鬼に金棒、ロック様に義足とダクトテープ! “マッチョじゃない”ヒーローが輝く『スカイスクレイパー』の魅力

  by 藤本 洋輔  Tags :  

ドウェイン・ジョンソン。この名前は、アメリカのプロレス団体WWEで「ロック様」ことザ・ロックとして活躍した男が、俳優として活動する際の名前である。「ピープルズ・チャンピオン」と呼ばれるほど愛されたロック様は、映画界でも人気爆発。米フォーブス誌の発表で「2018年に世界で2番目に稼いだ俳優」に輝くなど、その勢いは止まることを知らない。もはや、彼をプロレスラーだと知る人のほうが少ないかもしれない。『ワイルド・スピード』では犯罪組織と、『カリフォルニア・ダウン』では地震と、『ランペイジ 巨獣大乱闘』では巨大化した獣と戦い、“マッチョなアクションスター”の座を不動のものとしたロック様。そんな彼が最新作『スカイスクレイパー』(9月21日公開)で挑む敵は無機物。それも、高さ1,000m超、240階を誇る超高層ハイテクビルだ。

『ダイ・ハード』、『タワーリング・インフェルノ』に『燃えよドラゴン』? あふれるアクション映画への愛と過剰な演出

本作の主人公ウィル・ソーヤー(ドウェイン・ジョンソン=ロック様)はFBIの特殊部隊隊長として活躍していたが、ある事件で片足を失い、危機管理コンサルタントに転身。現在は妻(ネーヴ・キャンベル)と二人の子どもにも恵まれ、忙しくも幸せな毎日を過ごしていた。そんなウィルの生活は、香港の超高層ハイテクビル“ザ・パール”の安全点検を請け負ったことで一変。テロリストが建物を襲撃し、ソーヤーの家族とオーナー・ジャオ(チン・ハン)を人質に立て籠ってしまったのだ。さらに不幸なことに火災まで発生。ビルのセキュリティに精通するウィルは事態の解決を図るが、ひょんなことから容疑者として警察にマークされてしまう。こうして、ウィルは家族を救うため、炎上する摩天楼(スカイスクレイパー)のごときビルに乗り込むことを決意する。

テロリストに占拠されたハイテクビル、家族を救うために乗り込む主人公、燃えさかる建物に閉じ込められる人々……という設定に「どこかで聞いたような話だな」と思う方も多いだろう。それもそのはず、本作はブルース・ウィリス主演の『ダイ・ハード』(88年)や、超高層ビルの火災を描いたディザスタームービー『タワーリング・インフェルノ』(74年)のような、70~80年代の大作アクションへの製作陣の憧れからスタートしているのである。そのため、過去のアクション映画へのオマージュ……というより、ほぼパロディな描写が満載。例えば、大富豪のアジア人(本作では中国人)が所有する高層ビル“ザ・パール”は、明らかに『ダイ・ハード』のナカトミビルを意識したもの。ほかにも、『燃えよドラゴン』からの引用があったり、「とても重要なスイッチがとても押しにくい場所にある」といった細かいネタもたくさん仕込まれている。「あの映画のあのシーンをリスペクトしているのでは」と、アクション映画を観ている方であればあるほどニヤニヤしてしまうはずだ。

そんな“アクション映画あるある”の中でも、筆者が特に笑ってしまったのがダクトテープの使い方。そう、『オデッセイ』(15年)でマット・デイモンの餓死を防ぎ、ゾンビ映画で噛みつきから腕を守り、『ダイ・ハード』で最終兵器として使用された、あの万能テープである。ロック様は劇中で、医療からライフハック的なものまで様々なダクトテープの使用法を我々に教えてくれるが、最終的には、「正直その使い方はヤバイ」と不安になるほど危険なことにまで用いてしまうので注目だ。こういったアクション映画の“お約束”を、豊富な予算で景気よく見せてくれるのは、本作の大きな魅力の一つ。どのくらい景気がいいかは、“ザ・パール”の高さが、『タワーリング・インフェルノ』に登場した地上550メートルのタワーの倍であることや、ロック様がどう見てもヤバイ距離を跳ぶ、あの素敵なビジュアルから察してほしい。とにかく高い、とにかくデカイ、とにかくヤバイ。その価値観は、プライスレスである。

