「透明性高いけど脆いので実践には向きません」 話題の“エビデンスで殴れるメリケンサック”制作者を直撃!

マルチクリエイターの南村杞憂さんがアクリルで制作した“エビデンスで殴れるメリケンサック”が話題になっている。

件のメリケンサックは形容の通り、近年ネット界隈でもよく見かけるビジネス用語「エビデンス」という文字をあしらったもの。

https://twitter.com/jocojocochijoco/status/1233403865506037761?s=19

「いつでも誰でもエビデンスで殴れるメリケンサック作ったので見てください
ちなみに透明性高いけど脆いので実践には向きません」

なんとも尖った精神性を感じる南村さんのこの作品に対し、TwitterなどSNS上では大きな反響が起こっている。

「透明性が高く
脆く
実践には向かない…
最高!」

「透明性があるのに脆いとは…笑
メリケンサックについて言及してるのか“エビデンス”について言及してるのか」

「エビデンスと同じように『ソース出せよ』とも言われるのでソースのメリケンサックも欲しいですね。」

「エビデンスとは透明性は高いが脆く実戦には向かない。
何この深み。」

「ビとデが痛そう」

「これで鋳型を取って鋳造すればエビデンスでぶん殴れますね
透明度は無くなりますが」

南村さんの作品にリアクションする人には、そこに込められた意味の深みに注目する人が多いようだ。果たしてどのような背景からこの作品は生まれたのだろうか。南村さんにお話を聞いてみた。

--アクリルを用いてこういった造形作品を作りはじめたきっかけは?

南村:制作活動自体は2015年頃からやっていましたが、レーザーカッター等で扱うアクリルの作品、透明な作品をメインに作り始めたのは2018年9月からですね。それ以前も素材として注目していたのでアクリルカッターで手切りしていた時期もありました。それを含めると2018年1月からかもしれません。

私は基本的にアクリルをレーザーカッターで加工して制作をしているのですが、機械自体は数百万円するような高価なものなので、時間貸しでレーザーカッターを使わせてくれる工房をレンタルして利用しています。

2018年の夏にパートナーがそこの無料見学会に一緒に行こうと誘ってくれたのがきっかけでそこを知ったのですが、ついて行っただけだったのに結果的に私の方がハマってしまった感じです。院生室より工房にいる気がします。

–今回の作品の「エビデンス」という言葉にはどんな思いが込められているのですか? またメリケンサック状にした理由は?

南村:「エビデンス」はご存知の通り「証拠」という意味なのですが、この作品は「エビデンスで殴る」という昨今ネットでよく見られるようになった表現から着想したものです。

「エビデンスで殴る」とは「正しい根拠と知識を証拠に相手の意見を論破して勝ちに行く」的ないかにもインターネットっぽい意味の表現です。

メリケンサックという形については、実はまず最初に「透明なメリケンサックというものを絶対に作りたい」という謎の強い意志が以前からあって、メリケンサックを作りたいっていうのは何ならなぜか10年くらいなんとなく思ってて、以前にもオリジナルのメリケンサックを作ったことがあるんです。

--過去にもメリケンサック状の作品があったんですね!

南村:初めに作ったのは文字の総柄だから「言葉の暴力」ってタイトルなんですが、一方で今回は殴る部分になんらかの文字の形状をつけたいと思い「何ならしっくりくるかな?」と思った結果、この作品が仕上がりました。

--反響を見て思うことはありますか?

南村:ツイートの通り「透明度は高いけど脆いので実践(実戦)には向きません」というのはユーモアでありアイロニーです。ここに気付いて反応してくれてる方も多くて嬉しいです(笑)。

あと、自分の殴りたい人とか、つけていきたい仕事場の話とかが引用リツイートなんかでいっぱい流れてきてすごく面白いです(笑)。皆さんそれぞれに常に何かと闘ってるんだなあというリアリティが「エビデンサック」の拡散を通して代弁され、可視化されているようでした。

--現代社会に対し、南村さん自身が感じる問題があるわけですね。

南村:インターネット……特にSNSの登場以降、私たちはいろんな感情を外部化するようになったんじゃないかなと思っていて、それは「身体性の喪失」という問題でもあると思います。個人と「みんな」の境界線が曖昧になる。だから「共感」至上主義になる。相反する意見が受け入れられずにきちんとした“議論”ができずに理屈抜きの「インターネットバトル」になっちゃうなんてことはSNS上ではよくある話ですよね。

感情的になってしまうのは私たちが人間だからある程度仕方ないことです。じゃあなぜ感情的になってしまうのかというと、それはきっと誰しもがどこかに持っている何らかの内面的な傷付きの「経験=傷」というものがあるがために、その傷に触れられるようなポイントがあると感情的になってしまうのかと思います。

--今回の作品はそういった他者との格闘のシンボルとしてメリケンサックを扱ったわけですね。

南村:そうですね。通常、傷というのは同時にアイデンティティでもあるのですが、今はそういった傷すら外部化されている時代です。SNSに共有して、誰かに共感してもらうことが当たり前の時代。私たちは「個」の境界をどこかへやってしまっている。単なる良し悪しではなく、今はそんな時代になりつつあると思います。

だから「メリケンサック」なのです。「エビデンス」と言っておきながらも物理的な傷を与える道具の形をしている矛盾。殴る殴られるという行為によって明確になる自己と他者との境界。「共感もするししてもらいたい」けどみんな実は「誰かを殴りたい」(笑)。

今回の作品はエビデンスという“大義名分”の力を借りて「誰かを殴りたいお互いに感情的な自分に自覚的になって肯定しちゃいますか?」っていう再帰的なノリなんです。本当に殴っちゃ大抵ダメだけど(笑)。別に必ずしもみんながみんな完璧に“共感性が高くて無差別に物分かりのいい誰にでも当たり障りなく優しい人”じゃなくても生きていけるようになれるんですよね、私たちはきっと。


【「エビデンサック」購入方法】

東京都
・前衛喫茶マチモ(@_Matching_Mole_)委託販売予定

大阪府
・アトリエ三月(@yh_sangatsu)※委託販売予定
・カフェギャラリーきのね(@kinone_cg)※委託販売準備中

大阪の2店舗の委託開始のタイミングは南村さんがTwitter上で告知予定。
通販希望は「aclylic.通販」該当ツイートまでリプライ。

https://twitter.com/arimoshinaikoto/status/1233630746440372224

これまでクリスチャン・ボルタンスキー、草間彌生、塩田千春、アーバンギャルド・松永天馬さんなどさまざまなアーティストに影響を受けたという南村さん。

今年9月に大学院を卒業した後の進路は未定ということだが、ぜひ社会に対して日和ることなく、ご自身の思った道を歩んでいただきたいものだ。

なお南村さんのプロフィール画像は作品の趣旨にあわせて鼻血をたらした写真になっているが、普段は鼻血などたらさずとてもキュートな方なのでご安心されたい。

南村杞憂プロフィール(作家名は木村友南)

1995年生まれ。
関西学院大学文学部卒業。神戸大学大学院国際文化学研究科在学。
マルチクリエイターとしてハンドクラフトからレーザーカッター、UVプリンター、フィルムカメラ等を扱い多角的な制作活動を展開。映像モデル、ラジオMCとしても活動している。。

・レギュラー出演番組 「世界の音楽」(76.1 MHz FM MOOV 水曜18時35分~)

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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