序曲~ソウセイセヨ~(連載小説)

episode.21 序曲~ソウセイセヨ~

日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~
(連載小説)
※本回で最終話!つづきは番外編
(エキストラエディション)として連載はつづきます!

そちらもお楽しみに!(後日書籍化も予定!地方創聖プロジェクト文芸部の記事から過去エピソードであるバックナンバー全21話をお読みいただけます。)

(イラスト・小林ユキト)※イメージイラストはアマテライザーを持ったテルヒコとユタカ

(小説版キャッチコピー)

「灼熱のなか真実が蘇るー!」

神代~弥生、平安、戦国、令和と繰り広げられる

魂ゆさぶる伝奇スペクタクル、

愛を巡り戦う戦士たちが紡ぐ群像劇(ドラマ)ー。

(あらすじ/邪馬台国の戦火を逃れ残った神秘の鏡、アマテライザーに導かれる記憶を失った青年テルヒコと彼を導く女神ユタカの壮大な歴史の波を駆ける大河アクション小説。台詞後ろ=( )キャラ名)

登場人物(テルヒコ/本作の主人公。記憶を失った青年。その正体は滅びた邪馬台国のかつての王子。)

(ユタカ/鏡を通してテルヒコを導く謎に包まれた女神。かつての卑弥呼の後継者。)

(石上雅也/魔界に魂を売りテルヒコと彼の祖父大善らと対立するライバル。九頭竜と契約し後に令和の世において冥王イブキとなる。)

(※以下エピソード本文)

平成8年8月某日のある夜、照彦の母(千里)は市内の産婦人科を抜け出し一人なにも言わず、

産まれた直後の息子を院内保育器に置き去りにし、とぼとぼ暗い夜道を歩いていた。

「・・・・・・。(千里)」

平和台公園から数キロ続く夜の林道は、昼の涼しげな癒しの顔とはうってかわった異質な空気が支配していた。

いつも職場等では穏やかな表情を見せていた千里(せんり)。

暗い森、夜道の街灯の明かりに照らされたそのときの彼女の顔はまるで能面かなにかのように無感情であった。

無表情の彼女が夜空を見上げると、はるか暗雲のむこうよりこちらへ迫り来る大勢の(群体)。

空に瞬く星空を掻き分け無数の浮かんだ“何か“がみえるー。

発光体ー。

そのときを最後に、母が息子(彼)の元に帰って来ることはなかった。

(※テルヒコ/中学生時代)

十数年後、高校受験を控えたテルヒコは剣道合宿の試合を終え単身家に帰ってきた。

ガララ!(玄関にて)

