今回は製麺マニアなら誰もが欲しがる「手動式製麺機」について熱く語ってみましょう。その前に、まず「製麺マニアとはなんぞや?」と言う話ですが、ざっくり説明しますと
「自分の家で小麦粉から麺を作っているうちに、パスタマシーン程度では満足出来なくなった人達」
と思って頂ければ幸いです。ちょいと昔の話ですが「二郎系ラーメン」を家で作ろうと言う「家二郎」な人達がブログなどで『小野式製麺機』を必須アイテムとした結果、それまでスクラップ同然だった手動式製麺機の価格が高騰し、一時はオークションに転売屋が現れたりするくらいの勢いになりました。
ちなみに現在は『小野式製麺機』のレプリカが新品で出回り始めた為に価格が頭打ちとなり、割と普通な値段で手動式製麺機を手に入れる事が可能です。
ちなみにパスタマシーンでも麺類を作る事は可能ですが、例えばラーメン(特に二郎系)のような「低加水率」の麺を延ばすにはパワー不足なのです。
さらに製麺について関心の無い人々の為に補足しますと「加水率」とは小麦粉に対する水分の割合でして、家で作る場合(業務用の機械が無い場合)ならパスタや饂飩なら45%前後、ラーメンなら40%前後、さらに二郎系を目指すなら35%以下となります。
水分が少ないと、それだけ生地が固くなるので苦労します。たかが5%の水分量で天国と地獄くらいの差が出るのです。
と、製麺に関する細かい知識を解説したところで、さして製麺に興味が無い一般ピープルには響かないと思われるので、とりあえず製麺のなんたるかは別の機会に語る事にして製麺機の話に戻りましょう。
【 手動式製麺機を手に入れる 】
パスタマシーンでは延ばしにくい低加水率の麺を作る為には、まず「手動式製麺機」を買うのが一番です。凄く頑張れば「麺棒」と作業台と根性があれば麺は打てますが、それなりに満足出来る麺を作る為には職人並の技術が必要です。やはり厚みと幅が均一な麺帯(麺の生地を帯状に延ばしたモノ)を作るなら製麺機が一番です。
しかし、現在は一般家庭で「麺を作る」と言う機会がほとんど無いので手動式製麺機の製造メーカーもほとんどが消滅。残念ながら現在はオークションで中古品を購入するのが一般的となりました。
なので、まずはパソコンを使って「製麺機」と検索して手頃な製麺機を探しましょう。ちなみに手動式製麺機でメジャーなのは『小野式製麺機』でして、次に『田中式製麺機』となっております。どちらの製麺機も構造はほぼ同じなので、予算と相談して決めて下さい。
あと細かいアドバイスとしては『小野式製麺機』の場合は麺を切る刃が二種類あるモノがあり、1.9㎜幅と6㎜幅の麺を作る事が出来ます。もっとも6㎜幅の麺を作るとなると饂飩で「きしめん」とかパスタで「タリアテッレ」くらいなので、さして使う機会もないでしょう。
どうしても色々な幅の麺を作りたいと言う人は、麺を切る専用にパスタマシーンを買ってしまうのもひとつの正解です。
【 届いた製麺機を見て愕然とする 】
基本的にオークションで安く購入した場合、届いた段ボール箱を開梱した瞬間、そのボロボロさ加減に愕然となる事でしょう。オークションで出品する側は見栄えの良い写真を撮るので、写真と反対側は塗装が剥がれて錆びまくりだったとか普通なのです。
しかし、そこは想定の範囲内です。なにせ数十年前の製品なので状態が良いモノはほとんど残っていません。希に新品同様の『小野式製麺機』も出ますが、値段も「4万円前後」と微妙だったりします。
なので数千円~一万円チョイの中古となると、基本的には自分で分解清掃するのは当たり前と心得ておきましょう。
あと超重要な事なので書きますが、製麺機が届いたからと言って、いきなりハンドルを回してみるのは止めましょう。オークションでは「回転確認済み」とか書かれているかもしれませんが、それが本当であるとは限りません。無理にハンドルを回して歯車やローラーカッターを傷めたら最悪です。動かしたい気持ちを抑えて分解作業を優先しましょう。
【 分解する 】
そのままの状態で清掃しても限度があるので、なるべくならば分解しましょう。当然、昔の機械なのでマニュアルも何もありませんが、それほど難しい機構じゃないので適当に分解して大丈夫です。
と、言うと本当に適当に分解する人が続出するので、とりあえず「デジカメで写真を撮っておく」くらいの努力はしておきましょう。あとで部品の向きが分からなくなっても写真通りに組めば問題無しです。
あと、どうしても錆びてて外せない部品も出てくると思います。筆者も圧延ローラーの部分は分解出来ませんでした。頑張って「ベアリングプーラー」などのマニアックな工具を使えば固着した歯車などを外せるかもしれませんが、とにかく「圧延ローラーとカッターローラーの傷は命取り」となるので、ある程度の妥協は必要となります。
基本的にはCRCスプレーなどの潤滑オイルをブシュっと掛けて放置、翌日くらいにプラスチックハンマーなどで叩いてダメなら諦める方向でお願いします。
他にも、歯車や圧延ローラー、ローラーカッターが軸と合わさる部分には「キー材」と呼ばれるピンみたいなのがはまっています。コイツの存在を知らずにハンマーでガンガン叩くと確実に破損するので、注意深く観察してから分解しましょう。
【 大胆に洗う 】
理想は分解した部品の鋳鉄部分は「サンドブラスト」(グラスビーズ)などで綺麗に塗装と錆びを剥離させるのが良いのですが、無い場合は地味に頑張るしかありません。
