SusHi Tech Squareでサスティナブルな最先端アートを体験(辛酸なめ子)

  by 辛酸なめ子  Tags :  

サスティナビリティを実現した未来の暮らしを想像する、SusHi Tech Squareでの展示「人間×自然×技術=未来展」がはじまりました。

有楽町の駅近くのSusHi Tech Squareでの展示は第3期目。入場無料で最先端のデジタルアートを体験できる施設です。都民税を払っている人は積極的に利用しても良いかもしれません。これまでの第1期,第2期も行きましたが、平日など空いていて広くて椅子もあるので穴場スポットです。

「人間×自然×技術=未来展」というタイトルについて、人間、自然、技術はそれぞれ変数で、3つのかけ算により多様性が広がる、とキュレーターの方が語っていました。クリエーターの発想力をかけ合わせれば無限の可能性があります。印象的だった作品を挙げてみます。

「あなたと一緒に、自然が成長したら?」 田中薫

大きなモニターに、木々や草など自然の映像が映し出されて、近付くと変化したり、成長したり、葉っぱが舞ったりします。違う角度になって、別の生き物の視点からも見ることができます。よく見ると画像が細かいドットでできているのが見えて、植物も小さな粒子からできている、というのが実感されます。没入度が高い作品。

「告白のハルシネーション」 岸裕真

モニターごしに架空の鳥類と対話できます。鳥の会話は小説「フランケンシュタイン」を学習したAI、「MaryGPT」によって生成されたテキストをもとに構成されています。架空の鳥はフレンドリーに見えて、会話していると時々、支離滅裂な内容や誤情報を言ってくるので油断できません。

例えば「朝になると太陽の右に月がのぼることがあるんだよ」とか、「鳥の視点から見た未来は『後知恵』と呼ばれる」など。もっともらしい誤情報は「ハルシネーション」と呼ばれ、この作品ではシュールなハルシネーションを楽しむことができます。自然と対極にある、デジタルデータとAIの集合体が、人間を自然から引き離してこちら側に取り込もうとしている……そんな不穏な未来も感じさせる作品でした。

「ハイパー神社」 たかくらかずき

LEDの参道を通ってデジタル上の神社にお参りすると、ドット絵のような神様や鬼が出現。デジタルデータは実体がなく、古来のアニミズムのようなものと共通している、と作者のたかくら氏は語っていました。デジタルデータを現代の神のようなものと捉え、炎上は呪いだと認識している、という話も興味深かったです。ポップでキャッチーな絵柄にもセンスを感じます。

データは一部NFTでも購入できるそうで、ハイパー神社の新しいお布施の形かもしれません。お参りしたら炎上しなくなる、などのご利益があると良いのですが……。

「闘牛+寅」 加治聖哉

会場内では数少ないデジタルが絡んでいない作品ですが、見た目がまるで3Dのポリゴンのようです。ワイルドな生き物をかたどった作品が2体展示。作者はとくに設計図を作らず、骨格のような状態に皮膚や筋肉をつけていくように立体化していくそうです。

素材の多くは、空き家の廃材というのも物語性を感じさせます。もし昔住んでいた家が、このような生き物として生まれ変わったら、空き家の住人は嬉しいかもしれません。役割を終えた木が、動物として転生し、自然に還っていくような、サスティナブルな輪廻の形を見せられたようです。

「JAPANELAND SKY」 VoxelKei

日本列島の上空を自由に飛び回れるVRコンテンツ。国土地理院の基盤地図情報をもとに立体化したデータで、とくにGoogleの地図データは利用していないそうです。地図情報だけで山や川などの光景が3Dで出せるとは。もしかしたら未来、環境破壊が進んでしまった地球で、かつて豊かだった自然を思い出すツールになるのかもしれません……。

VRゴーグルとコントローラーを使って実際に試してみました。日本列島は山が多いことが一目瞭然です。下に行きすぎると山に激突しそうになり、臨場感がありました。また、高い所から日本を見下ろすのは、鳥の視点というより、ほぼ神の視点でした。臨死体験から神の目線まで……有楽町で現実逃避できます。

ドローンで花粉を運ぶ体験ができる作品「ミツバチ・デリバリー」と共に、土日は行列ができそうです。

「Moving Green Park」 Tokyo 緑予想図

「移動する公園」がコンセプト。緑と一体化したキャスター付きの遊具やベンチなどが並んでいます。デザインもおしゃれで、自然の癒しとセンスの良さを同時に吸収できます。今回のような屋内の会場にもスムーズに設置できる移動型公園。昨今、外で遊ぶ子どもたちの姿があまり見られなくなりましたが、この安全で快適な屋内の公園は、都会っ子にも受け入れられそうです。

今回、様々な方法で自然を表現した作品を観賞し、改めて自然の完成度や、森羅万象の雄大さについて実感させられました。コンピューターやテクノロジーを駆使しても、自然を再現するのは難しいです。また、データを作成し,展示するためにも、地球のエネルギーが使われていると思うと、自然への感謝が高まります。自然の一部を疑似体験することで、もっと実際の大自然に触れたくなる……グリーン欲が高まる展覧会です。

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。