~予告編漫画~
日神王子アマテリアス
AMATERIAS NEW J-HERO
「鏡に魅入られた者たちへ」
脚本シリーズ構成 瑞波乙
漫画 NEOZONE
原作「日神王子シリーズ」
宮崎国民文化祭2020協力事業
とても神代の物語。委しくいざや顕はし。彼上人を慰めん。
先は岩戸の其初め。隠れし神を出ださんとて。八百万の神遊び。是ぞ神楽の始めなる。
天の岩戸を引き立てゝ。
神は跡なく入り給へば。常闇の世と早なりぬ。
八百万の神たち。岩戸の前にて之を歎き。神楽を奏して舞ひ給へば。
天照大神其時に。岩戸を少し開き給へば。又常闇の雲晴れて。日月光り輝けば。人の面白々と見ゆる。
面白やと神の御声の。
妙なる始めの物語り。
思へば伊勢と三輪の神。思へば伊勢と三輪の神。
一体分身の御事。今更何と岩倉や。其関の戸の夜も明け。
かく有難き夢の告。覚むるや名残なるらん。〳〵。
能楽『三輪』逸文
現代語訳
(はるか神代の昔――。
いま、その秘められた物語を語ろう。
これは、深い悲しみの中にある人々の心を慰めるための物語である。
すべての始まりは、「天岩戸」の神話にあった。
世界を照らす神・天照大神が岩戸の奥へ姿を隠したことで、天地は光を失い、世界は永遠の夜に閉ざされてしまう。
八百万の神々は嘆き、岩戸の前へ集った。
そして神々は歌い、舞い、笑い、神楽を奏でた。
それこそが、後に人の世へ伝わる「神楽」の始まりだったという。
やがて、その賑やかな声に心を動かされた天照大神は、岩戸をわずかに開く。
すると闇を覆っていた雲は晴れ、再び太陽と月の光が世界を照らし始めた。
光を取り戻した人々の顔には、喜びの笑みが浮かぶ。
――面白い。
――なんと美しいのだろう。
神々の声は、遠い神代から響く祝福のように世界へ満ちていった。
そして人々は語る。
伊勢の神も、三輪の神も、本来はひとつの大いなる御魂の現れなのだと。
岩に閉ざされた戸は開かれ、長い夜は終わりを迎える。
それはまるで、神から授けられた不思議な夢のお告げのようであった。
だが夢は、目覚めれば儚く消えてゆく。
それでもなお、その残響だけは、人の心に深く残り続けるのである。)
この世界は、穢れに満ちている―。
早く戻ってきてよ、いい加減に
「えッ?!わっわわたしが初の特集記事担当ですか?」
都内某所の高層ビル群が立ち並ぶ真っ白く漂白された編集室内で、私は嬌声をあげてしまった。
東京の一門にあるオフィス、株式会社ライジングゲーツ。雑誌「HAPPYりある(※はぴりある)」の出版および発行を行う
美容、ゴシップ、芸能、占い。
女性が好きそうなものを、とりあえず全部ブチ込んだような雑誌社だ。
要約するとまあ、鍋だ。
2017年時の主な月刊発行部数(公証3万部)そこそこニッチだが国内にて愛読者は多い。
紙の本があまりに売れなくなり、完全なウェブマガジン形態に移行してから早10年の歳月になる。
創業は25年という老舗・・・。
手汗と癖のある柑橘系アロマの香りが握りしめた企画資料に染み入るほどの
昨晩夜通しの校正作業(バトル)が今朝、ようやく日の目を見た。
「橘サン、おつかれ~(編集部・須藤)」
それはそれはそうとうな闘いであった。もうそれは涙ぐましい。
「タチバナちゃんこれで今日で、コンビニ飯から格上げかな?(指で箸のポーズ)・・・大変だねぇ気鋭の作家業も。(編集長)」
「心配だよ、生活大丈夫なの?ごめんねうちももっとはふりがよかったら…今度・・・。(編集長)」
「生き抜いてやりますよ~わたし、古代人なんで。たはは・・・(※主人公・橘イヨ)」
結界のはり方を誰か教えてくれ。
よけいな世話を焼こうとなさる奴、編集長の部屋には、フレーバー芳香剤と煙草の残り香が混ざっていた。
私は口角だけを引き上げる。
陽の光に照られてめっちゃ主張しとる、細い三日月みたいな笑みだった。
『なんつー貌(おもて)や・・・(橘イヨ)』
メイクのノリが貧血と先日喰ったしょうゆとんこつ(麺)の影響でテッカテカノトゥルトゥルとなり
全存在の、全尊厳にかけて
天地の神明にかけ
世間様に見せらるるもんじゃねえなってバチボコの状態に気づいたのは、
マンションに着艦し、そのまま毎度の如く、寝る・・・バタンキュー(古い・・・!)してからだった。
ああ疲れた。
深夜2時のコンビニ。
鮭おにぎり、チキン南蛮爆弾おにぎり、コンビニ飯・・・・・。
チキン南蛮爆弾サンドイッチが棚にまだ一つある。
そうや、これがあるからやっていけるんや。
それでいいんやで私。(私は関西出身の人間ではないが、脳内に謎の誰やっていうような関西人のおばちゃんが浮かんでいた。)
ダークファンタジー漫画もきっと青ざめる、TOKYO(まち)における闘い(しごと)のまいにち。
今夜もお弁当に、郊外の土手で千切ってビニール袋に収集していたヨモギの天ぷらを
シイタケ天つゆ(※高千穂のつゆ)でむしゃむしゃとやっている…
九州のおばあちゃん・・・・・あの世で元気かな。
こんな私を見守っていてね。
その時脳内ではサンサーラ(歌謡曲♪生きてーる生きている)が流れていた。
サンサーラ※ザ・ノンフィクション主題歌
1週間後、そんなことを考えていた私たちは取材のため飛行機で九州まで飛んでいた。
(大分から宮崎間を走る電車、日豊本線の車内で…)
ヨーグルッペ(ご当地で人気の飲料)に、チキン南蛮入り弁当をつつきまわす、
私が受け持つことになった今月号の新たな雑誌企画。
アルデバラン田原の~♪ワクワク★UFOジャーニー!
『それでねぇ、僕らミジンコみたいな人間たちも皆、小さな宇宙船地球号の一員なんだよォオ~。(身振り手振りで表現するそのおじさん)』
(なんなんだこの人は・・・)
『頼むよマジで橘ちゃぁ~~ん。今月50万払って広告出してくれたアルデバラン田原先生の企画なんだからさあ!(編集長)』
『こういう話題大好きっつってたじゃん。新人が好きにやれるなんて甘くないよ?(須藤)』
ルチルと交互にぎしぎしとこすり合うタイガーアイ(※天然石。うちでネット販売してる)を腕に巻き付けた編集部、須藤の眼光。
この人は本来、こういう人だ。
『そうよねぇえ~。(私)』
私が凝視してしまっていたのは、今月号の特集なのであった。
今月は占い、パワースポット特集。全国内の占い大好きな乙女や主婦層に響け!と企画された
聞いたことも見たこともないが、なにやら人気らしい新手の著名人どもの名が目次・予定表書類に連なっていた。
(※怪人名ではない。)
・アルデバラン田原先生!前世は誰でも宇宙族ってホント?
ほんとなんです。
・波多野天音先生に聞くインナーチャイルド美容法
・宇賀神光児のおすすめ開運スポット5選!
・星乃銀河のコラム・スターシードの子供たちへ
★やってみたパワークッキング!
キムチ料理と巫女の神性開花で開運!
・韓国風発酵パワーでチャクラ活性化!?
・霊感料理研究家・月読ミソラ先生監修!
・「第六感が冴えた!」読者体験談続出!?
