誰ともつながれない孤独な大人たち 増加するSNEP(孤立無業者)とは

  by numb_86  Tags :  

ニート、レイブル、失業者、非労働力……。働けない人たちを定義し、指し示す言葉はたくさんある。その中でも最近注目を浴びつつあるのが、孤立無業者、SNEP(スネップ)だ。2006年現在で、約106万人いるとされる。無業状態にある人を「孤立」という観点から照らし出す概念であり、東京大学の玄田有史氏らが定義、提唱している。玄田氏らの論文はインターネット上でも公開されている。本稿では特に断りのない限り、この論文に依拠して話を進めていく。
http://www.genda-radio.com/img/snep_201206.pdf

ところで、ここまで読んだ方はこう思ったのではないだろうか。「また何か新しい用語が出てきたのか。ニートと何が違うの?」と。

次々と新しい用語が生まれることで、一般の人にとって分かりにくくなってしまう。そういう側面は確かにあると思う。また、それらの用語がレッテル貼りや偏見を助長する恐れもある。

だが、そういったマイナス面を差し引いても、スネップという概念には価値がある。スネップという定義や枠組みを設定することによって、孤立の実態について客観的な数値で語ることが可能になり、それが問題の可視化につながるからだ。

スネップの実態把握には、総務省が実施している「社会生活基本調査」という統計の匿名データが、活用されている。この統計に基づき、「20歳以上59歳以下の在学中でない未婚者で、ふだんの就業状態が無業のうち、一緒にいた人が家族以外に一切いなかった人々(調査された連続二日間)」を、スネップと定義する。

たった二日間の調査で、何が分かるというのか。それに、一緒に過ごす家族がいるのに「孤立」というのは、いささか大袈裟(おおげさ)ではないのか。そうも思うのだが、実際にスネップと非スネップとでは、生活の傾向の違いがハッキリと出ているのだ。両者の違いが、数字に現れている。

例えば、過去一年間にスポーツや旅行、ボランティアを一切しなかった人の割合。非スネップでは19.4%だが、スネップでは37.1%と、大きな開きがある。特に、家族との接触もない「一人型」のスネップは、46.0%である。調査対象の二日間のみならず、過去一年間において社交が乏しかったであろうことが、読み取れる。

また、インターネットの利用率の低さも、スネップの特徴の一つだ。スネップの59.0%が、電子メール(携帯メールを含む)を利用していない。インターネットの利用率も特に高くない。スネップは、対面での交流だけでなく、インターネットを通じた交流も乏しいようなのだ。

もっとも、これらの数値は2006年のものであり、現在では状況が変化している可能性も十分に考えられる。直近の調査は2011年に行われており、現在、集計結果が総務省によって順次公開されている。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

「孤立した若者」をネット依存などと結び付けて論じられることもあったが、少なくとも2006年の調査結果を見る限り、実態は異なるようだ。代わりにスネップが相対的に多くの時間を費やしているのが、テレビと睡眠である。現実でもネット上でも人との交流が断たれている、そんな生活が長く続くことで、生活全般が受動的、消極的になっているのかもしれない。

それを裏付けるようなデータがある。就職に対する意欲の違いだ。求職活動を行なっている人の割合は、非スネップでは59.9%だが、スネップは50.2%に留まっており、10ポイント近い差がある。特に、家族とは一緒に過ごしている「家族型」のスネップの場合、47.4%しか、求職活動を行なっていない。彼ら家族型のスネップは、25.1%、実に4人に1人が、そもそも就職を希望していないのだ。

孤立している無業者の特徴や傾向を簡単に紹介してきたが、これらを把握することができたのは、スネップという枠組みやくくりを設定し、そこにフォーカスをあてたからこそだ。このような実態の解明・把握を進めることで初めて、どのような対策や支援策が必要なのかが見えてくる。例えば、ネット利用率が低いのならば、インターネット以外の情報発信や働きかけにも力を入れる必要があるだろう。

孤立や無縁社会といったテーマは以前から注目されていたが、どうしても印象論や感覚で語られがちであった。それを、統計に基づいて具体的かつ客観的な数値で論じられるようになったこと、そこにスネップという概念の意義がある。あらゆる問題の解決はまず、問題の発見から始まる。

働けず、人とのつながりも持てずにいる大人たち。スネップという概念を通して彼らのことを「発見」することには、大きな意味がある。

画像出典:
http://www.ashinari.com/

3年ほど勤めた会社を退職し、貯金を食い潰しながら生きているニートです。新しい働き方や生き方に関心があり、自ら実践、模索中。引きこもり、対人恐怖症、高校中退などの経験があるため、「何らかの生きにくさを抱えた若者」にも関心があります。

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