怪しいネットワークビジネスを追え! ~2

  by mexicona  Tags :  

 
「1日たった1時間、コピペ作業をするだけで毎月10万円の収入」
「ノーリスクでコピペだけでヤフオクで無在庫転売が出来る画期的なシステム」
「このビジネススクールで副業で年200万円も目指せる!」
 
2015年の2月頃から、こうした甘い謳い文句を掲げて名古屋を中心にセミナーを開催しているNtBカレッジ(仮称)という団体がありました。
※上記は実際に使われていた文言から、意味をそのまま少し言葉を変えています。
 
 
 
■NtBカレッジとは?

公式サイトを見ても具体的な活動内容が明記されていないのですが、会員の方や勧誘された方から話を聞いたりして色々と調べていくとNtBカレッジの実態は「ネットビジネスで稼ぐことを教える」というのを商材とした『マルチ商法』を行う組織という事がわかりました。入会金54,000円に月謝16,200円という比較的安価な料金設定で、社会人をはじめ若年層に対しても積極的な勧誘を行っているようです。
NtBカレッジは概要書面などで『連鎖販売取引』を行う組織であると自ら説明しています。入会金は後に6,4800円に値上げがありました。比較的安価と言っても一年間続けた場合、入会金を含めた金額が20万円を超える形です。
 
 
ただ一般的な『ネットワークビジネス』や『マルチ商法』でよく取り扱われている健康食品や浄水器と言った様な実物がある商品では無く、NtBカレッジでは客観的な価値判断が難しい「ネットビジネスで稼ぐ方法を教える」というものを商品としています。一応、スターターキットとして教材DVDが送られてくるようですが、NtBカレッジの公式サイト用意されている「特定商取引法について」というページには以下のように記載されています。

返品について商品は役務(サービス提供)となるため、返品対象となるものはありません。

※実際にはクーリングオフなどに際して教材DVD等の返品を要求されています。
 
 
  
■何をやっている所なのか?
 
具体的にどのような事をやっていたのかというと、NtBカレッジはスタート当初提供するサービスとして勧誘広告ページなどで“最新のビジネスモデルの提供”“紹介することによるコミッション”の二つを掲げていました。この”コミッション”というのは、会員が新たに人を勧誘して入会させる事に対して報酬を支払う仕組みの部分で、配下の会員数に応じて発生する報酬もこれに加わります。NtBカレッジでは、その勧誘の仕方を教える事もまた、提供している”商品の一つ”として位置づけています。
 
「ネットビジネスで稼ぐ方法を教える」というのが”最新のビジネスモデル”の部分になりますが、柱となっているのが物販で、当初は数千万点の商品を「コピペだけでヤフオクに無在庫転売が出来る」という『Yamadaシステム ワールド』(仮称)という仕組みの提供を”ウリ”にしており、これを用いた物販ビジネスを指導するというものでした。

※現在では1年以上使われていた『Yamadaシステム ワールド』は使用できなくなり、物販に関しては別のシステムに変更されています。この変更で商品の取り扱い点数などが大幅に減っています。また次回以降で解説しますが、現在では別のビジネスコンテンツも提供されているようです。
 
 
 
■無在庫転売とは?
 
この『Yamadaシステム ワールド』というのがどういったものだったのかというと、実態は中国系の海外通販サイトのAliExpressをベースに機械翻訳を施して転売用にローカライズを行ったものだといわれています。これを使った『無在庫転売』がNtBカレッジの言う”最新のビジネスモデル”による物販ビジネスの正体になります。
 
具体的な利用の流れを説明すると、まずNtBカレッジの会員が『Yamadaシステム ワールド』でめぼしい商品を探し、日本語に機械翻訳された商品情報をコピペしてヤフオクに出品します。落札された場合、入金を確認した後で初めて『Yamadaシステム ワールド』を通して発注をかける形で、落札額と発注額の間の差が会員の利益となります。また商品の梱包や配送などは会員が関与する事無く、落札者の元に直接送られる形になっています。落札が無ければそのままですので、出品者側にとって「全くリスクが無いビジネス」と言った説明が行われていました。
 
