百合の作品は限定された場所だけの存在でなく様々な媒体を通じて手に入るようになりました。
漫画、小説に限らず、演劇や音楽、ゲームやアニメーションなど、多くの場所で私たちはそれを見出すことができます。一方、SNSだけでは、広大な百合関連の作品の情報から発信者のメッセージを隅々まで拾い上げることが困難です。
また、読み手は、多くの話題作に紛れて、『自分にみあった百合』を見逃してしまっている可能性もあります。
『もう少し、届けたい』『もう少し、知りたい』。『ゆりがたり』は、百合の創り手と受け取り手の『もう少し』をつなげるために生まれたシンプルなインタビューマガジンです。とりとめなく話す雰囲気を伝えるためにwebマガジンではなく『文字ラジオ』と称することにしました。
どうぞ、よろしくお願いします。
☆この記事はnoteに掲載していた記事の再掲です。
対照的な組み合わせ―『海猫荘days』
コダマナオコ先生の著作・『海猫荘days』は「田舎を舞台にしたコミュ障教師×子連れヤンキー漫画」であり、舞台設定もキャラクターも清新で百合の魅力に溢れています。タイトルにカタカナではなく英字が入っている点もコダマ先生のこれまでの作品になかった雰囲気です。タイトルの由来や着想についてお話を伺いました。
☆おっとりした教師・菊地真由美とフレンドリーなヤンキー・五百木凛という組み合わせが絶品です。先生とヤンキーの組み合わせの魅力をお聞かせ下さい。
「対照的なキャラの組み合わせで、特に陰キャ×陽キャが好きなので。もともと金髪ショートヘア女子が描きたかったので、金髪といえばヤンキー、ヤンキーの相手役なら対照的な教師で、という風に考えました」
☆『残光ノイズ』という「先生の初期の百合作品や百合えっちな作品が詰まった短編集があります。分けても『恋愛のできないお仕事』の出だしが百合漫画のオープニングとしては衝撃的に笑えるのですが、『海猫荘days』『捏造トラップ』でも冒頭は印象的な場面から始まります。出だしでインパクトを与えることを意識されているのでしょうか?
「ある程度は意識しています。最初で掴まないと続きを読んでもらえないと思うので。描き出しが決まるまでぐだぐだ悩みます」
☆(インタビュー前に)先ほど、真由美ちゃんと凜ちゃんはお笑い芸人のコンビを意識した組み合わせだというお話を伺いました。冒頭にメリハリがあっていいですね。百合の始まりとして「海に落ちて恋に落ちて」というパターンができてほしいです(笑)
「最初海に落ちるかやめるか悩んでいたら担当さんがインパクトがあるから落ちてください、と。確かに漫画的には落ちた方がいいです」
☆漫画を読み慣れている人間としても「とりあえず落ちてほしい」って思います。凜ちゃんのバストについて、一見ボーイッシュなキャラだとペタンとした胸だったりしますが…大きいですよね。
「自分のなかでは凜が普通乳で、真由美が巨乳で」
☆毎回真由美はひなたちゃんに乳を吸われてます(笑)
「毎回乳を触られてます(笑)」
☆可愛いですよね。あそこだけおねロリ感が出てきてます。『海猫荘days』は色々つめこまれていますよね、社会人百合もあればおねロリもある。
「あまり『おねロリ』って思ってなかったかもしれないです。究極的にみればそうかもしれない。セクハラを幼子にさせることにより罪悪感をなくす、やらしくなくセクハラを描くという…」
☆確かに「ちびっこセクハラ」みたいな…。男の子だったりしたらニュアンスが違っちゃいますね。
「小学生男子だとその気がありそうだし。まだお母さんのおっぱいを求めているちっちゃい女の子です」
☆それでいて(ひなたちゃんがいることで)百合夫婦になっていますね。1-3話では凜ちゃんの色んな面が出てきています。真由美が最初傷ついて何も考えずに地方に逃げるように来て、いきなり風変わりな管理人さんと出会って。最初知り合っておいて実はここがお前の住むところだよっていうあの感じも、実は…
「実はすごく漫画チックで、実際にはこんなことはあまりないなっていう」
☆「ベタな感じ」を百合でやられるとこんなにもいいのかと思いました。
「そこは結構悩んで。あんなに人がこない場所で、見知らぬ人を車に乗せてうちに下宿するやつだと思ってたらもっと早く気付くじゃん、うそ臭くないかなあと思ってたんです。そこも迷いがあったんですけど、担当さんに大丈夫と言われました」
☆後押しをしてもらったんですね。確かに言われてみれば確率として起こりえない。
