読前読書録vol.3 椹野道流「最後の晩ごはん」

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 理想の小説というのは、しんどいときそっと背中に添えられる手のようなものだ。柔らかな圧力が心を落ち着かせ、温もりがもう一度立ち上がる勇気をくれる。だから小説家は、世界中のしんどさを受け止める必要がある。あらゆる悲しみや不幸を飲み込み、包み込んで物語に変えていく。ただ、もちろん小説家だって人間だから、悲しみの沼に誘い込まれ、不幸の波にのまれてしまうことだってある。そんな小説家の背中にそっと手を添える物語のようだ。
 若い頃過ごした街の思い出を呼び起こすものは、知己と食べ物だ。食堂はその両方を持った稀有な場所かもしれない。かつて過ごした街で通った店に、ふと訪れたくなる一瞬がある。今もあの店はやっているだろうか。おふくろの味と一緒にすると怒られるかもしれないが、実家が懐かしいのも、どこかにかつて食べたものの記憶を残しているからかもしれない。胃と心を温められそうな物語。久々にあの店に行ってみようか。

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