キッチンのガスファンヒーターが表示する室内温度がとうとう朝イチ4℃という極寒の温度を示すようになった。
ガス火で中華鍋をガンガン振って分厚い炊飯用鍋で豚汁をグラグラ沸騰させているキッチンで4℃となれば、何の暖房器具もないトイレでは最高温度であっためているはずの便座が冷え切っている室温である。
ついにきたか、この期間が。
尿意を催したら二枚ほど着込み「よしっ!行くか」と決意表明をして向かうこの期間のトイレを、我が家ではオイミャコンと呼んでいる。
世界一寒い村オイミャコン、-71.2℃の気温はギネス記録。
【写り込み 散々注意と 言ったのに】
「今まで撮った写真の中で一番よく撮れてると思う、俺の中で」
うん、確かに。俺の中で。
雪国に生まれ雪国で育ち雪国で生活しているハチは、きっと麻痺しているのだ。
雪が日常ではないという感覚はないのであろう。
全国的に、晴れる。
全国的に、曇る。
雨が降るのも全国的であるが、雪は降らない県にはちっとも降らない。
そして私はその雪がちっとも降らない県で生まれ、雪が降るのをチラと見るくらいの環境で人生の全てを過ごしてきている。
武道便所カメラマンとしての心得は、画像に日常的でないものを写さないということである。
写り込みに注意するのは人間ばかりとは限らんのだよ、ワトソン君。
武道便所ライターは、その便所一箇所のみの記事を書くことも勿論あるにはあるが、多くの場合に複数の便所の画像をまとめて記事ひとつを書く。
複数の画像を撮るのに数ヶ月をかけることもあり、そうなると画像編集をして記事にするまでにはすっかり季節が変わってしまう。
そんなわけで、なるべく季節がわかるようなモノは避けて画像を撮るのが基本のキであるが、ハチは活けてある花や、季節限定の貼り紙を撮る。
そこに魅力を感じるならば私はどんな季節限定アイテムをも記事に仕立てる所存だが、そうなるといかんせん画像に旬があるために記事を急がねばならない。
急いては事をし損じる。
急いで書いた文章はお粗末になる危険性をはらんでいるものだ。
ハチの目にはフザけてペペーと書いているように見えるであろうこの文章も、産みの親である私の指先はBackSpaceキーをこれでもかと叩くのだ。
Delete派ではない私は書いては消し書いては消しをBackSpaceキーで繰り返して記事を寝かせつつ、最終段階までもっていく。
これを人々は推敲と呼ぶ。
要約できるだけし倒しても長い時はおそろしく長いので、記事を書くのにはそれなりの時間がかかるのだ。
「雪って何月まで降ってるもん?」
「2月はまだまだ雪だね」
そんなことらしいので、雪の武道便所は2月をピークと見積ることにした。
1月は行き、2月は逃げ、3月は去る。
だから私は画像編集と記事を急いで仕上げていこうではないか。
【木の温もり 感じる雪の 武道便所】
雪が隠せない外観のトイレは木の温もりを感じる。
木のドアに貼られた注意シールの中は全力疾走のフォームである。
全力疾走。
どう撮ったらこれだけピントをブレさせることが出来るのか不思議でならないが「ちゃんと撮ろうとしてコレ」というハチの撮影スキルも場合によっては記事になる好例として、ピントのブレを最大限に活用しておいた。
一歩先を行く、オムツ換えシート。
ママたちならば一目でこの良さがわかるであろう。
オムツ専用ダストボックスがある。
オムツ換えシートは今や珍しくもなんともない設備であるが、
このように、オムツを捨てることが出来ないトイレは意外に多い。
出先でオムツを換え、汚物をトイレに流してほのかに臭うオムツをビニールで出来るだけ真空パックにしてトランクに保留しておかねばならないお出掛け。
オムツが取れるまでお出掛けの回数が減ることは想像に難くない。
お出掛け用おしり拭きウェットシートがあることも知った上での一歩先を行くダストボックス。
ココはママたちのクチコミで「使用済みオムツがちゃんと捨てられるトイレ」と情報が広まっていることだろう。
便器と壁の隙間にある隙間ラック。
コンパクトなこのカタチはきっと予備のトイレットペーパーを2個置くためのワイヤーラックとみた。
呼出しボタンはよく見るが、その復旧ボタンまであったとは。
誰が押すのだろうか。
呼出しボタンを押した本人に復旧ボタンを押す余裕はないと思うが。
呼び出された人が押すということか。
スタートの●部分に人差し指を置く。
そのまま下のゴールの●部分まで人差し指を滑らせると、一気に電気が消せる。
どこかの階段の電気まで消えてしまう。
図解、今一歩前。
「今一歩」の歩幅は狭めでいいようだ。
あしらわれているイラストの二人が、
すごく申しわけなさげなのかそれとも、すごくオシッコを我慢しているのか。
手が黒いシルエットだと泥棒感がすごい。
コレだと、向こうからドアに隙間を作れるタイプの鍵になるが。
