予備軍は300万人以上? 決して他人事ではない若者ホームレス問題

  by numb_86  Tags :  

 

『若者ホームレス白書』という冊子を、ご存知だろうか。
2010年12月に公開され、2012年4月には第二弾も作成された。
無料で配布されており、ネット上で読むことも出来る。
http://www.bigissue.or.jp/program/index.html

発行は、NPO法人ビッグイシュー基金。ホームレスが路上で販売する雑誌『ビッグイシュー日本』、その販売者に20歳代、30歳代の若者が増えているという。
そのことに危機感を覚えたビッグイシュー基金が、40歳未満のホームレス50人を対象にヒアリングを実施、その内容をまとめ、解決に向けた具体的な方策を提言したのが、この『白書』である。

この冊子を読んで見えてくるのは、若者ホームレスという”問題”が、決して他人事ではなく、この社会で生きる全ての人と密接に関わっているということだ。

若者ホームレスというのは、決して遠い世界の特殊な現象ではない。
彼らが置かれている状況は確かに過酷で極端なものであり、ひとつの”極北”といっても過言ではないだろう。
しかし、彼らがホームレスになってしまった理由、要因の一つ一つは、私たちにとってとても身近なものばかりなのだ。

ホームレスになってしまうまでの過程、境遇は、人それぞれである。
だが多くのケースに共通して言えるのは、平穏な日常から突如としてホームレスになってしまうのではなく、いくつかの段階を経て、その最終段階としてホームレスに行き着くということだ。

リストラや派遣切り、勤め先の倒産、不慮の事故や心身の不調による退職……。何らかの理由で職を失ってしまった若者。すぐに再就職できればいいが、質・量ともに雇用の悪化が進む中で、安定した職に就くのは難しい。短期のアルバイトなどの不安定な雇用で食いつなぐものの、次第に家賃や生活費を捻出できなくなってゆき、ネットカフェ難民を経て、やがて路上へ。

戻れる実家があればよいが、ホームレスの多くは、頼れる家族を失ってしまっていることが多い。
養護施設の出身であったり、両親と死別していたり、修復できないほど家族関係が悪化してしまっていたり。貧困家庭で育った人の割合も高く、実家に経済的な援助を依頼できないことが多い。

また、若者ホームレスたちは相対的に見て、学歴が低い傾向がある。『白書』の調査結果によると、実に4割が、中卒(含高校中退)だという。当然、就職は不利になり、安定した雇用に就くのは難しくなる。

そしてアルバイトや派遣労働ではスキルも身に付かず、一度そこに身を投じてしまうと、抜け出すのは難しくなる。それが分かってはいても、とにかく明日の食費を稼がなければならないため、不安や不満を抱えつつも、単純労働に勤しむしかない。

また、過酷で展望のない環境に身を置き続けることは、精神の不調にもつながる。若者ホームレスの中には、抑うつ状態にある人も少なくない。自己肯定感の低さは、就労や自立に向けた意欲や積極性を奪う。

そしてこれらの要素は、互いに影響し合い、複合的に絡み合っている。

フリーター生活が長引けば、家族との確執は深まり、家族関係の断絶につながりかねない。
頼れる実家がなければ、生活は自転車操業にならざるを得ず、長期的な視点で行動することが難しくなる。
食いつなぐために職を転々とするが、転職を繰り返せば繰り返すほど、雇用条件は悪くなる。
日々の労働に忙しいし、そのような境遇にあることに引け目を感じてしまうため、少しずつ友人との関係が疎遠になっていく。家族以外の人間関係も失ってしまう。
孤立が深まることで、視野は狭くなっていき、自己肯定感も低下していく。
自信を失うことで、状況を打開しようという意欲も、希望も、奪われていく。

このようなスパイラルに陥り、どうにもならなくなった時、ホームレスという現象は生まれる。

ここまで悪条件が重なってしまうことは、珍しいかもしれない。事実、多くの人は、それぞれに様々な課題を抱えつつも、ホームレスになることなく日々を暮らしている。
だが、一つ一つの要素は、決して珍しいものではない。
教育格差による貧困の再生産、家族の不和、就職難、不安定な雇用、キャリアアップできない就労環境、職場と家以外に居場所のない状態、メンタル不全、低い自己肯定感……。
自分や家族、友人に当てはまるものが、一つぐらいはあると思う。

『白書』では、若者ホームレスを生む土壌、予備軍として、ひきこもり70万人、ニート63万人、フリーター178万人、あわせて300万人以上の若者が存在していると指摘している。

誰もがホームレスになりうる、とまでは言わない。
しかし、若者ホームレスという問題は決して別世界の出来事ではなく、私たちの日常の延長線上に存在するのだ。

3年ほど勤めた会社を退職し、貯金を食い潰しながら生きているニートです。新しい働き方や生き方に関心があり、自ら実践、模索中。引きこもり、対人恐怖症、高校中退などの経験があるため、「何らかの生きにくさを抱えた若者」にも関心があります。

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