・肥満は地球人の妄想だった?(アルデバラン田原)
『読者はこういうの好きなんで。(須藤)』
『ちゃんとやってくれないと○すから?なんてね、冗談よ。楽しんでらっしゃい!(須藤)』
最近皆テレビも雑誌も見ないから、ネットで話題になっているネット有名人を結集させて記事を書くスタイルに変わりつつある。
そのせいか誰も宇宙人に会ったことねえだろうって人ばかりになってしまっている。
編集長によると、昔は冗談抜きで一騎当千のすごい人たちがいたと聞くけれど・・・。
そういう先生もお亡くなりになられてたり、独自で活動されてたり、地域の神社に奉職されたりで私から見るに最近の講師たちは
カードバトルゲームの召喚獣みたいに勝手に見えている。(個人の感想です。)
あー、わたしも田舎で暮らしたい・・・。できれば極力。
そんなお前もノリノリで案件受け入れてるじゃないかよっていう人もいそうだけど
たしかにまあ、私自身この仕事そのものは好きだ・・・。
美容品テスター体験談とか、凡百な恋愛指南書コラムみたいなものより、よっぽど。
もともと物書きに憧れてっていうのが90%の理由なのだが、(そもそも論普通のWEBライターだけでは食えない)
上京して間もないころ、わたしが極貧で、ある体質のためなかなか他の仕事が続かなかった当時
面接で一発で通してくれたのが、うちの編集長である吉川さんだった。
そのかねてからの恩義についてはホントに感謝してもしきれない。
結局最後に助けてくれるのは説明できない何かのめぐりあわせだと私は思ってきたから。
どれほど頑張ってもうまくいかない子たちをこの街で私はたくさん見てきたから・・・。
残りあと一つの10%くらいは、私が”そういう世界”を確かめてやろうって、そんな気持ちもあった。
どうせだったらば、私がこの目で確かめちゃろう。
雑誌の制作はとても楽しく、若干パワハラ気質な数名を除けば、皆私には優しくしてくれる。
そんな職場である。思っていたよりはホワイトな普通の仕事場である。
実際トリックかどうかはわからないがホントにスプーンを曲げた寺山先生もとても気さくな好人物だったし
編集室そろって家族ぐるみで仲の良い先生も多い。
須藤さんの占いも嫌なことに限って的中するし。
無論私はアルデバラン文明があるとかそういうのは信じられない。
私自身ごく普通の人間である。
ただ―。ひとつ異常だ、と思い続けてきたこと、
昔から、私には『そこにあるはずのないもの』を感じてしまうことがあった。
この世には、そういうことがある。
わからない人には絶対わからない。
5歳くらいの頃はみんなそうなんだと思っていた、ただ中学に上がるくらいの頃
わたしに夕暮れ、うっとおしくネチネチ声を掛けてきたおじちゃんが川岸で変死していた、当時の出来事の新聞記事を私は夢で覚えていた。
いじめられそうになった時、幼馴染だったユラちゃんだけが、私をかばってくれた。
なのにどうして―?
夜寝てるとき、枕の傍に靄が近づいてくること
先にここから起こる出来事、体験がはっきり分かってしまう。
人と普通にコミニュケーションしてるだけで、悍ましいもの(いやなもの)が入り込んでくる
だからそんなことないようにそんなところでいつも呼吸して、身を置きたかったけれど。
最低賃金でこれならできるやろと踏んだ
清掃の仕事さえ長続きしなかった。社会不適合者とはこのことだ。我ながらホント恥ずかしい。
私とかかわりを持つ人が、一人一人いなくなってゆく
距離を置いてゆく。
私を好きになってくれた人たちが死んでしまうことも、
みんなに気持ち悪いって言われたり、友達の親に、玄関で締め出されたり。
たくさん泣いた。
もうたくさんだ。
理解を示そうとしてくれてた恋人たちとも、そういう体験もあって当たり散らしてしまい、なかなか続くことはなかったのである。
だれかが、私のことを縛ってるような・・・
誰なの?
そういうの嫌いな人達は信じてくれないだろうけど、
この世界には、ほんとに理屈じゃ説明できないような、そういう不思議なことはたくさんある。
でも、それがどれまでクリア(透明)で、グレイなのか。
どこからが天使たちの声で、どこからが暗闇でー。
ガタンゴトン・・・・・!(揺れる日豊本線)
うちの読者の皆は、そこのところどうなんだろう―。
「イヨちゃーん!鬼なんだから、まだめぇつむっててよ~!(子供らの声)」
「もう帰ろうよ日が暮れちゃうよ(子供時代の私)」
「やめてよ・・・・・・!」
ユラちゃん・・・・・
とりとめもない昔のことを、窓辺をぼーっと眺めるうち、思いだしていた。
窓の外では、恐ろしいまでに黒い、南部九州地方特有の深い緑だけが静かに私の帰郷(かえり)を待っていた。
祖母山系へ連なる山。
はるか昔より、神々の住まう里・高千穂
その山の輪郭だけが、薄曇りの空の下でぼんやりと浮かんでいる。
『これからは宇宙・大交流の時代だからねぇ!みんなでUFOさんに、迎えに来てもらおうって思ってるんだよね!』
アルデバラン田原は、まだ喋っていた。
『若い二人はまだ分からないことも多いかもしれないけれども。
ミクシーで知り合ったシリウス転生人と、ベガから天孫降臨してきた人らも後でパーキングで合流するから!
いっしょに宮崎牛食べよーね!』
(なんなんだこの人は……※お肉は食うのね)
ミチルちゃんの表情が引きつっている。
この状況でも、「地球はまだ大丈夫」だの、 「あと3年で宇宙人が迎えに来る」だの、
唸りながらそんな話を続けていた。
「ミクシーって何?(ミチルちゃん)」
その時だった。
ヨーグルッペが床を転がる。
チキン南蛮弁当のタルタルが、
蓋の内側でべしゃりと潰れた。
『……え?』
ガッ――――――
ガガガガガギィイイイイイィィィィッッ!!
金属がひしゃげる。
車体が、横へ滑った。
悲鳴。
荷物棚からキャリーケースが落ちる。
誰かの悲鳴。
赤ちゃんの泣き声。
『お客様にお願い致します――!』
突如、車内アナウンスが警報機のように鳴り響いた。
『列車が傾いておりますので、荷物棚の荷物には触れないようお願い致します!
また、乗務員の指示があるまで、絶対に車外へは出ないでください!』
『なっ……ぬぅおおおい!?(私)』
『安全確認を行っておりますので、そのまま座席にお座りになって――』
車内がざわつく。
誰かが、「脱線したぞ」と呟いた。
『ただいま列車は、日豊本線・延岡―北川間付近にて緊急停止しております――』
「田原さん、大丈夫!?(ミチルちゃん)」
その時だった。
私の視界。
銀縁の窓枠。
その向こう側。黒すぎる緑の中に、
何かが立っていた。
……人?
いや。
坊主頭。
異様に大きい頭。
瞳だけが、
果実みたいに膨れあがっている。
灰色。
細い。
マッチ棒みたいな身体。
子供?
