2022年9月23日の台風15号の被害により、静岡県の島田市と榛原郡川根本町を結ぶ大井川鐵道本線は未だに家山・千頭間が運休しており、代行バスでの輸送が続いています。
1976年に日本で最初に蒸気機関車(SL)の動態保存を始め、2014年より『きかんしゃトーマス』号を運行していることで、地域住民の足だけでなく観光資源としての役割も果たしている大井川鐵道ですが、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響もあり近年では赤字経営が続いており、早期全線復旧に向けた国や地方自治体の支援を求めています。
静岡県で記録的短時間大雨情報が計32回発表され、島田市内では120mm以上を記録する大雨に見舞われた台風15号で、大井川鐵道は神尾・福用間で採石場跡地と国道473号線からの土砂流入など20箇所が被災し、全線で運転を見合わせ。2022年10月16日にはアプト式ラック鉄道の井川線、12月16日には本線の金谷・家山間が復旧しましたが、寸又峡温泉など大井川上流に至る区間の運行再開のめどは立っていません。
これまでに島田市は金山・家山間のために令和5年度予算で復旧補助費を1666万円計上。2023年3月には、静岡県や島田市・川根本町などが『大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会』を開いています。
また、国土交通省所管の独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備機構(JRTT)は鉄道災害調査隊の派遣要請を受けて被災現場の把握と技術的助言を行っています。
2023年6月9日には、鈴木肇大井川鐵道社長と同社労働組合の田中洋佑執行委員長が国土交通省を訪れ、藤井直樹事務次官に対して早期全線復旧に向けた協議の加速と財源確保を含めた具体的な支援策を求めた要請しました。関係者によると、労使あわせて要請をすることは「極めて異例」といいます。
鈴木社長は「地域のライフラインとして、観光を含めた起爆剤の役割を鉄道は果たせる」として「新たなスキームを含めて、速やかな復旧に向けての支援を頂きたい」と要望。田中委員長も「(社員が)復旧が見えない不安があり、退職を考える人間や退職者も出ている。会社と組合が一緒になって災害を乗り越えようと頑張っている」と現状を訴えました。
また、同席した森屋隆参議院議員(立憲民主党)は「近年は災害が激甚化しており、地方鉄道においてはしんどい状況。一企業の負担が大きい」といい支援の必要性を強調。道路や空路・航路と比較して鉄道は国からの災害支援のスキームが薄いことについて、「国会としても議論が必要」という認識を示しています。
2025年には設立100周年を迎える大井川鐵道は、SL列車の運行だけでなく、映画・ドラマのロケ地の誘致に積極的。2020年11月には新東名高速道路の島田金谷インターチェンジ付近に35年ぶりの新駅となる門出駅を開業させるなど、地域に根付いた経営をしている中での被災により、多大な影響を受けている状況が続いています。
これまでSL列車は新金谷駅と千頭駅に設置されている転車台によって方向を変えていましたが、現在は家山駅で折り返している状況のため、鉄道ファンとしても全線復旧が待たれるところです。
※写真は大井川鐵道および交運労協提供