【小説】午睡

  by ながみね  Tags :  

午後の公園@作者撮影

海外には、シエスタと呼ばれる時間帯がある。午後の休憩時間、日本でいうところの昼休みがそれにあたるらしい。小学生の頃、姉貴の部屋より拝借した本にそれは載っていた。姉貴にはそのせいで酷く怒られたが。今ではその本の意味も、彼女がどうしても隠しておきたかった理由も、何となくわかってしまう。ふとそんな事を思い出したのは、今がその時間帯で。

「ここ、テストに出すからな。チェックしておけよ」

黒板にチョークを走らせる音と、教師の声が少し遠く聞こえる。『世界のどこかでは休み時間なのに、自分たちは勉強の最中か……』と独り見もせぬ異国の地に思いを馳せた。毎朝家で見ているニュースで海外の偉い人がどうのこうの言っても、頭の中を通り過ぎていくだけなのに。自分が退屈そうに授業を受けている時に、のんびりした時間を過ごしているであろうその国を憂うのは、何とも都合が良い。なんてことを自嘲気味に思う。特に午後の暖かい日差しは、机に座って授業を受けているだけの学生たちに強烈な眠気を誘う。自分の周りでも、眠気に負けた数名が屍のように伏せていた。

“シエスタ”

とノートに書いてみる。東南アジアに住んでいる女性の名前みたいだ。いや、エジプトの踊り子でも良いかもしれない。前にテレビで見た、ベリーダンスの衣装を思い浮かべる。うん、悪くない。髪は黒で長めが良い。イメージした女の子をその文字の下に描いてみる。イメージよりも良い感じに描けたんじゃないか。他には、ヨーロピアンな感じでも良いな。髪はブロンドで、アリスみたいなワンピース着て……といった具合に描いていくと、ノートは”シエスタ”から派生した女の子のイラストでいっぱいになった。さて、次はなにを描こうかと思っていたそのとき

「なんだ、テスト1週間前だってのに随分と余裕じゃないか」

と背後から声がした。焦って振り返ると案の定教科書片手に微笑んでいる教師の姿が。

「ハ、ハイ……」

口角がひきつるのを自覚しつつ、返事をすると。

「ノートも提出物に入ってるぞ。忘れんようにな」

とシエスタ(女の子)がたくさん描かれているノートを指先でコツコツ叩いて、教卓に戻っていった。自分はと言うと『やべーな…』と内心冷や汗をかいたが、せっかくの傑作を消してしまうことも躊躇われて、その続きから板書を書いたのだった。

ながみね

素人文筆家。更新停滞中。。。 ショートショート、手帳、ノート、サブカルチャーを主に書いてます。得意ジャンルまだまだ模索中。 ※HN変えました