「気付けよっていう…荷物持って見かけない人がいる時点で(笑)」
☆凜ちゃんは気付かない感じがしますね(笑)
「『(真由美が)自殺しようとしてるんだ』って思い込んだことで頭がいっぱいだった。そこを納得して読んでもらえれば…落ち着いて考えるとおかしいです(笑)」
☆真由美ちゃんが流されていくのがいいですよね。頭でツッコミを思ってはいても、いいように流されていく。気が強い子が主役でどんどん積極的にやっていく感じではない、大人っぽさがあるじゃないですか。
「流され主人公です」
☆『捏造トラップ』では丁々発止というか駆け引きがありました。(『海猫荘days』は)今のところ恋愛という感じではないですね。キスはしてるけど…
「まだ恋愛ではないです」
☆キャラ自体が固まるまでどうでしたか? 凜と真由美のコンビネーションはお笑いのタレントさんが元と(インタビュー前に)伺っていますが。
「凜は全く裏がない、いい奴っていう感じでわりと(固まるのが)早かったですけど、それに対する真由美がどれくらいコミュ障にするか、ほんとにおどおどとして人と喋れないくらいにするか…結局『通常の社会生活はできそうだけど本人の中でちょっとコミュ障』くらいの感じにしたんです」
☆かわいそうな設定で真由美は人間不信になってます。つらい体験があったからですか? 元々の性格ですか?
「普通に友達もいるけれど、『なんかあたしうまくやれてない』って気にしちゃうタイプ。普通に会社で働いたりもできるけど言いたいこと言えなかったり…という標準的な日本人女子です」
☆確かに実感があるというか、生活観というか…わかります。
「ちょっと細かいこと気にしちゃったり。人からみたら普通なのに自分からみたらコミュ障で全然だめ、と…」
☆みんなそうですよね。
「結局そういう感じに落ち着いて。最初色々試してみて、もっと本当におどおどして…人の顔も見れない子で、みたいなことも思ったんですが」
☆最終的に「おとなしめの子」に落ち着いたんですね。
「凜にツッコミいれたりしなきゃいけないから、多少は会話できる子じゃないと」
☆常識人ですよね。
「昨日まで彼氏がいて親友にとられたっていう、彼氏いたんやろおまえっていう…」
☆そこまではしっかりしている(笑)
「ちょっと似ているのが『レンアイマンガ』の黒井先生で。黒井先生は彼氏いたり彼女いたりは無理そうかなと」
☆言われてみれば系統が似てますね。『レンアイマンガ』は漫画家さんが編集さんに手厚くお世話される百合漫画ですね。
「(黒井先生は)『外に出たらみんなが私を笑っている…』みたいな」
☆真由美は黒井先生より社会性があるんですね。キャラといえば、阿島ちゃんもすごく業が深そうで好きです。
「妾の子です」
☆ちょっと淫乱っぽかったりするじゃないですか。さくらちゃんという子は学校でいばっているけれど、裏で(阿島に)ちゅーされたり。
「裏でごそごそと…学校では偉そうにしてるけど」
☆エッチな関係を想像せざるを得ないです。二人が一緒に暮らしているのもびっくりしたんです。隅に追いやられたりしてんのかなと思ったら違っていて、阿島の帰宅が遅くて心配している。学校ではいじめっこといじめられっこみたいなのに裏では逆転しているの? という…
「裏ではやりたい放題やられ(笑)」
☆さくらちゃんは絶対色々されているんだろうなと想像してしまいます(笑) 凜と真由美、大人の二人がほわっとしてるじゃないですか。
「そうですね。向こうは平和な感じです」
☆阿島とさくらは子供なのにディープで…
「しかも妾の子だから姉妹なんですよね。半分血がつながっている。お母さんが妾でお父さんは同じ、倫理的に問題があります」
☆しかもまだ未成年じゃないですか。すみません。私、話しながら興奮しちゃってますけど…(笑) キャラクターの次はタイトルについてお伺いします。生活感が伝わるタイトルですね。
「例えばカップリング感のある『コミュ障教師と子連れヤンキー』みたいな題だと、百合好きの人にはすっと入りやすいけど、一般の人に広がりにくいかなと思って。一般の女性雑誌を読むような人にも引っかかってくるといいなと…少女漫画や女性誌を読んでる人も読みやすそうなタイトルにしてみました」
☆例えば最近百合ファンにも好評の『違国日記』(☆)も女性同士の日々の暮らしを綴るようなタイトルです。それに感覚として近いのでしょうか。
「そうかもしれないです」
☆普通の人が読むことも意識されているんでしょうか。
