episode.20 アリア~詠唱歌
日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~
(連載小説)
(イラスト・小林ユキト)※イメージイラストはアマテライザーを持ったテルヒコとユタカ
(小説版キャッチコピー)
「灼熱のなか真実が蘇るー!」
神代~弥生、平安、戦国、令和と繰り広げられる
魂ゆさぶる伝奇スペクタクル、
愛を巡り戦う戦士たちが紡ぐ群像劇(ドラマ)ー。
(あらすじ/邪馬台国の戦火を逃れ残った神秘の鏡、アマテライザーに導かれる記憶を失った青年テルヒコと彼を導く女神ユタカの壮大な歴史の波を駆ける大河アクション小説。台詞後ろ=( )キャラ名)
登場人物(テルヒコ/本作の主人公。記憶を失った青年。その正体は滅びた邪馬台国のかつての王子。)
(ユタカ/鏡を通してテルヒコを導く謎に包まれた女神。かつての卑弥呼の後継者。)
(石上雅也/魔界に魂を売りテルヒコと彼の祖父大善らと対立するライバル。九頭竜と契約し後に令和の世において冥王イブキとなる。)
画像・戦国時代、耳川の合戦にて初期創聖者三人。(テルヒコ・シマコ・サクヤ)
中央/テルヒコ
(記憶を失い戦国の世を彷徨う王子テルヒコの創聖した・スサノヲアームド形態。自ら戦う理由、愛する者たちの記憶一切を忘れており闇を討つその本能のまま修羅の如く闘い続ける。)
右側/シマコ
(邪馬台国時代のテルヒコの親友シマコこと浦島太郎が創聖した水神ワダツミ。テルヒコからかつて神器を渡されており海底の龍宮で特殊能力を身に着けた。)
左側/サクヤ
(神器継承者として宮崎を代々守護してきたコノハナサクヤヒメの後裔、姫神サクヤ。公私ともに使命に生きサクヤを名乗る。蔦のような重火器、カグツチを愛用するスナイパー。)
(※本作品はフィクションです。本小説に登場する人物および団体事件いっさいは実際に存在するいかなる人物および団体とも関係はありません。)
(※以下エピソード本文)
耳川の戦い、高城流域の戦闘から1週間弱が経過した。
突如女神マガツヒノカミの来襲、突如として行われた徹底的な破壊により
大友・島津両軍は甚大な被害を受けた。
太古より人々のおそれた神のわざわい。
その屈辱的ともいえる敗退の結果に、戦場から一人敵前逃亡した大友宗蘭は
無我夢中で郷内野山を駆けずり回り、それ以降行方不明となっていた・・・。
戦意を完全に失った大友軍、島津軍の士気の低下は甚だしく
完全な泥仕合といえる修羅場、斬り合いは数日にわたって続いた。
川に流れる死体の山を見ながら、無事戦から生き延びたシマコは、木の枝で地面になにやら謎の絵を描きながらサクヤにこうぼやいた。
「なあ、この戦いが終わったら俺ら二人・・・。(シマコ)」
「あんら~、ザンネン。私許嫁がいるの。そんな簡単には靡かないわよ。(サクヤ)」
(えっマジで・・・)※シマコ心の声
「・・・なんてね、考えといてあげるわ。この先まじめにやってくれるならね。(笑うサクヤ)」
「だ、誰もそんなつもりで言ってねえよ~、脳裏には何度かよぎったけどよ・・・。
俺は単に神器のことで・・・(川から流れてくるテルヒコを発見して)あ、おいサクヤあれ見ろ!・・・テルヒコだぜ!(シマコ)」
「・・・生きていた・・・!テルヒコ。早く行きましょ!(サクヤ)」
「ああ!(シマコ)」
「テルヒコ、お~い!そっちいっちゃだめ!海に行っちゃう、皆の者、早く追って・・・!(サクヤ)」
「おい、あの者が生きていたぞ・・・!(総本家の人々)」
ダダダダダダッ!※(追う人々)
高城川の向こうから、死体のうちに紛れて甲冑の一部外れた若武者テルヒコが流れてくる。
生きていた・・・!サクヤとシマコたち、二人の眼は明るく彼に向けられた。
「このバカ者!皆心配したぞ!あんたいつから桃太郎になったの・・・!(サクヤ)」
※彼が川から流れてきたため
「みんな・・・・・生きてんだな。よかった・・・・!(表情が変わるテルヒコ)」
「可愛いげあんじゃない、その顔のほうがいいわよあんた。(サクヤ)」
「お~い!皆の者ォオ!今度の勝利は大明神の加護あってのことだ!祝杯にあずかろう!(島津兵)」
「よし、今日は姫の屋敷で酒盛りに決まりだ!(シマコ)」
「バーカ!うちはそんな無駄金ないよ!(サクヤ)」
「フフッ、お前ら、お似合いだよな・・・(テルヒコ)」
「はぁあ?(シマコ・サクヤ)」
戦地からの帰還。三人の戦士の距離は、初めて知り合うその時以上に強烈に近くなっていた。
その夜、日下部邸宅の縁側(サクヤ総本家の駐屯地)にて・・・。
「・・・イブキは、まだ日向の地に隠れているんだな。(テルヒコ)」
「どうやらそのようなんだ。奴ら大友の連中はいま、美々津のほうに退却してるってよ。
姫君も奴らのいうムシカってとこに攻める策を立ててる。(シマコ)」
「なら・・・俺たちも行くしかないな。(テルヒコ)」
「ああ・・・こいつがありゃあ、俺らは天下無敵だぜ!(リューグレイザーを見つめるシマコ)」
自信に満ちた誇らしげな表情でそう言ったシマコであったが、しばらくすると一人テルヒコとは反対側の庭園を見つめ、
何も言わずなにかをぶつぶつとつぶやきだした。
「・・・・・でも、ありゃあ・・・・・(シマコ)」
「ユタカ、だったんだよな・・・・・・・・。もう何百年も・・・。(シマコ)」
シマコは、その夜友の前で泣いているようであった。我慢してもどうしようもなく溢れてくる、涙。
悔しさ、どうしようもない怒り。
こんな時に泣くほかはない己の弱い心への憤り。
遠く障子の向こうから姫君、サクヤの酔っぱらって笑う威勢のいい声が聞こえてくる。
「(ああやって・・・羨ましいな・・・)(テルヒコ)」
合戦の際、青年二人は確かに彼女(ユタカ)が、鉄鋼神へと変ずる様を見てしまった。
「・・・やはり、お前彼女を。知っているんだな、教えてくれ・・・!彼女は。(テルヒコ)」
彼(テルヒコ)は記憶を失った己と、元に戻らないこの現状がこれ以上ないほど恨めしく思われた。
(昔、何があったというのだ。俺は、どうしてこんな風になってしまったんだ・・・!)
