「京都大学の英語で8割を越える」ための一考察
1、問題意識(1)
京都大学の入試問題は「英文和訳」と「英作文」のみのため、その採点基準がブラックボックスとなっている。「どのような基準で採点されているのか」正確に答えられる教師、講師はいない。採点されている先生も分かっていない可能性がある。
私は名古屋大学の教育学部を卒業し、アメリカの公立中学で教師をし、30年以上予備校・塾・専門学校で受験指導を行ってきた。その関係で多くの英語教師、英語講師に接する機会があった。アメリカ人はもとより、イギリス人、オーストラリア人、アイルランド人など多くのネイティブと接する機会があった。
そこで分かったことは、日本には大別して3種類の英語があることだ。それは、「受験英語」「資格英語」「ネイティブ英語」の3種類だ。
受験英語と呼ばれるものは学校や塾で指導されている。受験参考書や問題集も多い。
資格英語は、英検やTOEICなどのことを指す。こちらは、塾や予備校とは別系統のECCなどの英会話教室で指導が行われている。ネイティブが指導することも多いし、LLや音声教材を使用することが多い。
そして、最後がネイティブの英語だ。私は英検1級や通訳ガイドの国家試験の勉強の途中でネイティブと話すことが多かった。彼らに英検などの問題を見せるといつも
「なんだ、これは。なんで日本人のおまえがこんな問題をやらねばならぬのか」
と尋ねられた。アメリカに住んだことがあるので、彼らの疑問はよく分かる。実用英語検定という名前だが、現在使用されている英語とは異なっている。
そこで、
「では、京都大学の入学試験の英作文ではどのタイプの英語が評価されるのか」
これが、この考察の問題意識だ。
問題意識(2)
第一段階として、英語の実力がなければ調査ができないテーマのため「受験英語」「資格英語」「ネイティブ英語」を知ることから始めた。
受験英語は現役で名古屋大学教育学部に合格し、受験指導を30年間行ってきたので、よしとした。
資格試験は英検1級、通訳ガイドの国家試験、国連英検A級、ビジネス英検A級を合格した時点で、よしとした。
ネイティブ英語は、アメリカのユタ州ローガン中学で1年間教師をし、帰国後英会話教室などでネイティブと20年間交際してきたことで、よしとした。
第二段階は、京大英語の専門家と呼ばれる人たちの英語力と指導方法を確認することだった。それで、まず名古屋の7つの予備校・塾・専門学校で英語講師を14年間した。
また、河合塾と駿台の「京大模試」を計10回受けてみた。定評のあるZ会の京大即応コースを8年間継続して、どのように採点されるのかもチェックしてみた。その結果、
1、講師に旧帝卒レベルの方がほとんどいない。
2、英検1級所持の方はほとんどいない。
ことが判明した。
講師や採点者の応募資格をチェックしても、明確な基準がない。提出した答案に対する添削も受験英語の域を出るものではなかった。赤本の模範解答を作成する予備校講師も、受験英語の参考書の域を出るものではなかった。
そこで、自分で京都大学を受けて確認する必要性を感じた。
2、研究方法
京都大学を実際に6回受験してみて、成績開示をする。その際、最初の2回は「受験英語」、次の2回は「資格英語」、最後の2回は「ネイティブ英語」を意識した書き方をしてみる。
その結果の平均値を比較することにより、どのタイプの英語が高く評価されるのかを考察する。年度による難易度の差、学部により採点者が異なると思われるので、そこも考慮して考察してみる。
3、調査の実施
平成18年、20年(文学部) 正解率の平均 66%(受験英語)
平成21年、22年(教育学部) 正解率の平均 76%(資格英語)
平成24年、25年(総合人間) 正解率の平均 79%(ネイティブ英語)
最高が81%であったので、Youtube 、 ブログ、ホームページ上において
「私以上の人がいたらお知らせください」
と挑発したところ、2件の報告があった。82%であった。また、京大が公表している最高点は総合点だけであるが、8割程度なのでこの8割は英語単独の最高点と考えてよいと思われた。
4、結果の分析と考察
この結果によると、サンプルが7個では有意差の検定が出来ない。しても、意味がない。また、
1、私が受験慣れした。
2、受験、資格、ネイティブの訳し分けが曖昧。
3、年度、学部による難易度、採点の厳しさの違い。
などの変動要因が考えられて、単純に「ネイティブ英語が最も評価される」と結論づけられないかもしれない。
しかし、この調査結果と京大教授の置かれた状況ーつまり、英語で論文を発表して評価されなければならない状況ーを考慮に入れるとどうなるだろう。
三重県の人口5万人程度の小さな塾の塾長である私が指導したら京大医学部、阪大医学部、名大医学部などに合格者が出た事実も考慮に入れたらどうだろう。私はネイティブ英語に変えて書くべきだと指導している。
5、結論
以上の結果より導き出される京大英語で8割を超すための対策は、「ネイティブ英語とは何か」を定義づけして学ぶことに尽きるだろう。
たとえば、「この料理はまずい」という英作文なら受験生に多いのが
This dish tastes poor. しかし、これは評価されない。なぜなら、英語として正しくてもマナー違反。英検英語なら否定文にして、This dish isn’t good. これでマナーは改善された。
しかし、ネイティブなら I don’t like this dish. と言うだろう。本当に不味い場合は、Yuck! と叫ぶ。そういう違いだ。
問題は、
「受験英語の参考書や問題集で取り上げられている構文や表現が現実に使われている英語と違う」
という事実。それを指導している教師や講師も、外国生活がなく50年前の表現を気づかずに指導していること。そのために、校内テストや模試で高得点や上位の順位をとっても落ちてしまうこと。
6、今後の課題
この検証を行うためには、受験英語、資格英語、ネイティブ英語の3つをよく知る人が必要だ。しかし、現実にそのような人は稀なので追試が困難と思われる。しかし、今後「受験英語」「資格英語」「ネイティブ英語」は1つに収れんしていくべきである。
その1つとは「ネイティブ英語」であるべきことは、多くの英語指導者が同意すると思われる。ただ、問題はネイティブ英語を指導できる教師、講師が決定的に不足しているため目標が明らかになっても対応はできないことにある。
京都大学の成績開示。クリックで拡大されます。→ 英語と数学以外は無勉受験(笑)。