芸能界に新たな「白黒コンビ」誕生か!?  ~秋葉原で散歩するアヒルとカラス、その飼い主の正体に迫った~

 

ネットで話題の「アヒル散歩」にカラスも参戦

「秋葉原にアヒル散歩してる人いたー! かわいいー! 靴下履いてるし」

「こんなところで……なぜアヒル?」

「卵から孵化させて育ててるんだって! ポケモンみたい! すごいよね!」

と、ネット上でもかなりの話題を呼んでいる「アヒルの散歩」in 秋葉原。それだけでもミステリアスなのに、なんと最近では「カラス」も加わり一緒にビル街を歩いているんだとか。場所が場所だけに、飼い主は相当な不思議ちゃん? いったいどんな人なのだろうか。百聞は一見にしかず、ということで本人に直撃してみることにした。

話によると、その散歩には平日の夕方にも遭遇できるという。帰宅ラッシュが始まった秋葉原駅。道行く人は足早だが、その片隅では数人の高校生が“何か”を囲みながら憩いのオーラを発していた。そして、その中心にいたのがアヒルとカラスを連れた男性だったというワケである。

突っ込みどころがありすぎて、どこから聞いていいのか分かりません……。

―― とりあえず、凄いアームカバーですね。

「ああ、これですか? カラスの爪って鋭いんで、皮膚を守るために自宅にある甲冑を元にして作ったんですよ」

―― え!? 甲冑って、本物の? 私物なんですか?

「ちょっと前まで“居合い”をやってまして、試斬3段を持っていました」

なんだなんだ。勝手に不思議ちゃんを想定していたが、違うじゃないか。受け答えはとても真摯。帽子に隠れてはいるものの、ちょっと美青年だし爽やかな笑顔が眩しいぞ。関西なまり、それでいてスローなテンポの口調には鳥だけでなく筆者(30代独身女)さえもついていきたくなるような「清々しさ」が溢れている。それにしても、私物の甲冑って……。一体、彼は何者なんだ?!

 

アヒルの裏にドラマあり、草食系芸人のプチ・プロジェクトX

実は彼、『野良武士』という名前でお笑い芸人をやっているのだとか。以前は『グンジョーエッジ』というコンビを組んでいたのだが、相方と解散。今では野良武士さん自身も転職活動中である。最近では「アヒル武士」(@haru_busido)という名前でツイッターをしているせいか、秋葉原では「武士さん」や「アヒルさん」などと声をかけられることも多くなったという。ちなみにアヒルの名前は「シロ」(約1歳)、カラスの名前は「クロ」(生後推定2カ月)だ。

―― シロを飼いだしたきっかけは何ですか?

「元彼女と付き合っていたとき、アヒルを飼おうという話になったんですよ。ちゃんと卵から孵化させてね。結局彼女とは別れちゃったんですけど、“親権”は僕になりまして……(遠い目)」

―― 恋人の件は残念ですが(汗)、アヒルを孵化させるなんてすごいですね。大変だと聞いたことがありますが。

「僕、動物ボランティアの経験があるんです。だから彼らの生態にはちょっと詳しいんですよ」

(手を差し出すと、なでられようとしてくちばしを滑り込ませてくるシロ。くちばしの下からは「生き物」を感じさせる体温が伝わってくる)

動物を熟知しているからこそ成り立つ、シロクロ同居というわけだ。アヒルが履いている可愛らしい赤い靴も、アスファルトから足を守るために自ら考案したそう。

「何度グーグルで検索しても、アヒルの足カバーなんて売ってませんからねぇ(笑)。 最初はA4の紙の上を歩かせて足型をとり、型紙を作るところから始めました」

そう話している間にも、鳥たちにチューブから水をやり、ドッグフードを混ぜたエサを与え、ポケットティッシュで糞をふき取り、かいがいしく世話を焼く。これは、ちょっとした酔狂や目立ちたがり屋ではできないぞ。だんだん、動物園の飼育員、もしくは双子を抱えた新米ママのように見えてきた。

 

香川県から新幹線に乗ってきたカラス

―― まぁ、アヒルは分かりますがそれよりもカラスですよ。クロを飼いはじめたきっかけは、やはり近所にヒナが落ちていたとか?