「あいつはな、・・・ユタカは、俺たちの大切な。姫だったんだよ。(シマコ)」
「お前が一番ユタカのことを知ってたんだ。なのに・・・。(シマコ)」
「なのに・・・・。神も仏もいねえのかよ、この世には。どうして続くんだよ、こんなことばかりが・・・(シマコ)」
自分を突き動かすものの正体。彼はそれに出会った・・・。
「ユタカはなあ、自分勝手でおてんばで、下らないことばっかりやって怒られて・・・・
あんなしてるくせに、臆病で。だから・・・。(シマコ)」
「あいつの横には、いつもお前がいなくっちゃあ・・・(シマコ)」
「そうでなくちゃ駄目に決まってんだ・・・!(シマコ)」
「・・・ありがとう・・・・・・!(テルヒコ)」
溢れ出す涙。テルヒコは、普段見せない表情を友の前で見せた。
シマコは彼の顔を一度だけみると、もう二度とその表情を見ようとせずに、慮って空に浮かんだ満月を睨みつけるのであった。
「必ず、見つけ出す・・・この俺が。(テルヒコ)」
自分たちだけが、この地を、その力を護ってゆけるのだ。
熱い、男だけしかわかり得ぬ友情-。
もう、二度と己のための涙など流せない。二人の漢たちは悲壮な思いを焼き捨てる意思で、そう決意していた。
ガシャッ!(障子を開ける音)
「うぅへえなあ(※うるせえなあ)、あんたらな~ぁあに゛ィイやってんのんよぉおお?
おら!アタイの宴会に付きあぇええ!なんか歌え!ほらお前もー!(シマコの足を引きずる酔っぱらったサクヤ)」
「あっスミマセンちょっとやめて、何この人いやああ!!(男たちのいる酒の席に引きずられるシマコ)」
「俺は・・・遠慮しとく。まったく飲めないんだ。(テルヒコ)」
「つきあいわりいなあ!ガハハハハッ―!(真っ赤に酔っぱらったサクヤ)」
(※聖地トリビア)コノハナサクヤ姫を祀る宮崎の都万宮神社(モデルとなった都萬神社)は、清酒発祥の地とされる。
翌朝・・・・・・・・。
「と、いうことで私と二人は大友の将を手分けして探すわよ。(ぅぇえ。なんだか飲みすぎたわ・・・。)(サクヤ)」
「はい・・・・・(げっそりした顔のシマコ)」
「大丈夫かよ?茶は飲んだか?昨日もらった施薬 (せやく)は・・・。(テルヒコ)」
※施薬 (せやく)=お寺などで配布されていた酔い止めの薬
「ここが大友の本拠地がある、ムシカ・・・(テルヒコ)」
馬へ跨り広大な日向の自然を駆け、山々の向こうまで走り抜けた三人。
その先に見えた景色・・・港がある。賑わう絢爛豪華な街並みが見えた。
二日酔いを引きずるサクヤと悪夢から帰還したかのようなゲッソリとした表情のシマコを心配しながら
言わんこっちゃないとばかりに笑うテルヒコは目の前に広がる宗蘭のユートピア、
彼自身の居を構えたキリシタン(切支丹)たちの里、今の延岡(のべおか)市、無鹿(ムシカ)へと訪れていた・・・。
※延岡市は(大友家)が本拠を持つ隣県大分県に隣接している。
ポルトガルの法律、制度による政治を目指した理想郷たるキリスト教都市。
ムシカはその小さな実験的都市であった。
パチパチパチ(拍手)
♪(※美しい弦楽の音色が聴こえてくる)
「うわ~姉ちゃん、すげえ!(拍手を送る女の子、男の子)」
(※弦楽器の美しい旋律)
遊牧的な風景、楽し気な人々の顔。
魔王が管轄しているようには一見見えない町。
「この音色は、どこから・・・(テルヒコ)」
無数に立ち並ぶ教会、日向国のほかの村とは異なる
独自のキリスト教圏の文化が育っている真っ最中の里の中でテルヒコはその音色を耳にした。
「・・・・・!(テルヒコ)
「・・・・!!(子供たちに囲まれ、テルヒコに気づいたユタカ)」
テルヒコ、そしてユタカはこの地にて再び出会う。
お互いの存在に気づき、どちらから声を掛ければいいんだとばかりに・・・複雑な表情となる二人がそこにいた。
「・・・・・(テルヒコ)」
「シスター様・・・聞かせてよ!ねえどうしちゃったのよ!(女の子)」
「テルヒコ、おーい!(なにぼっとしてるんだこいつ)なにやってんの?!・・・(サクヤ)」
「あ、あのそこの方(ユタカ)。ここに大友家の礼拝所があると聞いたのですけれど、あなたご存知?(サクヤ)」
ユタカとの再会。凍り付くシマコとテルヒコをよそに、サクヤは全く存ぜぬ顔で目の前の修道女として
教会に仕えているようであった彼女(ユタカ)に尋ねた。
「・・・知る限りでいいのなら教えてあげましょうか。(ユタカ)」
「やった!あなた、土地勘ある人なのね。(サクヤ)」
「なにも大したものは出せないけれど。・・・気をつけなさい、あなたたち・・・狙われてる。(ユタカ)」
(え?!)※周囲を見渡す三人
「・・・来なさい。今なら大丈夫。教会の中ならば・・・。(ユタカ)」
明らかに彼女は先刻のユタカ本人だ、そう確信を抱いたつかの間、その思いをよそに何も言わずに彼女は彼ら三人を
ムシカの里内にある教会の中へと誘った。
教会の入り口付近に掛かっている大量の武器。
「薙刀・・・?!(テルヒコ)」
「もしもここ(教会)が襲われたら必要になるでしょ?(ユタカ)」
「武芸の嗜みがあるのね。(サクヤ)」
「私はここでずっと仕えているわ。(ユタカ)」
「・・・残念だけど、あなたたちのいう礼拝所に、大友宗蘭はいない・・・今ここにきているのは。(ユタカ)」
ガチャ!(教会の扉を開ける音)
※(教会玄関に立つ二人のキリシタンの少年)
突如として入ってきた、伴天連(バテレン)の装束を纏った張り詰めた雰囲気の少年二人、
後の宗蘭が海外ローマへ遣わした少年使節団となる(伊堂マンショ・千々和ミゲル)が教会入口に立っていた。
「聖女(シスター)様!この里に・・・・邪悪迷妄なる異教徒が紛れ込んでいるというのは、本当ですか?!(伊堂マンショ)」
伊堂マンショ、大友宗蘭の名代(ピンチヒッター)であり彼の血族、洗礼名はフランシスコ(不龍獅子虎)といった。
(のちにとある事情から彼の隣にいたミゲルは、キリシタンの教えを棄教する。)
宗蘭が失踪し数日。マンショ(不龍獅子虎)は血なまことなり宗蘭(イブキ)を追いやった邪教徒(彼から見た、創聖者三人)を追いかけ日向中を奔走していた。
