「人工知能と面接」就活短編小説

  by mizuken1109  Tags :  

私、佐藤優香は会議室の中央に置かれているパイプ椅子に座っている。
その目の前には長細い机があり、さらに向こうに父親と同じくらいの年の男性がいた。
「佐藤優香です。宜しく御願い致します。」

儚く上品な笑みを浮かべる。大きな瞳は情熱に満ちているように輝き、スッと通った鼻筋は知性を匂わせた。
就活生のあどけなさと女性としての風格が漂っているはずだ。

「佐藤さん。あなたが学生時代に頑張ったことを教えてください。」
面接官が私に尋ねる。はいと快活な声で私は答える。
私が誇れるエピソードはいくつもある。果たしてどれを言うのが最も効果的だろうか。脳内でもの凄い速さの演算が行われた。
それは決して比喩ではない。実際に数値計算がおこなれているのだ。私の脳は人工知能である。

私は予めあらゆる質問に対して最適な答えが出るように自分でプログラムを書き込んでいる。
と言っても私だけが特別なのではない。他の就活生も同様である。書き込んだプログラムが優秀なほど面接官の質問に対して素晴らしい回答を導くことができる。就活では事前の準備が大切だと言われていたが今ほどそれが実感できる時代はないだろう。

「私は地域活性化のためにとある大きなイベントをやり切りました。」
面接官は満足そうに頷く。私はその表情を見て満足する。

その後、何度か似たような質問をされるが私の脳は即座に膨大な計算を行い、目の前の面接官が満足するポイント、すでに答えた自分の回答との矛盾点との有無を加味して最適な答えを繰り出し続ける。

「今日はこれでけっこうです。合否は追って連絡いたしますので。」
面接官のその言葉を聞くと、私は椅子から立ち上がり深々と頭を下げ部屋を後にした。

「ふう。」
薄暗いジメジメした部屋。私は液晶画面の前で一息をつく。私、佐藤優香の身なりをしたロボットは無事、面接を終えた。
当然といえば当然だ。なんて言ったって私のプログラムは完璧なんだから。それにスタイルも顔も大衆受けするようなパーツを取り揃えた。抜かりはない。

「次は二次試験か。」
私はコーラを飲み干し、だらしなく出ている腹を掻く。もうすぐ私のロボットはこの家に帰ってくる。微調整をしなければならない。

しかし、この調子なら「私」は大手企業に就職し一人前の社会人として生活をしていくだろう。きっと同僚やあの面接官のロボットとも上手くやっていけるはずだ。

そしていずれ素敵な男性ロボットと出会い、恋に落ちるかもしれない。そうなるとしたらどんな男性だろう。
私は少女のようにまだ見ぬ男性ロボット、を操る画面の向こうの男性に想いを馳せた。

(画像引用元 https://www.pakutaso.com/20121023286command.html)

「就活ミュージカル」というプロジェクト立ち上げに携わりながら、漫画原作しています。 こちらでは就活短編小説を連載予定。

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