【旅をしない男の話】旅なんて想像もつかないしできない、だから憧れる

  by 木村 邦彦  Tags :  

(イラスト/筆者)

私は旅をしたことない。飛行機にも乗ったことがない。北は生まれ故郷の仙台、南は高校の修学旅行で行った京都。これが、私が人生を過ごした空間のすべてである。こんなに旅をしない人間、あなたの周りにもいますか?

このように、旅をしない私だけど、旅には強い憧れがある。全国から田舎者が集まる大衆大学に進学し、サークルは野宿研究会というものに在籍した。この謎めいた名前のサークルは、まあ旅系サークルみたいものだった。仲間達が自転車で世界一周とか山手線20周などに挑戦していた頃、私は一度も旅行らしい旅行をしなかった。旅する理由が見つからなかったのだった。

東京を「旅」する

(写真の出典:http://komekami.sakura.ne.jp/)

つい最近まで、このように思っていた。憧れの東京にやっとやって来きたのに、どうして海外なんかに行かねばならぬのだ。こんな考えをしてしまう私こそは根っからの田舎者なのだろう……。東京に住み続けて20年になるが、いまでも「東京に行きたい」と思うことがある。しかし、向かうべき東京はもうない。なぜなら、私はもう東京にいるからだ。

旅への憧れ

(写真の出典:http://en.wikipedia.org/wiki/Westminster_Bridge)

若い頃には、物知りなイマヌエル・カントに憧れていた。彼自身、旅行をしたわけでもないのに、ロンドンのウェストミュンスター橋の形や仕組や長さや幅や高さなどを、手にとるように述べたという。このようであれば良いんじゃないかと思っていたのだ。しかしながら、物知りなカントであるが、旅を否定している訳ではないらしい。

カントは、人間知・世間知を獲得しひろげる方法として、なによりも交際や旅行を、さらに、旅行記、世界史、伝記、演劇、小説などにふれることをあげている
(出典:『人と思想 カント』小牧 治著)

カントは私に「書を捨てよ旅に出よう」と言っているような気がする。人違いかもしれないけど……。

旅への憧れ

(写真の出典:http://www.ashinari.com/)

いま、猛烈に旅をしたい。取材をしたいとか、美味しいものを食べたいとか、温泉に浸かりたいとか、そのような明確な動機があるわけではない。理由のない旅をしたい。理由や動機をあれこれ考えていたら、旅なんてしないのかもしれない。

旅行好きな、素晴らしい女性と結婚をした。もしくは絵画を描き始めるようになって、海外の素敵なコレクターの方々とも友だちになった。彼彼女らが住む街を訪ねたい……。このような思いが交錯する。旅に憧れを持ち続けるものの、しかしながら、旅を実行していない。

好きな人に会いに行くような気分だろうか

たとえば、絵画コレクターでコーヒーショップを営むオーナーがいらっしゃる韓国とか。ロゴの仕事をくださったオーナーがいらっしゃる香港とか……。もしくは、妻が大好きな貝原益軒の故郷の福岡とか。旅など想像もつかない。そこに何があるのかも知らないし、何をするべきかも知らない。だからこそ、ワクワクもする。好きな人に会いに行くような気分だろうか。なんて思ったりする。私は、いずれ旅をするだろう。

1971年生まれ、閖上港近くの仙台市育ち。東京都在住。法政大学文学部哲学科卒業。ウェブサイト http://www.kimukuni.info/

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