「ぜったいに生かしておけぬ。やはり野蛮なる未開人(宮崎人)も主の洗礼(バプテスマ)を受けねばならんのだ。(マンショ)」
「その者たちは帯刀した武士のようですが・・・このムシカ(理想の国)にそのようなモノは(ミゲル)」
「私のお友達よ、二人とも感心ね。(ユタカ)」
「あ、フランシスコ(不龍獅子虎)様だ!(庭で遊ぶ子供たち)」
この時、マンショそしてミゲルは宗蘭の本質と彼がとっくの昔にキリシタンの教えを忘れ実質棄教(※教えを捨てた)し、
マガツ神に利用されているということを当然のことながら知らずにいた。
熱心な伊堂マンショ少年の真面目なまなざしは、自ら信ずる者に対する真剣さという意味では宗蘭のように妄執で醜く穢れたものではなかった。
ユタカは二人の血気盛んな若者を見るとため息をつき、向こうの棚のなかからなにやら(筆と習字に用いられる炭)を持ち出し、天使のような優しい笑顔でそれが乗せられたお盆を抱え少年たちに微笑みかけた。
「(なにをするんだ?!彼女は)(テルヒコ心の声)」
「(ドキン!)(マンショ)」
「あ、聖女様なにをなさるんですか?!うわあ!(動揺するミゲル)」
聖女(ユタカ)が少年らの額になにやら手を当てているようにテルヒコは見えた。
「・・・なにこれ。(サクヤ)」
「わたしから悪魔除けのお守りをあげましょう。ちょっと待って、動かないでよ・・・はい。(ユタカ)」
「あの刻印は・・・!(サクヤ)」
額に(肉)と書かんばかりに、マンショとミゲルの額に描かれたマーク。逆十字の落書き(聖なる紋章)を筆と炭でユタカに描かれた二人は真っ青に固まり困惑していた。
「はいこれで君幸福ー!はいキミもー!(ユタカ)」
「ちょっと僕らこれでは・・・!(マンショ)」
「・・・ぷ、ハハハハ!なんだよその十字マンは!(笑いだすシマコ)」
「し、失礼な!神への冒涜をする気か!まさか貴様らが・・・。(マンショ)」
「大丈夫よ。彼らはあなたが探してる人物とは逆の人たちよ。しばらくここで大人しいく子供たちといてほしいの。(ユタカ)」
「・・・ですが聖女様、僕らは。(ミゲル)」
「まさかワタシのまじないが信じられないの?!(ユタカ)」
「いえ、そんなわけじゃあ!(ミゲル・マンショ)」
「あなたたち、行きましょう。(三人を連れ出すユタカ)」
十字の有難いマークが刻まれた二人の少年たちは、飛び掛かる子供たちと共に教会のなかに軟禁もといポツンと置き去りにされた。
一時間が経過し、
ムシカの里、山の奥ふかくに踏み入った(礼拝所=はなれの空間)。
昼過ぎ、蒸し暑い陽射しのなか
宗蘭の通っていたという小さいお堂のような礼拝所にテルヒコとシマコは到着していた。
戦の際も自らは前線に立たず頻繁に一人(礼拝所)で祈ったという宗蘭。ここムシカの里においても彼個人のため作られ、麓に住む人間には判別できぬよう無機質な石の壁に覆われたその(教会)に三人は連れられていた。
「外からじゃわかりかねるが、確かにキリシタンの礼拝堂だ。一見すると天狗の住まう穴蔵のようだが・・・。(テルヒコ)」
「丁寧に花まで・・・!(シマコ)」
教会礼拝所の部屋の中、いつの間にか祭壇に立っていた男性の影に彼らは驚いた。
「遅かったな・・・お二人さん。(八幡神)」
二人の前に立つ数珠を下げた坊主頭の僧侶らしき男性(推定3~40代弱に見える)。
「片方の坊主(シマコ)は異界(竜宮城)から戻ってまもないようだが、お前様(テルヒコ)はなかなか時間が経過しているようだな。(八幡神)」
「あんたは何者だ?!大友家の家臣か?(テルヒコ)」
「ボウズって、(そのアタマの)あんたに言われる筋合いはねえよ・・・。(シマコ)」
そのころ礼拝所周辺の広場にて。
里の一角に設置された広場中央の噴水で彼女たち(サクヤとユタカ)はベンチに座り、互いの身の上を打ち明けた。
「そういえば名前をお伺いするのを忘れたわ!私サクヤ。よろしくね・・・あなたは?(サクヤ)」
「橘(たちばな)よ。橘・・・未琴(みこと)。(ユタカ)」
「橘さんでいいわね。アタイのことは省略してサクちゃんでいいよ!皆そう呼んでるから!(笑ってひじ鉄をやるサクヤ)」
「・・・・・・(ユタカ)」
(しまった、距離つめすぎた!)※サクヤ
「あなた、隣にいた二人は・・・。(ユタカ)」
「ぁあ野郎(男共)ね。私の家臣よ。(サクヤ)」
「そう・・・賑やかそうでいいわね。(ユタカ)」
「・・・隣にいた彼は、テルヒコはいまどうしてるの?(ユタカ)」
「え?あなた彼の知り合いなの?(サクヤ)」
「ずっと前に、すこしね。(ユタカ)」
「・・・いっしょに暮らしていたの。本当はすぐにでも・・・。(ユタカ)」
(えっ・・・・あいつ(テルヒコ)、なんか知らんが道中訳アリなのかな?!)※サクヤ心の声
「でも、昔のはなしよ・・・戦で家族が殺されて、私もここ(ムシカ)につれてこられて。修道女になる条件でたまたま助かったの。(ユタカ)」
「そうなの・・・可哀想に。(サクヤ)」
「でも、別になんともなく普通にやってるわ。あそこは、他の場所とも変わらないし。(ユタカ)」
「だけど・・・(ユタカ)」
「さっきだって、彼なにも言わなかった・・・(ユタカ)」
複雑な表情、浮かべる諦めの混じった笑みがサクヤには見えていた。
先ほどまで落ち着き払っていた彼女の表情は、少女を前に心なしか安心しているかのようだった。
「そうなんだ。(サクヤ)」
「なら、直接に尋ねてみたら。きっと喜ぶよ・・・。彼、頭打ってスッカラカンで何も自分のこと覚えてないようだし。(サクヤ)」
「でも、そんな・・・私なんかが。(ユタカ)」
「大丈夫だって、まさかトンでもない喧嘩別れでもしたとか?!(サクヤ)」
「違うのよ・・・・・・(ユタカ)」
「どうしたらいいと、思う?私・・・(ユタカ)」
揺れる澄んだ黒い瞳。
「(この子の目、童女のようだわ・・・)(サクヤ)」
戦いを忘れた日常の中でなされる会話。彼女はユタカの表情を見るうち、何かを読んだかのような顔でサクヤは優しくも冗談ぽく笑った。
「さっきのカオと違って・・・乙女な顔になってるよ。それが本当なのね。(サクヤ)」
「え・・・なにを、そんな!ただ私(ユタカ)」