いや違う。
違う違う違う。
あれはなんだ。
なんだあれ。
そいつが、
遠くから、
じっと私を見ていた。
(カエレ)
頭の奥で声がした。
(カエレカエレカエレカエレカエレ)
ノイズみたいに。
壊れたラジオみたいに。
(wくぉえvqjンtdfhsklbろwbshⅬ;お;pgb)
車掌のアナウンスが分断され、車内に異音が響く。
『嫌ぁああああっ!!(私)』
「橘さん!? 聞いてる!?(ミチルちゃん)」
『……え? あ、ああ……うん……。(私)』
いま。
確かにいた。
私を見ていた。
あいつ(いきもの)。
その日は、
現地の料亭で一睡もできなかった。
窓の外(あいつが見ていたこと)が、ずっと気になって。
暗い山の奥から、
まだ見られている気がして
「いいかいイヨちゃん、あれがねえ、アルデバラン人なんだよォオ~(田原氏談)」
その翌日・・・・・。
「はーいへんしゅうちょー!おう?ちょっと待ってくださいよぉ。他の先生たちこれなくなっちゃったのォオ?(携帯をとる須藤)」
健康器具にブルブル当たっていたミチルちゃん、田原を尻目に須藤さんがテンパっていた。
何一つ変わっていなかった。やはり地元は好きだ。だが同時に、怖いー。と思っていた子供の頃。
その空気に触れたものを退かせる清涼の気配
まず立ち止まり凝視してしまったものが、綺麗すぎる、水。
高千穂峡。見るもの、訪れた観光客らの心を透かし貫くほどの清廉・清浄さを放つ神気の霊地に
要約すると、
ここにいる愚かな凡人たち&俗人ツーリストどもはのこのことやってきてしまったのであった。
神仏なんて信じないという唯物信者であっても頭(こうべ)を垂れ、申し訳なくなるような、
何とも言い難い物々しさ、物言わぬ光放つ恐ろしさが土地、そのものにある。
「売店で買ったガイドブック通りめぐりゃ日が暮れるまで何とかなるだろうって思ったんだがなァ。まいっちったなあ。
10社巡り攻略できっかなー。もう内容すっぱ抜いて完結でいーかぁ。(須藤)」
いいやがったこの男、本当に軽い。こういう厳かな場所に来れば来るほど須藤さんのそういうエッジ(一面)がちらつく。
やっぱ違うかな、私ここで農家だかに嫁いで将来お洒落なカフェでも。いやあそれも私には大変だろうとふと思った。
今年でいろいろ、享年26。回せる牙城(会社)を得られるその日まで、仕事運でもお祈りしとこうかしら。
「八大竜王水神・・・!おおここだよここ!ネイチャーっていうサイトのまとめで見たやつ!」
「知っているかい?竜王っていうのは仏法の守護神でね、凄い神様なんだ。(アルデバラン田原)」
「そのなかでも私はとりわけ九頭龍に護られているんだよ。(アルデバラン田原)」
「へえへえ、八岐大蛇も頭いっぱいありますよね?悪い神様じゃないんですか?(ミチルちゃん)」
「いろいろと神話はあるからね。ヒュドラとかもそうだし、うちのカミさんも、この梵字が彫られた竜王ブレスレットに祈ったらば・・・!(アルデバラン田原)」
※回想シーン
「ザックザークダヨネ!!!(アルデバラン田原の妻・フィリピン国籍)」
「え~なんですかそれなら私もそんなパワーだったらほし~い(ミチルちゃん)」
「お金は汚いって三次元の我々は言うが、それはネガティブ存在が思わせた思い込みなの!
お金も波動だからね~!(アルデバラン田原)」
『言っておくが、ここはあんたたちが勝手に囃し立てていい場所じゃないぜ。(テルヒコ)』
明らかに現代人-。市街地から私たちと同じで観光に来たのか、ただ明らかに
編集部の連中とは、異なる物、浮いた輪郭の男がいた。
その先の何かを、突き刺してるかのような眼光(め)ー。
その男は祠の前に立ちこちらを真っ二つに断ち臥してしまうような鋭い瞳、視線で私の近くに立っていた。
「無事にたどり着けて良かったな。(テルヒコ)」
「・・・・・・・・・・・(イヨ)」
まるでぜんぶ引き裂かれて見抜かれているみたい。
この人ー。
それは、あの時の感覚と、感じによく似てた。 見つめる瞳、 縛る楔(くさび)のような。
だが
列車の窓の向こうにいた“あれ”とは、まるで違う。
あの灰色の童子みたいな異形が、人を侵す湿った悪意――本能的に逃げ出したくなる
少なくとも私は、そう思いたがっている類のものだとしたら。
この男から漂うのは、それとは根本的に
決定的に違う、その穢れを斬るため研ぎ澄まされた刃みたいな静けさだった。
山緑の冷気(つめたさ)みたいな静かさでその青年は我々編集部(能天気なやからども)を見ていた。
「なんですか……あなた? ていうか、そんな上から物言われる筋合いないんだけど!(イヨ)」
「だいたい、あんたこそ何なのよ!? 私はこう見えて地元なんだからね!? これはちゃんとした取材で来てんの!
なんか一人で全部わかったみたいな顔して……ほんっと感じ悪い!どーいう教育受けたらそーなんのよ!(イヨ)」
「俺はあんたの話はしていない。どいてくれ・・・。(テルヒコ)」
「悪いことは言わない。そこの派手な格好のオッサン(アルデバラン田原)アンタだよ。
ここにトンでもないものを連れてきてるみたいだが。(テルヒコ)」
アルデバラン田原は、一瞬だけ不快げに眉を歪めたものの、すぐさま貼りつけたような営業スマイルを浮かべ、突如現れた謎の青年へ愛想よく笑いかけた。
『いやあ、心外だなァお兄さん。まるで僕が、化け物そのものみたいな言い方じゃないかァ~?(田原)』
パキン――。
乾いた破断音とともに、田原の腕に巻かれていた龍紋のブレスレットが、まるで見えざる刃に断たれたかのような鋭利さで裂けた。
「――え……」
次の瞬間、田原の頬を、一筋の赤が静かに伝っていた。
ざわざわと揺らぐ木々の音、風…。
「これ以上はこっちに踏み込むな。俺に斬られたくなかったら…。(テルヒコ)」
その青年は、鬱蒼たる深緑(しんりょく)の奥へ、気配ごと掻き消えていった。
「……なんなの、あの人。(イヨ)」
胸の奥に、言いようのない引っかかり(既視感)だけが残っていた。
ただの観光客でも、地元の人間でもない。
その場所を歪めるヒリヒリとした焦燥感だけが空気を支配してるように感じられた。
来ちゃいけない、危険な領域(ゾーン)の中に、私らはきてるのか。
だが、そもそも。
なんなのよ?あいつ、地元民じゃない(絶対そうじゃないだろ)のに偉そーに・・・
妙な、別の意味でやな感じ。
でも、一瞬だけ――
あの人は、私が子供の頃から触れてしまっていた“あちら側の気配”を、同じように知っている人なのかもしれない、と。
そんな錯覚にも似た感覚が、私の勘を風のように、掠めていった。
もう二度と元の場所には戻れなくなる感覚。
――私は、何も言えなかった。
結局、鬼八伝説の岩だの、現地の神話マスコットと記念写真を撮ったりだの、
田原さんがおみくじで三度も大凶を引き、そのたびにミチルちゃんが必死で場の空気を取り繕ったりだの――
いろいろ気まずい一日ではあったが、まあ、それ以上のことは起きなかった。
私自身、久しぶりの地元をそれなりに楽しんでいたのだと思う。
土産屋の軒先では、鈴を持った神楽風マスコットが、能天気な笑顔を浮かべている。
シュルル・・・・
――その暗がりを。
私の足元すれすれを、湿った鱗の擦れる音だけが、音もなく這い過ぎていった。
その夜。
その日は、日照時間の長い“日向”の陽射しに灼かれ続けた、巨大なアメノウズメの壁画が、峡谷沿いの看板に貼りついていた。
色褪せ、剥落し、ぼろぼろに劣化したその笑顔は、 毎朝わたしが組み立て塗り固めている化粧(かお)と、どこかよく似て見えほほえましい。
私たちは、峡谷の奥――人家から少し離れた場所に建つ料亭へ泊まることになった。
翌日は、あの有名な天岩戸神社への旅。 田原(もう呼び捨てでいいや)が、
神社の八百万の神々すべてとコネクトし、波動をみんなへ送る動画を撮影する予定らしい。(それやばくね?・・・)
先日の出来事――あの不気味な童じみた影や、偉そーな訳のわからない青年の忠告もあり、
さすがに明日は私の方からも何か“チュウコ”、いや、
もといアドヴァイスして、 どうにか地元グルメ特集あたりへ強引に着地できないか、チューハイ片手に考えていた。
いろいろ特集してきたわけだし、それで落ち着きゃいいじゃーマイカ。ってことで
さらに翌日は、まだ他誌が踏み込んだこともない、諸塚山系へ連なる集落へ向かうという。
諸塚というのは、もろもろ(諸々※たくさんの)神の塚。
なんでも、天孫降臨前のもっとも古い時代の神々が眠る、という説もあるらしい。
須藤さんは、例によってライブ配信中。
料亭の屋上――どう見ても元は別用途だった古い建築の上で、 田原氏が夜空へ向かって何かを叫んでいた。
「ベントラ、ベントゥラァッ! スペース・ピーポー!(田原氏)」
――訳すと、「舟よ来い、宇宙のおともだち来てください」らしい。
半裸で、半裸で叫んでいる。
呼んでいる。 彼は本気で、“友人たち(UFO)”を。
「ベントラ、ベントゥラァッ……スペース・ピーポー!(ミチルちゃん!)」 噴き出してる・・・ッ!
