今年の花火大会はお預けだけど…世相を反映した現代の花火を『若松屋』で取材して線香花火を作ってみた!

  by 古川 智規  Tags :  

今年は新型コロナウイルスの影響で大規模な打上花火(打揚花火)や仕掛け花火をともなう花火大会はほぼ中止になっている。夏の風物詩である花火大会を見ることができないのは大変残念ではあるが、こればかりは仕方がない。
しかし、家庭向けの花火(おもちゃ花火のカテゴリー)は昨年よりも需要があるという。そこで花火製造会社の若松屋を取材してそのあたりの事情を聞き、法律の規制の範囲内で実際に花火を作らせてもらったのでレポートする。

若松屋は愛知県の花火メーカーだが、訪ねたのは東京支店。同社の社屋には販売業者向けの展示室があり取材のため特別に見せてもらった。今回の取材は山本佳南子さんにお手伝いしてもらった。彼女が持っているのがいわゆる尺玉で10号玉と呼ばれるものだ。この大きさで300メートル程度の高度で開花する。東京タワーと同程度の高度だ。そして背後の巨大なものは3尺玉・30号玉で、この大きさだともはや打ち上げることができる場所は限られ日本では長岡まつりの花火大会くらいしかない。打ち上げ高度はおよそ600メートルにも及び東京スカイツリーと同程度だ。よって東京で打ち上げられる花火は概ねスカイツリーよりは下で開花するということである。

最近の家庭用花火の傾向として煙の少ない花火に人気があるという。花火にそれほど煙があるのかとも思っが、それは実際の点火で実感することになる。花火は通常立て続けに点火して楽しむが、3本ほど遊んだ後はあたりは煙で真っ白になる。都市部の密集地で花火をやろうと思えば様々な配慮から煙が少なくなるような工夫が必要という時代の要請に応えたかたちだ。

さて、製品の花火を分解することは法律に違反するが、材料がそろっている状態で作ることは違法ではない。ただし、一般に火薬は手に入らないし取り扱いには資格が必要なのでそう簡単に花火を作るわけにはいかない。そこで同社では一般に公開しているイベントではないが、依頼を受けるかたちでの花火を作るワークショップを開いている。花火製造者による実験の形式でワークショップ開催の依頼を受ける。今回は特別に同社で火薬類取締法の規定による有資格者のもとで線香花火を作らせてもらった。

線香花火の材料は線香花火用に調合した黒色火薬と和紙のみだ。和紙に火薬を乗せてこよりを巻いていくだけの簡単な構造である。しかしこの巻き方が難しくうまくこよりを作れない。打ち上げ花火はもちろんのこと、市販されている花火は線香花火を含めて基本的に全て職人の手作りなので国産の場合は価格の大半を人件費が占める。それでも我々が普段思ったほど高いと思わないのは安価な中国製が多いことと、企業努力によるところが大きいのだろう。

出来上がったものは線香花火とはいえ火薬が使用されているので、安全上の理由からその場で「消費」して遊んでしまわなければならない。これはワークショップでも同様なので、今回は同社の駐車場で消費することにした。

記者が作った線香花火を含めて、中国製や国産の既製品をそれぞれ点火して比較してみた。記者のものは何とか線香花火の形になったが、最初から火花は出ずしばらく火薬が燃焼してから火玉ができた。よってこよりのかなり上部まで燃焼する「遅咲き」の結果となった。

中国製と国産の違いは一目瞭然で、材料はおそらく同じだろうが製造工程というか職人の技術に違いがあるのだろう。線香花火といえども奥が深く作るのはかなり難しいことを知れば、今夏の家庭での花火には一層の思い入れが深まると思う。
記者が1本の線香花火を作るのに10分程度を要したが、職人は1分ほどで作ってしまうという。点火すれば1分も持たない可憐な線香花火だが、作った工程を火花の中に投影しかみしめた。

昔にはなかった花火の楽しみ方としては世相を反映した「写真映え」がある。花火は一瞬の華やかさを心に焼き付けるものであるが、やはり現代では写真映えも重要な要素である。暗い場所で手振れを防ぐためにシャッタースピードをそこそこ稼ぎながら火花をイメージセンサーいっぱいに写しこむのは花火モードや夜景モードがある最近のスマホとはいえなかなか難しい。そこで同社では花火が従来よりも長時間燃焼し続ける「映え」仕様のいわば女子向け花火を開発している。また女子仕様としては香り付き花火というものもある。火薬そのものに香りが付いているわけではないが、メロンの香りがする花火は「美味しそうな花火」と表現しておこう。
とはいえ、男子には花火は子供のころからの身近な「危険物」であり男のロマンでもある。火と光と音と煙は強ければ強いほど良い男子にとっての重要なファクターでもある。もちろん、そういう仕様の花火もあり、火炎が強めのものは照明弾かと思うほど周囲を明るく照らす。

なおこれから夏にかけてよく寄せられる質問で1年前の夏に買った花火が出てきたけどどうしたらよいのかというものがあるという。花火には消費期限はないので昨年のもでも2年前のものでも、出てきた花火は無理に処分しようとせずそのまま遊んでほしいということだった。「湿気る」と言われているのは包んでいる紙の部分の話であり、花火は火薬が燃焼するものなので火薬にさえ点火してしまえば花火としての性能は変わらないということだった。

今年は花火大会が軒並み中止になり花火職人は花火を作ることができないことで、ワンシーズンのみの聴衆を楽しませる機会を失っている。花火は火薬なので貯蔵量に制限があり、原料である火薬はもちろんのこと製品も作りだめするわけにはいかないのである。
同社としては経済的損失よりも、花火大会がない代わりに家庭でさまざまな花火を楽しんで新型コロナウイルスや豪雨災害の影響で消耗してしまった心を癒してほしいと願っている。諸説あり後の時代に創作された話もあろうが、日本では花火は祝砲として使用されるばかりではなく鎮魂や祈願の目的で使用されることも多かったことだろう。
まもなく例年よりも長かった梅雨が明けようとしている。せっかくの花火シーズン到来ではあるが、多くの盛大な花火大会は来年までお預けだ。しかし今年の夏は新型コロナウイルスの早期終息を願い、多くの災害で被災したあるいは御隠れになった方々への鎮魂の意味も込めて家庭で花火を楽しんでみてはいかがだろうか。

※写真はすべて記者撮影
 モデル:山本佳南子

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