「(照れちゃって・・・)なるほどナルホドナァアー(棒読み)、ソーカナンダソーイウコトカ(棒読み)・・・(サクヤ)」
「違う・・・違うのよ・・(ユタカ)」
「不器用なんだねぇ。それか、そんならこのアタイの勘が外れたかなあ・・・。(サクヤ)」
「でも、どっちにせよオアイコかも。あいつもあなたの倍は不器用そうだからね。(朗らかに笑うサクヤ)」
「・・・もってあと1年、そう私あちらのお医者様から言われてるの。(ユタカ)」
「・・・え、・・・・・・。(サクヤ)」
ヒュー・・・・・・・・・(吹く凍てつく風の音)
「ご、ごめんなさい、いろいろと私ったらダメだなぁ、もうほんとにこうー言うとこが、ダメなのよねぇあたしは・・・。(サクヤ)」
突然のユタカの告白にサクヤはどう返せばよいのか焦ったが、彼女(ユタカ)は悲しげな顔を見せず、サクヤの慌てようを見てくすっと静かに笑い港のほうを見つめ話し続けた。
「いいの・・・彼が元気なら。(ユタカ)」
魔王(九頭竜王を操る本体)に自らの力を封じられ、千年。地上へ再び蘇るため得た仮設(にせ)の体。
黄泉の穢れの力を受けた彼女(ユタカ)の肉体は、急激なスピードでその終わりに。
着実に死に、・・・腐敗に近づいていた。
そのころテルヒコらが対峙する礼拝所にて。
「キリシタンの宣教の裏でいまこの国に何が起こっているのか、お前たち二人は知っているか・・・?!(八幡神)」
「な、・・・なんのこっちゃ。(シマコ)」
「そりゃイブキが・・・!(テルヒコ)」
「人身売買だ。(八幡神)」
「なに・・・?!(テルヒコ)」
「・・・・・・!(険しくなるシマコ)」
「南蛮船に乗った商人により、海外に売り飛ばされる奴隷、幼き子らから、男女関係なく何万と・・・。すべてにべもなく奴等はその裏で、なんの疑問も抱かずやっている・・・!(八幡神)」
「じゃあ・・・さっきの教会にいた子達は!(テルヒコ)」
「そうだ。彼らも身寄りがない・・・。イブキを打ち祓わぬ限り、いずれは子供たちも無事でいられる保証はない。大友はそれに一切疑問を抱くことなく・・・今後も自らの領土を広げるつもりだ。(八幡神)」
キリシタン布教の背景にあった海外の商人たちによる日本人の奴隷の人身売買は、この時代最も深刻な社会問題であった。
後の世において天下統一の夢を抱いた豊臣秀吉は九州視察の際、各エリアにおけるキリシタンの布教活動の影に隠れた(驚くべき安さで諸外国へと売り飛ばされた奴隷たち)の問題と、(ポルトガル船による日本侵略の危険性)を彼らの背後に感じ、肯定的立場から一転、一切の布教を禁止した。
(許せん・・・!)
「・・・・・戦と無縁の子供まで・・・・・・宗蘭・・・!(テルヒコ)」
「酷すぎんぜ・・・!手前の国がよっぽど大事かってんだよ、あのペテン野郎!(シマコ)」
「ちょっと悪いが、(シマコの肩を叩く八幡神)」
「オッサン・・え?!(振り向くシマコ)」
「・・・・・・(動きが停止したシマコ)」
テルヒコとシマコのいる時の流れに生じたひずみ。
「・・・ん?あっれ!テルヒコがいないぞ・・・!おぉい、おーい!・・・え、うそ。どこに消えちまったんだ~!(シマコ)」
「あのハゲ坊主のオッサンもいったい・・・(シマコ)」
このとき、世界は分断されていた。
シマコから見た世界、八幡(男)とテルヒコから見たその空間(せかい)ー。
「世界線は無数にわかれている。いずれお前もすべてを思い出すことになるだろう。そのときまで、いま一時の苦しみだ。(八幡神)」
時の止まったシマコをよそに、現れていた八幡神と名乗る僧侶風の青年は取り残されたテルヒコに彼にとってのある重大な秘密を打ち明けるのであった。
「私は女王のいる・・・“こっち側”の者だ。・・・今覚えとらんだろうが、お前との付き合いは古いんだよ。(八幡神)」
「女王だと・・・・!(テルヒコ)」
「さあて、どこから話せばいいかな。(八幡神)」
なんとも言えないため息をついたその男から放たれた言葉は驚くべき内容だった。
「・・・・おいシマコ!おい!(動かないシマコを揺さぶるテルヒコ)」
「いったい貴様、ナニをした!(テルヒコ)」
「ムダだ。今現在すべての時の流れが止まっている。この場所は私と女王だけしか本来はこれないんだがな。(八幡神)」
「実は、お前に伝えたいことがあって私はここにきた。(八幡神)」
「・・・・・・!(テルヒコ)」
「お前がここにきたのには理由がある・・・見せてやろう、すべてを。(八幡神)」
(どうしたんだ・・・・・・!景色が、)※テルヒコ
ピカーッッ!(光に包まれる教会内)
目の前に現れた八幡神から告げられた言葉。青年は揺れる目の前の光景と、遡る激しい意識のなかで強烈な息苦しさに襲われた。
「いい加減よせよ・・・。(テルヒコ)」
「・・・・あんたが神だというなら、本当にこの世界に救いはあるのか・・・?(テルヒコ)」
「?!(八幡神)」
「あとどれだけ戦えば解放される。・・・(テルヒコ)」
「どれだけ人の悲しみを見れば、飲み込めばいい・・・・・!(テルヒコ)」
「あの子ら(奴隷)のことも。いつになれば・・・闇はッ・・・!!(テルヒコ)」
「それこそが、お前に与えられた試練だ。我々と同じ天使としての・・・。(八幡神)」
「・・・・・・・天使・・!(テルヒコ)」
「今の大友・・・魔王イブキを倒し人間たちを救うためには。いまのお前のスサノヲの力のみでは完全には、それはできない!(八幡神)」
「・・・・・・・・・(テルヒコ)」
「いまお前が手にしている神鏡。それがお前と姫様、ユタカ様を繋ぐ神器だ。」
「お前が姿を変えたあの戦士は本来、今と違う“真紅の姿”だったのだ。お前の日の神としての力・・・それは闇により岩戸へ封じられ、本来の力を発揮できなくなっている。」
「お前が求めたものを、思い出せ・・・!(八幡神)」
テルヒコの前に現れたその男、彼の見開かれた眼。その瞬間に、青年の魂にかつて倭国において彼の仕えた女王と同じように・・・時空を越え過去、そして数百年後の彼が歩む未来に至るまでのすべて、そのとき感じた体験“記憶”がスパークし、瞬時に通り抜けていった。
「俺は、これまで・・・。」
それは、彼が愛した(たった一人の彼女の、記憶)ー!
