▲『スカイライン-奪還-』リアム・オドネル監督
映画『スカイライン-征服-』は、謎の生命体による地球征服までの3日間を描いたSFパニック映画だ。2010年に公開された同作は、『アバター』『ジオストーム』などハリウッドのメジャーSF大作でVFXを担当してきた制作会社・ハイドラックスが生み出した野心作。人類が青い光に次々と吸引されていく強烈なオープニングに始まり、ビルに閉じ込められた人々による密室ドラマ、爆死する勇ましい管理人、そして衝撃のエンディングなどの奇抜なアイデアと、最新技術で生み出されたハイクオリティな映像で、世界中で熱狂的な支持を獲得。約20億円の低予算で製作されながら、全世界では約70億円の興行収入を得ている(Box office MOJO調べ)。
そんな前作から約7年を経て、続編『スカイライン-奪還-』が10月13日に公開される。コリン&グレッグ・ストラウス兄弟(『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』)からメガホンを受け継いだのは、前作で脚本を担当したリアム・オドネル監督。フランク・グリロ(『アベンジャーズ』シリーズ、『パージ』シリーズ)、イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン(『ザ・レイド』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)らをキャストに迎え、シリーズを「インドネシアの武術・シラットを駆使して宇宙人と戦う」SFバトルアクション映画へと変貌させたクリエイターだ。今回のインタビューでは、シリーズ特有の強烈なアイデアの源泉や、メジャー大作を手掛けつつインディペンデント映画を生み出すハイドラックスの環境、そしてストラウス兄弟との関係などについて、オドネル監督本人に語ってもらった。
すぐに人が死ぬ『スカイライン』シリーズの脚本づくり
▲『スカイライン-奪還-』(C)2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD
――オドネル監督は本作だけでなく、ストラウス兄弟の作品の多くで脚本を手掛けていらっしゃいますね。早くから脚本家を目指していらっしゃったのでしょうか?
そうです。小学2、3年生のころからでしょうか……物語を考えるのが好きで、学校から帰ったら、湾岸戦争のデザート・ストーム作戦をモチーフにした話を母に聞かせて、書いてもらったりしていました(笑)。ちょっと変わったアクションの話を書くことが多かったですね。その頃に好きだった作家は、当時大人気だった『ジュラシック・パーク』のマイケル・クライトンや、フィリップ・K・ディック(『ブレードランナー』『トータル・リコール』などの原作)です。
――そこからどうしてストラウス兄弟と映画を作ることになったのでしょう?
もともと映画を作りたいとは思っていたんですが、それを口に出す勇気がなかなか出なくて。大学在学中には、ワシントンDCでインターンとして政治に関わったりしていたんですが、たまたま叔父がTV番組の脚本を書く仕事をしていて、ある時現場を見学することになったんです。そこで、「こういう仕事もあるんだ」と気づいて、卒業したら(ハリウッドのある)ロサンゼルスに行ってみようと思いました。で、友人のマシュー・サントロ(※編註:ハイドラックスメンバーのひとり。『ファイナル・フェーズ 破壊』の監督)と一緒にLAに引っ越したんです。まあ、ノリですね。脚本家になれなくても、何かしらエンタメの仕事には就けるだろうと思っていたんですが、偶然グレッグとコリンのストラウス兄弟と出会うことが出来ました。
――素晴らしい行動力ですね。
グレッグとコリンは、CMやミュージックビデオのピッチ(編註:プレゼン用の簡単な企画概要)を書ける人を探していました。そこで、マシューがコンセプトアートを描いて、ぼくが脚本を書いて、色んなところに企画を応募したら採用されるようになったんです。ゲータレードやフレスカなんかのCMや、50セントやアッシャーのMVなどがどんどん決まったので、(引き続き)ストラウス兄弟と組んで仕事をするようになりました。ぼくらは大学を卒業したばかりだったんですけど、彼らのスタジオで働けたのは運がよかったですね。
――オドネル監督は、ハイドラックスの頭脳的な役割を果たしているのですか?
