【スペインの外国人】サンダルに靴下

  by カソルラ クミコ  Tags :  

 外国に住んで、その土地のことばを覚える一番良い方法は、その土地の人にとっての外国語を学ぶことですと言うと、結構びっくりされます。しかし、説明すると、なるほどと納得してくれます。
 例えば、スペインに住んでスペイン語を習うとすると、そこはかなり高額な語学学校か、移民の通う無料の公立の語学教室ということになります。まず、前者の場合、一緒に学ぶのはドイツ人だったり、フランス人だったりします。たまたま、そこにイタリア人がいようものなら、レベルはあっという間に上がってしまいます。後者の場合、アラブ系の人たちが多いと思います。彼らの語学スキルは生半可ではありません。日本に住んでいるアラブ系の人々の日本人としか思えないアクセントの日本語を何度も聞きました。そんなクラスにあって、劣等生のレッテルを貼られた日本人はくぼんでしまいます。もともと、真面目な日本人は、レッテルを貼られたことで殻にこもってしまいます。
 一方、あなたがもしスペインに住んで、英語のクラスに入ったとします。すると、あなたは一躍、花の優等生になるのは、間違いありません。スペイン人たちに憧れの目で見られ舞い上がってしまったあなたは、スペイン人たちの質問に必死で答えようとするでしょう。〇〇ってどういう意味?数少ないスペイン語のボキャブラリーを振り絞って必死で説明しようとします。そして、もっときちんと説明したくなって、さらにスペイン語を勉強します。だいたい、それ以上に、スペイン人と生徒という同じ立場でそこにいてお茶をしたりするのですから、スペイン語が上達するのは当然。これは、英語圏にいる場合にも当てはまります。アメリカに在住中の友人が、スペイン語を習いに行きました。アメリカ人、というか、英語圏の人達は、語学を勉強する基礎があまりできていません。おまけに、母音がはっきりしているスペイン語は、やはり母音がはっきりしている日本語を話す日本人にはずっと簡単なのです。ですから、彼女はアメリカ人の間でイドロになってしまい、自信を持ったおかげで、英語も上手に話せるようになったのです。
 私自身も英語のクラスでかなりスペイン語ができるようになりました。というより、アンダルシア訛りのスペイン語が理解できるようになった、という方が正しいかもしれません。スペインに住み始めた時は、マドリッドの郊外にいたのですが、三年してアンダルシアに引っ越すことになりました。アンダルシアの山の中のスペイン語は、マドリッドのことばとはかなり違いました。友達もいませんでしたし、子供もまだ小さくて、時間も十分にあったので、ちょうど市役所が主催していた、無料の英語教室に行くことにしました。
接客業を営む人のための英語コース。もう十年くらい前のことです。
先生はボブという50歳くらいのイギリス人でした。ボスニアでずいぶん長い間現地の子供達に英語を教えていました。人生で一番輝く思い出は、ボスニアにいらしたダイアナ妃にインタビューをして、それを記事にしたものが新聞に載ったことだそうです。そのくらい、彼は典型的なシャイな独身のイギリス人でした。
クラスは、ホテルやカフェで働く女性が主でした。3人は、高校を出たばかりで、働き始めたまだまだあどけない女の子。
最初の授業で先生が『何か質問は?』と聞いた時、そのまだまだあどけない女の子の一人が手をあげました。
そして、無邪気に質問しました。
『どうして、北ヨーロッパの人たちは、サンダルを履いてる時にソックスを履くのですか?」
みんな、ドッと笑いました。
するとボブは、真っ赤になって、『僕は、僕はもうそういうことをしないよ。だって、へんてこりんだってもう知ってるから、』と。しどろもどろに答えました。

私はそれまで、それが滑稽なこと、(スペイン人にとっては、といううことですが、)だとは知りませんでした。
子供時代、女の子は白いレースのついた靴下に、リボンか花のついた白かピンクのサンダルを履いていましたよね?
それで、それがなぜそんなにゲラゲラ笑うほど滑稽なことなのか、そして、一方で北ヨーロッパの人たちはそれを良しとしているのか考えてみました。
日本では、お中元やお歳暮のカタログに靴下セットがありますね。『駐在夫人のためのメモ』によると、西洋の人たちにとっては靴下というのは下着の一つだから、親しくもない人に靴下をプレゼントするのは変なので注意するようにとあります。靴下って下着なんですね。
それは北ヨーロッパの人も南ヨーロッパの人も同じだと思います。北ヨーロッパの人は、人前で『下着』の中にあるものを見せるのははしたないことと思ってるのではないかと想像します。また、スペイン人にとっては、靴下は下着ですから、見せるのはおかしげに感じるのではないでしょうか。例えば、気取った紳士の社会の窓(って死語ですか?ズボンのファスナーです。)が開いていて、ベビーピンクのパンツが見えちゃってる状態に近いおかしさがあるのかもしれません。
これはあくまで私の持論です。
スペイン人の夫にきいてみました。
『サンダルは暑いから履くんだろ?それなのに、靴下履いたら意味がないだろう?
論理の問題。論理のない行動だから、おかしいんだ。』
それぞれの国にそれぞれの論理があるんだと思いました。
ところが、ここで話は終わりません。その後、イタリアのベルサーチが、サンダルに靴下を履く『ファッション』を提示したのです。絶対的な『善』というのはないんですよね。でも、きっと息子がサンダルに靴下を履いたら、夫は息子を八つ裂きにすると思います。古くなった人間にとっては、子供時代に植え付けられた価値観こそが。絶対的なものですから。

ところで、なぜクリスマスに靴下をぶら下げて、その靴下にプレゼントを入れるのでしょう。
下着である靴下をぶらさげる習慣というのも、なんだか考えようによっては、おかしなことです。きっと長い歴史的意味があるのでしょう。

写真筆者撮影。エンダヤ(フランス)にて

スペインに住んで17年になります。 現在 日本人の全くいない 天本英世さんの灰が眠っている カソルラ山脈の麓の村に住んでいます。 夫はマドリッド出身のスペイン人。 子供は3人。 そして母 89歳。 現在 コンセルバトリオのヴィオラの学生。

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