ネオンカラーの上着を振り回しながら、“宇宙交流”の最前線をゆく男――アルデバラン田原。
……たぶん、悪人ではない。だからこそ少し不安になる。
窓の外が、ずっと気になっていた。
山が近い。
近すぎる。
障子の向こうに広がる闇が、東京の夜とはまるで違った。
街灯がない。
コンビニの光もない。
ただ、山そのものが夜になっている。
黒い。
いや、黒すぎる。
まるで巨大な生き物が、旅館の外でじっと息を潜めているみたいだった。
布団に潜り込みながら、私は何度もスマホを見た。
「電波入んねーなー!Wi-Fiどーなってんだよぉチクショー。
いまどきAIもすげーんだからさ。生ならいけると思ったんだがな(須藤)」
圏外。
そりゃそうだ。
高千穂の山奥である。
文明、敗北。
『地球はもうすぐ波動上昇期に入るからねぇ!』
隣室から、田原の声が聞こえてくる。
まだ喋ってる。
この人、いつ寝るんだ。
『実は今日もね、宇宙存在からメッセージ来てるんだよぉ!』
『わ~すご~い!』(ミチルちゃん)
『これから日本は“岩戸開き”が始まるんだって!』
『岩戸開きって何ですかぁ?』
『アマテラスだよアマテラス! つまり高次元文明との統合!』
うるせえ。
私は布団を頭まで被った。
私の部屋の布団の近くに、木彫りの白木の大黒さんの像があった。
その時だった。
――コン。
窓が鳴った。
私は固まる。
風?
いや。
「お肩もんであげましょうかぁ、お客さん」
「うっうおおォオオオ!?!?」
私は布団ごと跳ね上がった。
うっうおおォオオオ!!!反射で床を転がり、そのまま高速回転受け身から少林寺拳法の構えを取ってしまう。
「うっうおおォオオオ・・・なんやこん人!? なんでいきなり部屋ん中におると!?」
部屋の隅。
いつの間にか、女将らしきオバちゃんが座っていた。
柔らかい笑顔。
湯上がりみたいな空気。
けれど、襖の開く音を私は聞いていない。
「あ~そうねぇ、うちも都会の雑誌で紹介してもろうたおかげで、お客さんよう来てくれるようになってねぇ」
「ほんと、みんなよそから来てくれて、よろこんどるんよ」
その手には、綺麗に切られたマンゴーの皿。
「だからサービスでねぇ。食べてぇ」
「あっ……ありがとうございます……」
うわ。
てげ優しい。
めっちゃ訛りになる。
泣きそう。
背中を揉まれながら、私はぽつぽつ今日の出来事を話してしまっていた。
高千穂峡のこと。
変な男のこと。
電車で見た、“あれ”のこと。
「うー! マンゴー!」
突然、女将さんがそんな声を出した。
「どんだけぇ!」
反射で私も返してしまう。
なんなんだこの空間。
でも少し安心していた。
東京には、こういう空気がないから。
「知っちょるよ~。民放は二局やけんども」
女将さんが笑う。
その笑顔を見ていた時だった。
しばらくすると、その女将さんは笑顔で、きりだした。
「よう帰ってきたね、私覚えとる?(女将さん)」
「……え?」
空気が変わった。
同じ笑顔なのに。
なぜか急に、寒い。
「私、覚えとる?」
「…………」
「あんたぁ、大神(おおが)んところの、橘さん所の息女でしょう?」
心臓が、どくんと鳴った。
大神。
その名前。
忘れていたはずの記憶が、
「ねぇ。知っちょうやろ?」
その瞬間。
私は気づいた。
いつの間にか。
部屋の横に、男たちが座っている。
五人。
六人。
年寄りばかり。
誰も喋らない。
ただ、じっとこちらを見ている。
え。
いつ入ってきた?
怖すぎると人は固まる。
「あ~。そうけえ、なら、ユラちゃんは覚えとるね?
あん子はよおあんたと・・・(女将さん)」
そうだ・・・・・・・・・!
私は一撃の一瞬的に思い出した。大神、ユラ。
高千穂(ここの)大神家の娘(こ)・・・・・・!
「すぺーーーーすっぴーーーぽーーーーー!!!!!(皆で斉唱する音)」
ゴォオオ!!!!!(窓の外から響く謎の異音・・・!)
「待ってたとよ。ずっと、あんたが帰ってくるのを・・・(女将さん)」
女将さん・・・!
「もう25?やろ?そんなら結婚せんとォ?」
何言って・・・・・・
「姫様ぁあ~~~~~(中年男性)」
ガララッ!(襖を開ける鈍い音)
「奴が、あん男がぁ!また来よったど!!(部屋へ入り込んできた中年男性)」
「そうねえ、・・・そうか。あん男が悪いとよねえ。
そんなら、代わりにあんたがせんといかんねえ。(女将)」
なッ何を・・・?
(イマスグ”ニゲロ”!!!)
あた真ん中に、強烈にくぎを刺すような響き。
そうなったから、私は恐怖を押しのける暴れはっちゃくで
いまわの際のジャッカルのような火事場の馬鹿力で・・・逃げた。
「あんたたち!!!(叫ぶ女将)」
ドタンドタンドタン!!
廊下を転がるように走る。
逃げる。
逃げる。
逃げる。
ガシャァァァン!!!
玄関ガラスへ体当たり。
一回。
割れない。
「ぬおおおおおッ!!」
もう一回。
全身ごと叩きつける。
ガチャーン!!!
いやもうやめてぇえ!!!(がっごごがちゃ)あ、あいたあいたあいた!!!!!!
ダダダッ!
はあ、はあ、はあ・・・・・!!!
夜空の高千穂山中。
男の腕にかみつき、大暴れに暴れ、玄関ガラスに2度スーパータックルした私は、
神の里の、洒落にならない満天の星空の中の。
この地上で最も恐ろしい漂泊の虚空、根源無のただなかに、ものものしい、
誑惑(ダークネス)のなかに一人だけになっていた・・・!
時間は24時をきっていた・・・!!
みちるちゃ~~~んん!!!
みんな~~~!!!!
「うわああ!」
みんな、どこ行ったのよ???
その時。
キィィィィィッ!!!
私の真横に、ライト、これ・・・・!!!
ドガァァァァン!!!
軽トラックが旅館の玄関先へ突っ込んだ。
歪んだ車体。
破砕される玄関ガラス。煙のよじ登るボンネットが、ぐにゃぐにゃだ。
「逃げろ・・・・・・!!ぐっ・・・!ここは、あんたが来ていい場所じゃない!(テルヒコ)」
車の中に乗っていたのは、先日であっていたあいつ(あの、ヘンな青年)だった。
えっこの人いい人なの?私を・・・!
「やつらも、俺が何とかするから、行け!・・・何やってんだ早く!(よろめきながらも強く言い放った男)」
「ごめんなさい!(イヨ)」
「姫様ぁあ~~~~~!!!あーーーっ!あいつじゃ!!!(集まってきた男たち)」
「捕えろ!縛り上げろ――!!!(男の誰か)」
「なんしに来よったとか!(女将だ、とおもっていたその女)」
「見ない(方言訳※さあ、見なさい)!大神(おおが)の姫様にてぇつけちょって、殺めたんはこん男よ!(老婆)」
月光の中に住まうモノ(何か)のように、剣らしき物体(もの)を携えたその青年は、
何一つ声を発さず、彼らをみていた。
「けえれ(帰れ)!人の皮被った・・・・鬼(オニ)ィイ!!!(女)」
あ・・・・・!!!そのとき私は気づいた。
多分車内で私と視線が合った、あれはうち(編集部)が望んでいた類のやつら(アルデバラン星人とか)なんかじゃない。
女、老婆、男たちの背後に群れを成していた、先刻電車の中であったあいつら(異形)・・・・・!!!!
