風来坊力也の旅日記
日本三大スラム。
あいりん、山谷、そして寿町。
神奈川県にある寿町、今回はここ寿町で24時間過ごすことにした。
平和と安定ある暮らしが約束されている日本において、日々ギリギリの生活を生きる寿町住民の方々。
ここに住む多くの人が生活保護や路上生活で生きている。
町の匂いは大阪西成と同じ。
懐かしさを覚える。
宿泊先を探す。
ドヤ街だけあって安い、1泊2200円。
朝10時まで滞在出来る。
テレビがありエアコンがあり寝るには
十分なスペースがある。
ただ臭い、野球部員の頭の匂いがする。
それも1時間もすれば慣れてしまう。
値段を考えると相当良い宿なのだ。
歩いて1km圏内には横浜スタジアム、横浜中華街、大きな公園もコンビニも飲食店もある。
横浜観光に行くなら寿町で1泊がオススメだ。
街中を散策する。
朝11時にも関わらず飲み屋が盛況だ。
あちこちからカラオケの歌声が響く。
寿町の飲み屋は1杯500円。
注文さえすればいくらでも滞在出来、カラオケ歌い放題だ。
これはチェーン店の居酒屋は真似出来ない安さだ。
職業安定所には公共の碁や将棋が楽しめる場所があり賑わっていた。
将棋のルールはほとんど分からないが一局打たせて頂く。
次にどう打てば分からなくなると優しく次の打ち筋を教えてくれた。
結局ボロ負けしたのだが、ド素人相手に最後まで将棋を打ってくれた。
3階には図書館があり休憩施設もあった。
ここは寿町市民にとってオアシスだった。
その後も街をぶらつくと、大柄の男性に一喝される。
「何撮ってんだゴラアアア!!!」
緊張が走る、もし殴られでもしたら怪我では済まないだろう。
男性が目の前に立ちはだかった。
歯のないスキンヘッド、迫力満点。
殴られる覚悟を決めインタビューを開始する。
すると意外にも会話に応じてくれた。
いや、むしろ自分から語り始めた。
名前はゴロウさん、なかなか硬派な男で弱い者イジメ絶対にしないと豪語する。
以前は原発を作る仕事をしていたらしく、地元福井の原発を建てたのはゴロウさんだった。
海外にも土木作業で行かれた経験があるらしく、数々の武勇伝を語ってくれた。
金がない奴にはこずかいをやり、この町の住人にとってアニキ的存在だった。
出会いこそ喧嘩腰だったが、別れ際には仲良くなった。
ゴロウさん普通に良い人だった。
小さな居酒屋がたくさん並ぶ。
せっかくなのでのれんをくぐり酒を頼む。
カラオケは無料、1曲歌う。
歌い終わると拍手が起こった、なかなか良い気分だ。
ここの人達と一緒に居ると昔から知り合いだった様な感覚になり、すぐに仲良くなれる。
道端で倒れている人を見つける。
どうやら飲み過ぎて気を失ったようだ。
周りの人達がみんな集まり介抱する。
これが寿町スタイル。
壁を作る事がない、皆助け合い生きている。
近くに横浜中華街があり、せっかくなので寄ってみる。
中華街を歩く、提灯の明かりが異国感を演出していた。
えびせん100円安い、ゴマ団子と春巻きで100円これも安い、中華街の食べ物を堪能する。
途中公園を見つける。
休憩がてら寄ってみたのだが地元の子供達が大賑わいで鬼ごっこをしていた。
子供の笑い声は心地いい、子供が元気だと気持ちが明るくなる。
あまりにも楽しそうなのでダメ元で仲間に入れてくれないかとお願いしてみる。
即答「むりー!!」
だろうね。
37のおっさんが子供に混じって鬼ごっこなんて、今の御時世パトカーが来る。
ところが気が変わったのか鬼ごっこに誘ってもらえた。
仲間外れでぼっちだったおっさんに声掛けてくれたのだ。