どんな闇も照らす、眩しい光ー。
どれだけの闇でも・・・。
微笑みかける顔、その記憶を追い・・・。すべては砂の幻と消える。
「今回だけ特別に、だ。(八幡神)」
「いまお前が見せられた景色は、数年後・・・。いずれ忘却のなかに必ずきえ抹消される。すまんが、これも神界(われら)の掟。助けてやりたいが。(八幡神)」
(・・・・・・・・・・・・)
青年の顔つき、“その眼”一切は変わっていたー。
そのとき青年の魂のなかに、かつて自らが置き去りにし、忘れ去った(あの記憶)が完全に蘇った。
「時間は残されていない。・・・いけ!姫様の心を取り戻すことができるのは、お前しかいない!(八幡神)」
「・・・・・・!(テルヒコ)」
テルヒコは彼を見ると、なにも言わず扉を明け走り去っていった。
突如として礼拝所に入ってきた先ほどの少年キリシタン二人(マンショ&ミゲル)。
「・・・おい邪教徒が勝手に!あれ、もう一人はどこへ消えた?!(いくら擦っても額に描かれたマークが消えないマンショとミゲル)」
バキバキバキィッ!!ズッガガガァーン!(砕ける床の中から飛び出す土蜘蛛)
「現れやがったか!(シマコ)」
「ギィヤラアアアアッ!!(教会内部に現れた土蜘蛛)」
礼拝所の床を突き破り現れる無数の土蜘蛛(モンスター)。
砕け割れた床、穴から覗き見えた奥には、異質さを放つ不可知のブラックホールにも似た暗黒が広がっていた・・・。
「うわああァァーー!出たなあ!あ、あァァ悪霊めぇえ~!(ミゲル)」
「フランシス様の礼拝所をー!(マンショ)」
「ケッ、目出度(めでて)ぇ奴等だ!創聖!(シマコ)」
(ソウセイセヨ・・・!)※青き輝きを放ち鞘から解き放たれるシマコの剣、リューグレイザー。
現れた青き竜王(セイリュウ)、水神ワダツミの威風堂々たる姿、サクヤ(火)と対極の、(水の力)ー!
「何を信じるか勝手だがよ、そいつァ(土蜘蛛)お前らの、将軍の信徒だぜ!(シマコ)」
目の前で起こる禍なる奇跡(土蜘蛛襲来)に恐怖と動揺を隠せない二人であったが、マンショは声高らかに自らの信念をシマコの創聖するワダツミの前で言いのけるのであった。
「だっ黙れこのドラゴン(悪魔)ー!(マンショ)」
※ドラゴンは西洋では悪魔のイメージが多いが東洋では聖なる神獣とされることが多い。
「気を付けろよ!敵(マガツ神)といっしょにされちゃあ困るねぇ!いくぜー!(シマコ/ロッドを振りかざす水神ワダツミ)」
ダダダダダッ!!(駆けるシマコ)
シマコ(水神ワダツミ)は全力でミゲル・マンショの少年二人を捕まえ、ロッドで土蜘蛛どもを凪ぎ払いながら教会を脱出した。
ムシカの里、平時よりユタカの奉仕していた教会にて。
「・・・・そんな、フランシス様(大友宗蘭)がそんなことをなさっていただなんて、信じられません。(マンショ)」
「悔しいです・・・・・・!(マンショ)」
「え、フランシス様がどうなさったの?(女の子)」
「そうらんさまは王様だよ!(子供たち)」
「意外・・・。あんなだから、大友ってもっと野蛮で女好きなヤツかと思っていたわ。(サクヤ)」
「皮肉だよな。最初はそんな思いでいたのに・・・。(シマコ)」
ローマではキリシタンたちの(王)とまで呼ばれていた大友宗蘭。シマコに助けられた二人の少年(伊堂マンショとミゲル)たちは、教会に戻っていたサクヤとユタカの前で自らが信じたかつて理想郷をムシカに建国しようとした、(彼らの王)であった宗蘭の姿を打ち明けた。
「本当は、私たちは眼を背けていたのかもしれません。(ミゲル)」
「言われてみれば、確かに我が将軍は近ごろ人が変わったようであると、教会の者も言っていた。・・・あの方の苛烈な面は知っていますが、時折お見せになる優しい顔も私は見ています。(ミゲル)」
「だが・・・私たちは信仰を棄てるなどできません。ここの子らも、ここに住まう者らも中には戦で住む場所のない貧者は大勢います!奴隷になろうと、口べらしのため我が子を売る親が一番の悪ではありませんか!(マンショ)」
二人の少年キリシタンたちの苦悩する顔、絶望に満ちた表情に、サクヤは同情の念を寄せた。
「でも、大友家をあのままのさばらせては。理由がどうあれ神を建前に戦をするのが正しいはずはありません。子供たちも悪魔にまたいつ襲われるか。(サクヤ)」
「・・・あなたたちが絡んでいるとなればなおさら、私たちが黙っているわけにはいかない。(サクヤ)」
※マンショを輩出した伊堂家も島津家と別に都万宮神社(※モデル=都万神社)によく参っていた。
「ですが戦は領地を拡げるには仕方のないことで・・・これも我が主のお導き・・・(マンショ)」
「・・・ッお黙り!!他人様の命をぶっ殺しといて、屁理屈こねんじゃないよ!(サクヤ)」