どうでしょう(笑)。グレッグとコリンも素晴らしいアイデアを出してくれますし、ほかのメンバーもそうですよ。わたしはどちらかと言うと、そのアイデアを言葉にして売り込むのが得意なんだと思います。
▲『スカイライン-奪還-』(C)2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD
――『スカイライン-奪還-』も、『スカイライン-征服-』も、アイデアあふれる脚本が素晴らしかったです。どちらも、重要そうなキャラクターが突然死んでしまいますよね。
『スカイライン』の(脚本)は、いわゆる三幕構成(設定、対立、解決)を守っていないので、批判を受けることもありました。でも、やっぱり他とは違うものにしたかったので、自分のやりたいようにやらせてもらいました。おっしゃる通り、一作目のキャラクターはほぼ全員死にますし、二作目でもたくさん死んでいきます。その一番の理由は、観客に「安全だ」と感じさせたくないから。死は常に隣り合わせだと思わせたいんです。妻は『スカイライン-奪還-』の脚本を読んで、ある重要なキャラクターが途中で死ぬことに、「観客が怒るんじゃない?」と言いました。でも、彼にはその後に人々を救う役割があるんです。『エイリアン』も『プレデター』も、素晴らしいキャストが出演していますが、最終的に残るのは一人か二人ですよね。そういう、サバイバルSFエイリアン映画を意識して作っています。まあ、(人が死ぬのは)個人的な好みということもあるんですが(笑)。
――『スカイライン-征服-』の日本公開時には、自爆する管理人(デヴィッド・ザヤス)が一部の観客の間で人気になりました。なぜああいうキャラクターを登場させたのでしょう?
火をつけるときに、カミカゼのポスターがあったのがよかったのかな(笑)。あの管理人は、ぼくが追加したキャラクター。追加した理由は、主人公たちとのジェネレーションギャップと、生活レベルの違いを見せたかったからです。一作目の舞台になったコンドミニアムはグレッグが当時住んでいた家なんですけど、ぼく自身もひと部屋借りていました。あそこにはお金持ちが住んでいて、管理人が甘やかされた若者の面倒を見なければいけない、という状況を目にしていたんです。地球が滅亡したときに、彼ら(管理人)から指示されるのではなく、自分たちで権利を勝ち取って生き延びる。そういう構図が面白いんじゃないかと思いました。若者たちと管理人、意見が対立するんですが、どちらが正しいわけでもなく、デヴィッドを悪人として描くつもりもなかったです。
――タバコに火をつけて爆死するアイデアはどこから?
当時、デヴィッドは実際に禁煙しようとしていて、「死ぬなら最後に吸いたい」と言っていました(笑)。そこからアイデアを得て、作った爆発シーンです。
CGとスーツでエイリアンを表現した理由
▲『スカイライン-奪還-』(C)2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD
――今回は、エイリアンをCGだけで表現するのではなく、俳優がスーツを着て演じています。
グレッグとコリンと本格的に組んだ最初の映画は、『AVP2』なんです。ぼくが監督していたわけではないですけど、現場でスーツを着て動き回るプレデターを見て、ワクワクしました。だから、『スカイライン-奪還-』ではそれを取り入れたかったんです。『スカイライン-奪還-』は、一作目に比べて登場するエイリアンも多かったので、CGで作るよりもスーツを使ったほうが予算的にも効率的でした。クリーチャーエフェクトでアラン・B・ホルト(『ジュラシック・ワールド』など)が参加してくれて、キース・クリスチャンセン(『ブラック・パンサー』『アバター2』などのコンセプトアーティト)が“パイロット”と“シェパード”、“パワークロウ”をデザインしてくれました。カメラでその姿をとらえると、CGと全く違うので、これが正解だったと改めて思っています。役者も実物があると演じやすいですしね。終盤の寺院のシーンではまだスーツが完成していなかったので、一部CGで加工しているんですが、それでもそこに“ある”のと“ない”のでは大違いだな、と。戦う場面でも、刺したり、殴ったりするときに、特にそう思いました。
――クライマックスの巨大なエイリアンの対決も、CGとスーツを併用していて、怪獣映画のような独特の迫力がありました。なぜああいうシーンを入れようと思ったのでしょうか?
