窮屈な現代社会を格好よく生きる…… 元ザ・タイガース瞳みのる『GS陽気なロックンロール』リリース記念インタビュー

2011年の芸能界復帰以来、音楽に執筆にと精力的な活動を展開している元ザ・タイガース瞳みのるさん。

そんな彼がこのたび2年ぶりの新作CDをリリースした。

その名も『GS陽気なロックンロール』

1960年代、グループサウンズブームの寵児として一世風靡した“ピー”ならではのタイトルと言える。僕は昨年12月5日に東京のSTUDIO ALDYで瞳さんにお会いし、今回のCD制作に込められた思いについてうかがっていた。

――瞳さんにお会いするのは5月ぶり……ということでご無沙汰というほどではないのですが相変わらず若々しくていらっしゃいますね。なにか普段から気をつけておられることはあるんですか?

瞳:日常的なケアはしています。楽器の練習と同じように。頭のマッサージは若いころから欠かしたことがないですね。顔の筋肉を動かすことや、姿勢を正すことにも気をつけてる。

去年、バースデーイベントにも出演してくれた木村英輝さんっていう現代の琳派と呼ばれている絵描きがいるんだけど、彼はいつも「ロックは格好良くなくちゃいけない」って言われるんですよ。僕もそう思う。内田裕也さんなんかそうですよね。こうありたいという思いが強いから昔から格好スタイルが変わらない。

――瞳さんの家系はあまり太ったりハゲたりしない方なんですか?

瞳:いや、爺さんは完全にハゲていました。親父も半ばハゲてましたね。

――やはり日々の努力で変わってくるんですね!

瞳:ホルモンの加減もあると思いますけどね(笑)。でもこうありたいっていう思いが自分を作っていく部分は大いにあるんじゃないかな。

――瞳さんは現在72歳。いわゆる団塊の世代ですが、ご自身の世代が社会においてどんな存在だと感じておられますか?

瞳:周りからは鬱陶しく思われているんでしょうね。それに属してる本人たちはわからないんだけど、下の世代からすると人数は多いし、むげにもできないから目の上のタンコブみたいに思われてると思う。あと10年、20年もしたらみんないなくなるけど(笑)。

――瞳さんはまだまだ現役で活躍されていますが、仕事をリタイヤして「これからどうしよう」と迷っている方も多いと聞きます。

瞳:羨ましい気もするけど、することがなくて家にいるだけの生活は実際大変だと思いますよね。

みんなこれまで十分に我慢して遠慮して生きてきたんだから、世間体に縛られずになにか好きなことを始めていいんじゃないかな。60歳過ぎたらもう自由になっていいと思うんですよ。無理してはっちゃける必要はないですけど、できる範囲でね。

――瞳さんは現代の世相についてどう感じておられますか?

瞳:僕は戦後民主主義の時代に生きてきた。男女同権でそれぞれが自由に行動、発言できる。そうしていこうという時代だったんです。だけど今はせっかく自由になったものがまた縮小しはじめている。

なんでも責任を問われるようになってみんなが自己規制をはじめてしまったんですね。「初めから責任取らなくていいようにしよう」という流れが自分たちの生活を窮屈にしてしまっているんじゃないかな。規則は暮らしやすくするためにあるんであって、それのために生きているんじゃない。みんなもっと自由にやりたいことを思い切りやるべきですよ。

――同年代の方とこういう話をすることはありますか?

瞳:あまりしないですね。みんな懐古的な話をしたがるんですよ。

――この前、森本太郎さんも「同世代と昔の話をしてるのが一番楽しい」とおっしゃってました(笑)。

瞳:(笑)。

――タイガースの頃、北山修さんに「団塊の世代と共に生きていくことが大事だよ」と言われ「同世代から元気をもらおう、そして同世代の人に元気を返そう」と思うようになったというエピソード(※『ロング・グッバイのあとで』(2011年、集英社)より)が印象に残っています。今回のミニアルバム『GS陽気なロックンロール』もそういう思いからから作られたのでしょうか?

