シール交換カフェでアナログで刺激的な交渉術を学ぶ

  by 辛酸なめ子  Tags :  

子どもだけでなく大人にも広がっている「シル活」ブーム。シールを集めて交換する、という文化も生まれています。人気なのは「ボンボンドロップシール」に代表される、立体感があるシール。「ぷくぷくシール」「ぷっくりシール」「3Dシール」などと呼ばれるジャンルで、他社も「うるちゅるポップシール」「ちゅるんと立体シール」「キャンディージェムシール」といったぷっくり系の商品を出しています。ボンドロシールに関しては人気すぎて、店舗で争奪戦が発生したり、偽物が出回ったり、高値で転売されていたりします。お台場の雑貨店でサンスター文具の本物のボンドロシールが1枚1500円で売られているのを発見したことがあります。ちょっと迷っている間に売れていました。

ここまでブームになっているので現場を体験したいと思い、自分のシールコレクションを持って、シール交換カフェに行ってみました。「しぇあぷく原宿店」という人気のカフェです(女性限定)。休日に行く予定でサイトから予約(平日は予約なしでOK)。ウーロン茶やコーラなどアイスのドリンクのAコースは1980円。カフェラテや抹茶ラテなどホットドリンクのコースは2200円とまあまあいいお値段です。店長さんは女子大生とのことで商売上手です。カフェでは交換で忙しくてドリンクを堪能する暇はないかもしれないと思い、安いコースを予約。

休日の午後に、原宿駅から近いお店に向かいました。建物に行列ができていると思ったら、地下の牛カツの店でした。シール交換カフェは5階で階段のみ。客層が若いので苦にならないのかもしれませんが……。1人1枚買えるレアシール目当てか、母と祖母連れの家族がいて、祖母は階段がキツそうでした。完全入れ替え80分制なので、少し前に到着して階段で待機。

中に入ると約20名入れる空間で、椅子と机がぎっしり並び、シール販売コーナーもありました。整理券が配布され、シール(レアな商品は1人1枚)を買ってドリンクをレジでオーダー、という流れです。当然のように全員シールを買う空気で、トムとジェリーのうるちゅるポップシールを購入。570円と良心的な定価販売でした。「すべての時間帯、同じシールを出しているのでご安心ください」と、店員さん。ここに来ればレアなシールが入手できると思うと、利用料金も高くないのかもしれません。「レジの横にシマエナガのシールもありましたよ」とさっそくお客さん同士で情報交換していました。シールという共通の話題があれば知らない人ともコミュニケーションできます。

30分ほどで全員受付終了。家族連れが4組くらいと女友達2人組が2組。1人客は私のみで挙動不審になってしまいます。早くもシール帳をテーブルに積み上げてコレクションをアピールする女子小学生たち。「シール見せてください」「かわいい〜」「どこで買ったの?」「きれいに貼ってるね!」「これいいですか?」「じゃあこれと交換しましょう」そんな声が飛び交っています。

ちなみに私はレアなシールは結構持っていったのですが、シール帳に貼る時間がなくA4クリアファイルにまとめて入れていました。フリーメイソンシール、マツケンシール、高野山のこうやくんシール、メジェド神シール、大仏シール、キリスト教グッズの店で買ったシールなど。昨今のぷっくり系シールとは違う路線だったので、最初の30分は誰にも見向きもされず、アウェイ感で帰りたくなっていました。

そんな不甲斐ない大人に、声をかけてくれたのは小2女子でした。「見せてください」パンパンに膨らんだシール帳を4、5冊持ってきているシール長者の女の子が、私の流行と無関係のシールに興味を持ってくれたようです。光栄な思いでファイルを差し出すと、パパッと見て「これがいい」と猫の写真シールを指定。決断が早すぎです。「じゃあこのシナモロールのシールと交換」と、女子のシール帳を見て複数あるものから選ばさせていただきました。トレード成立の充実感に浸っていたら、店員さんが私のシールに興味を示してくださいました。

「これかわいい! どこで買うんですか?」「気づいたら集まっていて……」「結構な年月を重ねて集めてるんですね」シールのスペシャリストのお墨付きが与えられたことで、それまで店内でアンタッチャブルな存在だった私が徐々に受け入れられていくのを感じました。「マツケンシールや細川たかしシールまで。クセ強いですね!」「やば」「めっちゃ面白い」と別の店員さんも盛り上げてくれて、自分のシールコレクションの価値が高まっていくような錯覚が。

それから4人くらいとシール交換することができました。マイメロのシールとちいかわのシール、インコのシールとハンギョドン、マツケンと猫のぶっくりシール、マツケンとイルカのシールなど次々トレード成立。

大人女子は「どれでもいいですよ」と懐が広い感じでしたが、小学生女子はレートにシビアで「コットンパフィと大きいシールはダメ。それ以外ならいいよ」と指定してきました。「大人は太ももだね」「太っ腹でしょ」そんな母娘の会話に癒されます。このカフェでは交渉術も学べます。また、交換している同士「これ、韓国のシールでしょ」「韓国に買いに行ったんです。なんでわかるんですか?」「シールのYouTubeばっかり見てるから」というやりとりも聞こえてきて、シール熱が高まって海外まで買い付けに行く人もいるようでした。

80分の滞在時間はあっという間に終了。後ろ髪をひかれながらシール熱の余韻が残るカフェを後にしました。「全員と交換した」と言っている女子は将来仕事ができる大人になりそうです。対面で交渉して交換するというアナログなシステムも、SNSに疲れた現代人にとって新鮮なのでしょう。肩書きや年齢などと関係なく、対等にやり取りできるのも魅力です。何より小学生女子たちのおかげでコミュ力が少しアップしました。何歳になってもまだまだ学ぶことが多いです。

帰ってからすぐシール帳を買いに行ってコレクションを貼りましたが、周りの大人で交換してくれる人は見つからず……またカフェに行くしかなさそうです。

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。