「じいちゃん・・・ただいま~。(テルヒコ)」

「・・・おおお帰り!今日はどうだった?強豪高千穂の、高等部の先輩たちは。(大善)」

「もう鬼みたいだったよ。自衛官じゃあるまいし気合いがちがうったら・・・。(テルヒコ)」

「胸を貸してもらうつもりでいけばいいのさ。(大善)」

彼を温かくむかえたのはいつものように山積みの研究資料を探る祖父大善と、その背後で料理の支度をしていた、冷たい視線の姉の姿だった。

「また歴史資料館から本借りてきたの?(テルヒコ)」

「ああ。いまはインターネッツの時代だがな、じいちゃんの分野は資料が隅ーっこにホコリ被ってて、探すのも一苦労なんだよ・・・。(大善)」

「好きだよなあ、じいちゃんも・・・。(テルヒコ)」

「・・・・・・・(美幸)」

「・・・おかえり!今日はカレー作ったから、ほら、座りな!(美幸)」

テルヒコを見るなり姉の表情は変わる。

「あ、うん・・(椅子に座るテルヒコ)」

「・・・・・・(美幸)」

「あ、後でちょっと君(テルヒコ)、こっちの作業手伝ってもらえない?(大善)」

母千里が幼い時節姿を消し、姉と祖父、自分の三人だけで暮らしてきた海家。

テルヒコと美幸。

姉弟の仲は“一見すると”とても良かった。

テルヒコは、(とても良い)と信じていた。

なぜ、あの日千里は消えたのか・・・。

彼女はどこへいってしまったか。

テルヒコは自らの母親が消えた動機を祖父からついには聞き出すことができずにいた。

そして美幸は、なにかを知っているかのようにテルヒコには見えた。

テルヒコが部屋を出て数十分後、美幸は大善に向かって、先日のとある人物との話を打ち明けた。

「じいちゃん、こないだ母さんの友達だったっていう・・・(美幸)」

「石上って人が学校に来てね・・・(美幸)」

「?!(大善)」

なにやら部屋の様子が、騒がしい・・・。

「ま、まさか・・・君は“あの場所”に行ったのか、奴と!(大善)」

「でも私あそこにいけばきっとわかると思って・・・(美幸)」

「なんであれほど言ったのに・・・(大善)」

優しい祖父の、いつにない怒りの混じった声・・・。

「なんで私があそこに行っちゃダメなの!毎晩金縛りも収まらないし、いっつもヘンなのが電車の中まで付いてくるし。こないだも寝室にそいつがいた・・・じいちゃんにはわからないだろうね。(美幸)」

「干渉するからだ。ほおっておけばいいんだよ。ああいう連中は私も微かにだがみえる。(大善)」

「わかりっこないよ、じいちゃんには・・・。こないだだって。悠くん(美幸の彼氏)の事故が、夢に・・・(美幸)」

「指があっち(手の甲)の方へ曲がって、(誰かに)曲げられて。泣いたんだから。痛くて泣いても、ずっと止まんなくって・・・!(美幸)」

「だが、それとあの古墳は関係ない。(大善)」

「私があげた御守りは・・・(大善)」

「あんなのあてになんないよ!(美幸)」

「お前が小学校の時、祭神不詳の祠に悪戯をしたことがあったじゃないか。あれを、隣町の青年会がきて直したから何もなく済んだが・・・(大善)」

「あの祠は、殉死者たちが・・・(大善)」※殉死=生きた人間を墓に埋葬すること。

「バカじゃないの?!そんな子供時代のこと・・・!(美幸)」

「お前たちには、なるべく深くは関わって欲しくない。(大善)」

「でも、ついてくるんだもん・・・ッねえじいちゃん、(これから来る)“わざわい”ってなんなの?!なにか隠してるよね!ネエ!(美幸)」

美幸には、世の水面下で蠢きはじめたその“闇”が確かに見えていた・・・。

「・・・とにかく、アイツ(石上)だけはダメだ!奴は正気じゃない、ダメなんだよ・・・。二度と彼の話はしないでくれ!(大善)」

いつにない様子の大善の声に、テルヒコは飛び起き階段を下りてきた。

「ふ、二人とも・・・(テルヒコ)」

「すまない、なんでもないよ。(大善)」

「・・・・・・・・(美幸)」

数日後のとある日、テルヒコと美幸は、彼女自身の頼みから姉弟二人で登山(付近の霊山=日下山)に出掛けていた。

軽装備で山を登る二人。どれだけ止めようが行ってしまう姉の危険を案じてテルヒコは複雑な表情でついてきていた。

「あのさ~、いい加減帰ろう!じいちゃんに黙って後でばれたらヤバイんじゃないの?(テルヒコ)」

「もう何も言われないよ!大丈夫。(美幸)」

いつになく表情が豊かでいきいきとしている姉。美幸は優しい笑顔で彼に話しかけた。

「(なにかいいことでもあったのか?)(テルヒコ)」

「私、また母さんの夢みたんだ・・・。(美幸)」

嬉しそうな自慢げな表情で、美幸はテルヒコに昨日見た夢の話をするのであった。

美幸は幼い頃から人知では計り知れない不思議な体験を密かに数多く経験していた。

だが、その大半は金縛りや不思議な黒いもやを見たり、見知らぬ不気味な子供らしき影に追われたり、謎の異言(グロソラリア)を彼氏の前で寝起きに喋るなど不可解な体験がほとんどであった。

