家庭用ゲーム、PCゲーム、スマホゲームと様々なプラットフォームへ向けたゲームが開発可能なゲームエンジン『Unity』が9月12日に新料金プラン「Unity Runtime Fee」を発表した。
この料金プランに対し、インディーゲームデベロッパーを中心に批判が殺到。提供企業であるUnity Technologies社内においては同社従業員が経営陣に対し脅迫を行い、警察沙汰になるという出来事も発生した。
Today we announced a change to our business model which includes new additions to our subscription plans, and the introduction of a Runtime fee. We wanted to provide clarifying answers to the top questions most of you are asking.
Yes, this is a price increase and it will only…
— Unity (@unity) September 12, 2023
その後、9月18日にX(旧Twitter)でUnity TechnologiesはUnity Runtime Feeをめぐる騒動について謝罪。「チームメンバー、コミュニティ、顧客、パートナーの声に耳を傾け、話し合っており、ポリシーを変更する予定」としている。
何が問題? 「Unity Runtime Fee」
Unity Runtime Feeは、新料金プランであるとともに実質的な値上げとなっている。ただ、値上げそのものが批判されたわけではない。批判のポイントは、主に「課金モデル」「信義則」「技術的問題点」の3点だ。
「課金モデル」については、Unityで作られたゲームのインストール数に応じて手数料が発生するという形式が問題とされた。より具体的に書くと、「過去12カ月で20万ドル(約2959万円)の収益」&「累計20万インストール」という条件を満たした場合、「1インストールあたり0.2ドル(約29.6円)」の手数料が発生するというもの(20万インストールで4万ドル(約592万円)の手数料が発生)。
※1ドル=147.98円(2023年9月20日現在のレート)で換算
なおこの「課金モデル」は、無料で利用可能な「Unity Personal」プランにおけるものとなっており、有料の「Unity Pro」プランや「Unity Enterprise」プランでは条件が緩和されるほか、手数料も安くなっていく。
プラン切り換えによって条件を緩和することができるという点もあって、この「課金モデル」は買い切り型のゲームに対してそこまで大きな影響を与えるものではない。しかし広告を収益源とする無料ゲームの場合、収益に対してインストール数が大きくなってしまうことから経済的なダメージに繋がってしまう恐れがあった。この点が、「課金モデル」という観点における問題点だ。
次に「信義則」については、この新料金プランが、過去のバージョンにおいても適用されるとした点。つまり、5年前のバージョンのUnityを使って5年前に発売したゲームであっても、2024年時点で「過去12カ月で20万ドルの収益」&「累計20万インストール」という条件を満たしていれば、手数料が発生してしまう。
しかし当然ながら開発者は5年前の開発時点では、その時点での料金プランと契約に基づいてUnityの使用を決定している。このため今回の料金プラン変更は、過去に完了した取引に遡って値上げを行い、差額を払えと言っているのに近い。これはいくらなんでも理不尽であり、ビジネス的な「信義則」を破るものといえるだろう。
最後の「技術的問題点」については、「どうやってインストール数を計測するのか?」という点。Unity Technologiesは、「ある端末に対する初回インストールのみ計測する」としていたが、そのためには端末以外の場所に個人情報を保存しなければならない。
しかしながら現在のスマートフォンアプリでは、個人情報保護の観点からユーザーが個人情報の取得を拒否できる。したがって、初回インストールと二回目以降のインストールを正確に見分けることは不可能に近い。
ゲームデベロッパーの批判が集中! 代替ゲームエンジンも話題に
上記の問題点を持つUnity Runtime Feeに対し、まず反発したのが『Cult of the Lumb』を開発したMassive Monsterをはじめインディーゲームデベロッパー。その上で、広告を主要な収益源とするハイパーカジュアルゲームのデベロッパーも共同で声明を上げるかたちとなった。
Stop the stink @unity pic.twitter.com/ijme9wQ89m
— Massive Monster (@MassiveMonster) September 13, 2023
こうした流れの中で、個人で開発しているゲームクリエイターたちも含めた開発者たちを中心に、Unityに代わるゲームエンジンを探す動きが活発化。『Unreal Engine』や『Godot Engine』へ注目が集まるという事態となった。
Unity Technologiesが謝罪、料金プラン見直しへ
一連の流れを受け、Unity Technologiesは9月18日にX(旧Twitter)ではUnity Runtime Feeをめぐる騒動について謝罪。その上で、「チームメンバー、コミュニティ、顧客、パートナーの声に耳を傾け、話し合っており、ポリシーを変更する予定」とした。数日以内に最新情報を共有するとしている。
We have heard you. We apologize for the confusion and angst the runtime fee policy we announced on Tuesday caused. We are listening, talking to our team members, community, customers, and partners, and will be making changes to the policy. We will share an update in a couple of…
— Unity (@unity) September 17, 2023
Unityはゲームを開発するツールではあるのだが、実際にはゲーム開発のための素材を共有するストアであったり、ノウハウを共有するコミュニティであったりといったものが集まった巨大なエコシステムとなっている。今回の件はネガティブな出来事ではあったが、なるべくUnityに関わるすべての人にマイナスが出ない方向で収束して欲しいものだ。