厳しい世界を歩いていくための"誇り"と"愛情"を感じる『声のお仕事』

  by 琥珀ちずる  Tags :  

『声のお仕事 / 川端裕人 (文藝春秋)』
 
 目を引くタイトル、ライトノベルを思わせる表紙のイラスト。続いて帯のコメントに小山力也さんの文字。小山さんと言ったら、24時間戦うエージェントの吹き替えでもお馴染みの人です。世界の中心で声優愛を叫びたいほどの声優好きな私には、読む以外の選択肢はありませんでした。それはまさに興奮の極みです。

 さて、アニメ好きなら一度は耳にするであろう、"声優"という職業。何かと話題になる割に、まだまだナゾが多い業界です。おそらく表に出てこない職業柄ということもあるのでしょうか。それでも、最近の声優さんはバンドをしたり、アイドルをしたり、いわゆる顔出しで映画にも出ていて。もはや"声"だけの範囲に及ばない活躍ぶりです。この頃、声優メインの冠番組を見かけるようにもなりました。

 そんな声優業界をメインにしたお仕事小説"声のお仕事"二十代後半実績ナシ、崖っぷちの主人公を通して、声優という世界のリアルを描き出しています。

夢だけじゃない!声優業界の現実

 『声で世界を変える!』と日々オーディションに励む"結城勇樹"。背水の陣で臨んだ野球アニメ"センターライン"のオーディションで顔を合わせたのは、超売れっ子声優の"大島啓吾"。本人さえも忘れけかけてた共通の過去をもつ大島との再会が、結城の日常を大きく変えていきます。

 ベテランと新人が同じ土俵で勝負するアフレコのオーディション。その中で選考に残る厳しさ。端役(いわゆるモブ)から名前のある役をもらえるまでが更に難関で。結城は心折れそうになりながら、懸命に食らいつこうとあがいていく。ただ、上手いだけでは生き残れない世界。試されるのは常に新しい演技。作中ではそんな夢のある業界の夢だけじゃ語れない現実も至るところで描写されています。

 声優番組やラジオ放送を見聞きしていた人は、特にピンと来そうなエピソードもたくさん出て来ますし。そして一つのアニメーションが出来るまでに、こんな過程と葛藤があるんだなと感じられる描写も多いです。逆にコレを読んだ後で声優ラジオを聞いたりすると、見方がちょっと変わるかもしれません。冒頭のシナリオ的描写にも注目です。

空想の世界をリアルに近づける、声のチカラ

 
 物語の中盤。結城は声優を志した原点が、幼少期に経験した入院生活にあることを思い出し、小児病棟の訪問活動を始めます。子どもたちの前で実際にキャラクターを演じると、その表情に笑顔が灯る。特に長い入院生活を送っている子どもたちには、アニメーションは数少ない娯楽のひとつなのでしょう。現実に存在しない世界でも、声と音が入ることでそこにリアリティが増す。そこから世界が広がっていく。それが結城の言う"声で世界を変える"ことなのです。

「声優の仕事って世界を具現化することだと思うんです。ささやかな作り物の世界ですけど、ぼくらは世界の創造を通じて世界を変える。そんなふうに思っています。声が響く限り、届く限り、ぼくたちは小さくでも何かを変えていけると」

"声優の大仕事"より

 小説、漫画、アニメーション。それぞれを別物に感じる人が多いですが。私は相互作用もしていける世界かなと思うんです。今でこそ、情報を瞬時に見られる時代になりましたが。本来は、見たことないものはイメージできないのが自然なこと。だから、どれが良いか悪いかではなく、それぞれの良さを感じられたら素敵じゃないかと。

 また、人の記憶の中で声の印象は強く残ります。長く放送されているアニメだと、声優が代替わりすることもありますが。個々の記憶に焼き付くキャラクターの声は、自分がテレビにかじりついて見ていたその時代の声ではないでしょうか。例えて言うなら、ドラえもんの声をイメージするとき、出てくる声も世代によって違うと思います。
 アニメーションが人に与える影響て、ものすごいです。漫画で見ていた平面のキャラクターが、音声を持ち動作をする。それらがあるからいないはずのキャラクターを身近に感じることができるし、悪を制していく姿や、変身する姿などは子どもたちの憬れにもなります。アニメを観てキャラクターのポーズを真似たり、技名を叫んだりした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
 

創造の世界は愛で出来ている

 読んでいて、純粋に驚いたのが作者の声優愛と取材されたその素材。本著を書くきっかけがご自身の作品をアニメ化するとき、アフレコ現場を見学したことにあるそうですが。この物語にはいまどきの声優好きなら歓喜しそうな、豪華声優陣の方々が関わっています。最後のあとがき部分もぜひ読んでみてください。叫びたいくらい興奮しました。

『結果、つくづく感じたのはーーー声優さん、面白い!です。
 声のお仕事の世界を切り取って活写する作品を是非手がけたい!そのように願いました。その後、三年近くかけて形になったのが、本作です』

本編内"謝辞など"より 

 声優イベントの映像を見ただけでも、キャスト陣の思いが伝わってくることも多いのですが。この物語を読んでその印象が裏付けされたような、メッセージだけでは語り尽くせない様々なバックボーンがあることを強く感じました。声優さん、本当に面白くて凄いです。そして、真面目に熱い気持ちで作品に携わる方々ばかりです。

 声優を志望する人はもちろん、声優が好きで好きでしょうがない人も、アニメ業界に興味津々な人も楽しめる作品です。ぜひ『コレって、アノことかな』と想像しながら読んでみてください。

画像:作者撮影

琥珀ちずる

素人文筆家。更新停滞中。。。 ショートショート、手帳、ノート、サブカルチャーを主に書いてます。得意ジャンルまだまだ模索しています。

Twitter: 80_chizuchizu