出所直後に「1,300円を盗んだ男」─元受刑者保護を考える

  by 丸野裕行  Tags :  

どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。

保護司、協力雇用主など刑務所に収監されていた元受刑者の支援をしておられる方々との交流が日ごとに増している筆者ですが、昨年末に衝撃のニュースが飛び込んできました。それは《年末、元受刑者が出所後すぐに窃盗で逮捕された》という事件です。

筆者にとって、より身近でその存在が色濃くなってきた“元受刑者保護”の問題。彼らは、なぜ犯罪行為をまた繰り返してしまうのでしょうか?

今回はこの事件の背景とその男の心情を、有識者の意見をお聞きしながら、紐解いていきたいと思います。

・【実録! 刑務所シリーズ】
https://getnews.jp/search/%E4%B8%B8%E9%87%8E%E3%80%80%E5%88%91%E5%8B%99%E6%89%80

※記事中の写真はイメージです

出所した直後に車から1,300円を盗んだ

元受刑者の男(48歳)が出所直後に、施錠されていない自動車から1,300円とその他のものを盗んだという疑いで逮捕されました。北海道にある岩見沢警察署は26日に、無職・住所不定の男を窃盗容疑で逮捕したというのです。

この男は、2021年12月14日~15日の間に、北海道三笠市にある住宅の敷地内に駐車してあった無施錠車から《現金1,300円》《ひとつ10円ののど飴3個》を盗んだという疑いを持たれ、連行されました。

警察の発表によると、この男は26日も同車両に接近。それに気がついた被害者家族が逃げようとする男を取り押さえ、警察へ通報したそうなんですね。この男、調べに対してあっさり容疑を認めています。

男は過去に窃盗罪で服役をしていて、本州にある刑務所を出所した直後の犯行でした。近隣では無施錠車から頻繁に物が盗まれている被害が相次ぎ、岩見沢警察署はこのほかにも余罪があるとして、捜査を進めるそうです。

              

なぜ、このようになってしまったのか?

本州から流れ流れて行きついた先が、北海道。函館、室蘭、小樽、札幌などを越え、雪深い岩見沢へ行ったのか。彼はそのとき、なにを思っていたのでしょうか?

ここには、元受刑者が抱える行政の怠慢としか思えない保護の問題があるそうです。ここで元受刑者支援を行っている、元受刑者保護の有識者・Tさんにお話を伺いました。

――今回の事件をどう思われますか?

Tさん「昔は賞与金。今は報奨金になっていますが、受刑者は審査されてまず新規で工場に落ちる10等工は、A(立ち仕事=木工など)、B(座り仕事=民芸品彫りなど)、C(モタ工=紙を折る仕事)の作業に就きます。作業は10等工全員同時にはじまります

――どこの持ち場が合致しているかを刑務所で判断するわけですか?

Tさん「本人の希望、年齢、体つき(体力)、今までの仕事を聞いて総合的に判断しているというんですが、どうなのかわからないですね

――そうですか、報奨金はどのくらいもらえるものなんでしょうか?

<写真:元受刑者がメモを取ったノート>

Tさん「10等工は約3ヵ月。月収でいうと708円です。21日間1日8時間労働で《1時間4円20銭》の一番最低金額から入って、9等工で月収744円(時給換算で4円40銭)、半年の8等工で月収1062円(時給6円30銭)、それから5ヵ月経つと7等工へ昇格して月収1767円(時給にして10円50銭)です。ここまでになるためには1年もかかるわけです。それから問題がなければどんどんと昇格をして、6等工(7ヵ月の時間がかかる)さらに時間をかけて、1等工にまでなる。それでも月収で数千円程度なわけです」

――安すぎないですか?

Tさん「でも、一般の方から見れば変だろうと思われるかもしれませんが、これが刑務所の現実なんです。それを続けて1年で12,000円。ある方は、2年2ヵ月の服役で44,000円の報奨金を得ました。しかし、今回逮捕された彼はどうでしょうか? それだけの報奨金しかもらえないとなると1週間持たない。カプセルホテルに泊まろうと思っても1日3,000円はかかるでしょう」

――懲役を経てからの生活は成り立たないですね

Tさん「衝撃的な世界、彼らは留置場でお正月を越すために、寒さをしのぐために留置場を選んだんです。社会でお正月を過ごせない人たちは数多くいます。彼は刑務所に戻るために、余罪を作ったんですよ。年末年始は検察庁も休みだから比較的自由な留置場なら3食付いてる。彼は今頃、検察に呼ばれていることでしょうね。余罪があるから服役になる。窃盗罪で、余罪がなければ不起訴か起訴猶予になるから、わざと刑務所に戻るために複数回余罪をつくる。何度も服役する人間の常とう手段です。僕は悪い人ですよ、といえば、国が食事と布団を提供してくれるホテルに入れる。そんな感覚です

――年末年始はやはり犯罪を犯す人が多いんですか?

Tさん「これは行政と本人の心の弱さが悪いんです。行政は窃盗なんてある種の病気と一緒、負の連鎖を断ち切るというところに重きを置いていないわけです。それに一度刑務所に入った天涯孤独でシャバで帰るところのない人間は、塀の中で犯罪の手口を情報交換をするんです。どこまでやればいいか、どうすればここに帰ってこられるか、ということもわかる。これは本人の問題ですね。詳細はわからないけど、多分彼は満期出所したと思いますよ。でも、シャバで生きる術を知らない

――なにが問題なんですか?

Tさん「税金をしっかりと支払っていない人間たちのせいですよ。今回逮捕された彼らの元に税金が回らない。そんなに数のいらない国会議員が年間1200万円の歳費を使う、法人格が子会社をつくったりして税金の抜け穴を探す─こういうことが原因となって、使われるべき税金が末端の人々に行き渡っていないというのが、彼が刑務所に戻りたがった理由です。無職で住所不定なんて当たり前ですよ」

――なるほど、行政の怠慢なんですね

Tさん「社会とのつながりがない人間は“金も寝るところもないから公園で寝よう”となる。生活保護を不正受給する知恵がある人間は福祉にも食い入っている。彼らが勝てるわけがない。まったく、生活保護行政の闇ですよね」

Tさんがおっしゃるには刑務所は様々な問題を抱えているといいます。

例えば、犯罪傾向が進んでいない者や障碍者などを収監するA級刑務所、初犯ではなく犯罪傾向が進んでしまっているB級刑務所でも処遇の違いがあったり、受刑者処遇法で定められた面会時間30分を刑務所長の判断で、人が多いとき少ないときで勝手に判断、調整しているといいます。

いくら遠いところから、足元の悪い中を、ひと目会いたいという肉親がやってきたとしても、10分だったり、20分だったり……。その法律の定めとは一体何なんでしょうか?

Tさんは最後にこのようにつぶやきました。
「読者の皆さん、もしもあなたがこの世間で何年も過ごしたことのない、頼る人もいない、生き方がわからない、お金が一銭もない人だとしたら、生活するために犯罪に手を染めない自信などありますか……」

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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