どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です!
昨年、AbemaTV『スピードワゴンの月曜The Night』の「ヤクザSP」に出演したときにもその実情をお伝えしたのですが、広域暴力団の締め付けでヤクザ業界はまさに風前の灯です。
当然、そんな泥船のような業界へ好き好んで足を踏み入れる若者など減るばかり。しかし世の中には行き場のない若いヤクザ予備軍も少なからずいるものです。暴走族から少年院出、振り込め詐欺の掛子まで……その多くが行き着くところは、やはりこの業界になってしまいます。
今回は、某広域暴力団第2次団体に所属し、新人の教育係である山上氏(仮名/43歳)に、現代のヤクザ志願者の話を聞いてみました。
住み込みの基本は、雑巾がけ5年・飯炊き3年
丸野(以下、丸)「なぜ新人教育を受け持つことになったんですか?」
山上氏「オヤジから“下の人間からえらい慕われてるから、部屋住みの若い連中の面倒看てやってほしい”と言われて、渡世のイロハを教えるようになったんですわ」
丸「部屋住みというのは?」
山上氏「自社ビルは1階が事務所、2階は組員が寝泊りする部屋と居間と風呂にわかれてまして、そこで集団生活をします。3階には組長専用の部屋です。組には多いときで5人、少なくて2~3人の部屋住み修業中の新人がいます。行儀見習ともいいますが……」
丸「1日のスケジュールを教えてください」
山上氏「まぁ、ヤクザ社会のすべてはイレギュラーなものなんですが……」
≪ヤクザ修業のスケジュール≫
7:00 起床・掃除
8:00 朝食作り
9:00 朝食・車両清掃
10:00 電話番スタート
幹部送出し(下足番)スタート
11:30 出前電話
12:00 昼食
13:00 雑務(タバコの火を点ける、お茶汲み等)
19:00 風呂焚き・夕食
23:00 交代時間 ※24時間交代制
丸「プライベートな時間とは無縁ですね」
山上氏「そうですね。平たくいえば“刑務所”と一緒です。24時間、親分や兄貴につきっきりです。給料も休日もありませんし、ただひたすら【雑巾がけ5年・飯炊き3年】を続けます。小遣いがもらえるんですが、ひと月おおよそ5~6万円。幹部連中にその働きを認められたときに“部屋住み”は解かれます。厳しい規律で、グレた連中をがんじがらめにして矯正する側面もあります。昔は、手のつけられない悪たれを親が押しつけてくることもありました」
電話番が異常に難しい
丸「一番難しい仕事は?」
山上氏「やはり構成員の兄貴連中のご機嫌取りですね。何の理由もなくいきなりヤキを入れてきたりしますし。ムシャクシャしたときに、部屋住みは手っ取り早いパンチングマシーンになります」
丸「怖い~!」
山上氏「それと、電話番。電話を取り次ぐだけと思わればちですが、“ワシや!”という声だけで、相手が誰であるかすぐに判断しないといけません。ありえないミスを犯したヤツもいます。“ワシや”という声に“あのう、鷲(わし)さんからお電話です”と取り次いで、歯を一本折られましたね」
丸「ひぇぇぇ~」
山上氏「そいつは、それからホームシックにかかりました。事務所に詰めていると、数人の新人が枕片手に寝床から降りてきまして、“今日もあいつの夜泣きがひどいんです。お母ちゃん、お母ちゃん”って……。夜中に荷物をまとめさせて、実家まで送っていきましたよ。ヤクザやのになにやってるんや、という感じです(笑)。部屋住みは、10人のうち8人が逃げ出すほど、厳しいんです」
馬鹿で成れず、利口で成れず、中途半端じゃなお成れず
山上氏「部屋住みにやってくる若者は、橋にも棒にもかからない連中ばかりです。組に入るときに“給料はおいくらですか?”“抗争の危険手当はいくらですか?”“お休みの日は?”“社会保険には入れますよね”というバカもいますね。
丸「お察しします」
山上氏「でも、人材不足の業界なので、選り好みはしていられないわけです。暴走族や少年院の看守のツテを頼ったりして、連中をスカウトしてくるんで。たまに恐ろしいヤクネタ(※厄介者、トラブルメーカー)が混ざっているときがあります」
丸「ほほう、どんな若者ですか?」
山上氏「リョウタ(仮名、19歳)という若者が部屋住みになったときは、テーブルの上の小銭や指輪、食料、本、未使用の消しゴムに至るまで、事務所のものがなくなるんです。便所のトイレットペーパーまでなくなりました。で、防犯カメラをつけてみたら、リョウタが事務所を物色している姿が映っていました。で、組員全員の前で正座させて、叱り飛ばしたんですが、“ウチの家は代々泥棒して生計を立ててるんです……”と筋金入りの盗癖持ちだったわけです」
丸「筋金入り(笑)」
山上氏「その他にも失礼なヤツもいました。オヤジからの新地の極上寿司の差し入れがあったときに、タカトシ(仮名、24歳)という若者は、一切手をつけない。感動しているのかと思いきや、“あぁ……僕、寿司が大っ嫌いなんですよ……”“どうせなら、玉ねぎ抜きのハンバーグとかが良かった”“見るだけで吐きそうです”とのたまいましてね。異常なほどの偏食家で……。第一、刑務所の臭いメシが喰えないなんてのは致命的ですから。破門です」
組全体が悪い霊気に包まれています……
山上氏「おかしなヤツは枚挙に暇(いとま)がないです。夜中に部屋住み仲間の布団に潜り込んでくるオネエ、早く指を詰めたい全身ピアスの自傷癖のあるヤツ、Vシネマオタクで哀川翔ばりにいちいち見栄を切るヤツ、フロ嫌いで3メートル先まで体の臭いが漂ってくるヤツなどなど、どうしようもないです」
丸「変なヤツばっかりですね」
山上氏「その中でも最強最低の新人だったのが、オヤジの兄弟分から預かった樺島(仮名、25歳)です。一見しっかりしていそうなんですが、“あの……台所にお塩ってありますか?”と組事務所のいたるところに盛り塩をしはじめました。“組の建物自体が悪い気に包まれています”と言い出しました。そこからは奇行の数々です。暗闇に向かって何かを唱えていたり、宙にむかって十字を切ってみたりと組員たちも気味悪がっていました。そのうちお札を貼りだして、“ソファーの間から女がこっちを見ている”と震えだし、見事に破門で里に返しました」
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現在、部屋住みは衰退の一途を辿っています。それは業界自体が金儲け主義を追う経済路線へシフトし、古いしきたりを大切にしなくなったからだと言います。
任侠道を重んじるヤクザの業界で時代遅れの慣習が本当に必要なのかどうか、山上氏は自問自答しながら、彼は今日も新人教育に励みます。
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