一作目では、巨大なゴリラ型エイリアン“タンカー”をパイロットが操縦しているのをお見せしました。二作目では、その設定をさらに展開させて、“善のエイリアン”と“悪のエイリアン”が戦うシーンをどうしても入れたかった。問題は、スケール感とロケーションです。最初は“善のエイリアン”が6機のタンカーと戦う予定だったんですけど、さすがにそれはやりすぎだと思って、1対1に変更しています。もう一つは、ロケーションも変えたかったからです。これまで都市部で戦う作品が多かったのですが、同じことをすると既視感がある。ユニークさを出すために考えた条件が、「アメリカと戦ったことのある国」、「十分な広さのある場所」です。あと、エイリアンは人口の集中した場所を選んで攻撃しがちですが、それも避けたかった。その結果、インドネシアをラオスとして撮影することになったんです。
▲『スカイライン-奪還-』(C)2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD
――イコ・ウワイスさんとヤヤン・ルヒアンさんの配役は、ロケーションが決まる前に決定したのでしょうか?
ロケーションが先に決まりました。インドネシアで撮ることが決まって、現地のインフィニット・スタジオという制作会社がイコとヤヤンをキャストとして提案してくれたんです。「出演してくれるなら、是非!」ということで、スケジュールを確認してもらったら、ちょうど空いていたので、すぐにジャカルタに飛びました。彼らが加わったことで、後半の設定がガラリと変わったのもよかったですね。最初はゲリラ戦のようなアクションだったんですけど、よりマーシャルアーツ的な要素が強くなったので。
――仮にロケーションが中国に決まっていたら、ドニー・イェンが出演していたかもしれない?
うーん……それは、予算的に無理ですね(笑)。もちろん、ドニー・イェンは大好きですし、ファンですけど。彼(ドニー)はマサチューセッツのボストンに住んでいたことがあって、ぼくもボストン出身。うちの兄は大学にも通っていました。そういう意味で、共通点が多いんですよ。
――ハイドラックスはメジャー作品のVFXを手掛けつつ、本作のような中規模のインディペンデント映画を積極的に製作されています。そういった環境は、やりがいがありますか?
ええ。ぼくにとっては完璧な環境だと思っています。脚本を書くだけじゃなく、VFXのコンサルティングをしたり、色んなデザイナーと一緒に仕事をして、沢山のことを学ぶことが出来ました。若手で入ってくるとだいたいフロントデスクから始めるんですが、その後にコーディネーターにも、VFXのプロデューサーにも、アーティストにもなることが出来る。やる気があれば、何でもチャレンジさせてくれる環境なんです。ここまでバランスが取れたスタジオは、ほかにはないと思いますね。コリンは、『ランペイジ 巨獣大乱闘』や『カリフォルニア・ダウン』、Netflix『Death Note/デスノート』でVFXを担当しましたし、今もブラッド・ペイトンがプロデュースするNetflixオリジナルドラマ『Daybreak』のVFXをプロデュースしています。グレッグのほうも、トム・ハンクス主演の『Grayhound』という作品を手掛けています。みんなが自由に出来る、非常にバランスのとれた会社だと思っています。
『スカイライン-奪還-』は10月13日(土)より、新宿バルト9他全国ロードショー。
インタビュー・文=藤本洋輔
『スカイライン-奪還-』予告篇(YouTube)
https://youtu.be/nyWf5fJKiq8
『スカイライン-奪還-』
(2017年/シネスコ/ドルビーデジタル 5.1ch/106分)
原題:Beyond Skyline
監督:リアム・オドネル 『スカイライン-征服-』(脚本)
出演:フランク・グリロ ボヤナ・ノヴァコヴィッチ ジョニー・ウエストン イコ・ウワイス ヤヤン・ルヒアン
VFXスタジオ:ハイドラックス 『アバター』『ジオストーム』
配給:REGENTS/ハピネット
レーティング:R15
公式サイト:https://skyline-dakkan.jp/
(C) 2016 DON’T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD