地球温暖化を阻止するのは喫緊の課題と言われているけど、二酸化炭素の排出量削減は思ったように進んでいないんだよね。このため、別の方法で地球の気温を下げられないかとするアプローチも検討されていて、その中の1つが、成層圏に太陽光を反射するエアロゾル物質を散布するという方法なんだよね。
チューリッヒ工科大学のSandro Vattioni氏などの研究チームは、6種類の固体物質の粉末を成層圏にばらまいた場合にどれだけの効果が得られるのかを、すでに効果がよく知られている二酸化硫黄と比較検討をしたんだよね。その結果、最も優秀な成績を収めた物質は、なんとダイヤモンドのナノ粒子であることが分かったよ。
ただし、成層圏にエアロゾルを散布する方法は、副作用が解明されているとは言い難い上に、継続して行わないと意味がないという難点があるよ。そのためにかかる費用はかなり高額な上に、地球温暖化の根本原因である二酸化炭素の除去は達成されてないから、散布を止めると文字通り地獄を見るんだよね。この研究は、地球温暖化対策にダイヤモンドが使えるというよりも、二酸化炭素を減らす努力をした方が結局のところ安くつくということを示しているんだよね。
「成層圏エアロゾル注入」の検討材料には問題あり
地球温暖化は全世界的な課題であり、近いうちにデッドラインを越えてしまうのではないかとする懸念もあるくらいの喫緊の課題なんだよね。しかしここにきてもなお、国際社会の歩みは乱れており、根本原因である二酸化炭素の排出削減は思ったように進んでいないんだよね。
二酸化炭素排出量の削減が最善手なのは変わらないんだけど、こんな感じなのでもっと別の方法で地球の平均気温を下げることができないか? というプランBが検討されている感じだよ。その中で最も注目を集めているのは「成層圏エアロゾル注入」だね。
【▲図1: 火山ガスが成層圏に大量注入されると、二酸化硫黄が変化して生じた硫酸エアロゾルが太陽光を反射し、地球の平均気温が下がることがあるのが知られているよ。 (Image Credit: United States Geological Survey) 】
上空数十kmの成層圏は、大気循環が比較的遅いので、ここに入り込んだ物質は長期間漂うことが知られているんだよね。そして大規模な火山噴火では、成層圏に大量の物質が注入された結果、地球の平均気温が低下することが実際に観察されているよ。例えばフィリピンのピナトゥボ山が1991年に噴火した際には、1993年にまで地球の平均気温が0.5℃低下したことが観測されているんだよね。
この現象の主因は、火山ガスに含まれる二酸化硫黄だよ。成層圏に注入された二酸化硫黄は、酸化や吸水によって硫酸エアロゾルを形成するんだよね。これは微小な鏡のように機能し、太陽光を反射する形で地球が受け取る熱量を減らし、地球の平均気温を下げるんだよね。このアイデアを元に、人為的に成層圏に二酸化硫黄を注入して硫酸エアロゾルを作り出すという方法が考案されている形だよ。
ただし、硫酸エアロゾルは酸性雨の直接的な原因となり、間接的にオゾン層破壊物質を発生させる触媒作用もあるとされているため、二酸化硫黄を大量注入すると別の環境問題が発生するんじゃないか? という懸念があるんだよね。さらに、硫酸エアロゾルは可視光線は反射しても赤外線を吸収するので、成層圏が温暖化するのではないかとする懸念もあるよ。成層圏の加熱は、その下側にある対流圏、つまり私たちが暮らしている大気層にも影響を与え、気候パターンを乱し、現在起こっている気候変動を却って悪化させてしまうリスクがあるよ。
最も効果が強い固体粒子は「ダイヤモンド」と判明!
