小さくても無限のエネルギーが渦巻く豆判春画の世界(辛酸なめ子)

  by 辛酸なめ子  Tags :  

その展示会場は優雅なクラシック音楽が流れていました。また、新たな春画の扉を開いてくれた「新宿歌舞伎町春画展WA」シリーズ。今回は「小さな愛の物語ー豆判春画の世界ー」というテーマで、小さいサイズのかわいい春画が並んでいました。あまりにも細かいと肉眼で見えづらいのでは?という懸念がありましたが、入り口でライト付きの虫眼鏡を貸してもらえるので、スマホ老眼の人でも安心です。春画を拡大して眺めるなんて恥ずかしい……と、一瞬躊躇してしまいますが、来場者が全員虫眼鏡で見ているので、不思議な一体感に包まれています。

メインの会場は「新宿歌舞伎町能舞台」。煩悩と文化が両立している稀有な空間です。BGMのクラシック音楽は、江戸時代で春画が流行っていた頃と同じ時代の、ロマン派の音楽だそうで、愛や喜びなど感情をテーマにした曲が多いので、春画の世界と絶妙に調和しています。能舞台は靴を脱いで上がるので、座ってじっくり鑑賞できます。

ガラスケースの中には豆判春画が並んでいて、小さいけれど趣向を凝らした構図や色、着物の柄などが目を引きます。豆判春画の標準的な大きさは9㎝×12.3m。耐久性の高い紙が使われ、量産され、持ち運べるように作られていました。現代のスマホくらいのサイズの絵を江戸時代の人は大切に持ち歩いて、日々眺めていたのでしょう。動画ではないけれどきっと脳内では動いたりセリフを発していたのだと思われます。この会場にいる間は、スマホから離れて春画に集中することで想像力が刺激され、脳が活性化しそうです。和紙に刷られた落ち着いた色彩の春画は目にも優しく、疲れ目を癒してくれます。

豆判春画は、それぞれテーマに沿った「組物(シリーズ)」にまとめられています。例えば「艶色御伽笑」は、女性が張型(大人のおもちゃ)に興じる様子が描かれていました。黒々とした立派な張型を手にした女性と、動揺する女友達など、妄想を刺激するシーンが展開。「コレいいこころもちなものをおめにかけませう」というセリフも味わい深いです。

 「今様十二ヶ月」は12か月の各月の情事を描いたシリーズです。あられもない姿でことに及んでいますが、当時の室内の家具や調度品なども興味深いです。江戸時代のティッシュなのか、懐紙が周辺に散らばっている絵もあってリアルでした。

「基盤結合」は囲碁になぞらえたシリーズ。囲碁に不勉強なのでわからないのですが、男女の情事の図の上に、碁盤が描かれています。それぞれの戦局を、体位などで表現しているのでしょうか。江戸時代の人の想像力に驚かされます。

「七福遊」は、夜の七福神が大活躍しているシリーズ。大黒天がいやらしい笑いを浮かべて女性の局部を眺めていて、福禄寿が男女の行為を覗き見ている……こんな絵を描いてバチが当たらないか心配です。

「ちりめん絵」という技法で作られた美しい春画は、「完成した浮世絵を、縦横斜めに何度も揉み縮め、布のちりめんのような細かなシワと質感を生み出したもの」だそうです。手に吸い付くような質感だったとのこと。興奮した手汗も吸収してくれそうです。

お菓子の包装紙を模した「短冊判菓子尽」シリーズも粋でおしゃれでした。紅羊羹、ういろう、琥珀糖など、それぞれお菓子の箱と同じ縦長サイズに春画が描かれていました。性的な行為は、お菓子と同じく、快楽とひとときの癒しを与えてくれるものだったのでしょう。描きにくい縦長サイズなのに構図も決まっていて、江戸時代の絵師のセンスに驚嘆させられます。

女性の職業をテーマにしたシリーズもありました。女医(産科医)、女官、おほら子(伊勢神宮に仕える少女)、お髪揃えなど、当時の事情がわかって興味深いです。女性の職業が限られていた時代に、果敢に攻めている春画です。現代もOLもの、女教師ものとか職業を全面に出したAVがあるので、今も昔も人の趣味嗜好は変わっていないようです。

「十二時計」は一日を12の時に分けて、それぞれの時間のまぐ合いを表現しています。ほぼ2時間ごとにいたしていて体力に圧倒されました。江戸時代は人生において性行為の重要性が高かったことが推察されます。現代人のレスぶりを知ったら驚かれることでしょう。

第二会場は、近くのホストクラブ「BOND」で、こちらも趣深い春画が展示されていました。印象的だったのは乗り物シリーズ。舟や駕籠の中で行為をしていて、かなり大胆です。豆判という小さいサイズながら、性欲や想像力はサイズに収まりきらず、溢れ出しているようでした。見ているうちにいつの間にかその世界に入ってしまうので、あまり小ささを感じません。むしろスマホの画面でなんでも完結させてしまう現代人にとって、このくらいのサイズが一番親和性があり、違和感なく受け入れられるように思います。また、大判の春画だと誇張されまくった男性器が大きすぎだと感じられますが、豆判だと許容範囲だと思えます。

「新宿歌舞伎町春画展WA」は、グッズのセンスも良くて充実していました。春画で刺激された煩悩を、物欲で発散。江戸時代の春画で生命力を充電できたので、欲望渦巻く歌舞伎町でも安心して歩けます。

開催情報

「小さな愛の物語ー豆判春画の世界ー」新宿歌舞伎町春画展WA
会期:2026年2月14日(土)~3月15日(日)※計30日間、無休
時間:11:00~19:00(最終入場18:30)
夜間開館:毎週金&土11:00~21:00(最終入場20:30)
会場:2会場で開催
〇新宿歌舞伎町能舞台 ※受付は新宿歌舞伎町能舞台
(〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町2-9-18 ライオンズプラザ新宿2F) 
アクセス:東京メトロ丸の内線・副都心線・都営新宿線新宿三丁目駅E1出口より徒歩3分、西武新宿線西武新宿駅北口より徒歩8分

〇BOND ※新宿歌舞伎町能舞台から徒歩約1分 ※グッズショップ有&グッズショップのみの入場OK
(〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町1-2-15歌舞伎町ソシアルビル9F)
アクセス:都営大江戸線 東新宿駅 徒歩7分/東京メトロ副都心線 新宿三丁目駅 徒歩9分/JR山手線 新宿駅 徒歩12分
■チケット■
チケット価格:一般1100円、学生700円(当日精算のみ、学生証提示必須)
※障がい者手帳(有効期限内)をお持ちの方とその介添者さまは1名無料。
※本展は日付指定制を導入しています。オンラインサイトから「日付指定券」をご購入ください。時間指定はございません。ご都合の良い時間帯にご来場ください。
※当日に空きがある場合は、事前予約なしでご入館いただけます。ご案内は、ご予約の方が優先となりますので予めご了承ください。
※ご来館日に限り再入場可。

18歳未満入場不可
※チケット購入時に年齢確認が必要です。
また、ご来場時に本人確認書類(マイナンバーカード、免許証、健康保険証など)のご提示をお願いする場合がございます。あらかじめご了承ください。

★公式WEBサイト:https://www.smappa.net/shunga/ [リンク]

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辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。