「うっ・・・・・・(マンショ・ミゲル)」
「確かに彼女の言うことは正しいけど、同じくらいあなたたちだけが悪いんじゃないわ・・・。結局みんな大人のエゴよ。子供たちを捨てたのもそう。(ユタカ)」
「聖女さま・・・私たちは、教えをこれからもまもります!フランシス様が・・・宗蘭様が(※悔恨し心根を入れ換え)立ち直られて、お帰りになるまで!(マンショ)」
「私もです・・・!(ミゲル)」
「そうね、偉いわ。彼(宗蘭)も・・・賢い、いい子ら(マンショ・ミゲル)に恵まれたわね・・・。」
「何が正しいか、悩みながら好きにやってみるがいいさ。俺もそうやって生きてるからよ・・・ま、奴隷制度ってのだけはムカつくけどな。(シマコ)」
「はい・・・。(このドラゴン・・・)(意外、という表情のマンショ)」
「あんた(シマコ)の生き様じゃ~当てになんないよ!(サクヤ)」
「ま、そりゃそうか!アハハハ!!(シマコ)」
「・・・・・・!!(少し笑みが戻った少年たち)」
日差しがステンドグラスから射し込む。温かい空気に包まれた教会、涙を流す二人の少年の目には、心なしか笑顔が溢れているようだった。
ガチャッ!(扉を開く音)
「・・・・・・!(テルヒコ)」
「おい、・・・テルヒコ無事だったのか!大丈夫かよ~!(シマコ)」
「こっちは万事オーケーよ!(両手で○サインするサクヤ)」
「・・・・・・(テルヒコを見て、わなわな弱々しく震えだすユタカ)」
一人開け放たれた扉の向こうから、日差しを背に受け彼女(ユタカ)らが談話していた十字の祭壇へ歩いてくるテルヒコ。
カッカッカッ・・・・・・(歩く足音)
「・・・・(この子・・・やっぱり、そうなのね。)(ユタカの表情を一瞬横目に見るサクヤ)」
「・・・・(テルヒコ)」
「あ・・・あぁあ・・・あの、(ユタカ)」
「聖女様、どうなさったのです?(ミゲル)」
「わ、わたしあのちょっと用事があるから・・・(ユタカ)」
そそくさと、アタフタこそ泥のようにおかしな意味不明の挙動で逃げ出すユタカ。
ガッ!(腕を掴む音)
(・・・・・・・)
少女の頃に逆戻りしたかのようなユタカのイソイソとばたつく細い腕を掴んだテルヒコの繊細な手。挙動がおかしくなり、慌てて教会を出ていこうとする彼女を、青年は引き止め、己の方へと寄せ真剣に見つめていた。
「力を貸してくれ・・・!(テルヒコ)」
「・・・・・・・え、あ・・・ぁあの(ユタカ)」
「俺には君が・・・必要なんだ!!(テルヒコ)」
(キミだけが・・・・・・!)
「・・・・・・(ニヤッと横目に笑うサクヤ)」
「(おいおいアイツもやんじゃんよ・・・!)(シマコ心の声)」
「ぁあ・・・・あ・・・(ユタカ)」
彼女の顔は、息を何分も我慢したかのような、蛸のように真っ赤に茹であげ鼻汁と痩せ我慢の限りをつくしても決壊する涙とで、めちゃくちゃな容貌であった。
「・・・・・う・・ぅぐ・・ぅうう・・・!(我慢できん。とばかりに顔を歪ませるユタカ)」
「ねえ?そういうことで、いいわよね。橘さん。(サクヤ)」
「は・・・はい・・・・・・!(ユタカ)」
「ーーーーーーーーーー!!!(ユタカの涙が溢れる)」
テルヒコの首筋、着物に押し付けられたユタカの顔、頬からは滝のような大粒の涙が止めどなくこぼれ落ち流れていた・・・。
「ありゃ、女神だな。どんなになったって美人はかわんねえな。(シマコ)」
「ん?なによ・・・(ムスゥっとしたサクヤ)」
「ああーぜんぜん違うぜ、ユタカは幼なじみなんだよ。(シマコ)」
「ヒュー!ヒュー!おめでとう!なんか(よく意味が)わかんないけどー!(子供たち)」
「・・・そんなんじゃ・・嬉しかったのよ・・・。(ユタカ)」
「そんなこと言うな・・。
俺は、思い出した。全部を・・・(テルヒコ)」
「えっ・・・(ユタカ)」
「キミがいなければ、俺は戦えない。(あの八幡にあって)わかったんだ・・・!(テルヒコ)」
奇しくも、教会の中での祝福。これから先数々の艱難辛苦を共に戦うこととなる聖女と、その力によって護られる戦士の、奇跡の再会、そして(契約=エンゲージ)であった。
「ここから、今日この時(宗蘭のもと)から奪い返す。どこにも行かせない・・・!(テルヒコ)」
バッリーン!ガシャーン!(窓を割り侵入してくる土蜘蛛たち)
突如先ほどの礼拝所からあふれでた土蜘蛛軍が子供たちのいる教会の中に入ってくる。
「ユタカ、陣頭指揮を頼む!みんないくぞッ!(テルヒコ)」
「ええ!みんな(子供たち)隠れて!(ユタカ)」
即座に教会に設備された、教壇下に隠された薙刀を蹴りあげ両手で握り構えたユタカは、自らの前方センターに立つテルヒコ、彼の左右に阿吽の仁王像のように二人立つシマコ、サクヤに対してこのときはじめて(指令)を下したー!