【▲図2: 成層圏にダイヤモンドをばらまくのは効果が大きいらしい! けどそれは有効な温暖化対策と言えるのかな? (Photo by Daniele Levis Pelusi on Unsplash) 】
Vattioni氏らの研究チームは、二酸化硫黄よりも害の少ない物質として固体粒子をエアロゾルとして散布する方法を検討したよ。固体粒子は固体なので、二酸化硫黄のような気体よりも散布が難しいというデメリットがある代わりに、物質の化学形態を検討すれば、酸性雨やオゾン層の破壊、成層圏の加熱と言った副作用が少ないという考えがあるよ。
過去の研究を踏まえた上で、Vattioni氏らは検討する固体粒子物質を酸化アルミニウム (Al2O3) 、方解石 (CaCO3) 、ダイヤモンド (C) 、炭化ケイ素 (SiC) 、鋭錐石型およびルチル型の二酸化チタン (TiO2) の6種類とし、二酸化硫黄との性能面の比較を行ったんだよね。
そしてVattioni氏らは散布した固体粒子がどの程度成層圏に滞留した後に落下するのか、散布量や固体粒子の光学特性なども踏まえた大気モデルを構築し、どの物質が一番地球の平均気温を下げるのかを検討したよ。
シミュレーションの結果、最も効果が強かったのはダイヤモンドだったよ! 計算の上では、直径150nm (0.00015mm) のナノダイヤモンド粒子を1年あたり520万tの量を散布すれば、45年間で平均気温が1.6℃低下することが見込めたんだよね! ダイヤモンドは化学的に安定なので、酸性雨やオゾン層破壊の心配もないよ。ただ、微細な氷に対する比喩ではなく、実際のダイヤモンドダストが最も効果的だというのはちょっと意外かもね。
ダイヤモンドをばら撒くのは “安い” 温暖化対策とは言えない
では、この方法は良い方法なのか? 研究者自身はそうは考えていないよ。今回のシミュレーション結果は、散布したナノダイヤモンド粒子が大気中で集合して固まってしまうスピードに大きく依存するよ。こういった物質の特性というのは予測が難しい上に、わずかな数値の変化が結果を大きく曲げてしまうんだよね。また、成層圏に大量のナノダイヤモンド粒子を輸送し、うまく分散させてばら撒く方法があるのか? という点は未検証だよ。
ただ、それよりもっと大きな問題があるかもね。いくら工業的にダイヤモンドを合成できると言っても、年間520万tという量は余りに膨大なんだよね。1.6℃の気温低下を達成させるには200兆ドル (約3京円) もの費用が必要になってしまうよ。世界経済のGDP規模 (世界銀行による2023年の推計) は105兆4400億ドル (約1京5800兆円) であることを考えれば、極めて高い買い物だと言わざるを得ないね。
さらに言えば、仮に全ての障壁をクリアして成層圏エアロゾル注入が行えたとしても、それで良いのかという話になってくるよ。最も研究されている二酸化硫黄でさえ、悪影響の範囲や強さが十分に理解されていると分かっていない中では、ダイヤモンドという検討が始まったばかりの固体粒子が何も悪さをしないのか? というのはもっと分からない部分があるんだよね。その意味では、温暖化対策が待ったなしという状況に対して、すぐに実行できる方法ではないんだよね。
そして、成層圏エアロゾル注入では結局のところ、地球温暖化の根本原因である二酸化炭素を減らすことはできないよ。仮に成層圏エアロゾル注入が温室効果ガスより上の効果を発揮したとしても、二酸化炭素は存在し続けるので、海洋酸性化などの別の問題は全く解決しないんだよね。
それどころか、固体粒子は成層圏で1年程度しか漂わないと考えられているので、成層圏エアロゾル注入をやめてしまえば、あっという間に太陽光の量は元に戻ってしまうと考えられるよ。その後起きることは、今よりも暴走した温暖化による、文字通り地獄のような未来だね。そうしないためには、成層圏エアロゾル注入を45年どころか、数百年から数千年も継続しないといけなくなるよ。この方法は明らかに、試算の200兆ドルより高くつくはずだよ。
結局のところこの研究は、ダイヤモンドの物理的な効果の高さを証明しても、成層圏エアロゾル注入は現実的な地球温暖化対策とは言えないことを示しているんだよね。確実な効果と副作用の少なさを考えれば、温室効果ガスの排出削減の方が明らかに費用対効果が高いことを示しているんだよね。
(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)
<参考文献>
S. Vattioni, et al. “Microphysical Interactions Determine the Effectiveness of Solar Radiation Modification via Stratospheric Solid Particle Injection”. Geophysical Research Letters, 2024; 51 (19) e2024GL110575. DOI: 10.1029/2024GL110575
Bob Yirka. (Oct 18, 2024) “Could injecting diamond dust into the atmosphere help cool the planet?”. Phys.org
Mike McRae. (Oct 23, 2024) “Injecting Diamonds Into The Sky Could Cool The Planet, Study Says”. Science Alert.
Rosie McCall. (Oct 20, 2024) “Diamond Dust Could Help Cool The Planet And Avoid Catastrophe”. IFLScience.
J. Sutter, et al. “Climate intervention on a high-emissions pathway could delay but not prevent West Antarctic Ice Sheet demise”. Nature Climate Change, 2023; 13 (9) 951-960. DOI: 10.1038/s41558-023-01738-w
Johannes Sutter & Thomas Stocker. (Nov 11, 2023) “Könnte ein künstliches Abdunkeln der Sonne die Eisschmelze verhindern?”. Universität Bern.