「これは通常のホロコースト映画ではないんです」ユダヤ人によるドイツへの壮絶な復讐計画を描く:映画『復讐者たち』監督インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

第二次世界大戦下、ナチスによって愛する者の命を奪われ、生きる目的を復讐にしか見出せない主人公マックスがたどる運命を、衝撃的なストーリー展開で映像化した映画『復讐者たち』が現在公開中です。同大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った国家的な絶滅政策、すなわちホロコーストの惨劇は600万人以上のユダヤ人の命を奪ったとされますが、本作は実際にあったというユダヤ人による復讐計画に関わった生存者たちへの取材に基づいて映画化した実録ドラマになります。イスラエル出身のヨアヴ・パズ監督に、知られざるドラマについて話をうかがいました。

■公式サイト:https://fukushu0723.com/ [リンク]

【ドロン・パズ&ヨアヴ・パズ監督プロフィール】

イスラエル出身。TVシリーズの監督を経て、POVスリラー『エルサレム』(16)で長編映画初監督を務める。 続く『ザ・ゴーレム』(19)ではユダヤ教の伝承に登場する泥人形「ゴーレム」を題材にしたホラー作品を作り上げた。当初は両監督の取材の予定でしたが、取材当日に急きょ諸事情でヨアヴ監督だけにお話を聞くことになりました。
※写真はツーショットになっております。

●ユダヤ人による復讐劇で、しかも600万人規模のものという計画があったことに驚いたのですが、この歴史的な事実を最初に知った時いかがでしたか?

ヨアヴ監督:僕も本当に驚いたよ。彼らの存在を知り、リサーチを始めた時に、イスラエルに暮らしていても知らないことがあったのだと。そして、ホロコーストについてはたくさん聞いたし、そういう映画も観たけれど、まだ知らないことがあったのかと驚いた。600万人の殺害計画について家族や周囲の人間にも聞いたけれども、なんとなく知っている人はいたが、ほとんどの人はまったく知らなかったよ。

なので、イスラエルに暮らしている人でも知らないのであれば、映画にして伝えるべき時が来たのではないかと思ったよ。

●生存者の方たちにインタビューをされたそうですね。膨大なリサーチにの過程で、もっともインパクトがあるエピソードは何でしたか?

ヨアヴ監督:当時の人たちにたくさん会うことができた。ニュルンベルクの収容所にいた人たちにもね。実際は、若い時の彼らにとってはパーソナルな体験だったということが、我々の気持ちを大きく惹きつけたとことでもある。すべてを失って死を抱え込み、亡霊のようなかたちで前に進まねばならなかったと言っていた。歴史も動いているなかで、自分たちはそれを許せない気持ちにもなっていると話していたよ。

●映画化の際、たとえば撮影継続が困難になるような出来事はありましたか?

ヨアヴ監督:もちろん、映画作りの過程では障害はつきものだと思うけれど、第二次世界大戦の状況を、どう作り出すかが一番苦労したよ。実際にウクライナにある場所のいいとおりを見つけて撮影をし、廃墟的な都市を上手く撮影できたと思う。テーマも大事で、同時にエンタメとして成立させなくてはならず、アクション・スリラー・ホラーの要素も大事になってくる。

とにかく観客にとってスリリングな状態をキープしなければならず、スマホを取り出されたらいけないわけだ。日本で最初に上映されるので反応が楽しみだよ。

●以前、ほかのホロコーストをとの作品と区別したいと言われていた理由には、そのこともあったのでしょうか?

ヨアヴ監督:そうだね。そもそもテーマが違い、多くの映画ではユダヤ人が犠牲者として描かれていることが多いが、この場合はユダヤ人が行動を起こして報復という選択肢を取る。また、ビジュアル面でもエンタメ性を持たせたかった。僕らはホラーが好きで、そのベースがあるので、そこを大事にしたかった。大きなスクリーンに耐えうるものという目的で撮っていたので、それでエンタメ性は大事になる。

なので通常のホロコースト映画とは違うものであり、従来ではドラマ性を重視していたかもしれないが、我々の映画ではドラマもテンションも、すでに存在しているものという考え方だ。なので、ホラー的な要素などでそういうものをさらに包み込み、観客にはそれを前のめりで体験してほしかったよ。

●今日はありがとうございました。映画を待っている映画ファンの方たちへメッセージをお願いいたします。

ヨアヴ監督:この映画で、一緒に旅をしてほしいですね。主人公の目を通して、その物語を観て旅をしながら、実際に自分がどうなるかを体験していく。映画が終わりライトが灯った時に、自分にぜひ問いかけてほしい。復讐について自分ならばどうするのか、彼と同じ立場ならば同じ復讐という考え方をしてしまうのか、すべてを失ってしまい、それでも生きて行かなければいけないのか。何が正しくて何が間違っているのかはいったん置いておいて、自分の感覚で自問自答してほしいと思う。それが映画を観始める段階と少しでも異なっているものになっていれば、もしかしたら旅を導いた我々にとって、よい結果になったのかなと思います。

■ストーリー

1945年、敗戦直後のドイツ。ホロコーストを生き延びたユダヤ人男性のマックスが難民キャンプに流れ着き、強制収容所で離ればなれになった妻子がナチスに殺された事実を知る。絶望のどん底に突き落とされたマックスは復讐心を煮えたぎらせ、ナチスの残党を密かに処刑しているユダヤ旅団の兵士ミハイルと行動を共にすることに。そんなマックスの前に現れた別のユダヤ人組織ナカムは、ユダヤ旅団よりもはるかに過激な報復活動を行っていた。ナカムを危険視する恩人のミハイルに協力する形でナカムの隠れ家に潜入したマックスは、彼らが準備を進める“プランA”という復讐計画の全容を突き止める。それはドイツの民間人600万人を標的にした恐るべき大量虐殺計画だった……。

<タイトル>
復讐者たち

<公開日>
7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国公開

<コピーライト>
(C) 2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

<配給>
配給:アルバトロス・フィルム

<キャスト・スタッフ>
出演:アウグスト・ディール(『名もなき生涯』『マルクス・エンゲルス』『イングロリアス・バスターズ』)、シルヴィア・フークス(『ブレードランナー2049』)
監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ

2020年/ドイツ、イスラエル/英語/110分/シネスコ/5.1ch/「原題:PLAN A」 /日本語字幕:吉川美奈子/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo