もともとの同人誌即売会は個人有志の『コミックマーケット』に端を発しています。コミックマーケット準備会による任意団体としての集会でしたが、1985年に株式会社コミケットが設立されました。あまりに規模が大きくなり会場確保や業務形態に個人団体では追いつかなくなり法人形態をとるようになったという経緯があります。
もうひとつ代表的な企業イベントは赤ブーブー通信社による『コミックシティ』。
草分け的に有志集会から発生しているコミケットに対して最初からコミックシティは企業イベントしての発足です。コミケットと赤ブー社の大きな違いはこの点にあります。そのため過去には同人創作の場への企業参入そのものに批判的な意見もあったようです。
しかし年二回だけのコミケ開催では行き場のないオタクの熱量を大きく受け止めてくれる受け皿としてシティ系イベントは今ではなくてはならない存在です。赤ブーといえば前・赤ブーブー通信社事務局長であり『そうさく畑』代表であった武田圭史氏の訃報にショックを受けた方も多いことでしょう。
コミケット代表の米澤嘉博氏が亡くなられたのは2006年。お二人とも何もない荒地に創作への情熱を開示できる場を築いてくださったパイオニアです。彼らの創設した同人誌即売会で青春を救われたという参加者は数多いるはず。筆者もその一人です。この場を借りて哀悼の意を表します。
個人イベント
そして個人主催のオンリーイベント。
必ずしもオンリーとは限りませんが個人主催というとそのジャンルに特化された単一イベントが目立ちます。
更にキャラクターが数多登場するモンスタージャンルとなると一部のカップリングに特化されたイベントも存在します。昨今では『刀剣乱舞』や『艦隊これくしょん』などがわかりやすい例かもしれません。カップリング特化というとキャラクターが大勢登場するというイメージもありますが対極的にそのジャンルを牽引する強烈なキャラクターがコンビとして目立ち支持を受けているという場合もあります。例えば『TIGER&BUNNY』の虎(鏑木・T・虎徹)と兎(バーナビー・ブルックスJr.)や『ワンピース』のゾロとサンジなど。 &
個人主催のメリットは何と言っても企業イベントよりも自由度が高いことと愛に溢れていること。企業イベントではできないスペースの利用方法として好きなキャラの衣装が展示されたり、好きなキャラの誕生日に開催されなおかつバースデーソングが流れたり。筆者の経験したオンリーイベントではコスプレOKだったため入場してすぐにトイレに入ったところ、自分以外は好きなキャラのレイヤーさんしかいない天国のような状況に陥ったことがあります。手を洗うすぐ隣で好きキャラがカラコンを装着していたり好きキャラがもう片方のネクタイをなおしていたりと、もう…助けて。そのまま高齢化したいような萌えでした。
主催サークルの規模が大きいと企業並みの運営も行われることがあります。筆者が経験した限り最大のイベントは単一サークル主催による東京大阪連続開催というものでした。小さな商業会館ではなくどちらも大規模施設の利用で参加者に頒布されるグッズがまた豪勢。真偽のほどは定かではありませんがキャラの愛用するグッズをお菓子に模したもので、その箱を製版するために印刷所に千万単位で鋳型を作らせたという噂がまことしやかに聞こえてきたものでした。オンリーイベントではその会場に集う人間はすべてそのジャンルを愛していることが明らかなので一種の陶酔感と一体感が味わえます。また小規模開催であることからビッグイベントでは落選してしまうサークルもほとんど当選するという初心者向けの一面もあります。交流がしやすいので自然に同人マナーが学べるという点も初心者向けかもしれません。
二次創作と一次創作
先述した『そうさく畑』は一次創作イベントの先駆けですが、同人誌では二次創作ジャンルが俄然人気です。しかし近頃の一次創作の動きには興味深いものがあります。
一次創作の代表的なイベントといえばコミティア実行委員会による『COMITIA』(自主制作漫画誌展示即売会)です。開催規模が次第に大きくなっています。ファンの愛情が先行する二次創作に比べ、プロ志向が強いのが一次創作の特徴。カップリングやキャラクターを主題とする作品よりもストーリーや発想力を生かした作品との出会いが期待できます。COMITIAでは見本誌の読書や閲覧が可能なスペースが設けられおり自由に読むことができます。作者に感想を伝えられるメモも用意されており腕をあげたい作家にはうってつけの修行の場。「出張編集部」のスペースが設けられ商業活動にもつながりやすい場所でもあるのです。
また同人誌と言えば花形は漫画ですが文学に特化した『文学フリマ』も見逃せません。文学と銘打っていても文学作品のみを扱うものではなく例えば好きな文学者の二次創作漫画や批評本などのゆるやかな「文字」への愛情表現が許されています。コミケットでは小規模になりがちな詩や俳句といった形態もここでは充分主役になりえるのです。
いろんな「1.5次元」愛
そしてここ数年の動きとして新しいと感じるのが「物愛」とでもいえるものに満ち溢れたフェティッシュなイベントです。例えばテーマを「とびもの(航空宇宙関係)」に絞った展示即売会『東京とびもの学会』。もはや同人誌とは乖離していますが猫雑貨をメインとした『ねこ専』も対象への創作愛にあふれています。その愛する「もの」を取り扱っていればOKという創作表現の場が徐々にではありますが確実に増えている印象です。
中には中世ヨーロッパの活動を目や耳で感じ取る展示会『中世ヨーロッパ関連総合展示会』というその道の好事家にはたまらないであろうイベントも。
こうした「もの」愛が昨今ちらほらと見受けられるようになった感があります。
まるっきりの版権つきの二次創作ではないけれども、何がしかモチーフやモデルや対象が存在する、いわば「1.5次元」的創作の場です。
そこまでマニアックでいいのか? という「もの」や「こと」への愛も表現していこうという場が増えているのかもしれません。こうした独特の創作イベントには教科書的な「公式」の供給知識が必要ありません。むしろニッチな知識を寄り集めて情報交換できる点でも集会としての原初の喜びが得られるのかもしれません。同人ジャンルの多様性を新たに広げていくのではと興味深く感じます。少しでも異様な興奮を覚えた方は後述のリンクから是非参照してください。
さて、次回のテーマは「印刷」です。
第6回中世ヨーロッパ関連総合展示会
http://woodruff.press.ne.jp/medi_2015/intro.html [リンク]
東京とびもの学会
http://tokyo.tobimono.org/ [リンク]
ねこ専
http://nekosen.jp/ [リンク]
写真素材:足成
http://www.ashinari.com/