
田舎から出てきた僕にとって、都会を感じさせる人だった。華美でなくむしろシンプルなものを身にまとい、淑やかさと同時にどこか官能的な煌きがあった。洗練された美しさというものを初めて知った。そんな彼女の肌に触れた夜の翌朝、池袋に出た。彼女に連れられるがまま訪れた書店は、深い森のようだった。目の前の彼女と同じように静かで激しく、知的な匂いがした。それ以来、なぜだか不思議と池袋に縁がある。仕事に疲れ飲んだくれた夜も、人生の底に沈み眠れずに迎えた朝も、有頂天にはしゃぎ杯を重ねた時も、強い日差しが照りつける中汗を拭ったスーツの日々も、なぜだか池袋がついて回った。そして池袋には、ずっと静かに佇む森のようなその書店があった。都心のまっただ中にありながら、喧騒や忙しい日常から遠く離れるようにそっと。池袋リブロが閉まると聞き、僕は久々に森の中に入った。森はあの時のままだった。君と探した本を、もう一度探してみた。