【小説】雨のある日常

  by ながみね  Tags :  

 その日の仕事が終わり、家路に就く頃には、空には暗く重い雲が垂れこんでいた。今朝母親がいう話には『午後から、雨が降るみたいよ。バイクで帰るのが大変そうだったら、連絡頂戴。駅まで迎えに行くから』ということになっている。
「大丈夫かなとは思っていたけど。とりあえず、連絡入れるか」
私は、ケータイ――まあ、今はスマフォというがーーを取り出して、母親にメッセージをいれる。
 私は、働いている会社の規定で、電車での通勤が余儀なくされている。その上、最寄り駅は家からの距離一キロ以上。そのため、私の通勤スタイルは、原付バイクと電車と徒歩という、妙な組み合わせで成り立っていた。
 「困ったな、傘なんて持ってこなかったのに」
所詮バイクなのだ。無論、傘なんて持ち歩いていないし、折りたたみ傘を常備しているほど、私は用心深い人間でもない。とはいえ、見た感じでは雨粒が落ちはいないところからして、あと少しはこの曇天も保ってくれるだろう。そうとなればと言わんばかりに、私は裏口から外へ出た。ここから近い駅までは、歩いて十分くらい。いざとなったら走ればいい。そんな風に思いながら、職場前の大通り沿いを歩いていく。しかし、その時は比較的早く訪れた。頭部に感じた冷たい感触。気づいて空を見上げると、重く垂れこめた空から、雨粒がひとつ、また一つと、地上に落ちて来るのが見えた。駅までは、そう距離はないが、その間に信号が二つもある。それを待つ間に、本降りになられては。私は、考えるより先に走りだした。だが、日頃の運動不足は体に堪える。五十メートルくらいは走っただろうか。私は、息切れを起こしてその場に足を止めてしまった。それもそのはず。休みの日も誘いがない限りは家からほとんど出ることはなく、パソコンをするか、寝ているかのどちらかになっている。要するに、完全なる引きこもり。これでは、体力が落ちて当然である。それでも、私は再び走りだした。もはや青春ドラマさながらだが、今の私には関係ない。とにかく駅について、電車が来るまでつかの間の雨宿りをせねば。そう思って走って走って走って、やっと駅に到着。乱れる呼吸を整えて、スマフォを取り出すと母からメッセージの返信が。
『雨、結構降ってるから。そっちまで迎えに行くよ』
「えっ」
私は、拍子抜けしてその場に固まった。よくよく見ると、メッセージを送った時間は、今から五分ほど前。つまり、雨に気づき、走り始めた頃には、このメッセージは受信されていたということになる。ここは駅のホーム。本格的に降りだした雨を見て。私は、このあと起こさねばならない行動を思い、心なしか肩を落とした。

ながみね

素人文筆家。更新停滞中。。。 ショートショート、手帳、ノート、サブカルチャーを主に書いてます。得意ジャンルまだまだ模索中。 ※HN変えました