『大塚車庫の記憶』 ~東京都交通局巣鴨営業所大塚支所が87年目の歴史に幕~

  by 古川 智規  Tags :  

都営バスで最も古い営業所である巣鴨営業所大塚支所(大塚車庫)が開設78年目を迎えた今年、巣鴨営業所へ統合により廃止される。そのさよならイベントとして半日だけ所内が公開されたので訪れた。

大塚支所は昭和3年に東京市電の車庫であった当地に大塚営業所として誕生し、曲折を経て現在は巣鴨営業所の大塚支所として2路線を担当するだけになっている。廃止後の路線は巣鴨営業所が引き継ぐことになっているが、当時の建物や格納庫がそのまま使用されており歴史的価値も高いことから大勢のファンが集まった。

その大塚支所が担当する都営バス「都02」系統に乗車して大塚車庫前を目指した。この路線は錦糸町駅前から大塚駅前を結ぶ幹線路線である。

大塚支所に到着した時には小雨が降っていてかなり寒かったが、路線バスが出入りする営業中の車庫だけに、警備員を配置して公開していた。

イベント会場であることを示す看板が掲げられていたが、記念撮影を行う家族連れやファンでいっぱいだった。

大塚支所の入り口から長蛇の列で人気の高さがうかがえる。

 

大塚支所の表札看板はかなりの年代物で、歴史の古さを感じさせる。この看板は今月29日をもって降ろされることになる。

中に入ってみると、格納庫の展示スペース、部品の販売スペース、グッズの販売スペースが所狭しと並び、営業中の車庫でのイベントを開催するのに苦労した跡がうかがえる。

写真撮影する人、家族連れで普段乗っているバスを観察する人、グッズを買いに走る人、様々だ。

今回の目玉は「幕車」と呼ばれる車両展示だ。現在の主流は車両前方、側面、後方の行先方向幕がLEDの車両だが、フィルムにスクリーントーン印刷を施してドラムで巻き上げる本物の幕を使用した車両がわずかながら存在する。その幕車を集めて展示しているのだ。

もちろん、現役の車両ではあるがこれだけ幕車がそろうとファン垂ぜんの圧巻な光景が広がる。

現在は廃止路線となった都02急行の方向幕。通常は見ることができない。

東京ビッグサイトで大規模イベントが開催される時に運行される臨時急行の「国展01」系統。ほぼすべての営業所からバスが動員され運行される。

この方向幕もLED化に伴い見る機会は少なくなってしまったようだ。

バスの点検整備を行う格納庫。乗用車用とはけた違いの大きさだ。

格納庫の中から。ファンがひっきりなしに訪れては写真撮影をしていく。

市電、都電時代から存在する当所を懐かしむかのように老夫婦がゆっくり歩きながら建物を眺めていたのが印象的な公開イベントだった。

車庫から出入りするバスに乗客を乗せるため、当所発着のバスもあるが、これはその降車場。

大塚車庫前が廃止された後は停留所名も変更され、その名は人々の記憶の中だけに存在することとなる。

右書きで東京都交通局と書かれた開設当初から存在すると思われる石造りの水槽。この魚たちは巣鴨営業所に連れて行ってもらえるのだろうか。

名残惜しいが、雨が強くなってきたので大塚支所を後にした。茗荷谷駅前で都営バス90周年復興カラーのバスに遭遇した。このカラーは昭和30-40年代の都営バスを復刻したもの。当時は大塚支所にも本物が在籍していたはずだ。

行きと同様に都02系統で錦糸町駅前まで乗車した。幸運なことに乗車したバスも「幕車」だった。前の銀色のバスは観光路線バス”東京・夢の下町”「S-1」系統。

 

古いものは時代とともに消える。これは仕方のないことだ。しかし、古き良きものを記憶にとどめ、後世に伝えていくことも歴史の通過点を目撃しようとしている者の使命ではないだろうか。「長い間お疲れさまでした。」と心の中でつぶやき、大塚支所所属の都02系統「幕車」を見送った。

 

※写真はすべて著者が撮影したもの。

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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