平成にトリップして恋愛を疑似体験できる没入型イベント「平成恋愛展」

  by 辛酸なめ子  Tags :  

1989年1月8日から 2019年4月30日までの約30年間も続いた「平成」。六本馬ミュージアムで開催されている「平成恋愛展」は、平成に恋愛を体験した人や、平成のエモさに憧れる人など、多くの人への訴求力がある展示です。年代的に、1930年代生まれの人も2010年代生まれの人も平成の間に恋愛しているかもしれず、そう思うと対象年齢の幅は広いです。「ガラケーで新着メールを何度も​問い合わせしてた恋。​スマホでずっと既読を気にしちゃう恋。​ポケベルの『ピーッ』にすぐ反応してた恋。\ぜーーーんぶ “ 平成の恋 ” /​そんな“ 平成の恋 ”を知る私たちが、​いちばん楽しめる体験型展覧会!​」と公式サイトには書かれていました。心当たりがある人もない人も楽しめそうな企画です。

感情移入度を高めるのは没入できる展示のセット。エントランスでしばらく待機したあと、何人かずつ誘導されるのは高校の教室前。廊下には校歌や学校行事のポスター、生徒たちの短歌の作品などが貼られていて、かなりリアルで本当の学校にトリップしたようです。短歌のテーマは恋愛。「放課後のチャイムが響く帰り道 君の名前をまだ呼べなくて」といったエモい短歌を読みながら、脳が次第に恋愛モードになっていきます。この展示、若者の恋愛離れを食い止める効果もあるかもしれません。

教室に入る前にスタッフの人に箱からクジを引くように言われ、出てきた番号の席に座ることに。ギャルっぽいアイテムが置かれた席、まじめに教科書が置かれた席などいろいろありました。私が座ったのは、ノートに数式が書かれていたので理系の生徒の席だったようです。夕暮れの教室のようなエモさ漂う空間で、黒板に映し出される平成恋愛についてのムービーを見ていたら、次第に高校時代に年齢退行。最後に、机に手紙が入っていると言われ、手を入れたら本当に手書きの紙が入っていました。受験前で焦りつつ、友達カップルを冷やかすような内容。男女交際率が低い女子高出身なので、別世界の青春が羨ましいです。

教室を出ると、いよいよ平成恋愛の展示ゾーン。イラストコーナーに「早打ちポケベラー」「カップルイヤフォン」といったキーワードが添えられていて、懐かしく感じる人も多そうです。

平成の約30年を「初期・中期・後期」の3つにわけて、当時の恋愛にまつわるアイテム約3000点を展示している「平成恋愛展」。その30年間の大きな変化といえば、コミュニケーションの手段が大きく移り変わった、ということです。思わず感情移入してしまう「平成初期」(1989年〜1999年)の恋愛アイテムといえば、緑色の公衆電話に、実家の固定電話とファックス、ポケベル、交換日記、カセットテープ、駅の伝言板など。実際触れるようになっていて、あの頃の感覚が蘇ります。ポケベル早打ち体験をしながらも、そういえばポケベルよりも前の時代だったので実際は体験していなかったことに気づきました。

実家の固定電話にかけてドキドキした体験もできます。会場の電話をかけると親ではなく妹が出てホッとしました。「たつや」「ゆか」など、展示に出てくる名前を追っていくと、裏ストーリーで若者の恋愛模様が繰り広げられている、という凝った仕掛けも楽しいです。

「平成中期」(2000年〜2009年)の恋愛アイテムといえば、授業中に回す手紙、ガラケー、そしてファミレスでの恋バナなど。ファミレスのセットに座れば、女子校生の放課後を疑似体験。今やデジカメも「レトロに撮れるアイテム」として懐かしい枠で展示されていましたが、現役で使っています……。

TSUTAYAの店舗を再現したコーナーも見応えがありました。平成カルチャーとして外せません。2000年代のランキングなのか、オレンジレンジやケツメイシ、倖田來未、KinKi Kids、ミスチル、浜崎あゆみ、といったアーティストのCDが目立つところに並んでいました。「シングルCD持ってた〜」「ELT、なつかしい!」などど盛り上がる来場者たち。平成中期にヘビロテしていたthe brilliant greenのCDも発見し、当時の空気感が甦りました。ガラケーコーナーでは実際に起動してカメラで撮影することも可能で、画像が粗い仕様感を懐かしむことができます。

会場にいた10代の女子が「やっと知ってるのが出てきた!」と喜んでいたのが「平成後期」(2010年〜2019年)。大人世代にとってはつい最近ですが……。スマートフォンの普及で恋愛のスピードが加速した時代です。メッセージアプリやSNS、そしてかわいく盛れるSNOWなどのアプリも人気でした。カップルがお互いの動画をつないで編集することで素敵な雰囲気になる「繋ぎ動画」という風習をはじめて知りました。付き合っているときはラブラブぶりをアピールしていて、別れたらアカウントの画像が真っ黒になるTwitterの「カップルアカウント」という風習もこの頃です。

それにしても「平成後期」コーナーはスマホの画面だらけで画一的です。公衆電話や交換日記、ポケベルに手紙交換など、平成初期と中期のほうが、アナログの魅力もあり、コミュニケーションの歴史を肌で感じることができました。歳を重ねてきて良かったかもしれないと思えてきます。なぜか恋愛の思い出より、通信手段の変化の方が鮮烈に記憶に残っています……。今後の「令和恋愛」は、もしかしたらAIとの恋愛も入ってきそうです。

ミュージアム内では平成に流行っていたプリクラを撮ったり、平成のアイテムが揃うショップで買い物したり、カフェコーナーでタピオカドリンクやクレープなど平成っぽいメニューを頼んだり、平成を満喫できるイベント。情報量が多くて会場を出る頃には、一つの恋愛を終えたような心地よい気だるさを感じました。

「平成恋愛展」
開催期間:2026年4月7日(火)~6月28日(日)※会期中無休
開館時間:月曜~木曜10:00-18:00(17:30最終入場)
金曜~日曜、GW期間(4月25日~5月10日)10:00~20:00(19:30最終入場)
会場:六本木ミュージアム
アクセス:東京都港区六本木5-6-20
東京メトロ六本木駅より徒歩7分、麻布十番駅より徒歩10分
価格:一般・大学生 ¥2,200、中高校生 ¥1,800、小学生 ¥1,300
※未就学児無料(保護者同伴に限る)
※障がい者手帳をご提示の方、およびその介添えのための同伴者1名様まで半額

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。