そして稀に見る彼女の予知夢はほとんど正確無比な確率で現実になることは多く、テルヒコ自身も姉とにた夢を最近よく見るようになっていた。

大善はそんな美幸の存在を可愛がると同時に不安がり、彼女の秘密はテルヒコと祖父だけしか知り得ぬものであった。

「(まさか俺も姉さんみたいに・・・?)姉さん、この間の石上って人は知り合い?(テルヒコ)」

「大善じいちゃんの友達だったんだって。最近こっち(宮崎)に戻ってきたんだそうよ。(美幸)」

「姉さんって、よく予知夢の類とか見るよな・・・。(テルヒコ)」

「ねえ、あんたもそうなんでしょ。(美幸)」

「たまにね、でも姉さんほどじゃないよ。(テルヒコ)」

「夢って、どんな夢?(テルヒコ)」

「それが変な夢でね。私、女の人たちと・・・昔の、ほらあの足でガチャンてやる・・・(ゼスチャーをする美幸)」

「機織り?(テルヒコ)」

「あ、そうそう!それよ。(美幸)」

彼らの会話を木の上から見下ろす怪しい男たち。

カラス天狗の仮面を装着した(工作員部隊)が無線で彼ら、とりわけ(美幸)の様子を監視しているようであった・・・。

「そうそう、それだ。機織り小屋にいたの。(美幸)」

「母さん、なんかいろいろ言ってたけど何語喋ってんのかワケわかんなくって・・・(美幸)」

彼女の脳裏、夢幻の中に浮かぶ千里が見せていた(神代文字)・・・。

「姉さん、その薬は。(テルヒコ)」

「あ、これ?ちょっとね、なんでもない・・・(ポケットから白いカプセルを取り出す美幸)」

ザッ(消え去る工作員部隊)

「何かいたような・・・。(木の間を見つめるテルヒコ)」

「ねえテルヒコ、神社の本当の、“宝物”ってなにか知ってる?(美幸)」

「さあ?あんまり詳しくは・・・(テルヒコ)」

「あ、あぁ。あと母さんが・・・あんたの話もしてた・・・(美幸)」

「フフフ・・・・・・・・・(美幸)」

「そうだ、今も来てる・・・私と二人。(美幸)」

「(様子がおかしい・・・!)(テルヒコ)」

一人ぶつぶつ話す美幸の様子は、次第に冷静さを失ってゆき、それにとどまらず彼女の顔はいつにない不安定さに満ちていた。

「・・・。(美幸)」

「ど、どうしたんだ・・・・・・。(テルヒコ)」

「・・・・・あんたが産まれた時、ちょうど母さんはいなくなったんだよね。(美幸)」

「・・・」

「・・・なんで鏡が・・(美幸)」

「なんで、あたしじゃなかったの?・・・私のほうが・・・(美幸)」

「なんの話だ?!(テルヒコ)」

「・・・・・・・ハァ、フーッ・・・(美幸)」

「いったい体調でも悪いのか?・・・・・(テルヒコ)」

「・・・あれは私を呼んでいたの!アンタじゃない・・・。アンタなんかが。ほんとならアタシがあれ(鏡)を・・なのにどうして・・・(美幸)」

「お、落ち着けよ・・・どうしたんだよ!(いつもの姉さんじゃない、正気を失ってる・・・!!)(テルヒコ)」

その瞬間、“その出来事”は起こる。

「・・・・・・・・・(美幸)」

ドンッ!(崖から突き落とされる音)

「・・・ぅわあー!(テルヒコ)」

ドスッ。

「・・・・・・(気を失うテルヒコ)」

崖下に広がる茂みの青に消えた少年の姿・・・。

(あんたが産まれてこなければ・・・)※美幸

「・・・あんたが悪いのよ・・・・・・(美幸)」

(ねえ母さん・・・いるんでしょ。)※美幸

悪魔。

常軌を逸した行動の一部始終・・・。

彼女は既に、魔に魅入られていた・・・。

行動を正当化したい気持ちと焦燥感、後ろめたさ、ふつふつとこの上ない勝利に裏付けされた安心感(アンビバレントな優越感)が彼女の胸に去来する。

「・・・・・・・・・(美幸)」

グシュァアアアッ。(美幸の背中から飛び出す蜘蛛の足)

自ら弟を突き落とした彼女の背には禍々しい体液にまみれた節足動物の巨大な足が迫り出していた。

「なに、よ・・・コレ。(美幸)」

ゴュリリリ・・・・ブシャアア!!(変化する音)

「・・・アギャァ、ギャ、ガアアアアーッ!!(突如異形の存在=土蜘蛛へと変貌する美幸)」

「ねえ・・・・・・さん。(テルヒコ)」

ブゥーン!(虫の如き羽を広げ飛んでゆく土蜘蛛)