すこし泣きそうになる。
子供達とはすぐに打ち解けた。
高台おにごっこ、3文字鬼ごっこ、お母さん鬼ごっこ、聞いたこともない鬼ごっこを必死でルール覚えながら遊ぶ。
中華街で生まれた子供達、この鬼ごっこは中国で流行っている鬼ごっこだった。
中でも3文字鬼ごっこは相当ハードルが高かった。
3文字の言葉を話している間は捕まらないルールなのだが、中華街の子供達は当たり前のように中国語、日本語、英語の3カ国語を話せるのだ。
日本語すら覚束無い自分にとってかなり厳しいルール、結果鬼をやり続ける事になった。
散々おもちゃになって疲労困憊、そろそろ帰ると告げる。
だがなかなか帰してはくれなかった。
すっかり友達になってしまった。
次いつ来るのかしきりに聞かれ「いつかね」と答える。
大人の常套句「いつか」「近い内に」そんな言葉が出てくる自分はもう子供には戻れないのだろう。
こんなおっさんと遊んでくれてありがとう。
夜も更け、宿に戻る。
その道中、あやしい男と知り合う。
「60円おごってくれ」
喉が渇いているらしくジュースを買うにも持ち金がないらしい。
男の名はコウタロウ、全国を回りギター1本で生きていた。
もし歌を聞かせてくれるなら奢ると告げると快く応じてくれた。
行き付けの飲み屋があるらしくそこでビールを奢ってくれたら歌を披露すると言う。
どうしてもコウタロウの歌が聞きたいので承諾する。
寿町近くの飲み屋、持ち金1000円。
500円で大丈夫だからの言葉を信じて店に入る。
色々武勇伝を語り出すコウタロウ。
有名なギタリストcharと友達でセッションする機会があったらしい。
その他にも色々語ってくれたのだが
「俺はイタリア人だ」
の1言で一気に嘘臭くなった。
こりゃただのタカリだな、ギターも嘘じゃないだろうか 。
そんな不安をよそに、歌う準備が始まった。
カウンターでハミガキを始めるコウタロウ、梅干で歯を磨いている。
歯を磨かないと歌えないらしい。
いつまでも歯を磨き続けるコウタロウに、自分ではなく向かいのカウンターの女性から「はやく歌え」とツッコミが入った。
コウタロウ、しぶしぶギターを抱えステージに上がる。
さあ、聴かせてもらおうか。
ギター演奏が始まると顔つきが変わる、まるで別人だった。
ギターを掻き鳴らし歌い上げる。
上手い、めちゃくちゃ上手い。
知らない歌だったが聞き惚れてしまった。
周りのお客さんから拍手が起こる、自分も自然と拍手していた。
演奏が終わるとコウタロウはドヤ顔で帰ってきた。
参りました、かっこよかった。
コウタロウは近々デビューするという。
この出会いは絶対に宝物になるからと告げ、もう一杯ビールを要求してきた。
まあいい曲聞けたので奢る事にする。
気さくでわがまま、だけど全く憎めない男コウタロウ、人生に勝ち負けがあるのなら、この男間違いなく勝ち組。
人生を楽しみ尽くしていた。
何者にも束縛されない自由な男、コウタロウとの出会いは自分にとってすでに宝物になった。
以上が三大スラムと呼ばれる寿町の感想である。
普段町をぶらつくだけでは絶対に巡り会えない出会いがあり、独特な町の雰囲気に白昼夢を見たかの様な感覚を覚えた。
寿町を一歩出ればそこは高層ビルが立ち並ぶ。
町の発展から取り残された町、寿町。
だがそれを住民達は望んでいる様にも見えた。
今後の人生、何が起こるか分からない。
もし寂しく1人暮らさなければならないなら、寿町で気の良い仲間に囲まれ笑って暮らしたいと思う。
ここには壁のない昔ながらの人情が息づいている。
力也