「うわあ!!!きたぁあ!(待っていたものが)きたぞーー!!!(田原・須藤・腰が抜け頬に手を当てるミチルちゃん)」
そのとき、星空にうかぶ空間の中に・・・!
蛍火・・・
アブ蚊のようにぼやりと漆黒の中で浮かび揺らめく群生(発行体群)が、隊列を成し
大量に我々の”すぐそこ”まで来ていた。
「チッ!!!(空の暗黒を睨み凝視するテルヒコ)」
「ほんとに居るんすね、ゆーふぉー(がくがく震えながらスマホをかざすミチルちゃん)」
「ミッちゃんいないとおもってたのぉ?うちでは恒例行事よ!さすがは神の地!(須藤)」
「違う、あれは・・・!(テルヒコ)」
「うわあ、ああ!!!あれは。(老婆)」
「りゅうおう様が、くるげな。(先刻見たのと同じ、暗闇の中佇む灰色の童子(こびと)たち)」
「りゅうおうさまぁあ!!りゅうおうさまぁあ!!(男ども)」
老婆がその”怪異”に目を向けた時には、さっきまで不気味な気を放って佇んでいたその童子の、
黒い巨大にひりだした両生類のような眼(まなこ)は消え
不気味な異形ではなく、小学4年生位くらいの地元の道ですれ違うような、
ラガーTシャツに半ズボンの男の子だけが、いた。(さっきのはどこに行ったの?!)
「あっ、たけし~。(女)」
「そぉ~ねぇ(方言訳※そうなのぉ)。たけしはすいじんさんの子供やもんね。(老婆)」
にんまりうなずく少年が私を見つめている。
蒼白の無表情で気色悪いぐらいの無表情で
再び私の方をむいた時のみ視線が互いに結ばれる、その男の子の真っ黒い眼、私が知っている生命体(いきもの)のどれでもない。
私はこの時本格的に悟った、こいつ人じゃない。
「おぉ!スペースピーポー!キミが毎回チャネル(交信)してくれた、銀河連盟のアーサー?(手を広げやってきた田原)」
田原さん・・・・・・!!
にぃいっ(少年は笑った。)「そうだよっ。(眼が黒く逆転していた少年)」
やめて、そいつは・・・それ以上は・・・・
「おーう・・・また”みんな”と一緒に・・・”行ける”のお?(田原)」
ギュラアアアッ!!!(シャフト異音)
ぼやーと見えるかがり火のような・・・
編集の3人の頭上にその白き発行体が丸いシャフトのような不気味な転輪パーツと共に
強烈な焼け溶けつくされるような輝きを放って浮かんでいた。
「ちょっっっつと、、、ちょまてまて待てよ待てよ待てよ――――!!!!(須藤さん)」
「きゃああッア———–!!!(ミチル)」
人の本能、生物の勘って思っていたよりアテになる、意外と正直なのかもしれない。
いま、まさに。
記号のような、文字のような文様の眩しさが私たちを飲み込もうとしていた。
「その想いが、ポジティブな未来を遠ざけちゃうんだよ!みんなもおいでよ!
僕はずっと待ってたよ!うわーうれしーーー(光になって発行体へ吸い込まれ、天へ飛翔する田原)」
その時だった。
グッゴガアアアアアアア――――ッ!!!
夜の高千穂の山々へ轟音が響き渡った。
がガガガガガガガガガアアアアアアッッッ!!!
「じっ……地震…………!?(イヨ)」
「・・・・・・・、なにあれ(イヨ)」
その存在を目撃したとき
私は、透明な聖地高千穂の霊気を吞んだ。
遠い空の黒の向こう、にいた光を放ち、私を照らしつけていた存在(もの)・・・。
怪異というには、あまりにもキレイー。
暗闇の中、透明な光輝を放ち
気高くそびえる、それはあまりに巨大な、竜だった。
夢うつつの様なクリアな波の、揺らぎの中で、私の体は勝手にゆさゆさとバンギングしてしまっていた。
白い龍、そのクリヤな実体の中に見える、プラチナホワイトに混ざる強烈な金が、
それそのものが、自然界の何かの。
何らかの揺らがぬ”古の王者であった”ことを闇夜のなか明白にしているかのようだった。
その闇の中に、当時私たちだけが知ってたあの空間の中に、
ユラちゃんが立っていたことをその時の急速に私は想起(フィードバック)していた。
「おばあちゃんのおやまって、ここ・・・?(昔の私の記憶)」
「大人になったらねぇ、あたしもイヨちゃんもここに、お嫁行くんだよ。(ユラちゃん)」
旧家の大神家であの日、見たもの。
ちがう、あの子(ユラちゃん)が呼んだもの、行った場所は・・・・!!
扉の奥あったもの(洞窟祠の奥に見える影の住人)、
あたしたちのりゅうおうさま、じゃない。
言葉で説明しろって言われても、ちょっとそれは私にはできない。
こいつは、あれとは、ちがう。
ダメだ・・・・・・
その時何故だか、私は腰をついて、泣いていた。
全部、どうして・・・・・・
(竜の咆哮。強烈な雄たけび声)
「ぐぅわあアアァアアあ――――――――――――!!!!!(闇夜に叫ぶテルヒコ)」
夜の気配を吹き飛ばし引き裂くように血走った聲(こえ)で
青年が叫んだすぐさまその直後、その白い竜は勢いよく星々の間に浮かぶ発行体群めがけ、
豆粒の如き円盤の群れを、今喰らうよう
強烈な
矢のような流星の如きスピードで、激突していったのだ。
子どもの頃、夏祭りで川岸で見た花火のように、
パーン・・・!パーン。
とはじけ飛んで行く光の玉。
蛍火のように。
本来、”そこにあってはならない者たち”(発光体=蹂躙者たち)に、
川の水が、木々の山の黒が、
大地自然を統べる『気』そのものが怒り狂っているか、のように私は思えた。
なにが、いまいったいなにが起こっているのだ・・・・・・!?
「・・・先輩、ゆーふぉー、いなくなっちゃってるよ・・・・・!(ミチルちゃん)」
そうだ、ミチルちゃんが横にいる。
ミチルちゃんは無事だったか・・・・・
私は震えながら、
空を見上げる。
雲の裂け目。
月。
その向こうを。
白い巨大な何かが、
ゆっくりと泳いでいた。
――グォォオオオオオ……。
山が鳴る。
「ミチルちゃんねえ、あの”龍”ってー。(イヨ)」
「龍って、え・・・・・?(ミチルちゃん)」
彼女に、それは見えていなかった。
その時。
背後で、
草を踏む音がした。
振り返る。
月夜の杉林。
そこに、
あの男が立っていた。
濡れた髪。
血に汚れた白シャツ。
片手には、
青銅の剣。
月明かりの中で、
その目だけが静かに光っていた。
「大物主だ。迎えに来たんだー。(テルヒコ)」
えっ・・・・・!
ざわざわ…
カサカサカサカサ・・・・・・・・・!!!!!!(高速で蠢き連なる足音)
バタッ。ミチルちゃん・・・・・完全に気を失ってる。
視線の先に、私がこれまで人生で一度も見たこともない生物たちが、不気味な異様な影を生み出し、
彼(青年)を取り囲むかのように群れを成し、じりじりと迫り集っていた。
「mklbvぎゃが@:;:];]:\;ガがgjcdjkjlkvpでょpぐえごじおpdfjlgvpmfbpd(その化け物たち)」
何かを、訴えているようだった。思い切り、身振りで、手ぶりで必死になって、
崇拝のような、ある種畏怖のような、憎しみのような
何かをどうにかしてほしいと、懇願してるー
あれって、月夜に浮かび上がるぬるりと妖しく飛び出た粘液質な足。
あの化け物…蜘蛛??!!!
「たァア―――――ッッツ!!!(テルヒコ)」
ギョゥワァアア――――!!!!
ゲェエアア―――!!!!