 

 
 
ざっと説明しただけでも、ある程度ヤフオクのことを知っている人からすると、この手法は首をかしげるものだと分かると思います。実はオークションサイトにおいて、こうした海外通販サイトを使った『無在庫転売』の手法は既に何年も前から問題視されており、ヤフオクやメルカリといった所では手元に商品が無い状態で出品する『無在庫出品』という行為を規約で禁止しています。
 
 
もちろん『無在庫転売』が認められている場所で、消費者の側もその仕組みを認識して利用しているのであれば、「最新のビジネスモデル」というわけではないものの、それはそれでビジネスとして成立するものだと思います。しかしNtBカレッジは『無在庫出品』が無い事が前提のところで、規約違反を行う事で一般出品者よりも優位に立とうとする行為を「稼ぐ方法」として指導している形になっています。言ってみればズルが前提の話ですので、こうした事を考えると「稼ぐ方法を教える」という商品の価値に疑問が出てきます。
 
 
さすがに疑問を持った人も多かったようで、NtBカレッジの勧誘者は、そうした声に対して「メルカリはダメだが、ヤフオクでは無在庫転売が出来る」であるとか「ヤフー本社にも許可を得ている手法」あるいは、「NtBカレッジの場合海外業者の倉庫にいつでも発送できる在庫が有るという事でヤフオクとも話がついている」と言った説明を繰り返して来たようです。実際にビジネスセミナーなどで目の前の講師から直接そうした説明を受けると、普通の人は信じてしまうかもしれません。
 
 
 
■ヤフーに確認してみた
 
念のため、このNtBカレッジの勧誘者の言う説明が本当のことなのか、2015年の10月にヤフオクを運営しているヤフー株式会社に問い合わせて確認を行い、広報のご担当者様に内部調査していただき結果をご回答として頂きました。
 
「ヤフー本社にも許可を得ている手法」として紹介している事に関しては

【回答】そのような事実はございません。

 
ヤフオクがネットワークビジネスな活用されている事に関して

【回答】
一般論として、ネットワークビジネスへの利用はサービスの提供の本来の趣旨とは異なるものであり、ヤフオク!ストア運用ガイドラインにおいても明確にお断りしています。

 
ヤフー側の回答から判断すると、NtBカレッジの勧誘者は『特定商取引法』で禁止されている不事実の告知という違法行為を行い勧誘を行っている可能性が高い点が指摘できるでしょう。ヤフーとしても、こうした無在庫転売を放置しているわけでは無くて、規約違反行為に対しては実際にIDの凍結などの制裁処置を行っている様です。
 
 
 
■他にもある疑惑や問題点
 
この他にも、別の問題もいくつかあります。NtBカレッジの勧誘者は、さまざまな所で『Yamadaシステム ワールド』の優位性として「商品情報をコピペするだけで簡単にヤフオクで売れる」であるとか「最短わずか3分で出品できる」といった説明をしていました。しかし、そもそもの機械翻訳の精度が低く商品を販売する事を念頭に置けば、ただコピペするだけでは不十分で、日本語の修正などに手間と時間がかけなければ使い物にならないと言う指摘が当初からありました。
 
取扱商品自体も日本では聞き慣れない海外メーカーのものが主となっており、オークションで飛ぶように売れるようなものではないという指摘もありました。その一方で中々、売れないことを隠すかのように「まずは1000点出品しろ」といった指導も行われていたようです。いくらコピペだけで済ませたとしても実際に1000点出品しようとすると、かなりの時間が必要です。それに時間を掛けたとしても規約違反でIDが凍結されるリスクもあります。
NtBカレッジでは新規のリクルートに際して”リスクを数値化して説明する”ことを指導しているようですが、実際はこうした時間に対するコストや不正行為に対するペナルティーなどのリスクを無視して、月謝や入会金と言った”目に見えてしまう負担”の部分で話を終わらせようとする形の場合があるようです。
 
