【スペインの外国人】日本にベビーカー優先エレベーターがなぜあるのか

  by 吉原 久美子  Tags :  

スペインでよく訊かれるのは、「日本ってマチスタ(男尊女卑)の国なんでしょ?」。
日本はやっぱりマチスタの国なんですか? 銀行で総合職として働いていた女性によると、やっぱりそうであるらしい。普通の中小企業の方達は、銀行においても男性と話したがるそうです。しかし、日本とスペインでは、というより欧米においても、きっと男尊女卑の意味合いが違うのではないかと思います。

なぜ、こういう話をしているかというと、ニュースで”「これは優先エレベーターです。誰か降りて」 ベビーカーママの訴えに意見分かれる”というのを読んだからです。まず、驚いたのは「ベビーカー優先エレベーター」があるということ。エレベーターってそんなに混むの?と友人に訊いたら、ベビーカーを押しているとなかなか乗れないらしいです。でも、それってデパートの話でしょ?デパートってエスカレーターもあるのだから、なにゆえ、エレベーターが混雑するの? というのが私の素朴な質問です。

よっぽどのことがない限り、私はデパートに行った時にエレベーターは使いません。エスカレーターがあるのだから、ゆっくり色々な 階の陳列などを楽しみながら目的地に行った方が楽しいと思うからです。それに、デパートに行く奥様達ってすごく濃厚な匂いじゃないですか?私ね、あれが苦手なのです。ですから、エレベーターにほぼ乗ったことがないのですが、たまに乗る機会があってもスペインだと2〜4人くらいしか乗っていません。やっぱり、閉所にいるより、エスカレーターでぼーっと色々見ながら登るのがいいと思っているのでしょうね。

唯一、スペインのエレベーターで混み合っているのは大病院のエレベーターです。私は脳に腫瘍があるので、時々、検査に行かなくてはならないのです。脳腫瘍の場合、専門の病院は限られていますから、やはり混みます。おまけにデパートと違って、エスカレーターがありませんから、みんなエレベーターを使います。古い建物の場合、エレベーターの数が限られていますから、並んで乗ることになります。こういう大きな病院には、ベビーカーを押してやってくる人はいません。

しかし、車いすやベッドで点滴をしている人は乗ってくることがあります。そういう時、「ここは病院ですから、車いす優先です。」とか「ベッドが優先です。」とか言う人がいるでしょうか?スペインのようにまず秩序とは縁遠い国にあって、決まりもへったくれもないのですが、車いすやベッドの人がエレベーターに乗ろうとすれば、列を作って待っている人たちは静かに場所を譲ります。そして、エレベーターが止まって、中に入れない状態ですと、まず、男性諸氏がさっさと降ります。

そう言うわけで、車いすの人やベッドの人がエレベーターが空くのをじっと待っていると言う場面には出会いません。マッチョな男性諸氏は、美しいと言ってもいいくらいの自然さで、やるべきことをしてしまうのです。それはどこの病院でも、どの男性でも同じです。

普通のピソ(マンション)のエレベーターは比較的小さいので、6人まで乗れると書いてあるエレベーターでも4人も乗れば体がもう少しで触れるくらいの混み方になります。滅多にマンションのエレベーターに乗れなくて、待たなくてはいけないことはないのですが、たまたま人がたくさん乗っている時、なにが起きるか。スペインでは、やはり、男性がさっさと降りてくれます。降りて、階段を使って登り始めます。「おいら、男だからさ!」と、後ろ姿に書かれているのが見えるようです。スペインって、ほら、マチスタ(男尊女卑)の国だから。

ベビーカー優先とか妊婦優先というより、ここは女性優先です。それは男性の心の底に、だって女って男より劣っているから大事にしてやらないとね、という気持ちがあるからかもしれません。こんな男の気持ちを受け取ってはいかん、と思うフェミニストもいるかもしれません。しかし、とにかく、無事に全てが滞りなく機能していると言えますよね。

「これは優先エレベーターです。誰か降りて」と叫んだ『ママ』は、きっと日本の男性に抗議しているのではないかなと、この記事を読んだ時に思いました。多分、家でもちっとも手伝ってもらってないのです。デパートでお買い物だって、赤ちゃんと一緒で大変ならば、夫と来ればいいと思うじゃないですか?きっと日曜日に夫と一緒にデパートに行くというようなこともなく、一人で赤ちゃん連れでやってきて、エレベーターに乗れず、誰も手伝ってくれないことへの怒りが爆発したのかな、と思いました。

エレベーターに乗っている人たちにしても、心の中で「赤ちゃん連れで、来るなよな。」と思っているかもしれません。そういう気持ちがなければ、ベビーカーを持った女性が待っていたら、乗せてあげようという気持ちになったのではないでしょうか。

私は1度、1歳になる息子をおぶって、3歳の娘と朝8時の山手線に乗ったことがあります。混み合う山手線で男性が二人、こんな時間に子連れで電車に乗るのは非常識だと聞こえよがしに言われました。子供がいてもいなくても、時としてどこかに行かなくてはならい切羽詰まった事情というのが生じることがあります。もしも、お金があれば、ベビーシッターを頼むとか、タクシーに乗るとか、他の方法が取れるかもしれません。しかし、お金がなくて、実家が遠い人は子供を連れて移動するしかないのです。

日本はマチスタの国なのか?男尊女卑というより、男性に男としての誇りが欠けているのかなと思います。だから、ベビーカー優先エレベーターのようなへんてこりんなものが存在しなくてはならないのでしょう。

写真は著者撮影

スペインに住んで17年になります。 現在 日本人の全くいない 天本英世さんの灰が眠っている カソルラ山脈の麓の村に住んでいます。 夫はマドリッド出身のスペイン人。 子供は3人。 そして母は92歳まで13年間を私と一緒にスペインの生活を楽しみました。 コンセルバトリオのヴィオラの学生でした。アンダルシア認定調理師

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