そこで出番となるのが『サンポール』です。コイツは主成分が「酸」なので錆びには有効です。あとぶっかけまくったCRCスプレーの油も綺麗に洗浄出来るので、塗装する時に塗料のノリが良くなります。
しかし、残念な事に現在はスーパーで『サンポール』を見つけるのは難しいでしょう。一昔前に「塩素系家庭用洗剤」と『サンポール』を同時に使用してガスが発生し病院に搬送されると言う事故が多発し、なぜか『サンポール』だけがスーパーから追い払われてしまったようです。
プロ用の業務スーパーや、金物屋さんなどでは売っている事があるので、そちらで探した方が確実と思われます。
そして『サンポール』を入手したらダイナミックに洗浄します。バケツなどにサンポールを入れて部品を投入、どぶ漬けにします。(換気出来る場所で作業する事)
あとは弱そうな部品から順番に、ゴム手袋をしてからブラシで部品を洗浄します。弱そうな部品とは「取り扱いがデリケートっぽい奴」で、例えばローラーカッターに付いてる「くし」みたいな薄い部品の事です。
ちなみに「ネジ」とか「歯車」が銅で出来ていたりする場合もあるので、サンポールの浸けすぎには注意しましょう。メッキが全部剥がれて涙目になります(筆者談)
まあ、錆びたメッキなら剥がしてしまった方がスッキリしますけどね。
『サンポール』でガシガシと洗ったら、最後は水で綺麗に流します。
【 部品を乾かす 】
せっかく錆びを落としたのに、濡れたままだと再び錆びてしまいます。水分を拭き取ってからドライヤーなり直射日光下に干すなりして乾かします。特に注意点はありませんが、細かい部品(ネジ類)を無くさないように気をつけて下さい。
【 ダイナミックに塗装する 】
オリジナルにこだわりたい人は塗装にも気を遣いますが、筆者のように実用性重視の場合は適当に塗装します。
大抵の場合は『サンポール』で洗ったものの、部分的にはうっすらと錆びが残ってたりもするので、塗装は「厚めの仕上がり」を目指して、何度も塗っては乾かして再塗装を何回か繰り返します。
【 再び組み立てる 】
歯車を取り付けるシャフト(軸)などは『スコッチブライト』や細かいサンドペーパーなどで磨いてから薄く油を塗り、ローラーカッターや歯車がスムーズに入るようにしてから組立ます。
まあ、はっきり言って錆びを落として洗浄した部品なら楽勝です。最初に錆びて固着した製麺機を分解する時の手間の半分もかからないでしょう。
しいて言うなら「ローラーカッター」の部分は非常にデリケート、かつ重要な部品なので慎重に合わせながら組立ます。
あとネジが「銅」で作られている場合、ネジ山を傷めやすいので注意しましょう。現在のステンレスやら鉄で作られたネジと同じトルクで締めると悲劇が訪れます。
【 重要な部分に注油する 】
製麺機を良くみると、鋳鉄製のフレームと軸が当たる部分に注油する為の穴が空いてたりします。そこにチョロっと油を差してやりましょう。
【 試運転してみる 】
軽くハンドルを回して歯車を回転させてみます。もしも塗料が軸に流れていても、ちゃんと油が差してあれば、ゆっくり回してるうちにスムーズになってくるはずです。
回転が滑らかになってきたら「圧延ローラー」と「ローラーカッター」のテストと掃除を兼ねて、適当に練った小麦粉(加水率50%くらい)で圧延と麺切りを繰り返します。
あと、言うまでもありませんがテストに使用した生地は汚れてしまっているので潔く捨てましょう。
これで分解整備の完了となります。超頑張れば1日、のんびりやって3日くらいあれば出来る作業です。基本的に部品点数が少なく、シンプルな構成になっているので難しくはありません。
あと筆者の場合はオリジナルの姿を残すと言うよりは、実用性重視で使いやすさ求めて「アルミホイル」を多用します。例えばボロボロになった木製の部分は面倒だからアルミホイルで巻いちゃいますし、ここが汚れたら掃除が大変と思った部分はアルミホイルで塞いだり覆ったりしています。
と、言う訳で今回はどんだけ需要があるのか微妙な『田中式製麺機』のメンテナンスをさっくりと紹介しましたが、基本的には『小野式製麺機』も似たような感じだと思うので参考になればと思います。
とにかく古い機械なので、メンテナンスと言うよりはレストアに近い作業が必要ですが、一度やってしまえば次回も自分で作業出来る訳ですし、このくらいシンプルな機械ならば滅多に壊れる事もないので一生使えるモノと言えるでしょう。
今時、最初に分解整備しないと使えないとか製品としては微妙ですが、逆に「自分で修理して使う事で愛着が沸く」とも考えられます。そこも含めて「趣味」として楽しめる人にはたまらない一品と言えるでしょう。
また、どうしても機械をイジるのが苦手と言う人は『小野式製麺機レプリカ』なるモノが再販されているらしく、3万円チョイで新品が手に入るようです。若干、日本製では無いとか歯車などの耐久性が劣るとも言われていますが、パスタマシーンに比べれば遙かに耐久性は高いと思われます。機械イジりが苦手だったりボロボロの中古品は衛生的にチョットと思う人は、レプリカを探してみるのも正解です。
それではみなさんもマニアックな「手動式製麺機」を手に入れて、自家製麺の世界を体験してみましょう。休日に家族で麺作りとか子供にはウケると思いますし、小麦粉から麺が作れるようになれば家計にも優しいはずですよ。