緑青の刃が、土蜘蛛を屠っていく。
日本刀でもない。
サーベルでもない。
その剣は、近代の武器というにはあまりにも非合理で、分厚かった。
異様な切っ先は、現代的な知恵や屁理屈(わたしたちのすべて)を叩き潰すには、十二分すぎるほど、
青白い霧(れいき)を纏っていた。
白く滲むその刃は、
まるで古(いにしえ)の念そのものが、
この世へ形を持って現れたかのような。
太刀と共に、ぞわり、と。
空気が鳴る。
蜘蛛(そいつら)は、それを見ただけで怯えていた。
―――あれは、剣じゃない。
祭祀剣(しんけん)だ。
それはそれ自体意志を持ち、
彼自身すら誤って貫いてしまいそうなほどの異彩を放ちながら、
白い霊気を尾のように引いていた。
御剣(ミツルギ)は、夜の闇の中静かに嗤っていた。
その果てにある“終わり”を知っているかのように。
「ただで済むと思っちょっとねェェエエ―――!!!(女将)」
ゴルブリュリッ!!!
(月夜の下、現れる節足の影)
その時だった。
それまで“女将”だったその人間(いきもの)の背後から、
本来そこにあるはずのないものが、
どびゅり、と。
粘ついた音を立てながら、
月光の下へカサ、ウゴウゴと不気味に垂れ下がり、蠢きはじめた―――。
節だらけの、黒い脚。
濡れた毛。
ぬらぬらと光る外殻。
「っ・・・・・・!」
息が止まる。
ここに、
おそらくもう、私以外まともな人間はほとんど居ない。
飛び跳ねる餓鬼。
畜生道の者。
蜘蛛たちが―――。
シュァィイイインン!!!
(反射する古鏡の光華・明彩)
「こいつは頂いていくぜ・・・!(照り輝く神獣鏡を虚空にかざすテルヒコ)」
「アぎゃぁあああああ!!!!!!!
うちの宝を横取りする気かぁあ!!!
殺せ!! 殺せェエ!!!」
(耳元まで裂けた顎を震わせ、無数の複眼を蠢かせる男ども)
「グォオオギャがァアアア嗚呼ァアア!!!」
(もがき苦しみ始める土蜘蛛)
「キャ―――!!!(イヨ)」
男が暗黒の中、その古鏡を高々とかざした瞬間。
先ほどの飛行隊など、比喩にすらならないほどの光が炸裂した。
白。
ただ、白かった。
山も。
木々も。
蜘蛛たちも。
その場にいた者たちの視界も、存在も、悲鳴すらも。
一瞬で塗り潰し、沈黙させるほどの光。
ギィイイイイイ――――ン・・・・・・。
頭の奥で、金属みたいな耳鳴りが鳴り続ける。
もうどうでもいい。
誰か・・・・・・。
おばあちゃん。
神様。
なんでもいいから、誰か助けて・・・・・・!!!
私は無我夢中で駆け出していた。
ほとんど目を焼かれたみたいな状態のまま、
奴らに追われないよう、森の中を転がるように走っていく。
ガンッ!!
ガードレールへ肩をぶつける。
木の根に躓く。
濡れた斜面へ叩きつけられる。
肘が裂ける。
脛が痺れる。
足首が痛い。
息が上手く吸えない。
肺が焼ける。
それでも止まれなかった。
背後ではまだ、
カサカサカサカサ・・・・・・!!!
という、無数の足音みたいなものが山中へ響いていた。
もう怖くて仕方がない。
途中で足をくじいた私は、そのまま崖から転がり落ち―――、
暗闇の底へ叩き落とされるみたいに、
数時間、気を失っていた。
AM 3:00 高千穂山中林道沿い
どこだ・・・・・やべえ、何も見えん。
どうしよ。
どうにか私は、蜘蛛の巣みたいにひび割れたスマホをガクガクと握りしめ、
誰もいない谷あいの斜面へ身体を寄せていた・・・。
湿った土の匂い。
折れた枝。
濡れた落ち葉が、ジーンズの膝へ張り付いて冷たい。
遠くで、沢の水だけが流れている。
ごぽ、ごぽ、と。
山の底で誰かが息をしてるみたいな音。
風が吹くたび、杉の葉が擦れ合い、
頭上の闇がざわざわ鳴った。
すると奥から、
何やら付近の住民らしき「声」がした。
低い。
何人かいる。
笑ってるようにも聞こえる。
でも、
妙に抑揚がない。
私は恐る恐る、その声のする方へ、気配を悟られぬよう進んでゆく。
ぬちゅり・・・・。
――何かが裂ける音。
そのあと、
ぴちょ、ぴちょ、と濡れたものが跳ねる音がした。
……気のせいか。
いや。
気のせいじゃない。
山の匂いの中に、
生臭い、
鉄みたいな匂いが混じっていた。
「おーいイヨちゅわあ~~~ん!!!(聞き覚えある声が・・・)」
私は安堵した。
あっ、あの田原さんの声だ!
「たっ田原さん!だいじょうぶだったの!?(イヨ)」
「おぉおん!な~んにも!大丈夫だよ。須藤っちがインプラント嫌がって暴れてね・・・・(田原)」
「え・・・・(イヨ)」
「それで、大丈夫なの?(イヨ)」
「まあまあはああ(田原)」
田原…
――何かがおかしい。
田原さんの様子。
暗闇のせいだけじゃない。
笑ってる。
いつもの調子で。
でも、顔の筋肉の動き方が、妙に遅い。
口角だけを誰かに引っ張られてるみたいな笑い方だった。
目も。
笑ってない。
黒目が、妙に濡れて見えた。
「え・・・須藤さんも(イヨ)」
「まあ、大丈夫だよ。いろいろ心配させちゃってごめんね。
僕がもうちょいしっかり先に来てりゃぁな・・・(イヨ)」
頭を掻く田原さん。
その指先が、一瞬だけぬるりと光った気がした。
爪の間に、
透明な粘液みたいなものが糸を引いている。えっ眼が・・・いや、2つあるよね。
いま。そんなことはないか。と私は思った。
さすがの彼も、この時点ではなんだか申し訳なさげな顔になっていた。
田原さんが出てきたその暗闇は、
林道のうねり曲がった奥にぽっかりと口を開いていた、
防空壕のような不穏な穴だった。
山肌に、無理やり穿たれたみたいな穴。
黒い。
奥がまったく見えない。
携帯ライトを向けても、
光が途中で呑まれてしまう。
その穴の周囲だけ、
妙に空気が冷えていた。
このとき忘れていたこと。
私は、そういえばどうして田原さんが
無事あのUFOの中から帰還してこられたかということ。
もう今のこの状況じゃ、そんなことを考えていられる間もなく・・・。
「ミチルちゃん、置いてきちゃったよ(イヨ)」
「さっきの料亭まで・・・戻ろう。大丈夫、僕がどうにか(田原)」
「・・・・・・・(イヨ)」
奥から、
ガァン・・・・ガァン・・・・と、
誰かが暴れるような鈍い金属音。
その合間に、
獣みたいな荒い息遣いが響いている。
ざらざらとした、赤子の夜泣きのような、ノイズのような。
私たちは一端落ち着いて携帯ライトを点灯し、
更にその柵の奥へと、
息を飲み込み、向かってしまった。
そこは、
ベンガラ(朱)で荒々しく塗られた、祭壇だった。
「熊本で行った熊襲隼人の石室とも違いますね・・・(イヨ)」
茶色、朱色でギザギザに描かれたトライバルのような紋様。
壁一面に、
爪で引っ掻いたみたいな線。
古い。
なのに、妙に。
南方文化の。
宮崎とか鹿児島とか。
熊本とか、そこ等へんにめっちゃ古代に住んでいた先住民の穴ぐらなんだろう。
そういうことぐらいプリミティブ(原始的)な特徴は、
当時民俗学を専攻していた私には読める。
しかし。
あまりに綺麗な状態すぎないか。
まるで、
今でも誰かが使ってたみたいに。
祭壇の窪みには、
黒ずんだ蝋みたいなものがこびり付いていた。
古い灰。
獣の骨。
乾ききっていない何か。
私は数ある色の中で朱色が一番好きだ。
祭りの鳥居とか、
神楽面とか、
あの色は、本来どこか生命力がある。
でも。
この朱だけはいやな気持になる。
湿っている。
まだ乾いていない血みたいに。
生暖かい。
ライトを向けるたび、
ぬらり、と鈍く光った。
ボトォオ!!!!
