短編小説『レビンと名付けた』

  by sattakanovel  Tags :  

 

 猥談に対して白けた表情しか出来ない男は終始無言だった。今もスマートデバイスと車のキーが一体化した腕時計の汚れを指で落としている。ただしこの間に思いついたことは数多ある。
「私はこう思うんです。人間を養殖しましょうよ」
「養殖したって弱い人間しかできないだろ。それより食料をもっと効率よく生産しないと――」
「そんなの甘いです。人間が増えないと、です」
 男と男の世間話は深くなっていく。話は数時間に及んだ。
「では、この計画をレビンと名付けましょう」
「レビン、か。なぜトレノじゃない?」
 どちらもトヨタ車の社名だが、某アニメで有名になったトレノではないことに疑問を抱く。
「レビンはヘブライ語系の姓ですよ。相変わらず車に直結する癖は直っていない」
 レビン計画は今も進行している。
 どんな政治家よりも、悪党よりも質が悪いことは誰も知らない。

 レビン計画の主目的は人間を退化させることである。
 発展しすぎた文明をリセット出来れば、また一から面白いことが出来るのだ。
 人は暇になると暴力に走る。戦争も同じだ。
 だから、敢えてゼロイチ思考だけしか出来ないようにして、異種とエンカウントしないようにするのだ。
 交通事故が起きないのはこれとほぼ同じ。起きる時はゼロイチより細かく刻まれた時だ――。

 ”そんなことが分かっていながら戦わなければならないのが男の性”

 そんなこと、あるのだろうか?
  
 退社したばかりの芋野多良介は空を見上げるが、さっき食べたつまみのネギが鼻に入ってしまい、一生懸命出そうとしているだけである。けっして感傷的になっていたわけではない。
「芋野多良介! 後ろから車が来てるぞ!」
「はーい、すみませーん」
 彼は会社帰りにばったり会った友人と酒を飲んでいた。
「――おいレビン!」
「……レビン?」
 背の高い女がレビン、レビンと叫んでいる。
「俺はレビンじゃねぇ! 誰だよそりゃ、放せ!」
 背の低いスーツが顔を真っ赤にして女を引きはがそうとしている。
「どちらも酔いが回ってるな……。そういやレビン計画ってあったよなー。あれ、都市伝説でしょ?」
「あ、ああ。そうだな。小学校の時に配られたよな、計画書」

 

sattakanovel

無理はしない。

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