コロナ騒動もようやく一息ついた状況で、我慢していた旅行や行楽を計画している方も多いだろう。この期間で飲食店は大打撃を受けながらも生き残りをかけて戦ってきた。営業形態や基本的な考え方にも変化が生じ、例えば居酒屋という業態でさえも普通に食事が楽しめる店舗が多くなってきた。ランチタイムの定食やテイクアウトのお弁当を出すケースだ。
今回は夕方からの居酒屋タイムでも、お酒はもちろんだがご飯を食べるという目的でも問題なく入店可能な店舗を取材した。
焼肉坂井ホールディングスが運営する居酒屋「鮨のえん屋」東京三鷹店に行ってみた。場所は三鷹駅から徒歩数分のメイン通り沿いにある。同店は1995年創業で、都内を中心に6店舗ある。新鮮なお造りをはじめ、寿司や海鮮料理をリーズナブルに味わえることから、そもそも食事に向いていた店舗でもある。寿司や海鮮が安く手に入る秘密は、三崎漁港と長井漁港の買参権をグループ会社が取得しており、中間業者を通さずに漁港から直接買い付けができるためだ。
通常の海産物は水揚げされた漁港にある市場または豊洲のような都市部の大市場まで運ばれ、そこでセリにかけられる。セリに参加できるのは卸売業者や仲買人と呼ばれる物品で言うところの問屋さんだ。そこで売買されたものは流通経路に乗りスーパーや寿司屋や料理屋等の専門の店舗に買い取られて我々消費者の口に運ばれる。同社は漁港の市場における買参権を取得していることから、直接の買い付けが可能でそのまま店舗に運ばれる。中間マージンがない分だけ安いのはもちろんだが、中間の物流もないため新鮮さが担保されるという仕組みだ。
であれば、どの居酒屋でも買参権を取得すればいいということになるが、そうはいかない。買参権を取得するには信用と実績と法令に基づいた資格や保証金が必要で、誰でも直接買い付けができるわけではない。それに仲買人を通さない代わりに自分で目利きをする必要があり、そういった人材をそろえていることも同社の強みだ。
さて、すべてが直接買い付けではないものの全国から海産物を仕入れることによる面白さは写真のような通常メニュー外のモノが登場することにある。写真は「活いかの沖漬け・税込968円」だ。北海道産の大き目のイカが手に入ったので1杯丸ごと沖漬けにして提供。お酒にも合うのだが、ごはんにも合う。これだけの大物になるとグループでも大丈夫だ。1杯、というよりも活きの良さが自慢なので1匹と言うべきなのかもしれないが、豪快な1匹を見ることにもこのメニューの意義はある。
こぼれ巻き寿司・税込1,078円は、もう見た目通りだ。これはお腹もいっぱいになるが見た目も迫力があるので、いわゆる写真映えするお食事だ。見た目重視も大事だが、食べても美味しいので結果的に二度おいしい。
昭和の世代には懐かしいおかず(居酒屋メニュー)があったので即注文。きつね納豆揚げ・税込429円は、油揚げに納豆を挟んで揚げたものだ。たっぷりの納豆が入った油揚げは確かに納豆の匂いがきついが、納豆好きにはたまらないおかずだ。昔、母親がお弁当に入れてくれたのを思い出して何となくありがたく感じてかぶりついた。
ごはんもいいが、やっぱりお酒もという場合は刺身が欠かせない。「えん屋名物 刺盛り・税込2,068円」はお寿司も付いたお得な刺盛りだ。おつまみ卵焼きの付け合わせが本格的な寿司屋のようでなかなかにくい。
「度デカ逸品!」うな玉990円・税込1,089円は、ウナギのかば焼きの下にでっかい卵焼きがドーンと1本。文句のつけようがないおつまみでもあり、おかずでもある。これはちょっとぜい沢であるが、いうほど高くはないので入店時には注文必須のメニューだ。
同店では日本酒も豊富にそろえているが、取材時におススメのお酒を2種類いただいた。花見ロ万 純米吟醸・税込759円と、紀土春ノ薫風 純米吟醸・税込759円だ。どちらも純米吟醸酒なので軽くフルーティーなお酒だ。福島県産の花見ロ万(はなみろまん)は13度の低アルコールで軽快なうま味で女性にも最適。和歌山県産の紀土(きっど)は、フルーティーであり香りは華やかで本当に花が香るような雰囲気だ。
記者の独断だが最近は若い女性の方がよく飲んでいる(もちろんお酒)ようなイメージがある。男性陣も負けずに頑張ってほしいが、ボリューム感満点の寿司は男女問わず楽しみながら食べることができる。
お店に聞いてみると、食事だけして帰る人も増えてきて、お酒を飲むにしてもあくまでも食事の一環で済ませる人もいるという。従来の居酒屋の常識を超えて、食事をメインに居酒屋に入る、そういう使い方の認知度が高まっているのだろう。もっとも食事メニューが充実していないとそうはならないのだろうが、これからは晩ごはん=居酒屋という図式が成り立つのかもしれない。
お酒を飲む目的にしろ、ご飯を食べる目的にしろ、飲食への欲求というものは人間の欲望そのものなので、できれば安くて美味ししいものをお腹いっぱい食べたい。折しも急激なインフレで物価上昇が続く中、そんな要求に応えようとする飲食店は消費者にとってありがたいものになるだろう。
物価上昇で賃金が上がらなければ最悪のインフレとなり、場合によっては消費を抑える場面も出てくるかもしれない。しかし歴史的にインフレ不況時は人々の心がすさみ、あまりいいことがない。毎日とは言わないが、せめてご飯は美味しいものを食べて、見た目にも豪華なものは心理的に満足感が得られ、心身ともに悪いことはない。飲みすぎには注意だが、こうした「ごはん目的」の居酒屋でリーズナブルに満足感を得る方法は自分にとって無駄(遣い)ではない。
お一人様でも気の合う友達とでも、たまには家族で、美味しいものを食べて、見て、撮影して、ワイワイガヤガヤ楽しんでみてはいかがだろうか。そのような行動は居酒屋メニューを充実させる原動力にもなり、結果的に我々に「もっとすごいメニュー」となって返ってくるかもしれない。
※写真はすべて記者撮影