 
またNtBカレッジの勧誘者は『Yamadaシステム ワールド』の優位性として「約一億点の商品を原価で仕入れられる」といった説明を行っている様ですが、この”原価”という言葉もミスリードを狙ったものだと指摘できるかもしれません。そもそも『Yamadaシステム ワールド』は中国のアリババが運営している一般消費者向けの通販サイトのAliExpressから商品や価格のデータを引っ張ってきたものだと指摘されています。
  
この指摘の裏付けとしてNtBカレッジのアナウンスなどがあります。実は『Yamadaシステム ワールド』は2016年4月30日にサービスを停止したのですが、その際会員向けにNtBカレッジは、出品中の商品の対処方法に関して以下のような案内を行っています。
 

今後、ヤフオク、BASEなどのサイトで「YシステムWORLD」の商品が落札、または購入された際は、下記の手順で「AliExpress(アリエクスプレス)」にて商品をご注文ください。

 
このAliExpressは日本版のサイトが用意されていて、日本からでも一般の消費者が利用できるものです。もしかするとNtBカレッジの勧誘者が言う”原価”というのは、自分で転売すれば買い入れた時の値段が”原価”になると強弁するつもりで言っているのかもしれませんが、一般的に言えば安い海外サイトの”小売価格”で仕入れているに過ぎません。(ちなみにAliExpressと同じアリババグループが運営しているBtoB向けのAlibaba.comなどは、業者の商品仕入れに活用されています。こちらの方が”原価”という言葉を使うにはにふさわしいかと思います)
  
さらにNtBカレッジでは、月謝とは別に『Yamadaシステム ワールド』を通した商品の発注に対して一点500円の手数料をとる形になっていましたか(当初は無料)。この手数料は直接AliExpressを使っていれば、支払う必要がないものです。もちろん万が一の時のNtBカレッジによる日本語サポートの値段という考え方もできるでしょうが、一点500円というのは少々高い手数料のように思います。逆にそれが適正な値段だとするとトラブルが多発している可能性を考えてみるべきかもしれません。
    
  
また「梱包や発送作業をNtBカレッジで行っている」であるとか「NtBカレッジの国内配送センターから商品が送られてくる」あるいは「所有している海外の倉庫に在庫がある」という勧誘者がいたようですが、その説明も問題を含んでいる可能性があります。実際の所はAliExpressに出品しているストア(小売店)から購入する形だったようで、NtBカレッジは物流や配送にはタッチしていないというのが実態だったようです。その証拠としてNtBカレッジが発行していた「利用ガイド」(2015.1.20)には以下のような記述があります。
 

出来る限り評価の高いストアを選ぶことで、商品の破損、商品未着など、落札者様との様々なトラブルを未然に防ぐことできます。

 
こうした会員向けの説明から、商品の梱包や発送にはNtBカレッジが関わっていないことがうかがい知れます。
また仮に実際にNtBカレッジが海外の倉庫や、国内に配送センターを持って運用していた場合、会員の個人輸入では無くてNtBカレッジが主体となって数千人の会員からの発注をとりまとめる輸入業をやっている事になりますので、関税の問題が発生する可能性が出てきます。
   
NtBカレッジは、勧誘のために用意したページなどで『Yamadaシステム ワールド』の優位性として「業界では異例の返金体制」と説明しており、勧誘者もNtBカレッジがトラブル時の返品を保証することを主張しています。しかしこれは単に最初からAliExpress(アリエクスプレス)で用意されているトラブル時の対応を流用しただけの可能性も疑惑もあります。(普通にAliExpressを利用している個人が受けられる保証の範囲である疑惑)

これらを総合して考えると、1年以上にわたってサービスを提供してきたNtBカレッジの『Yamadaシステム ワールド』は、そのサービスの価値に大きな疑問符がついてしまうモノだと指摘できるでしょう。 
 
   
  