「創聖せよー!(薙刀を構えたユタカ)」
(初めて神獣鏡の形から太陽を模した本来の姿となるアマテライザー)
「創聖!!!(テルヒコ・シマコ・サクヤ)」
「ソウセイセヨ・・・!(ライザーポータブルのシステム音)」
バッリーーーン!!(一斉にシステムの波動を受け粉砕する教会のステンドグラス)
「アマテライジング・パワー・・・!(赤い光に包まれその“本当の姿”が現れる)」
白い強化金属繊維のボディに、太陽神天照のご来光を想起される赤き(肩)ショルダーアーマー。黄金(メタリックイエロー)の眼。
赤き太陽の戦士が、ユタカに秘められた女神アマテラスの光と、その絆を受け復活した。
「(テルヒコ=王子の姿が)赤く・・・(サクヤ)」
「なった!(シマコ)」
ついに、完全な姿をこの地上世界へ現した・・・。
日神、王子(アマテライジング形態)・・・・・!
ここに、誕生・・・・!
ピキュィイーーーン!(輝く戦士たち)
「いくぞォオーーーッ!!(アポロンソードを勢いよく構え走るテルヒコ/日神王子)」
「暴れるぜぇッツーーー!!!!(シマコ/ロッドを高速で振り回す水神ワダツミ)」
「二人とも抜かるんじゃないよッツーー!!(姫神サクヤ)」
「ハアァァアアーーーッツ!!!!!!(三人の戦士たち)」
新たな姿を得た、否“復元された”聖なる戦士日神王子(オージ)テルヒコが創聖したその力は、無数の敵を相手にしても格段にその動きから別人のようになっていた。
「なんだよ、俺の力までパワーアップしてんじゃん!なんかお得だよな!!(シマコ)」
「ふざけないで!こっちは屋内だと燃やせないから面倒だわ!(爪=サクヤクローで土蜘蛛をくノ一のように八つ裂きに切り裂くサクヤ)」
「アギャアーッツー!!!!(飛び掛かる土蜘蛛)」
「うわあッー!!(マンショ・ミゲル・子供たち)」
ビシュッッッ!!(空を斬る薙刀の音)
ドサッ!
「・・・・・・・・・(ユタカ)」
創聖者らに負けず劣らず、薙刀を振るうユタカは、創聖せずとも子供たちを守る力を備えていた。
「つ、ツエエ・・(マンショ)」
「橘さんやっぱり・・・!(ミゲル)」
「日神剣!テラセイバァーーッ!(テルヒコ)」
王子の叫びと共に、突如として時間軸を飛び越え出現する(アメノサカホコ)の化身、日神剣テラセイバー。
「救世神技、サンシャインズ・ストライク!!(テルヒコ)」
(諸々の禍事罪穢れを、祓えたまえッー・・・清めたまえェエーッツ!!!)
オージが言霊の力の一切を解き放ちその神聖なる剣を地面に打ち刺すと、その振動波、照り付ける光の力が一斉に部屋全面に爆裂し、土蜘蛛たちはこれまでない衝撃的な力と太陽そのものに触れたかのような熱気に溶かされ、そのマガは完全に消失していた。
ドガァーンッツ!(爆煙が巻き起こる玄関)
「ん?!どうしたんだ!(教会の外にいた通行人たち)」
「・・・!おい、こいつ村で神隠しにあった(土蜘蛛にされた為)弥七だ!なんでこんなとこな寝っ転がってんだあ?!(里人たち)」
新たな力、(日神剣テラセイバー)そしてシャイニングフィールドが放つ太陽神の燦然たる力は、すべて対象の邪気を打ち祓い、邪神の力を完全に奪い去る・・・。
「・・・うんわ!なんだおめぇらの格好は!(里人)」
爆風と共に破壊された教会の中から現れたのは、新たな(神技)を体得した、テルヒコ、ユタカら、そして難を逃れた子供たちであった。
「隠れてもムダだ!イブキ!!(テルヒコ)」
テルヒコがテラセイバーで空を十文字に切り裂くと、ムシカの里にぼろぼろに傷を負ったマガツ将軍イブキ(大友宗蘭)が時空間を裂いて出現もとい引きずり出された。
「う、うわあ!なんだあの怪物は!それにあの赤い兜(オージの姿のこと)みたいなのは!(人だかりとなるムシカの里内)」
「きさまら、よくもワシに恥をかかせてくれたな~!怪物だとォオ?!この神である、ワシが・・・そんなことは!(イブキ/大友宗蘭)」
「大友宗蘭・・・自らの野望のため純粋なキリシタンの人々を操り、邪悪なる教団の兵士に仕立てあげたマガツ将軍イブキ!(テルヒコ/日神王子)」
「俺たちの愛する聖地を汚すその計画、キサマの信じるマガツ神が許しても、この俺が絶対に許さん!!!!(テルヒコ/日神王子)」
魔王イブキ、そして宗蘭に言い渡されたテルヒコの(天使であり、天孫族)としての最初の口上。
「二人とも!!・・・完全神技だ!(テルヒコ)」
「な、なんだそりゃ?!(シマコ)」
「マニュアルは精神感応で秒の内送る!奴(イブキ)の魂を異次元に強制送還する!(テルヒコ)」
「オッケーオッケーだぜェエ!早くやれ!!(シマコ)」
「ぶっ飛ばせるのね?!つまり!(サクヤ)」
「おもいっきりやって!鬱憤・・・・晴らして!(ユタカ)」
照らされる三人の創聖者・・・立ち現れる巨大なオーロラ。
「いくぞシマコ、サクヤ!(テルヒコ)」
(シマッタ・・・・・!!!!)※九頭竜の意識
「・・・イブキ見るがいい、これが本当の“奇跡の力”だ!(テルヒコ)」
「完全神技、ゴッドエクステンション!!!(テルヒコ・シマコ・サクヤ)」
ジュウィイイーーーン!(※発生した光のフィールド)
終わった彼(宗蘭)の王国建設の夢・・・。
「なっ・・・このワシの夢がああああああ!!!!(イブキ/宗蘭)」
「ムジカァアアアアアアアッツーー!!!!(宗蘭)」
赤・桜・水色、出現する三つの光のラインが三角形(トライアングル)を形作り、大友宗蘭(マガツ将軍イブキ)を包囲する。
ムシカの里全体を覆い尽くすその巨大な数キロ包囲にわたる純白のエネルギーは、宗蘭をはじめとしたすべての里内の土蜘蛛の卵、この場所が抱えた一切の(禍事=マカゴト)を打ち祓い、そして清めるのだった・・・。
「ガアアアアアーーーッッッ!!!!(九頭竜王/宗蘭に取り憑いていたイブキの魂)」