(天井から急に何かが落下してくる)
もう何も驚かなくなる。
さすがに一晩でここまで見せられ走らされては。
・・・・・・この丸いの、なんだ。
「な~にぃ卵?(怯える田原)」
ライトに照らされたそれは、
半透明の膜に包まれ、
中で何かが脈打っていた。
どく、どく、と。
生きてる。びゅくびゅくびゅ
内部で影が蠢く。朱色。
細い脚みたいなものが、
内側から膜を押していた。
パキッ・・・どびゅ!
・・・・・カサカサカサカサカサ・・・・ッ!
「ギャァ――――!!!(私&田原)」
繭みたいな卵の内側から、
黒い脚が、
ぬるりと飛び出した。
蜘蛛。
しかもでかい。
足まで合わせると一メーター近い。
毛だらけの脚が岩肌へ貼り付き、
洞窟の壁をカサカサ走り回る。
湿った体毛がライトを反射し、
ぬめぬめ光っていた。
私たちは肝を凍らせたまま、
全力ダッシュで洞窟の元来た道を走り出した。
ガッ!
(何かにつま先が当たる)
バシィ―――ン!
痛ッツ・・・・・・・!!!
って、ぅぅうううわあああ!!!!!!!!!
く、蜘蛛や。
眼前に覆いかぶさりそうに迫る土蜘蛛。
シュゴォオオ・・・ふしゅる・・・
ぴぴ、ぴぴ♪
やめて、やめて、やめてやめていやいやいや
せわしなく蠢く器官。
私、そういう虫とか大っ嫌いやから近くではよう見んのやけど。
あんまり見んのやけど・・・・・。
――眼が、あっちゃったの。
顔が、ついてる。
節足動物の象徴みたいな黒い胴。
その下半分にだけ、
人間の名残が張り付いていた。
頭髪。
口。
鼻。
複眼。
皮膚だけが、人間。
しかも、
その口元だけが、
何かを言っていた。
カサカサカササササッ!!
「読者はこういうの好きなんで。(私の顔面に迫る土蜘蛛の顔)」
須藤さん―――!!!!(取り込まれたの?!)
ピカャア―――ッ!!!
(突如洞窟内に差し込む光)
「ブルアッグギャアア、アアア――――!!!!(土蜘蛛たち)」
のたうち回る田原。ウソでしょ。
田原さ・・・・いや、彼も!?
皮膚が裂ける。
背中が膨らむ。
服の内側で、
何本もの脚が暴れていた。
「・・・・・・・・・!(テルヒコ)」
やめて!!!!!!!
振り上げられる剣。
ズドバアッツ!!!
ドスッゥウ!!!
無言で。
その青年は、
光に焼かれてしまった田原さんの無数(8本)の手足と、
それまで須藤さんだったその生物を、
一切顔色を変えず裁断していた。
肉が裂ける。
粘液が飛ぶ。
洞窟の壁へ黒い液体がぶち撒けられる。
なのにその剣だけが、
妙に静かだった。
白い霧(れいき)を尾みたいに引きながら、
闇の中で、
ただ淡く光っている。
「ちゃん、タチバナッチャン、オデ・・・・・・・・・・・・!(土蜘蛛)」
蠢く須藤さんの顔。
ホントいうと、怖かった。
あんまりこの人についちゃいい思い出はなかったけれど。
(ちょっと怖い、パワハラっぽい苦手な類やったけど)
だけど。
・・・・なんで。
なんで、こんな酷いことすんの。
「なんで、あんた。(イヨ)」
彼はきっと・・・・・・。
「こんなこと、こんなことまでしなくっていいじゃないのよ!!!!(イヨ)」
私はもう涙が止まらなくなり、
もう須藤さんではなくなってた生物の顔
(元の容貌だけ留めている)を、
抱きしめていた。
冷たい。
ぐちゃぐちゃだった。
なにも止めることができなかった。
そりゃたったの一人ぼっちに何もできるはずもないんだ。
でも、でも悔しい!
「あんた・・・・なんとか言ってよ。なんでみんな殺したの・・・・・・
あんたなんか人じゃない!!鬼!悪魔!!!(イヨ)」
神の里の漆黒の中、憮然として巨大な白竜の魁偉、
数百メートルにも及ぶであろうその恐ろしげなまでの奇麗さ
コントラストは、
その美しさはもう私の飲み込める限界なぞ超えていたのだ。
まったくなにも分かりはしない―。この青年の目的は。
「ああ、俺は鬼(オニ)さ。(テルヒコ)」
「アンタたちがそう言いたいんならな・・・(テルヒコ)」
青年は、須藤さんだったものを見下ろしていた。
血とも粘液ともつかない液が、剣先から静かに滴っている。
とてもじゃないけれど、あの化け物たちとは違う、
まだこちら側(人)の輝きが残る、さっきまでとは同じ人だなんて思えないような瞳で
うつむきこう言った。
「ずっと前から・・・・・・そうだった。
俺はこんなことを何度も見てきた。(テルヒコ)」
「いたぞォ―――!!!あの男じゃ!!」
「鬼じゃ!!捕まえてなぶり殺せェエエ!!!」
洞窟の外。
松明の灯りが山道に滲み、男たちの怒号が木霊する。
怒気。
殺気。
そして、土地に染みついたような古い怨念。
洞窟の外、続く誑惑の気が支配する丘の上で、私とその男は、往古の神々の演じた
天の真名井の契約(うけい※アマテラスとスサノヲの神意を測る占い)
であるかのように、完璧に対比されていた。
二人に産まれた一瞬の疑心
どちらが光で、どちらが闇の存在であるか。
その時。
「お前ら、もうやめんか!!」
怒声が飛んだ。
男たちの奥から、杖を突いた老人が現れる。
白髪。
煤けた狩衣。
深い皺。
だが、その眼だけは妙に鋭かった。
「田部さんとこの・・・こん連中は生かしてはおけん!!」(男たち)
「黙らんか!!」
杖が、地面を強く打つ。
ガンッ、と乾いた音が山に響いた。
「まちごうとるのはお前ら旧家のもんよ。」
「欲に目ぇくらまして、あげなモン(邪龍/おろち)に魅入られおって。」
老人の視線が、女将たちのいた闇を睨む。
「あんげなガワロ(河童)にとっ憑かれて。」
「忘れるなぞ、かりにも元来は、高貴な血ぞ、よそ様へ恥をさらすな。(老人)」
その言葉に。
さっきまで血走っていた男たちの顔色が変わった。
怒鳴り声が止まる。
誰も、老人へ言い返せない。
「なんであたしらがこんげなずっと臭いとこ(暗闇)で、
耐えんといかんと?結構な神さんやね、そんなら私は信じらん!!(女将)」
「バカもんが!!そんでもお前は・・・!(老人)」
まるで。親子喧嘩を見てるみたいな。
土地そのものに叱責されているみたいに。
やがて彼らは、そのわなわなと唇を震わせながら、視線を逸らし、山の緑の中へ。
闇の中へ無数の足をうごめかせ、
ある者はありえない方向へ、顔を天へ向けながら、
地べたを這いつくばり、野山へ、川の中へ…退いていった。
静寂。
風の音だけが残る。
老人はしばらく黙ったまま、青年の横貌を見ていた。
「あんた・・・・大神の・・・。(老人)」
老人は途中で言葉を切った。
「・・・・いや、もうええ。」
「若い都会の人は、知らんままでええこともある。」
それからおじいさんは、小さなかがり火を焚き、ゆっくりと話し始めた。
山の霧が、白く流れている。
夜と朝の境目だった。
「大神(おおが)は、おそろしき者の裔(すえ)じゃ。(老人)」
その声は、ここの水のように。
まるで祝詞みたいに静かだった。
私は直感した。
この人は。
この土地で、ずっと“火”を守ってきた側の人間だったんだ。
神話がまだ死んでいなかった、はるかな時代から。
ずっと。
「ここの里のもんには、“蜘蛛の血”が流れとる。」
「遠い昔、よそから来たもんに土地も、ぜんぶを奪われた。」
老人はそこで言葉を詰まらせた。
「どうせ今の世じゃ、誰も信じん」
悔しさとも、諦めともつかない沈黙。
火の粉だけが、ぱちりと爆ぜる。
私は、なぜか思い出していた。
……ネイティブアメリカン。
侵略され、神話ごと押し潰された民。
――じゃあ、あの蜘蛛(ばけもの)たちも。
だが・・・・・
そんなことまではわからない。
今の私には、どこまでがホントにそうであるか、
この世界をそう変えてしまったような、
なにかもっと視えぬ恐ろしい世界(もの)が、そこには。
姿が変わって、野山に逃げていった人々(女将さん達)を思い出した。
多分。
私が出会ってきた人ら(土蜘蛛)は、きっと料亭の女将でも、
今を生きてる町の人(現世側の人々)じゃない。
山全体に、結界の中に今も閉じ込められて
呻いている。
どうしてわかってしまうの?