■疑惑が残る仕組み
   
また一般的な問題として考えておかなくてはならないのが、このNtBカレッジが行っているネットオークションを利用した『無在庫転売』という仕組みです。会員側からするとデータだけのやりとりで実際の商品を目にする機会が一切無いという仕組みを悪用される可能性があります。実際にNtBカレッジが行っているかどうかはともかくとして、やろうと思えば運営側による実績の偽造が簡単に行えてしまえるのです。実績の偽装と言われてもピンと来ないかも知れませんが、特にネットワークビジネスの場合、少しでも売り上げが出たことを体験させて「このまま稼げそうだ」と思わせる事が、実態がないものでも信じ込ませるのに効果的に働きます。
  
例えば一般的な物販の場合9万円で仕入れた商品で「10万円で売って1万円の利益を得たという体験」を偽装しようとすると、まず商品を用意しなくてはなりません。さらに第三者を装って本当に10万円を払い欺す相手から商品を買う必要があります。当然、商品も届くのでその保管や処分も考えなくてはなりません。
一部を勧誘時の試供品などで循環させることを考えていたとしても、これを大規模に行おうとすると費用や労力は大変な事になってきます。ところがオークションを活用し、会員に商品を触らせない形での「無在庫転売」の場合ですと、運営側が管理するアカウントで落札し、実際に商品の発注や発送を行わないまま”取引が完了した”というデータを作り出すことが可能です。入会金や月額費用を払っている会員に対して、販売益としての1万円とオークション側の手数料を支払うだけで、10万円で商品を売って1万円の利益を得たという『偽の成功体験』をさせることが可能になるわけです。この場合でも入会金などの名目で1万円以上取っていると、運営側としては赤字は出ません。
「ネットビジネスで稼ぐ方法を教える」という商品の場合、こうした手法が悪用される可能性があります。この手法のポイントは、出品さえしていれば運営側の好きなタイミングで落札を作り出すことが可能という点です。一般消費者からの本当の落札に混じって行う事も可能ですし、有料無料の特別指導や物販セミナーのタイミングに併せて成果の底上げをする事も比較的簡単に出来てしまうのです。
 
繰り返し強調しますがNtBカレッジがこうした悪用を行っていたのかどうかは分かりません。ただNtBカレッジに限らず「稼ぐことを教える」というのを商品にしている『ネットビジネス』の場合などは、こうした『偽の成功体験』を作り出す事で、商品の有効性を信じ込ませる事をしてクーリングオフの期間をやり過ごすために使えたり、効果を過信させて在籍期間を長くする事に繋げていくことが出来るのです。『ネットワークビジネス』などでしばしば使われる使われるマインドコントロールの手法の中に、こうした『偽の成功体験』が組み込まれてくると、たとえ思慮深い人であっても気がつけば強固に信用してしまう状態になってしまうかもしれません。
 
 
 
■偽物の成功体験

何もこのような運営側の操作が必要になる大がかりな不正だけでは無くて、もっと原始的な『偽の成功体験』の演出もありえます。例えば配下になった新規入会者がオークションに出した商品を、実際に仲間が購入するという手法です。あらかじめ買い取る商品を出品する様に仕向ける機会を作ることで「実績がある人から売れ筋を教えてもらえる」といった演出も出来てしまいます。
こうした演出でクーリングオフを回避させたりすることで、新規勧誘に対す売る報酬や配下にいる人の数で発生する報酬プランから収益を得る形です。しかしこれは消費者の価値判断を誤らせることで利益を得る行為だと指摘できます。
  
  
いずれにしろ、こうした『偽の成功体験』を演出出来てしまう構造というのは、NtBカレッジだけが持つ特有のものではありません。多くの『ネットワークビジネス』において、しばしば見ることが出来るものです。もし勧誘者などに「言われたとおりにすると、すぐに売り上げが出た」という様な実体験を語られたとしても、安易にそのビジネスの正当性を信じてしまうのは危険かもしれないという事です。もしかすると、その勧誘者もまた『偽の成功体験』に騙されている被害者なのかもしれないのです。
 
 
 
続きます。
 
 
※本稿では現時点で正式な名称を記載する予定はありませんが『NtBカレッジ』は2016年7月現在も活動中です。読者の皆様には賢明なご判断をして頂ければ幸いです。
 
 
トップ画像: 実際に配布されている資料より作成
中画像: 自主製作資料より作成

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