レンズ沼の底からこんにちは♪ リコーGXR MOUNT A12 で動画を撮る

  by moeru  Tags :  


写真の世界には「レンズ沼」なる言葉がある。
この沼にはまっている人たちは、何十年も前のレンズを収集しては「この独特の甘さがいい」とか「味がある」などといったよくワカラナイ表現を多用する。あげく、欠点まで「可愛い」と喜んだりする。こうした「どこがいいのか、普通の人にはワカラナイ」レンズの魅力に取りつかれてしまう状態を、「レンズ沼にはまる」と言う。この沼にはまると、数十万円もする中古レンズをポンと買ってしまうようになるそうだ。本当におそろしい。
当然、沼にも大小あるわけだが、中でも最大と思われるのが“ライカMマウント沼”である。ライカMマウント──1954年に誕生したライカM3というカメラに端を発して、世界中に普及したレンズマウントの規格。ドイツ、イギリス、日本、中国、ソヴィエトなどで同規格のレンズが無数ともいえるほど製作されていて、その数は“一生かかっても使い切れない”ほどになるらしい。

この底の見えぬ“ライカMマウント沼”に、リコーがぽっかりと落とし穴を作ってくれた。
同社のGXRというカメラは“ユニット交換式カメラシステム”というユニークなもので(詳しい説明は省きます)、このカメラシステムに『ライカMマウント』のレンズを取り付けられるようにしたユニットがこのたび新発売となった『GXR MOUNT A12』だ。
これまでのミラーレス一眼機にも、マウントアダプターを介してライカMマウントのレンズを使うことはできたが、このユニットは“正式に”準拠している。つまり『GXR MOUNT A12』を装着することで、お手持ちのGXRが“ライカMマウント専用カメラ”になるわけだ。

あまり語られていないが、このユニットにも実は動画機能がある。残念ながらフルHDではなく1280×720サイズまでだが、一応はHDサイズ。つまり……これはライカMマウントのHD動画カメラということになるわけで、おそらくこれは世界初のことではないかと思う。
これはすごいんじゃないかと思い、いつも記事を書かせていただいているビデオカメラ雑誌の編集さんに聞いてみたところ、「ウチではノーマークですね」と素っ気ない答え。まあ、リコーの動画というのはあまり話題になっているのを見たことがないので、仕方のないことかもしれない。
が、それでもライカマウントのレンズで動画を撮ってみたい。というわけで、新品・中古カメラの大手専門店『マップカメラ』さんと、膨大な数のライカレンズを扱っている『エンツォ・カメラ&ウォッチ』さんからレンズをお借りして、テスト撮影をしてみることにした。

「RICOH GXR MOUNT A12 with Leica M Lenses test video」http://www.youtube.com/watch?v=XMrtSUPF5Do

レンズの貸し出しに際して、マップカメラさんからは「お手頃に購入できそうなおすすめレンズ」を。エンツォ・カメラ&ウォッチさんからは「いつか手に入れてみたいおすすめレンズ」を推薦していただいた。

【マップカメラさんから借用】
・フォクトレンダー ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHⅡ (店頭価格 54,800円)
GXRに装着すると18mm換算になる。かなりワイドかつパンフォーカス。ピント合わせに気をつかわず、パシャパシャ撮っていくのに最適。

・カール・ツァイス C ビオゴン F2.8 ZM ブラック(店頭価格 58,800円)
コンパクトなボディ。写りは非常にシャープな印象。筆者にとっては一番好きなレンズだった。

・ライカ エルマー L35mm F3.5 クローム (店頭価格 54,800円)
なんと1930年製! スティーブ・マックイーンと同い年です。それだけに(?)見た目がなにしろカッコイイ。これを付けて街を歩いてみたい。

【エンツォ・カメラ&ウォッチさんから借用】
・エルマリート21mmF2.8初期 (店頭価格 262,500円)
この初期タイプのみ40cmmまで寄れるそうで、非常にレアなアイテム。

・ズミルックス35mmF1.4セカンド(298,000円)
非常に写りがよく、またボケ味が美しいとされるレンズ。

 

さて、こうした魅力たっぷりのレンズをぜいたくに使って作例ムービーを撮ってみたわけだが……はっきり言うと、このカメラの動画機能はお粗末すぎた。静止画用には豊富に用意されている画質調整が、動画ではなにひとつ使えない。しかも露出はオートのみ(絞りはレンズ側で調整するので、絞り優先オートということになる)。プラス補正・マイナス補正すらできない。

デジタル一眼カメラの動画機能を指して「しょせんオマケ機能だから」などということがあるが、これはいくらなんでもオマケすぎる。

しかし──だ。

こうした動画軽視の仕組みは残念ではあるが、うまく撮れた時の描写はやはり魅力的だった。なんというか、キヤノンやパナソニックなどのレンズと比べて控えめだったり、上品な風合いのある絵になる……ような気がする。
なにより、レンズ交換をするときに「さあ、どんなふうにこの景色を描き出してくれるのかな?」というときめきを感じる。こうした感覚は、撮影という行為が、まさしく“趣味”なのだということを思い出させてくれるものだ。
“記録”ではなく“趣味”。
デジタル一眼ムービーの出現によって革命的ともいえる変化を遂げた動画の世界に、また一つ深みを与えてくれる可能性をもったカメラ──ここまで書くと少し大げさなのかもしれないが、今後もうちょっと動画のことも考えてくださいという期待を込めつつ、世界初(たぶん)のライカMマウント・ムービーの誕生を、ひそかに祝っておきたい。

※作例ムービーにはモノクロ画面があるが、これは編集時に色を抜いたもの。しかしオールドレンズでモノクロ写真を撮るという行為は、写真の世界では定番の楽しみなだけに、動画でも是非できるようにしてほしい──という願いをこめ、加工しました>リコー開発部のみなさま

 

【レンズを貸し出していただいたお店】

マップカメラ  http://www.mapcamera.com/
話題のデジタルカメラから最新のカメラをはじめ、中古カメラ、関連商品の販売・下取・買取・委託を行うショップ。新宿1号店にはライカ/ ライカ互換カメラやレンズがずらりと並ぶ。

エンツォ・カメラ&ウォッチ http://www.enzo-shop.com/
“一生愛せるアナログカメラとウォッチの銘機を、妥協のない視点でセレクト”がモットーのお店。ウェブサイトに書かれたひとつひとつのレンズに対する解説には、深い愛情を感じる。

モデル 水星マキ(みずほまき/ SMASH MODEL MANAGEMENT所属) http://www.smash-mgm.com/
音楽 沼尾 妙子 http://yoruni-yoseru.lomo.jp/