理性を失い、己の邪悪なる“本心”にのみ従った美幸(テルヒコの姉)は、この時魔性へ落ちた。

ものの数分間の変貌(メタモルフォーゼ)であった。

かつて(美幸だった)その生物は、崖から突き落とした実の弟を残しうめき声をあげ、叫びながら一匹の獣として何処かへと飛んでいった。

彼女により、少年の命の灯火は潰えた。

1時間後。

ザアッ(起き上がる音)

(姉さん、どうして・・・・・・。)※テルヒコ

彼女の手によって、消えたはずの命の明かりがー。

「オレ、生きてる・・・・・あれ、は・・!(テルヒコ)」

起き上がった彼が見たもの。

少年は一人10メートル崖下にある秘境、とある森林の中に全身打撲の状態で取り残されていた。

「・・・・・・・・・・・・(千里)」

暗い茂みのなかで、ぼやけた視界のなかにある人物が映る。

少年テルヒコの前に立っていた女性ー。

彼には、かつて忽然と彼らの前から消えた
彼女の正体がわかっていた。

時折夢の中に現れる面影に。

「・・・母さん、なの・・・(テルヒコ)」

「・・・・・・(千里)」

頷く千里は彼の前から去り、何も語らずゆっくり歩きだす。

「ちょっと待って・・・ハア、ハ・・・・!(テルヒコ)」

日奉神社の禁足地・・・

都市環境整備課が設置した看板は苔むし、張り巡らされたロープは劣化して擦り切れていた。

森の草木を掻き分け足を擦りむきながら、彼が進み歩いた先に見えた川岸の景色。

激流を受け存在感を放つ巨大な“岩石”。

ついに少年はそのご神体を発見する。

「アメノイワフネ(天の磐船)だ・・・・・・。(テルヒコ)」

「こんなところで眠ってたのか・・・。(テルヒコ)」

少年はその岩肌に触れ、懐かしい友に再会したがごとく目を閉じその冷たさを感じた。

その岩肌の冷たさから得られる安心は、闇に落ちた人間(美幸)の放つ毒々しい邪気と対照的な暖かさでテルヒコの心を溶かすのだった。

ギュウウウン!(磐船に吸い込まれた少年)

岩肌に手を触れた少年は、瞬間的に山中の川に佇む岩石(イワフネ)の中に吸い込まれ(内部)白い濃霧のような景色、揺蕩う白き光線(シャワー)の中に浮かんでいた・・・・・。

「・・・・(テルヒコ)」

彼が見せられた世界。

空をゆく星の輝き、無限の光のなかを・・・。

それはまるで異次元への船出。

はるかな意識のなかで、彼は彼自身のいのちのルーツ(起源)に触れた。

少年は舟の内部で見せられた夢と、その温かい光の中でいつしか一人眠りについていたのだった。

(このイメージ・・・・。)

星々の中に消えた夢。

少年がみた“ユメ”の中には、歴史のなかで幾度も、同胞(なかま)であった神々(アマツカミ)、かつての天使たち(マガツ神の祖先)との闘争を繰り広げる“謎の発光体”の姿が見えた。

美しく輝く高貴な堕天使は、生々しい水音をたて瞬間的な速さでグロテスクな黒き魔王の姿となり、呼応するように魔王の従える天使たちも次々と空中で姿をクリーチャーに変えてゆく。

(あの天使みたいなヤツは、じいちゃんの本にあった、ルシファーだ・・・!)

