モダン・アートと公園のメッカ、ロンドン。
大英帝国時代の絢爛豪華な建築群が延々と軒を連ねる一方、人種問わず若い男女がモダンな装いでスケボーを乗り回し、そこら中にグラフィティを描きまくるこのロンドンには数多くの博物館・美術館・ギャラリーがあり、その多くが無料である。その種類は極めて多岐に渡り、ウルトラオーソドックスなナショナル・ギャラリーから中世オタクの巣のようなサー・ジョン・ソーンズ美術館(ジョン・ソーン閣下大変申し訳ございません)まで実に多種多様である。
一方、ロンドン人は公園が大好きである。隙間があればそこら中に公園を作り、その維持管理に心血を注いでいるように映る。東京に比べ、町中を歩いていて公園に遭遇する率は高い気がする。さらに、公園のスタイルも東京とは異なり、基本的に野原っぱメインで木立は規則正しく理路整然と、といった風なのである。比較的フラットなロンドンの地形と相まって、公園では非常に空が広く見える。筆者の下宿先近くにも体感的に戸山公園の2倍くらいの公園があったが、ロンドンその規模は並と言ったところだった。
今回訪れたギャラリーは、上記の2点が完全に調和して生み出された見事な空間を体感できるものであった。かなり不思議な気分になったので、ロンドンで疲れたらココに来ることを強くオススメいたします。筆者的には、ロンドンで今一番オススメなのもこのギャラリーだ。
では、その『サーペンタイン・ギャラリー』を見てみよう。
ハイドパークを突っ切ってギャラリーへ
件のギャラリーはロンドン最大の公園ハイドパークのほぼ中央に位置するので、ハイドパークの外周5箇所にあるどの駅を使っても良いだろう。今回筆者は、直線距離で最短とみられるランカスター・ゲート駅を使用した。だが、この駅は地上に上がる際にエレベーターを使用しなければならないので、若干不便で時間が掛かる事も予想される。
駅出てすぐ目の前に公園の入り口。駅名が「ゲート」なだけあり、わかりやすい。この時は人の流れも少な目。なお、ターミナル駅のパディントン駅からも歩いて10分程なので、交通の便は非常に良い。
中に入ってまず目に飛び込んでくるのは、美しい噴水と池、そしてクラシックな東屋風の建物。ここはイタリア庭園と呼ばれており、石造りの池の周りや噴水の装飾などを見ていると確かにイタリアに居るような気分になる。
そのイタリア庭園の中央には、イギリス、いや世界の医学史でも特に重要なジェンナーの銅像があるので、「ジェンナーありがとう」と一礼しておこう。
等間隔に植えられた木々が美しい、均整の取れた見事な園内。まだ午後2時前後だというのに、強烈な西日。この季節、ロンドンでの日が落ちるスピードはとんでもなく早いのだ。
見渡す限りの青い芝生に、葉の落ちた木立が延々と続く。まるで、イギリスの心の田園風景が見えるかのようだ。ハイドパークは東京都民からすると度肝を抜かれるほど巨大な公園なので、筆者はただただそのカントリー感に感動していた。
ロンドンでは地下鉄内でも毎日犬が乗り込んでくる程、犬が多い。なおさら公園ともなれば、犬だって嬉しくてそこら中を駆けまわる。しかしご安心を。しつけがしっかり為されたお行儀の良い犬ばかりだ。さすが紳士の国だ。
途中、大きな湖に出くわす。これがサーペンタイン湖で、その名の通り蛇のようにハイドパーク内を蛇行している。その広さに比例してか、非常に多種多様な鳥類が飛来していた。
ロンドンの公園といえばリス。そこら中にリスがいて、餌をあげなくてもおいでおいでをすると足を登ってくる程、人に慣れている。かわいい。
Serpentine Gallery
歩き始めて10分程だろうか、草原の中にお伽話に出てくるような小さなクラシック建築物がぽつんと現れる。
どうやら、ここがサーペンタイン・ギャラリーのようだ。
サーペンタイン・ギャラリーは展示内容がかなり頻繁に更新されており、この時はロンドンを拠点に活動する現代コンセプトアーティストのマイケル・クレイグ・マーティンの展示を行っていた。このギャラリー自体、コンテンポラリーアートやインスタレーションの展示を主体としているようである。詳しくは、超オシャレな公式サイトを参照してほしい。
Serpentine Gallery
入場料:無料
営業時間:※現在はインスタレーションの準備中でクローズとのこと。次の展示は3/3から。「サーペンタイン・ギャラリー」公式サイト
http://www.serpentinegalleries.org/
写真撮影は許可されていたので、ここではその一部を紹介しよう。
中に入るといきなりiPhoneとMacのマウスが。これらの「絵」はすべてアルミニウムの板の上にアクリルで描かれているとのこと。写真だと伝わりにくいが、その鮮明さに目が覚めるようだ。
こちらにはXboxのコントローラー。先程まで眺めていた美しい田園風景とは打って変わって、超身近な製品の作品を見ているそのギャップに驚く。
そらには壁自体がキャンバスとなって、建物丸ごと展示物という雰囲気さえある。
筆者も愛用させて頂いているMacBookPro。これは部屋に欲しいかも。
とにかくカラフルなのが印象的な作品達だった。シンプルながらも深みのある作品ばかりで、ついついじっと眺めてしまう。
その実、建物自体はクラシック。このギャップがまた妙な感動を展示に与えているのだろうか。
実はもう一つ、変わったギャラリーが!
およそ30分ほどでギャラリーをマルっと鑑賞。外に出ると、近くにはまた別のギャラリー『Serpentine Sackler Gallery』があるという事に気がついたので行ってみた。
併設されたカフェがウルトラモダン。ちなみにこの建物、東京オリンピックで日本でも話題になったザハ・ハディドによる設計だとか。そう言われればそう見える……?
しかし驚くべきなのはその内側!建物の外見とは裏腹に、展示物は超ギークでこれまた「???」となること必須の不思議空間が広がっていたのだ。
この時行われていた展示は彫刻インスタレーション作家、サイモン・デニーの展示。公式サイトによると、今回のインスタレーションは”歴史的な”ハッカー組織の形を様々なモノを用いて表現した展示とのこと。
例えば、上に見えるのはオンライン靴屋「ザッポス」のインフォグラフィックスの様なもので、作品と言うよりかはIT業界の雄達を分かりやすく芸術的に解説したインスタレーションとなっていた。
あるいはこのようにサーバーラックにUNIXのぬいぐるみを詰め込んでUNIXの歴史を説明してみたり、
GitHub機関車風のPCケースを用いてハッカーの歴史を紐解くなど、プログラマーでない自分には正直意味不明な展示が多かったが、その斬新な作品群は見ていて楽しいものだった。
ギャラリーの中央には怪しげな謎のリング。
近寄ってみると、なんと惜しげも無くMac Proのガワが使われているではないか!
全く理解することが出来なかった展示だが、このような突飛もないアート作品が見れるのもロンドンならではだろう。
いかがであっただろうか、超巨大公園ハイドパークの中にあるサーペンタイン・ギャラリー。この他にも夏になると、ギャラリー前の空間を利用して異様な形のパビリオンが毎年建設されている。期間限定なので、夏にロンドンを訪れた際は是非散歩がてら、立ち寄ってみては如何だろうか?あまりに不思議な空間なので、きっと妙な気分になること間違いなしだ!もちろん全て入場料無料なのも素晴らしい!この妙に居心地の良い不思議空間は一見の価値アリ!