つい先日、大阪府河内長野市にある滝畑ダムを訪れた時のこと。
目的は、観光も兼ねた写真撮影の練習。
ダムって一度、行ってみたかったんですよね。
なんでも、昭和42年に建造されたこのダムの湖底には、かなり大規模な集落跡があるのだとか。
そんな話をぼんやり思い出しながらダム周辺で写真を撮影していると、何やら不思議なものが……。
崖に何か、人の顔のようなものが見えませんか?
もっとも、ここからでは遠すぎてわかりづらいので、ズームアップしてみましょう。
すると……。
なんと! 岸壁に巨大なお地蔵様が彫られているではありませんか!
しかもよく見れば、その隣に観音様まで!
これは一体、何なのか!?
個人によって作られた岸壁の菩薩
張り紙によれば、これは「磨崖仏」と呼ばれるものだそうです。
簡単に言えば、岩肌に彫られた菩薩像のことであり、日本のみならず世界中に存在しているのですが、この滝畑磨崖仏のように、ダムの側というのは少々珍しいケースみたいですね。
なんでも大正時代、高野山へと通じていた付近の山道は非常に険しく、たくさんの方が命を落とされたのだとか。
その悲劇に心を痛めたのが、当時の郵便局長であった夏目庄吉氏。
道中の安全と亡くなられた方の鎮魂のため、6年の歳月を経てこの磨崖仏を作り上げたのです。
この夏目さんが一体どのような人物であったか。
それを伝える正確な資料は確認できませんでしたが、唯一、当時のこんな証言を見つけました。
昭和の三年やったかにな、郵便局の局長さんがな、ユリノのダムの堤防の下になる崖んとこの岩に観音さん彫ってな、おまつりしたァるんや。
あこの岩ァあんまりきれェやさかいな、観音さん彫ったんやちゅうけどな、わたしら小さいころでしたわ。岩のとこい足場してな、彫ってましたわ。
(引用元:河内長野市教育委員会『河内滝畑の民話』)
それにしても、これほどまでのものを作り上げるとは……。
凄まじい執念を感じさせられます。
地蔵信仰と関係が?
調べたことによりますと、この河内長野、特に滝畑とその周囲は、地蔵信仰が盛んな地域であったそうです。
なんでもこの地域には、古くから「塞の神」(サエノカミ)と呼ばれる神が信仰されており、自然石や大きな切り株をそれに見立てて祀り、村に厄災が入り込まないようにしていたのだとか。
それがいつしか地蔵菩薩と結びつけられてサエノカミ=地蔵となり、この地域一帯には今でも多くの地蔵が見られるのだそうです。
これはあくまでも私の憶測なのですが、ひょっとするとこの磨崖仏も、巨大なサエノカミだったのかもしれませんね。
道中の安全、死者の慰霊の他にも、滝畑集落に厄が入り込まないようにするという目的があったのかも……。
是非一度、その目で確かめて!
というわけで、大阪は河内長野、滝畑ダム岸壁の磨崖仏についてでした。
フランスの郵便局員が30年以上かけて作り上げた『シュヴァルの理想宮』という城については知っていましたが、まさか日本にもそのようなものがあるとは!
とにかくこのすごさは、自分の目で見なければ実感できません。
史跡や仏像に興味がある人は、是非一度、双眼鏡片手に現地へ向かってご覧になってください。
きっとその佇まいに、何とも言えない感慨を覚えることでしょう。
「かわちながの観光ボランティア倶楽部」へ事前に連絡しておけば、かなり詳細な案内をして下さるそうなので。
(観光案内所の方も、非常に積極的でした!)
滝畑ダム
住所:河内長野市滝畑240-2
(河内長野駅より南海コミュニティバスで40分ほど、「滝畑ダムサイト」から歩いてすぐ)TEL:0721-62-3672