瞳:そうですね。元々「高齢者向けの音楽を作ろう」という話をくれた人がいて。結局それ自体はお蔵入りになってしまったんだけども、それをヒントにいろいろ試行錯誤したのが今作です。グループサウンズを体験した世代が楽しく聴ける曲が作りたかった。「自分たちはこうやって生きてきたんだ」っていうような。

最近のヒットポップスは聴いていて「いいな」って思える曲が少ない気がするんです。僕の若い頃は歌謡曲からローリングストーンズやビートルズみたいなものまでもっと印象に残るいい曲があったと思う。

――最近のポップスに欠けているものは何でしょうか?

瞳:売れたらいいんだっていう姿勢が強すぎるのかな。テンポだけ早くて音楽性も文学性も希薄。若い時はいいけど、年取ったときに自分がついていけるのかなって思っちゃう。

最近でもSMAPあたりはいい作家にめぐまれていい曲を歌っていたなと感じるけど。美空ひばりの『川の流れのように』みたいな名曲はなかなか出てきませんよね。

――昔はほとんど曲作りには携わっていなかった瞳さんですが、復帰以降は積極的に作詞作曲に取り組んでおられます。なにか打ち出したいものがあるのでしょうか?

瞳:昔もアルバム『ヒューマン・ルネッサンス』(1968年)で一曲だけ英語の詞を書きましたけどね。でも進んでやりたいっていう気持ちは全然なかった(笑)。

戻った時になんで書くことになったかというと、きっかけは明治時代の唱歌、大正時代の童謡だったんです。当時の楽曲は素晴らしいものが多くて僕もカバーしたいと思ったんだけど、やはり表現が古臭かったり政治的なプロパガンダが含まれていたりするんですね。それを現代でも歌えて感情移入しやすいように新しく作り直そうとしたのが始まりです。

――瞳さんは音楽に政治や思想がからむことについてどう考えておられますか?

瞳:政治や宗教的な要素は僕のロックの世界観にはなじまないんだよね。『ヒューマン・ルネッサンス』にしてもアダムとイブ、ノアの箱舟みたいなけっこう宗教色の強いテーマで作ってますが、僕自身はそういうものから自由になりたい。それが僕のルネッサンスだということで。

沢田研二は今、憲法九条、反原発とか政治色の強い音楽をやってますよね。僕も想いは同じなんですけど、どちらかと言うともっと文学性に重きをおいたものをやりたいと思っています。

短歌や和歌の世界って周りを言って真ん中を言わないところがあるじゃないですか。言わないけど悟ってもらうみたいな表現の仕方。たとえば昔は「あなたを想って苦しんでる」っていうことを「帯がゆるむ」って表現しましたよね。直接「愛してる」とか「大嫌いだ」って言うんじゃなくて、口には出さないけど想いが伝わるような表現のほうが長く心に残るんじゃないかな。

ここのオーナー(STUDIO ALDY・中村さん)のお母さんなんて『朧月』(2017年)を気に入って毎日聴いてくれてるんだって。『朧月』には「愛してる」とか「好きだ」みたいな直接的な言葉は一つも出てこない。でも間接的に相手を想う気持ちが伝わるように作ってる。そういうのが飽きないんですよ。

タイガースの初期の楽曲を手がけてくれたすぎやまこういちさんの音楽も飽きないよね。特にドラクエの音楽なんて何回も繰り返されるのにいつまでも聴いていられる。後世まで残る音楽ってそういうものなんだと思いますよ。

瞳さんはこのインタビュー直後の12月15日、台北でライブを開催し現地の音楽ファンから喝采を浴びた。また今年3月16日にはブログで御年72歳にしてお子さんを授かったことを明かし話題になった。

過去の名声にすがることなく団塊の世代の星として多くの人に勇気を与えて続けている瞳さん。今後もさらなるご活躍を期待したい。

『GS陽気なロックンロール』商品情報
発売日:2019年4月21日
価格:2000円(税抜価格1852円)
収録曲:1.GS陽気なロックンロール
    2.微笑の彼方へ
    3.あの日の小道
    4.君は僕のすべて
    5.GS陽気なロックンロール(カラオケ)
    6.微笑の彼方へ(カラオケ)
    7.あの日の小道(カラオケ)
    8.君は僕のすべて(カラオケ)
購入方法:公式商品ページより

※STUDIO ALDYさまのご協力に感謝いたします。

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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