ロック様が提示する“マッチョではない”ヒーロー像

実は、『スカイスクレイパー』にはロック様自身がプロデューサーとして参加しているうえ、主人公のウィルも彼自身に当て書きされたキャラクターだという。単なる「頭を使わずに楽しめる作品」以上の意味があるのではないか……と、よくよく思い返してみると、本作がロック様が入れ込むに足る、“新しいヒーロー像”を提示する作品であることがわかってくる。

『スカイスクレイパー』の主人公ウィルは、外見こそ筋骨隆々のマッチョマンだが、その考え方や行動はいわゆる“マッチョイズム”とは程遠い。妻と家事・育児を分担し、休日を子どもと過ごし、素直に家族への愛の言葉を投げかける。「男だから」「一家の長だから」という理由で強がったり、無茶をするようなこともない。前述したように、どう見ても物理的にヤバイ障害に立ち向かうシーンは多数あるものの、その行動原理は「愛する家族を助けられるのは自分しかいない」という1点につきるのである。仮に妻や子どもが人質に取られても、警察に追われていなければ、ウィルはすべてを当局に委ねただろう。自分だけが危険な目に遭う場面では、および腰になる一幕すら描かれている。

くわえて、ウィルが義足であることも、彼の性格に大きな影響を与えている。片足が義足のウィルは、日常生活に支障が出ないほどには慣れてはいるものの、多少なりとも人の手を必要とする場面に遭遇する。そういった場面で、彼は「助けてもらうこと」を恥と思わない。かといって、ハンデを抱えていることにくよくよすることなく、時には義足を武器にして戦うこともある。余談ながら、この義足は本編で大活躍するのだが、それはまた別のお話。要は、ウィルは弱い部分を弱い部分として受け入れ、前に進むことができる人物なのである。

また、アクション映画につきものの“相棒”キャラも、80年代のそれとは大きく異なる。本作でソーヤーの相棒となるのは、かつては“助けられる存在”だった妻・サラである。海兵隊の軍医(!)という、まさに質実剛健を地で行く彼女は、ソーヤーと連携をとりつつ、時には自らテロリストと戦う。家事・育児だけでなく、戦闘も分担するのである。いささか都合のいい設定にも思えるが、それはご愛敬ということで。

こういった、アンチマッチョなキャラクターは、実生活のロック様とピッタリと符号するのが驚きだ。ロック様はプロレスラーになる以前、フットボール選手を志していたときに、負傷によるクラブチームからの解雇通告や恋人との別れなどから、うつ病になっていたことを告白。また、15歳のときには母親がうつで自殺を図っていたことも明かしている(英Express誌のインタビューより[リンク])。さらには、Twitterで「うつ病は差別されるようなものではない。そのことに気づくのに長い時間がかかったが、大切なのは恐れず打ち明けること。ぼくたち男性は、とくにそれ(うつであること)を隠しがち。あなたたちは、独りじゃないんだ」とも語っている。外見的にマッチョなウィルが弱さを隠さず、妻と助け合う姿は、実は「男は強くあるべき」というマッチョイズムと対極にある、ロック様自身の思想が反映されたものなのである。

筋肉があるのはいいことだが、マッチョである必要はない。ドウェイン・ジョンソンの提示する新たなヒーロー像に、ロック様の妙技を味わいな!

『スカイスクレイパー』は9月21日(金)全国公開

映画『スカイスクレイパー』
原題:SKYSCRAPER
監督:ローソン・マーシャル・サーバー/出演:ドウェイン・ジョンソン ネーヴ・キャンベル パブロ・シュレイバー チン・ハンほか
公式サイト:http://skyscraper-movie.jp
(C)Universal Pictures

WEB編集・ライター・記者。アクション映画が専門分野。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。執筆・などのご依頼は [email protected]

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