なんで・・・なんで。
「それ以上は泣くな。奴らと同じになりたくなかったら。(テルヒコ)」
「ちっ・・・近寄らないでよ!(イヨ)」
一瞬、彼は寂しそうな顔をした。
「・・・・・ゴっ、・・・ゴメン。(イヨ)」
朝霧の向こうで、白い竜がゆっくりとうねる。
その美しき姿は、山並に溶け哀しかった。
「わしらは、こうして火を繋いで生きとる。」
「それをこわすもん、荒らすもんが来れば、大神(おおかみ)さんが怒る。」
「・・・・ただ、それだけの話じゃ。本当にあんたらが何にもなくてよかった。」
私は、その青年を見る。
彼はずっと黙っていた。
白い霧(れいき)が、その身体から薄く立ち昇っている。
「田部さん、バケモノたちは一体なんであんな・・・・・(イヨ)」
「あれら(土蜘蛛)はもう・・・人であることを捨てた者のなれの果てじゃ。(老人)」
老人の声が、朝靄に溶ける。
やがて。
東の空が、ゆっくりと白み始めた。
乳白色の雲海の向こうから、朝日が滲み出してくる。
黒かった山々へ、少しずつ緑が戻っていく。
葉に宿る朝露が光る。
その光景は、まるで世界そのものがそれまでの闇をゆるし、
包み込むようなそれ自体が母性であるような。
私には到底理解が追いつかない、そんな。
命を尊厳を維持し、繋ぐ・・・その空間が鎮魂を始めたみたいだった。
「まもらにゃならん。」
老人が呟く。
誰に向けた言葉だったのか。
私には分からなかった。
その時。
白き竜が飛翔し、天へと昇っていった。
なにもかもを照らす、陽の中へ
雲を裂き、巨大な光の柱をうちたてて
尾のように引きながら・・・・。
「あの鏡は・・・・・(イヨ)」
「・・・・・・・・。」(テルヒコ)
青年は、その金色の背びれを静かに、見上げていた。
あまりにも静かな眼だった。
その闇を斬る―。
斬っても斬っても・・・・きっても。
鬼。
悪魔。
化け物。
きっと彼らのようなものたちは、ずっとそう呼ばれ続けてきたのかもしれない。
人を好きになって守っても。
血を浴びても。世界の、ダークサイドに身を置いて。
ただ、滅びた守護者たちの残響(こえ)みたいに。
わたしは、どうすればいいんだ。
「いけぇいい!何処へでも・・・・。
誰にも縛られぬ、お前様が求めていた何処かへ。・・・・(老人)」
青年は、日の差す方へ昇ってゆくその龍と共に
私たちに背を向け、歩き出していった・・・。
「その悲しみを、呼ぶ声がある限り。(老人)」
それが、私とその男との・・・鏡との、出会いだった―。
古来鬼とは、神格を、名を奪われた、古き神々であったという―。
翌朝。
「・・・・・おばあちゃん。ありがとうね(まだ、布団の中で朦朧とする私)」
昨日も今日も干しとらんかったせんべい布団の上で
夢幻の狭霧のなかから帰ってきたTシャツの私は、
それまでの状況を整理、いやもとい理解できずいた。
「え、スカイツリーじゃん、どゆこと?(視界に広がる、街ゆく人がゴミのようだ・・・)」
たくさんの人が行き交う街(TOKYO)。
・・・・・・・・・・・・・
おいどういうこった、昨日のどこぞのファンタジー漫画もびっくりの出来事と思いきや、
私の潜在意識(ゆめ)かなんかだったってことかよ
ならなんなん、ああいうのが私の願望なんか?そうなんか?
ふっざけんな、もっとハートウォーミングで日々ましなこと考えちょるわ!
フジャケルナ―!!モアイ(訳※ふざけるな!もういい)と
岩戸投げを何処に決めればよいのかわからなくなっていた私だったが、
それより、皆(編集部の仲間たち)そんなことになってなかった・・・・
それが安堵以上の何物でもなかった。
そして―。今日もいつものコンビニでおやつを買い
歩道橋の中で思った
昨夜の夢なんて毎日の目の前の慌ただしさに比べれば、すぐに忘れてしまう。
でも、これが大切な日常。
高熱の翌日ご飯が美味しいように、
ホントに有難いなって思う。
昔みたいに戦争とかそういうのに巻き込まれてない私たちって。
なんもなくおくれてる毎日って、本来ないものかもしれない。
「感謝しない。(感謝しなさい)」
おばあちゃんも言ってた。お天道さんに、そして今日も
私には私の平和の戦い(生活)がある。
あの男(剣士)はその闘志が具現化したものだったのかもな~。
そんな雑な夢セルフチェックをやって平静を取り戻せた私はいつもの職場へ行った
空調の効いた社内デスク
「なによ、それ・・・・・・(私)」
「ちょっとねえ、田原先生が繋がらないんだよ連絡先が。お金は払ってもらったのに・・・
(編集長)」
「奥さん、フィリピンの人ですからね~。すごい美人な人でしたよね!(ミチルちゃん)」
「田原さんがあんなんだから・・・・新人、次はお前だ~。(冗談めかしいう須藤さん)」
「えっ担当は、わたし・・・(私)」
こん流れ・・・・
「二人とも一緒に来るの?・・・(私)」
「は?お前何言ってんの。来るってどこによ。(須藤)」
「先輩、なんか顔色悪いですよ?(ミチルちゃん)」
「地方紙の記者が明日打ち合わせでうちに来るからってことなんだが。(須藤)」
「え~?・・・・ぁああの、みやぎ(宮城県)・・いや違った。宮城は東北。
反対だわ。あのマンゴーの地鶏の、南国の!
宮崎だよ。宮崎の人がくんの!(須藤)」
「わたし、ちょっと・・・嫌です。(イヨ)」
なんでよぉお~、と情けなさげな顔をゆがませる須藤さんの顔は、
一瞬アルデバラン田原に重なって思いだされた。
企画書の中にある、セルフチェック、かがみ(美容法記事内のただの文字)・・・・・
かがみ、鏡
カガミ・・・・・・・
鏡、だ。
ただのそれだけ、だが。
ノイズとなり、私の頭を飛び周ってる。
「大神は、おそろしき者の末裔(すえ)じゃ。(夢で見た老人の台詞)」
あれは、あんなグロテスクなものはたぶん私の願望(ゆめ)じゃない。
いや、「私は置いてきてる。タスケに、行かなくちゃ・・・・・・・!(イヨ)」
「いや、やらせて!やらせてください・・・・・・・!(イヨ)」
行ってみたい、この目でそこに。
率直に言って。皆が待ってる
そう。そう告げてたんだ、あの夢は。
「打ち合わせの時間は・・・・・・(イヨ)」
「・・・・・・・・(どうしたんだ、という表情の編集部のみんな)」
私は、明日・・・その人(海照彦)に会うことにした。
(to be contenewd・・・・・・!)

