
五月に入ると青森と緯度がほぼ同じのニューヨークは気温が30度近くになる。摩天楼ジャングルなので気温は確実に上がるけれど、それにしてもまるで夏日の様だった昨日、久しぶりの青空を見た。
街を歩けば誰に出くわすというと、多くのアマゾンの配達員である。住宅街を歩いていると大きなメッシュの配達用運搬台車に大きな箱がいくつも見えるものを配達員は舗道に乗り上げ配達途中である。
大きな箱の中身は組み立て式の家具だったりするのだろうか? はたまた電化製品か? 考えてみればアマゾンが我々の生活に浸透する前までは、家具は家具屋に、電化製品は電気屋に足を運ばなくてはならなかった。そして、そこで配達の日時を決めて、そういう一連の流れがあった。
一昨日、パソコンを初めてアマゾンで購入した。我が家はアメリカでもマンハッタンという徒歩圏内で何でも揃う便利な土地に住んでいるため、パソコンは今まで徒歩で10分とかからない大型家電チェーンに直接買いに行っていた。友人にパソコンの購入に関し話をしていると、オンライン購入を薦められた。ただ、私としては即、手にすることが出来る店舗で買うのが慣例なのでそれでいいと思っていた。
考え方を改めたのは、家電量販店のサイトを見るとアマゾンと比べ圧倒的に品数が少ないことだった。また、その家電量販店はマンハッタンに数店舗あるが、サイトによると『この商品は当店に在庫はありません』をいくつもみつけ、マンハッタンの店舗では買えないが、”ブルックリンの店舗ならあります”と記されている。いや~、面倒なものだなぁ、わざわざ交通機関を使って地図を見ながらその店舗に買いに行く気にはなれなかった。
真夜中、目覚めてアマゾンでパソコン検索をする。値段も手ごろで種類も豊富のよりどりみどりである。『最近、アマゾンで買い物をしたのはいつだっただろう?』などと思いながら、コーヒーテーブルに乗せた我がパソコンでこれから買おうとするパソコンを見定めていた。室内の灯りはつけず、ミステリー映画みたいに我がパソコンの蛍光灯的な灯りのみだけの世界だ。
商品は決まった!購入するのはこれ程までに簡単だったのか!クレジットカードの情報も、我が住所も何も入力しないまま、商品を指定し、ポチっと押すだけで取引は完了。アマゾンプライムメンバーでないにせよ、ある程度の購入価格だったので翌日配達が可能だった。
こりゃ、大型電気量販店は負けると思った。この味をしめるとわざわざ電気屋に足を運ばなくなる人が殆どではないだろうか。その分、電気屋のお客がこうして一人減っていく。私如きの客なんて知れているけれど、このタイプが何万人と日々増えていくのだと思う。そしてアマゾンは繁栄し、アマゾンの経営者は世界最大級の資産家の一人になり得るのだ。
経営者、ジェフ・ベゾスは有人宇宙飛行事業を目的とする民間企業であるブルーオリジンを2000年に設立している。薄利多売の商売を通販で極め、宇宙事業も手掛けるこの幅の広さよ。
ただ、ベゾスは倹約家で、世界最悪の上司と呼ばれ 2014年当時の国連書記長、シャラン・バロウは「ジェフ・ベゾスは北アメリカ的な企業モデルを推し進めている雇用者の残酷さを象徴している」と評した。
アマゾン物流センターでの労働は過酷であることは知られている。彼らの安い労働賃金、所謂、搾取された環境により、我々顧客は満足度の高いサービスと商品を手に入れる。
この仕組みを作ったジェフ・ベゾスは天才だけど、金儲けは凄いと驚くけれど、急に夏日になった昨日のマンハッタンで、大きな運搬台車にアマゾンのロゴ印刷の大きな箱を運ぶ配達人を見るにつけ、この方々の労働賃金搾取の上に、更なる資産を増やすであろうジェフ・ベゾスとの対比に、なんだかやるせない気持ちになっていた。