魔王(ルシファー)との攻防で瀕死の大ダメージを負い、はるかな時の狭間のなかで眠っていた、もうひとつの光・・・。

「テルヒコ・・・起きろ!(光)」

「そっちから先には行っちゃいけない・・・二度と帰れなくなるぞ。(光)」

「・・・あんたは・・・(テルヒコ)」

「お前は知っているはずだ・・・。(光)」

「大丈夫だ、俺がついてる・・・!(光)」

ユメの向こう側でー。

「ねえ、・・・起きてよ、あなた。」

はるか広がる雲を潜り抜け。

天上にいくつも浮遊するプレートとなった階段を下りその古の女神はワームホールに吸収されるような幻影を越えて洞窟へとやってきていた。

「たとえ、何度生まれ変わったとしても貴方の元へ行くわ・・・(古の女神)」

何度も繰り返された人類の歴史・・・創造と破壊、滅びゆく世界のなかで変わらなかった彼女(ユタカ)の願い。

彼女はある一人の人物(青年)の前に立ち、見つめていた。視線の先には硝子のようなケースにコールドスリープさながらに納められた彼の姿があった。

はるか昔、神々の戦いから今日まで・・・。

「“俺があの子(テルヒコ)を救う・・・あの子は俺の・・・!”(洞窟の奥で眠る青年)」

果たし得ぬ約束・・・。

「私は待ってる、あなたが目覚める日まで、いつまでも・・・。(ユタカ)」

眠り続ける彼の頬に手を当てる彼女は、その瞳の先映る星々を。

愛の記憶がいまだ眠る、地球を見つめていた。

「さようなら、コウタイジン・・・アマテルカミ・・・。(テルヒコ)」
※アマテルカミ=アマテラスと別(孫神)の男性の日神

テルヒコがイワフネに吸収され、数時間後ー。

バァンッ!(猟銃の音)

「・・・・・・・(大善)」

「姉さんはもう、帰って来ない・・・彼女は旅立ったんだ・・・。(大善)」

「美幸は、“力”に耐えられなかった・・・勝てなかったんだ・・・自らに・・・!(涙を流し下を見つめる大善)」

イワフネの前で、船内での出来事を忘れ倒れていたテルヒコに、祖父はただそう説明するだけだった。

「じいちゃん、これ・・・・・(テルヒコ)」

孫のテルヒコがアメノイワフネ内部から持ち出していたモノ。

「これは・・・・!!どこからこれを・・・(大善)」

鏡(アマテライザー)を差し出す孫に猟銃を持つ大善はただ震えていた・・・。

「ついにはじまってしまった・・・(大善)」

「これ(鏡)が現れたということは、千里の言葉どうりだ・・・(大善)」

「マガツカミは“地上のすべてを”・・・・・・。(大善)」

「・・・・・・そうか。手遅れだった、のか。(大善)」

「どうして、私たちはこんなにずっと・・・(大善)」

悲痛な表情を浮かべる祖父。

「うぅぐぅぅ・・・・・はあ、はあ・・(過呼吸に陥ったテルヒコ)」

「大丈夫か・・・・・。(大善)」

「じいちゃん・・・(テルヒコ)」

「もう、いいのだ・・・もう。(大善)」

「帰ろうか、テルヒコ。(大善)」

涙を流す大善は孫を抱きしめ二人は家路についた。

西暦20XX年。

「ぎゃぁあ~~ッ!!!うわあ!!!(クラスメート達)」

「アッギャアアアア!(土蜘蛛)」

「恐ろしいことになってしまった・・・・。(大善)」

世を包む新たなマガ・・・。

甦った闇よりの使者、魔王の再来と共に再び彼らの活動ははじまった。

大善はかつて天照の石像が立つ古墳地下で会った女との記憶を回顧し、戦慄のあまり震え上がっていた。

その日から封を切るがごとく、

テルヒコの通う学校の体育倉庫地下から無数の怪物(土蜘蛛)たちが大量に溢れだし、職員室から教室内までもが凄惨な様相を呈していた。

ガチャン!ガッシャアーン!(破損する机椅子)

「うわぁ・・・・・・うわぁあーッ!(テルヒコ)」

「グォアアア!(土蜘蛛となった同級生)」

怪物となったクラスメートの蜘蛛の足に押さえ付けられたテルヒコは、まさに死の危機に瀕していた・・・。

ピカアアーッ!!(縁側ガラス越しに降り注ぐ太陽の光)

「アガッアアアアアアアアア!!!(土蜘蛛)」

同級生は光をあびてその身体を異様なまでに歪ませ苦悶しているようであった。

(このクモみたいな化物・・・)※テルヒコ

変身の痛みか、光が少年を味方したのかはわからない。いまだ牙や触角を除き人間である体(下半身のみ土蜘蛛)の同級生の結われた髪が、ピンが外れ獣のように振り乱されている。

物語のアラクネー、茶色いカニのようなクラスメートの蠢く足。

「・・・・・くそォー!!(あるものを咄嗟に発見したテルヒコ)」

部屋内を濡らした鮮血。

ブッシャアーー!(鉄の棒を土蜘蛛の頭に刺すテルヒコ)

「ガアンアアーーーーッ!(土蜘蛛)」

ネジ切られていたパイプ椅子の鉄片を化物の頭につき刺した少年はその赤い返り血をその顔に思いきり浴びていた。

「・・・グォアアア!(テルヒコくん、やめて!)(土蜘蛛)」

「・・・・・・?!(テルヒコ)」

「ガアアッ!(迫る土蜘蛛)」

(・・・・・じいちゃん、俺は・・。)