(マタナ・・・・・オオトモ。オマエノムジカハモウナイ!)※にたりと笑うイブキの黒い影
「・・・こやつは?!(大友宗蘭)」
ドッゴォオォーーーーン!(半径数キロにわたり木々がへし折れ消失したイブキの邪気)
神技を受けた宗蘭の周囲はの大地は、数百メーター綺麗に抉られていた。
ズンッガガアアーーーッッ(憑き物が落ち、丸裸となり吹き飛ばされた宗蘭。)
翌日・・・。
「この悪党め!里から出てけぇー!(怒り狂った里内の人々)」
「わー!なんでワシだけがこんなことに!(宗蘭)」
戦のため、土蜘蛛にされた親や兄弟を持つ里の人々から追いかけられ(耳川の戦いで士気は皆無となり誰も家臣は助けてくれず)半泣きになりながら逃げ惑う子供のような宗蘭に、呆れるミゲル(ミゲルは奴隷問題がどうしても引っ掛かり、後年棄教する)。
誰もが当然のように、野心に生きていた戦国時代。
魔王たちから、押さえ込めぬ九州征服の抗えぬ欲求に漬け込まれていた宗蘭はイブキに“堕天”した記憶を半ば無くしており(日向進攻などを自分で決定した記憶はある)、自分がどうしてこんなに嫌われてしまったかパニックとなり、ついには必死に里人に焦りながら謝る始末であった。
「こ、このとおりじゃ!・・・祈祷の最中にへんな影が見えて・・・。わしがどんな侘しい負け戦をやったか教えてくれぬかそなたら!なあ!きいてる?(宗蘭)」
手をつき項垂(うなだ)れる宗蘭を、なんとも言えぬ複雑な表情で(見ちゃダメな光景)を見させられる罰ゲームであるかのごとく、テルヒコは見ていたが、やがて彼も膝をつき、宗蘭へ肩をたたき去り際、静かにこう伝えた。
「・・・馬鹿なことは考えるな。あんたはここ(日向国)より、地元にいくがいい。(テルヒコ)」
「豊後(大分)に戻ってから、出直すんだ・・・。時間をかけて、あの子達(マルコ・ミゲルたち後の少年使節団)といっしょに償いながら生きればいい。(テルヒコ)」
「本当ならここで、ぶちのめしてやりたいがな。(テルヒコ)」
「反省しろよ~・・・死んでもま、ただじゃすまないだろうけどな?(シマコ)」
「おのれおのれらあ!末代までの・・・。(宗蘭)」
「人生最高の屈辱じゃあ!・・・これより恥はかけん!いっそ斬り殺せぇえ!(涙を流す宗蘭)」
「・・・死んで楽になれるほど、神は甘くないわよ。(ユタカ)」
「俺たちは貴様のような馬鹿なこと(殺生)だけはやらない。せめて殺した分人を救うんだな・・・。(テルヒコ)」
「もう二度と来んなよ・・・・(イライラした顔のサクヤ)」
「来たらそんときゃ・・・ただじゃ(サクヤ)」
「すまぬ。なんと申せばよいか・・・この王が邪悪な魔王などに・・・、情けない。(宗蘭)」
「あ、あいつらが来た!(テルヒコ)」
「フランシス様ー!いきましょう我々も・・・!(ミゲル)」
「お前たち・・・・・!(宗蘭)」
「まだまだですよ、フランシス様。(ミゲル)」
「戦は、無論許されることじゃありませんが・・・。僕らも戦って、足掻いてみます!貴方たち四人のように。(マンショ)」
「テルヒコさん、橘さん。それでは私たちは、また・・・!(マンショ)」
「ああ、みんな達者でな。(テルヒコ)」
(愛のため命を懸ける“セイバー”か・・・。)※先日シマコらが神社で出会った謎のブロンドの男がテルヒコら四人をみつめる。
※(セイバー=救世主、または剣)
港まで迎えにやって来たマンショらを見送ったテルヒコは、一人静かに歩きだした。
スッ。(テルヒコの手をぎこちなく握るユタカ)
「ねぇ・・・・・・帰ろうよ。(ユタカ)」
現世に留まれるタイムリミットは余命あと一年。
(最後のその刻まで・・・・・!)
「(俺はもう、忘れたくない・・・!)(テルヒコの意志)」
サクヤからユタカに残された時間が少ないことを先日の夜教えられたテルヒコは、これまでの失われたその想いを改めて強く己の心へと刻んだ・・・。
「そんじゃ、寂しくなっけど・・・一時のお別れだな。(シマコ)」
「ちゃんとどんな状況なのか文でつたえるのよ?!また奴ら(マガツ神)が・・・魔王がいつ来るかもわからない。(サクヤ)」
それぞれに馬に跨がるテルヒコ・シマコ・サクヤら三人の創聖者は、それぞれが神器が導く方角へ。互いの道を往き、再び新たに生まれる魔軍の影と戦うため、旅立っていった。
戦い抜いた、その(戦士の絆)を胸にー!
「・・・いつでも、帰ってきなさいよ!2人の家はずっとここ(日向国)なんだから!(サクヤ)」
「ラブレターは贈るぜ!・・・俺の席は(定期的に帰るから)開けとけよ!(シマコ)」
「ほかんとこに永住したら化けて出て、連れ戻すからね!竜宮城でもよ!(サクヤ)」
「おまえ(テルヒコ)ら二人はこれから・・・(シマコ)」
「大丈夫。また来るわ・・・。(ユタカ)」
馬の上で共に微笑む、二人の姿・・・。
テルヒコとユタカは、互いに残された命と時間を共に最後の瞬間まで過ごすため、巡り来る彼らにとっての長い新たな戦いの日々のために、歩き出すことを決めていた。
「俺たちは、また必ず出逢う。神器が呼んだ絆は、またいつの日か・・・!(テルヒコ)」
「俺は、お前らといっしょに戦えて、親友(とも)になれてほんとに良かったよ・・・。(テルヒコ)」
「達者でぐらぜよお゛ぉぉお~!!おいユタカ!こいつの相棒は俺だけなんだからな!いやお前も相棒でいいんだけど!とにかくたまに連絡入れろよ!(涙目でむちゃくちゃな顔となったシマコ)」
「私の娘や孫たちがまた・・・。(サクヤ)」
走り出した三つの魂・・・!
ダダダダダダッッッ!!!!(馬の蹄の音)
「・・・・・ずっといっしょにいて。(ユタカ)」
愛馬に跨がるテルヒコの背には、その肩を握りしめ、これ以上ないほどの幸せを感じ目をつぶる、彼に添うユタカの姿があった。
(完)
(次回へつづく!)