読前読書録vol.6 藍川京「梅雨の花」

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 涼しげな着物を着込んだ心の裡は、じっとりと濡れているのかもしれない。身体にまとわりつく空気、はっきりしない天候。梅雨は嫌な季節だ。けれど一方で、花の美しさを感じさせもしてくれる。厳しい冬の終わりと穏やかな季節の始まりを告げる春の花、生の盛りを華やかに演出する夏の花に対し、梅雨の花は耐える美しさに満ちている。春や夏の花が、太陽の光を浴びまっすぐに背筋を伸ばすのに対し、梅雨の花はその花びらや花弁をしっとりと濡らし、下向きの顔からじっと睨みつけるような趣きがある。開放的で颯爽とした春や夏の花々と違い、拒絶するようでいて、本心では求められることを強く願っているような。
 官能小説だ。性には、秘されること隠されることにより、その魔力が増すようなところがある。拒まれる度、受け入れられぬごとに高まる欲望がある。梅雨に濡れた花びらを一枚ずつ剥ぎ取るように、ゆっくりと物語の衣を脱がして堕ちていきたいと思う。

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