こちらから出入りが出来ない向こうから隙間を作れるタイプの鍵がかかっている、
無駄にオシャレな非常口。
【雪深し それでも便所に ゆく人ぞ】
私には非日常すぎてどう扱ってよいかわからないほどなのに、この環境下で外観を撮っているハチの感覚がすごい。
入口はもはやひとつしかルートがない。
雪国の環境は厳しいとは聞くけれど、雪道で立ち往生してしまうことが自己責任になるのか。
立ち往生するなんて雪国の人間として失格、ということだろうか。
鉄の手すりも錆びる雪国の厳しさ。
南国太平洋沿いの鉄も錆びるけど。
いつも綺麗に御利用いただきありがとうございます。
と、こんなにベタベタ貼ってしまうと感謝の言葉を述べている貼り紙ではなくクギを刺している貼り紙になることを、御利用者は肝に御銘じあそばせ。
うっすら見えている落書き『林や』
『や』は『家』である。
ちなみに林家ペーパーとセットで耳にすることが多く、セットで記されることもあるかとは思うが、林家ペーと林家パー子である。
それから表記の使い分けだが『下さい』と漢字にする時は、実際に何らかの物が欲しい時。
この場合は、行動をお願いしているのでひらがな表記の『ください』となる。
手足が長い、
かなりの現代人。
非常ボタン
解除方法指南アリ。
予備トイレットペーパーが裸の場合、補充もへったくれもなく使われてしまうのは便所観察をしている者にとってはお約束である。
数々の便所を8年間撮影してきた私が言い切るが、裸のトイレットペーパーは高確率であっけなく使われる。
矢印にご注目いただきたい。
上げられる便利な手摺りではなくて、その向こうにある興味をそそる缶。
きれいに使うようにと書かれているのであろう汚い紙が年季が入り込んで骨董品に見えてくるスイガライレで押さえてある、
人間味あふれる組み合わせ。
心がけを疎かにしているとしか言いようのない書き置きの全文がこちら。
古文書に見えてしかたがない。
本来は壁に貼ってあったものが剥がれて書き置きとなった模様。
こちらも矢印にご注目いただきたい。
熱湯でも出ないとおそらく泡立たない。
サラもそろそろ置いていただきたい。
【雪国を ナメたらアカンで 想像以上】
コート。
傘。
それ以外は上に。
万に一つに備え出口付近にまとめるので、命の危険を察知したらすぐさま出よ。
油断してはならぬ。
雪国のトイレにしかないであろう、矢印のスイッチ。
命がけの排尿からアナタを救う、スイッチ。
雪国ならではの、
公衆便所の設備。
ヒーター完備。
しかし無情なことに5分後に自動的に切れてしまう。
作動させる時は手動なのに、強制的に暖めるのを終えてしまうのだ。
寒いからといってギリギリまで膀胱に尿を溜めてトイレに行く回数を減らそうとせずに、雪国ではこまめにトイレに行こう。
膀胱レベルを上げすぎてたっぷり溜められるようになってしまえば、5分以上の排尿量を誇ってしまうだろうから。
檻の向こうの閉ざされたトイレ。
何人たりとも容易には入れやしない。
寒さに強い選ばれし者のみの立ち寄りを認める。
ドアノブ、おそらく凍てついているから気を付けろ。
ひょっとしてこの居眠りで死ぬレベルなんじゃ・・・。
クリスマスシーズンになるとお店の窓や入口のショーウィンドウに、スノーステンシルディスプレイがされているのはよく目にするかと思う。
雪のようなスプレーを吹きかけて雪の結晶をステンシルするアレであるが、ステンシルにはプレートがあって、それが雪の結晶の型にくり抜かれてあるからスプレーを吹きかけるだけで雪の結晶が形づくられるわけである。
しかしこちらの窓は人工的にディスプレイしたわけでも何でもなく、単に豪雪地域で吹き込んた雪が窓に結晶のような形で積もっていっているのだ。
同じような窓の様子なのに場所が違えばこんなにもルンルンランラン出来ないものなのか・・・雪国とは過酷極まりない。
温水が出てくれるのはありがたいが、少しとはどのくらいの時間がかかるものだろう。
待った甲斐があったと思わせてくれるほど、温泉でほっこりあったまるに値する温度で出てきてくれるのだろうか。
もうそろそろ温水になったかな~と手を出してみたらキンキンに冷えた氷水が出ている、という大惨事は起こらないものか。
リスクのほうがはるかに高い嫌な予感しかしないのだが、私は。
いや~・・・ん~・・・
これでも行くかね、このトイレに。
いやいやいやいやいや、
屋根と壁の役割ってこれで正解なのか。
い~やいやいやいやいや、
これで果たしてるのか、役割を。
雪国のひとたちが忍耐強い性格をしているというのも納得である。
この環境下で忍耐強くならなきゃウソだな。
南国でヌルッと産まれて今まで適当に生きて続けてごめん、ハチ。
べつにハチに謝る必要はないが。
私の目には途中から『歩いてはいけないゾーン』の存在が見える。
しかしこれほどのリスクを負ってまで行くかね、このトイレに。
※全画像:筆者および助手ハチ撮影