グシャ!「・・・・・・!※(再び鉄の棒を頭に突き刺す音。何度も虚しい音がこだまする。)」

「・・・・・!(テルヒコ)」

「ガアァーーッ!(腕を思い切り噛まれたテルヒコ)」

夕暮れ・・・。

「・・・・・・(テルヒコ)」

その戦いを負えて。

失意呆然の少年テルヒコは、傷口を押さえながら虚ろな目で高台、高城メロディ時計台に一人来ていた。

林を自転車で抜けたさきにある小高い公園。

クロウ宮崎支部の(隠し砦)でもあったメロディ時計台のスピーカーから、皮肉にも町全域に(夕焼け小焼け)のメロディーが流されていた。

「♪お手々繋いで皆帰ろ。カラスといっしょに帰りましょ。(メロディ時計台のBGM音)」

少年の先の未来を嘲笑うようにカラスたちは鳴いているようだった。

血なまぐさい惨事の後に似つかわしくないメランコリックなオレンジ色の空。歌詞の無いくぐもったBGMのみの(夕焼け小焼け)・・・少年の胸中にさらなる侘しさとやるせなさが押し寄せる。

戦国時代の城跡には、今では小さな時計台と戦で命を落とした英霊を慰める石碑が建っていた。

「・・・・・・・・・・。(寂しく佇む2人の影)」

祠、道祖神が無数に立ち並ぶ道を通り抜ける中、薄い影となりテルヒコを見守る二人の男女らしき姿。

かつて耳川で戦ったシマコ(浦島子)と、赤ん坊(後のハナ)を抱えたサクヤの影が、夕日の日差しを受け高城から町を眺めている少年の背中を見つめていた。

「・・・・・・・・・・。(サクヤ・シマコ)」

そんな二人の姿に、少年は気付かなかった。

タタタタタッ!(高台の向こうから走る足音)

彼(テルヒコ)を見つめる少年。

「・・・・・・・・・・・?(すれ違い振り向いた少年リョウの瞳)」

夕焼けの高台で、少年たちは出逢っていた。

時計台まで遊びに来ていた近所の小学生の一人、リョウが元気に走りゆく友人たちを追いかけ、そのほんの“すれ違いざま”にテルヒコの姿を見つけた。

「・・・・・・(リョウ)」

「・・・・・・(テルヒコ)」

「キミ、第二小の子?(何だろうこの子は・・・。)(テルヒコ)」
※地元小学校

テルヒコが少年リョウの存在に気づいた時、リョウの背後にいたシマコ(浦島子)の影も消え居なくなっていた。

「そうだよ・・・(リョウ)」

「おいリョウォーッ!(リョウの友人たち)」

「あ、ワリィわりいー!!(走りゆくリョウ)」

「・・・・・・(走り去るリョウを見つめるテルヒコ)」

テルヒコは、あの日に大善が自らに手渡した(鏡)を取り出し彼の自らに言った言葉を思い出していた。

「テルヒコ、君は・・・本当はたくさんの人たちに愛されていたんだ・・・。この鏡に込められた私からの想いを、受け取ってくれ。(大善)」

祖父の悲しそうな顔。優しい顔。

託された、彼と彼の愛するすべてのものたちを繋いだ神器。

「じいちゃん、ありがとう・・・。(テルヒコ)」

テルヒコは何故だか溢れだす涙をおさえることができなかった。

彼の後ろには、彼にはけして見えなかったが、その背後に彼をこれまで支えてきた、たくさんの人たちが集っていた。

鏡を見て一瞬だけ、何か気付いた表情で時計台天守閣の縁側から見下ろせる城下町の数キロメートルにわたる町並み(海、山、川、家々が見える)の全景を眺めた。

彼がみた町全域には、靄(もや)のような無数の黒い影、計り知れない数群れをなした禍々しいその気配が小さく、広大に満ち溢れていた・・・・・・。

(どうか、忘れないで。)※ユタカ

そのとき彼の記憶の片隅にとり残された、かつて弥生時代に聞いた彼女の声があの当時のまま変わらず甦った。

to be next・・・!(YouTubeより公開中のテレビ版本編1話へつづく)

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