「今だいぶ(百合は)流行っているけれど、百合好きの人は数が限られているので、できればそこを越えて読んでもらいたいなという…」
☆『捏造トラップ』の時も、アニメの影響か、「由真と武田君がくっつくといいな」という呟きがあった気がします。
「『蛍と藤原が幸せになってほしい』とか(笑) (『捏造トラップ』は)一般の人が入りやすくなった分、百合好きな人は好みが分かれた作品かもしれないです」
☆間口が広がった分、弱冠の踏み絵感がありましたね。
「一般読者が入ってきてくれた分、百合好きな人すべてを取り込むのは難しかったかなと思います」
☆入れ代わりがあったんですね。間口の広い百合好きは読んでくれていて。
「猛者は読んでくれるかなという」
☆衝撃を受けた読者もいたようですが…。
「『大丈夫、“コミック百合姫”でやっているんだから最後は百合にするから』って思いながら描いていた覚えがあります。一般誌だったら「武田エンド」が怖いかもって思うのは分かるけど『“百合姫“だから』って思ってました」
☆男性向け女性向けという振り分けがNGの方には申し訳ない問いかけですが、藤原(☆)は女性視点の自分から見るとそんなに違和感なかったです…。
「”少女漫画に出てくる嫌なイケメン”というタイプで…男性向け漫画だとああいうキャラは少ないかもしれないです」
☆確かにそうかもしれないです。『捏造トラップ』で離れたファンがいたとしても『海猫荘days』で戻ってきてくださるんじゃないでしょうか。
「戻ってきてください。と、頼んでみます」
☆『捏造トラップ』がダーク・コダマ寄りの長編だとすれば『海猫荘days』はライト・コダマ寄りの長編感がありますね。
「ダークな要素があっても藤原ほどのことにはならないと思います」
☆『捏造トラップ』では序盤で幼馴染の二人がベランダ越しにキスをしていますが、『海猫荘days』では縁側でキスをしています。縁側やベランダで行われる百合キスの魅力を語ってください。
「そんなに意識してなかった。なんか室内より外でキスさせた方が画面映えするなーくらいの感覚です。風で髪がなびいたり、枯葉舞ったりさせられるので(笑)」
☆ 舞台設定について、イメージ・モデルにされた土地はありますか? 取材など行かれた場合は差し支えなければ場所を教えてください。
「モデルにした土地はあります。取材にも行って写真5000枚くらい撮ってきました。でも明言はしないでおきます。どこかわかった方はご一報ください(笑)」
☆話題にあがった「捏造トラップ」についてお伺いします。とにかく蛍と由真が可愛らしい一方で、蛍に振り回されつつも由真が蛍への思いを自覚してアクティブになっていく姿が魅力でもあります。その彼氏である藤原や武田のキャラクターも、揃ってBL雑誌に出張掲載されるなど話題になりました。アニメ化もされ三年間に渡る長期連載でした。幼馴染で彼氏がいる者同士という設定の魅力をお聞かせください。
「愛憎渦巻くこじれた関係が好きなんです。幼馴染だと付き合いが長いのでこじれやすい、彼氏もち同士だとますますこじれそう! という感じで、私的には大好きな設定です。あと、彼氏がいるというワンクッションを置くことで、日頃百合を読みなれていない人も入りやすいかなと思ったのもあります」
☆ひとつの物語を初めて長期連載された上で、大変だったことや、逆に楽しかったことがありましたら大小問わずお聞かせください。
「勢いで描き切ったけど、物語の構成が難しかったです。ラストで由真と蛍が結ばれることと、いくつかのエピソードが決まってただけで、後はその都度考えていったので。担当さんのリクエストでメインの四人以外に新キャラを出そうとしてネームまで描いて、結局没になったりしてました(笑)楽しかったことは、長く描いているとキャラに愛着が湧くことです。メインの四人はみんな好きです。ありがたいことにアニメ化して頂いたので、自分のキャラが動いて喋るというとても幸せな経験もさせてもらいました」
☆違国日記:ヤマシタトモコ著・祥伝社刊。少女小説家の叔母と女子中学生の姪の同居生活を描いた漫画。独特の空気感が百合好きにも好評。
☆藤原:蛍と由真の仲に堂々と介入する姿が一部の百合ファンの間で「百合に入る男」として疎まれ、話題となったキャラクター。
コダマナオコ先生:作品リスト
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