8年半ぶりに来日し、イベント遅刻のニュースばかり話題になっていたジョニー・デップ。でも、日本では愛されキャラで大遅刻しても許されるという、特異なポジションを築いています。来日の用事の一つは、展覧会「A Bunch of Stuff – Tokyo」のプロモーションでした。実は子どもの頃から絵を描くのが好きだったというジョニー・デップ。来日記者会見に75分遅刻したときも、直前までホテルで絵を描いていたそうで……。創作は自分の人生においてとても大きな位置を占めていて「描くことは自分にとってはなくてはならないもので、なくなれば脳が爆発してしまう」と会見で語っていました。そんなに思い入れがあるアート活動ならぜひ拝見しなければと思い、ニュウマン高輪の「A Bunch of Stuff – Tokyo」会場に向かいました。チケットは大人3190円とまあまあの値段です。
会場はニュウマン高輪のSouthの別棟のような場所で、この展覧会の特設カフェとグッズショップもありました。エントランスを入ってすぐのところには、来場者が書いたジョニー・デップへのメッセージカードが壁10数メートルくらいに渡って貼られていました。「Thnk you Johnny!」「I love Johnny」「I Love You!」と愛と感謝であふれたメッセージの数々が。やはり彼は存在しているだけでもありがたい方なのでしょう。
予約時間に会場に入ると、赤いカーテンが迷路のようになっていました。スターが舞台に出る前のような赤いカーテンに包まれた空間には、ジョニー・デップの手書きの格言が展示。「iF THERE is Doubt? THERE is No Doubt.」(疑いがあれば疑いはない) 「LiFE IS A BiRDS SONG」(人生は鳥の歌のようなもの)など、雰囲気がある独特の書体で書かれていました。解説のサイトによると、ジョニー・デップにとって日記に近い文章だそうです。
続いて、アンティークな机にタイプライターが置かれた、ジョニー・デップの書斎風コーナーが。展覧会タイトルを直訳すると「たくさんのもの」なので、作品だけではなくジョニー・デップのおしゃれな私物も展示されているようです。別のスペースには、ソファーとテーブル、棚がセッティングされ、テーブルと棚にはアンティークの素敵なオブジェが大量に並んでいました。キャンドルやタロットカード、ブリキのおもちゃ、木の像、画材など。ベクトルは違いますが、物量や収集癖などみうらじゅん氏のコレクションと通じるものがあります。この中に「いやげもの」や「冷蔵庫マグネット」などが混じっても違和感なさそうです。ジョニー・デップの制作環境を再現したコーナーも。テーブルをパレットがわりにして絵の具を盛ったり、惜しまずに大量の絵の具を使ったりしているところにセレブの財力を感じました。
絵画の作品は、自画像も含む人物像が多いです。顔が歪んだ男性の顔や頬がこけている男性など、闇を感じさせます。中にはかつての恋人、ヴァネッサ・パラディを思わせる顔も。元妻で泥沼離婚になったアンバー・ハードの絵はありませんでした……。
ARの技術を使った作品は「ヘディ・ラマー」シリーズ。親友でありバンドメイトでもあったギタリスト、故ジェフ・ベックとともに演奏した「This is a Song for Miss Hedy Lamarr」の歌詞が書かれています。特設サイトにアクセスしてスマホをかざすと、作品解説が表示されました。字が小さすぎて読みづらいですが、60代になっても先端技術を取り入れるジョニー・デップの精神的な若さが表れているコンテンツです。この展示ではじめてヘディ・ラマーと言う歴史的な女性を知りました。1930~40年代に活躍したオーストリア出身の映画女優で、発明家としての顔も持っていて、彼女が開発した周波数ホッピング技術は、今のWi-Fiの基盤になっているそうです。施設のWi-Fiに接続し、このARコンテンツを楽しむことが、ヘディ・ラマーへのオマージュになります。
ジョニー・デップは「人生のはかなさ」を表現するため、スカルのモチーフをよく描いています。公式サイトにはジョニー・デップの「ダークユーモア」が際立つ作品だと書かれていました。後半は薄暗いスペースに骸骨の絵がたくさん展示されていて、メキシコの「死者の日」のお祭りのようでした。達観したメメント・モリ感が漂っています。
そしてイマーシブな映像の中にも、骸骨たちが登場。ジョニー・デップのモノローグも流れていて、彼の心情が伝わってきます。「絵を描き始めた頃は逃げ道だった」「頭の中から逃げ出す必要があった」「僕は失敗というものが大好きなんだ」「スリリングでワクワクする」「シンプルに生きること。それはとてつもなく贅沢なんだ」といった言葉が心に残りました。失敗が大好きとのことで、魔性の女性、アンバー・ハードとの一件ももう吹っ切れていそうです。
その映像には、スカルたちが紙吹雪まみれになっているシーンも出てきました。ジョニー・デップはこの作品について「みんながあなたを祝福しているように見える。でもあなたは、その紙吹雪で息が詰まりそうなんだ」と、語っています。「成功の両刃の剣」と言うメッセージを頭蓋骨と紙吹雪で表現。これはエントランスにあった、ファンたちのメッセージのことも表しているのかもしれません。展示の伏線がつながったようです。ジョニー・デップは祝福のカードの紙吹雪にまみれて、実は息が詰まりそうだったのでしょう。愛や賞賛が嬉しい反面、ときには逃げ出したくなってしまうことも……。60代になっても繊細で感受性が強いジョニー・デップ。もう遅刻でもなんでも許せる心境になりました。
「A Bunch of Stuff – Tokyo」
2026年5月6日まで高輪ゲートウェイ NEWoMan高輪 South 2Fで開催
https://www.abunchofstuff.com/ja [リンク]