「いいえ、違います。実はこの間、ゴールデンウイーク中に香川県の実家に帰ったとき、そこでカラスが巣を作っちゃってましてね。仕方なく、高松市の許可を得てから巣を撤去したんですが、ヒナだけが残っていて巣ごとついてきたんです。放っておけなかったのと、人間に世話された野鳥が自然にかえるのは難しいこともあり、こっち(東京)に連れてきて自分で飼うことにしました」

―― 移動はどうしたのですか? 飛行機で?

「まさか(笑) 飛行機や長距離バスは、動物は貨物のスペースに入れられてしまうということで諦めました。ヒナは温度の変化に弱いですからね。新幹線なら一緒に席に座ってこられると確認が取れたので、それで東京に戻ってきたんです」

野良武士さんの愛情をたっぷり受けて、やっと赤ちゃん時代を卒業したクロ。くちばしの中はまだ赤いままだが、羽を広げてエサを乞うヒナの仕草は徐々に消えているらしい。人間に例えるなら、小学生の低学年という感じだろうか。

クロは好奇心が旺盛で、肩に乗せると耳たぶやメガネに興味を示し、突く!突く!突く! インタビュー中もあらゆる人にちょっかいを出し、相棒であるシロの首輪も突き倒していた。

(耳たぶを咬まれると、細いピンセットで摘まんでひねられるような感覚。力は強い)

 

芸能界では、「白」と「黒」のコンビが解散されてまもないが、こちらのコンビは仲良くやれているのだろうか?

「シロはだいたいボーっとしているので、何をされても“我、関せず”といった調子ですね。そういう意味では、ノリが違っても上手くやれているんじゃないでしょうか(笑)」

(手にのせられても、平常心)

 

いずれは、2羽と一緒にステージに立ちたい

「今、クロに芸を教えているんですよ。お金の数え方とか。頭がいいから色々できるんじゃないかってね。転職先の仕事が落ち着いたら、いずれは3人(?)で舞台に出たいです」

活動休止中といえどもそこは芸人、「笑い」への闘志は消えていないようだ。そうなると、秋葉原での散歩は「デビュー前のPR活動」とも受け取れるが……??

「確かに、先輩の芸人コンビ『あかいらか』の長谷川さんに“せっかくなら街の名物になってみたら?”とアドバイスを受けたことが“散歩”のきっかけではありますね。でも実際のところ、もう普通の公園ではクロを連れて歩けないんです。秋葉原などのビル街にしか居場所がないんですよ」

―― 何かあったんですか?

「クロは“ハシボソガラス”という、田舎に多く、割と温和な種類なのですが、都会にいるのは“ハシブトガラス”。ハシボソよりも一回り大きくて攻撃的な種類なんです。クロをみると、縄張りを荒らされると警戒するようで、みんなで総攻撃をしかけてきます。都会のカラスは怖いです。人間とも一線引いていますからね」

ビル街にカラスの縄張りは少ない。あくまでも鳥たちのベストを考えての「秋葉原」なのだ。困りますよねぇと苦笑する野良武士さんだったが、すでにシロとは数回のステージを経験している。一見、草食系男子とも取れる風貌だが、会話の端々には都会のカラスにも負けないアグレッシブさがのぞく。芸能界で「白」と「黒」の新たな伝説が始まる日は、そう遠くないのかもしれない。

(昔からカラスが好き!という女子高生。相思相愛か?)

(日が暮れても、シロ&クロと離れようとしない高校生たち。合間に声をかけていくサラリーマンの姿も)

秋葉原駅で会えるのは、だいたい週に2~4日。夕刻から夜にかけての時間帯だ。「連絡をくだされば散歩の時間を合わせますよ」とのことだったので、興味のある方は一度ツイッター(@haru_busito)をのぞいてみてはいかがだろうか?

 

【カラスライター・吉野歩】 http://ameblo.jp/writer-yoshino/

フリーライター。狩猟や移住、カルチャー系雑誌に執筆するかたわら、カラス愛好家・吉野かぁことして「カラス友の会」を主宰。カラス雑誌『CROW’S(クロース)』の編集・発行人(http://karasu.petit.cc/ )も務める。

Twitter: osakequeen

Facebook: 吉野歩