子持ち潜在保育士のひとりごと。

  by yappi  Tags :  

保育士の資格は有するもその職についていない“潜在保育士”は57万人に上るとされる。筆者もそのうちのひとりである。都内認可園にて新卒から3年間保育士として勤務をした。3年目にして2歳児のクラスリーダーを受け持ち、苦悩の1年を過ごした後、結婚・出産を機に退職。現在1歳児の母となり復職も視野には入れているが、二の足を踏んでいる。

■子持ちの潜在保育士は復職できるか

東京保育士実態調査によると、過去保育士就業経験者の退職理由の1位は「妊娠・出産」(25.7%)であることから、私のように妊娠・出産を経て子持ちとなった潜在保育士が多くいることが予想される。潜在保育士の復職を求める取り組みは連日議論されているが、こどもをもつ保育士の復職は(特に筆者のようにこどもが小さいほど)よりシビアであると思う。なぜならば、自分のこどもを保育園に預けなければ保育園で働けないからである。そうなると、いくつか課題が見えてくる。

第一に、まず自分のこどもが保育園に入れるかどうかがわからない。筆者の個人的な話を交えよう。息子は先天性に喉の器官が弱く、集団生活を避けるように医師から指示されている。区の在宅保育事業の問い合わせをしてみるも、実質的にまだ行っていない事業との返答を受ける。両祖父母も遠いため預けることはできない。この時点で、保育の職に戻りたくとも実質戻るのは不可能なのだ。筆者の話は一例にすぎないが、昨今の待機児童の増加により、保育士のこどもが保育園に入れず保育の職に復帰できない・・・なんて悪循環が、実際に起こっているのである。園によっては、自社のグループ園に預けながら働ける制度を取り組んでいるところもあるが、限られている。

第二に、多くの人が声をあげているように、給与の低さである。自分のこどもを預けてまで保育士として復職することは果たして金銭的にメリットがあるのだろうか。独身時代のように、やりがいだけを追求することはできない。家族の生活の為には、他業種のほうがよほど稼げるのである。

第三に、保育士がこどもを持ちながら働く体制が整えられているかの懸念である。ほとんどの保育園は延長保育を行い、開園時間が長い。大抵の保育士はシフト制で早番や遅番の勤務に当たるが、筆者のような子持ちの保育士には延長保育時間帯に働くことは難しい。また、人がその場にいることが不可欠な仕事柄であり、勤務の経験からも休みのとりずらさを十分に思い知っている。こどもが体調を崩した時のことを考えると、復帰に躊躇せざるを得ない。

第四に、責任の重さである。前述の実態調査では、過去5年間の保育士登録者全員が調査対象であるが、回答者の4割が20代、2割が30代、と7割近くが20代30代という若手~中堅層が占めている。これは、今の保育業界そのものであると思う。保育士の平均勤務年数は約7年。妊娠・出産を機に仕事を離れる保育士が通例であったため、働き続けたほんの一握りの保育士が管理職についているが、その数はこの保育園増加ラッシュに追い付いていない。若手や中堅が園を支えている現実がある。筆者の例を話そう。以前働いていた園では、園長は対外業務も多いためほぼ不在。主任がいなかったため4年目と3年目の保育士で連携をとりながら約80名定員の園を支えていた。経験に乏しい若い保育士が自分のクラスの業務のみならず、園全体の業務まで担わなくてはならず、心身共に消耗し辞めていく保育士が後を絶たなかった。また、現在潜在保育士である私のもとには、経験年数わずか3年にも関わらず頻繁に「園長候補」「主任業務をお願いします」と求人が舞い込む。実力以上のポストを担わなければならない実態が保育士の負担となり、保育の質の低下を招いている原因でもあろう。こんな実態のなかで復職したとしても、こどもを持ちながら働くには抱えきれないような、責任のある業務を任されるのは目に見えている。

このように、子持ち潜在保育士の復職には現実的に多くの壁が立ちはだかっている。また、保育士自身の根底にある気持ちも大きいと思う。保育士を選んでいる以上、こどもが好きで、わが子との時間も大切にしたい、自分の目で成長を見届けたいという気持ちが他職業の人より強いのではないだろか。わが子を預けてまで他の家庭の子どもを保育するということに、どこかしらのわだかまりを抱える人も少なくないように感じる。ゆえに、家庭との両立をできる働き方を望むのであり、その条件を選定する目はシビアなのである。

■それでも保育の職は魅力的だ

保育業界の厳しい実態を連ねてきたが、それでも筆者は保育の職に魅力を感じている。「保育士はこどもと遊んでいるだけ。」実際を知らない人が持つそんなイメージよりも遥かに保育の仕事は幅広く、そして奥深い。日々子どもと保護者に寄り添い続けることは、どんなに年数を重ねても新しい発見が尽きず、感動を伴う素晴らしい職業であると思う。自身も子を持ち更に、その気持ちは高まった。できれば、また保育の職に戻りたいという気持ちは強い。先の実態調査においても、「どのような条件でも保育士として働くつもりはない」と答えた潜在保育士の割合はわずか3%にすぎない。一度保育の職の素晴らしさを実感している潜在保育士の多くは、条件次第で再びその職に就きたいと考えているのだ。

■保育士確保の政策は的外れに思えてならない

さて、では昨今の保育士確保政策は効果的なのだろうか。どの政策も一概に、ターゲット層が見えず、優先順位の誤った場当たり的な政策にしか思えない。特にIT化は現在働いている若手や中堅層の離職防止にはなるかもしれないが、それ以上のいわゆるベテラン層の潜在保育士には逆に復帰を躊躇する理由とならないだろうか。IT化の前に、まず保育士の書類や業務内容自体を見直し、必要かどうかの是非を見極めることのほうが急務であろう。また、費用をかける優先順位としては、経験を積んでいる保育士に対して正当な評価をし、見合った給与を払うほうが優先されるべきではなかろうか。詳細には触れないが貸付制度や学校教諭の代替も、優先順位が低く効果の乏しい政策であると考える。根本的に、そして持続的な解決のためには、保育士の給与の改善と、妊娠や出産を経ても働き続けられるような労働環境の整備が不可欠だ。国は真摯にこの問題に向き合ってほしい。そしてひとりの潜在保育士として、この国の保育の未来が明るいものであるよう、心から願っている。

山梨県出身。私大総合政策学部に在学中に保育士免許取得、卒業後3年間認可保育園にて働く。現在1児の母。得意分野は、海外旅行・保育・教育・育児など。