脊索腫患者に3Dプリンタで作成したチタン製頸椎の移植成功 麻痺もなく快方へ

  by 松沢直樹  Tags :  

オーストラリア・シドニーのプリンス・オブ・ウェールズ病院が脊索腫患者の3Dプリンタによる人口骨移植手術に成功したと発表しました。
脊索腫(コルドーマ)とは、30代~60代に多く見られる疾患ですが、極めて症例が少ない疾患で、頭蓋底骨や脊椎骨にできる腫瘍の一種です。

抗がん剤などの薬物療法による治療法は確立されておらず、手術で取り去り、放射線療法を繰り返すのが標準的な治療法とされています。ただし、通常放射線療法で使われるガンマ線は効果がなく、手術で取り損ねた陽子線や腫瘍に対して重粒子線による治療が行われるのが通例とされています。
また、再発のケースが非常に多く、腫瘍の中でも治療が難しい病気だと言わざるを得ません。

今回手術を行ったプリンス・オブ・ウエールズ病院は、患者が上部頸椎の2つが腫瘍に侵されており、すでに頭部を動かしたり、首を傾けることも困難になっていました。このままでは神経組織が浸食され、四肢の麻痺などを起こすリスクが高くなっていました。

また、頸椎は中空の構造をしており、中に重要な神経組織が通っているため、形がぴったり合わなければ移植は無理。事実上、他人の遺体から頸椎を移植できない状態でした。
この状態に対して執刀を行った医師は、3Dプリンタを使ってチタンでできた頸椎を外部メーカーに制作依頼。
腫瘍ごと頸椎を取り除き、チタンでできた頸椎と置き換える手術に成功しました。

頸椎の内部は、脊髄や生命維持にかかわる脳幹、動脈など重要な組織が数えきれないほどある箇所。

手術は15時間を要したそうですが、現時点で麻痺などのトラブルもなく、一般的に言われている脊索腫の再発は、移植したチタンの部分には絶対に起こることがありません。

経過観察が必要ですが、もしこのまま他の部位に再発もなく、日常生活に支障がないほど回復できたら、骨のがんや関節リウマチなどの病気も、新たな治療法の一つとして改良されていくかもしれませんね。

※写真はイメージ 足成より http://www.ashinari.com/2011/08/29-349538.php

松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長